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真田十勇士

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巻の十七 古都その十

「泰平ならこうしたものが好きだけ食える」
「この美味い素麺も」
「三輪の素麺というが」 
 霧隠にも言うのだった。
「美味いのう」
「はい、こんな美味い素麺はありませぬな」
 霧隠も素麺を食べつつ言う、その細く白い麺を桶の水の中からつるつると口の中に入れて飲んでから言った。
「これは絶品です」
「戦がなくなればな」
「こうした素麺もですか」
「他のものもじゃ」
 素麺だけではないとだ、幸村は言った。
「我等はこの旅で美味い豆腐や鍋、菓子を食ったが」
「どれも泰平になればですか」
「これまで以上に食える様になる」
 望月にも話した。
「民が仕事に専念出来てな」
「美味いものが食えると」
 望月はまた言った。
「これまで以上に」
「そうじゃ、政も進みな」
「天下はよくなりますか」
「戦に使う分の力が全て泰平に向かうのじゃ」
 だからだというのだ。
「戦がないに越したことはない」
「ううむ、これまでそれがしも多くの戦の場で戦いましたが」 
 穴山は足元に鉄砲を置いている、その鉄砲を常にちらちらと見つつ言う。背負ってはいないが何時でも撃てる様になっている。
「戦はまさに命を張った場でして」
「何時死ぬかわからぬな」
「はい、首を取るか取られるかです」
「そうしたことをせずともな」
「生きられる様になりますか」
「そうなる」
 幸村は穴山にも話した。
「必ずな」
「だから殿は泰平を望まれますか」
「上田だけでなく天下もな」
 根津にも答えた。
「全てが戦のない世になれば」
「よいと」
「思っておる」
「ですか、では戦での功は」
「功は求めぬ」
 無益な声でだ、幸村は根津に述べた。
「そうせずとも功は幾らでもじゃ」
「立てられると」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「それは求めぬ」
「そうなのですか」
「それでもよいか」
 自身が戦を求めない者であってもとだ、幸村はあらためて十人に問うた。
「拙者は戦を好まぬ、自ら戦を仕掛けることはないが」
「ははは、その時は寝ているだけです」
 由利が最初にだ、幸村の問いに答えた。
「時が来れば動くだけのこと」
「そう言うか、鎌之助は」
「はい、修行をしたり遊ぶのもいいこと」
「その間は書を読み術の鍛錬をします」
 筧も主に述べた。
「まことそれだけのこと」
「そう言ってくれるか」
「はい、ですからそうしたお気遣いは無用です」
「泰平なら十一人で遊んで暮らしましょうぞ」
「民達と共に」
「美味いものを飲み食らい」
「花鳥風月の中で生きましょう」
 他の者達も言う、幸村は彼等の言葉を受けてさらに微笑んで述べた。
「その言葉受け取っておく」
「では」
「戦のない時は共に遊びましょう」
「そうして生きましょうぞ」
「拙者は政があるがな」 
 それでもと言った幸村だった。 
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