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風葬

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2部分:第二章


第二章

「だからここに村がある」
「けれど田はないようですが」
「畑か」
 見れば村の外れに畑が見られた。それで農作物を手に入れているのがわかる。
「もう少し調べてみないとわからないがな」
「そうですね。それじゃあ村の人に」
「おや、あんた達は?」
 入り口でそんな話をしているとだった。ここで一人の老人がやって来て私達に声をかけてきた。腰の曲がった髪の毛が一本もない老人だった。
「何処から来られたのかね?」
「あっ、はい」
「私達は」
 私達はすぐにその老人に対して応えた。まずは風葬のことは伏せてただ風俗習慣を調べに来たとだけ話した。そうしてそのうえで老人の家に招かれその中で三人で話をした。
 老人の家は昔ながらの家だった。土蔵があり土手もある。そして井端もあった。私達はその井端を囲みそのうえで三人で胡坐をかいて話に入った。
「この村はですな。あれです」
「あれとは?」
「平家の隠れ里です」
 こう私達に話してきた。
「その時からの村なのですじゃ」
「そうですか。その時からの」
「採れるものは麦だけです」
 続いて話すのは食べ物についてだった。
「米は水があまりありませんので」
「あまりですか」
「それで麦です」
 これはよくわかった。米には多くの水が必要だ。見たところこの村は山の頂上にある為に確かに井戸はあっても水は少なそうだ。それを考えれば麦なのもわかることだった。
「麦を食べています」
「今もですか」
「そう、今もです」
 こう私達に穏やかな声で話してくれた。私達は老人の話を聞く間頃合いを見て部屋の中を見回す。まるで戦国時代からあるような木の床に古ぼけた障子があり天井はそのまま屋根になっていて家の骨組みまで見える。そうしたとても古い家なのがよくわかった。
「今も麦を食べています」
「そして野菜もですね」
「はい、野菜もです」
 老人はこのことも穏やかに話してくれた。
「肥料は昔ながらのです」
「そうですか」
 私達はこれだけでその肥料が何かわかった。所謂堆肥である。それも人の。
「そうして昔ながらの生活をされているのですね」
「その通りです。まあ今はかなり人も減ってしまいましたが」
「ですか」
 私はそれを聞いて過疎という言葉を思い出した。やはりそれはここにもあるのだった。これは二十世紀後半から今に至るまでよく見られていることである。
「それでも残っている者は残っています。大体二百人程度ですかな」
「二百人ですか」
「それだけの食べ物もあるのですね」
「ええ、あります」
 老人はまた私達に穏やかに答えてくれた。
「何とかですがやっていっていますよ」
「麦があり野菜もあり」
 私は老人の話を聞きながら呟くようにして述べた。
「それと肉は」
「魚は採るのに苦労しています」
 老人は苦笑いになって述べてきた。
「山の下にある川までいってそれでですから」
「そうですか」
「あとは猪に鳥に熊に」 
 話を聞いてそれが狩猟によるものだとわかった。こうした隠れ里のようなところではそうして肉を手に入れるしかないのだから。
「それとあれですかな」
「あれとは?」
「それは時々手に入ります」
 こう私達に話をしてきた。
「時々です」
「時々?」
「はい、何しろ食べ物を手に入れるのに苦労する村ですから」
 老人はふと妙な笑みを浮かべてきた。何故かその笑みには奇怪なものを感じた。そしてそれは私だけでなく教授も同じようで横目で見てみると妙な目の色をしていた。
「それも有り難いことです」
「それは一体?」
「ひょっとしたらそれを食べられるかも知れませんよ」
 老人の奇妙な、いや奇怪な笑みはそのままだった。
「もうすぐね」
「もうすぐですか」
「まあ今日はゆっくりとお休み下さい」
 老人はここで話を終わらせてきた。
 
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