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ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった

作者:トキS
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相対する者

「サマヨール……うふふ。れいかいのぬのって探せばきっとあるよね。今度進化させてあげる」

【現実逃避ハ程々ニナ】

「もー。なぁんで逃げるんですかぁ」



 俺が真面目そうだと思っていた女の子がこんなにオドロオドロしいわけがない。
 やはり俺のポケモンラブコメは間違っている。


 とかいう最近良くあるタイトルの長いラノベに当てはめて現実逃避しようと根本的な解決にはならない。
 ったく、俺はこんなことしてる暇ないんだ。ハルカが何か知らないうちに捕らえられてるらしいからな。でもね、

「うおおおおお来るなあああああ!」
「あはぁ♡待って下さいよぉ〜」

 怖いものは怖いんです。
 でもさっきまでの怖さじゃないんだよ。え?わからない?じゃあ今のあの子の様子描写してあげる。




 ジュペッタ。




「ホウエン好きならわかるだろおおおおおおお!」
「え?わかります!だから私に貴方をください♡」
「その理論は破綻しているぅ!」



***



 戦いの火蓋は既に切られていた。

「ゆけ!ズルズキン!」
「迎え撃て!チャーレム!」

 国際警察vsフレア団。
 人目につかない裏路地の至る所でバトルが繰り広げられていた。そんな激しい戦いにも関わらず、一般人の中に気がつく者はいない。町が広いことも幸いしたのかまだ大事にはなっていなかったのだ。
 そんな光景をモニター越しに覗く男。

「ふむ。はじまったな」

 逆立った赤髪が人目をひく彼、フラダリは独り言の様に呟く。しかし近くの鉄格子の中から反応があった。

「あのユウキ(バカ)は何をモタモタやってるのよー!!」

 ガシガシと頭を掻き、叫ぶはハルカ。
 その壮絶なジト目と両手で掴まれた格子がギリギリと悲鳴をあげるコンボに、乾いた笑みをもらしたフラダリは『幹部』へと指示を出すべく無線機を手に取った。

「念のため出入り口の警戒を強めておけ」
『了解だゾ!』

 部下にそう命じるとモニターに視線を移す。
 今町で起きている戦闘は監視カメラをハッキングして全てこちらに届いている。パッと見る限り、ほぼ全ての戦闘において劣勢。不甲斐なさを感じつつ、フラダリは先ほどの幹部の男の映像に視線を移した。

『んん!オマエラ噂の子供!』

 どうやら来客のようだ。映像を見る限り、最近邪魔をしてくるという子供達だろう。彼らがここまでたどり着ける様なら直々に相手をしてやってもいいが、流石にそれまでには部下がなんとかする……はずだ。
 今までやられて来たことを鑑みると、全員倒されてもあながち不思議でないのが遺憾なばかりだが、わざわざ出向いてやるまでもないだろう。

『いっけー!クロバット!』
『マフォクシー頼んだ!』

 バトルが始まった。女子男子の二人組の様だが、クセロシキ(無線相手の部下)を相手取るのは男子。その間に女子は先へ進んだ。
 いい作戦だ……と敵ながらフラダリは賞賛を送る。彼は良いことは良い、悪いことは悪いとキッパリ断ぜられる人間なのだ。

「さて、あの子たちが此処へたどり着けるかは別だが……たどり着けたとしてもまだ時間がかかる。……君の『彼』とどちらが早いかな」
『ユウキ、来なかったら後でどうなるかワカッテルノカシラネ』
「…………では待つことにしよう」

 ふふふふふふふ。
 とゴーストタイプな笑いを続けるハルカに女の怖さというものを感じ目を背けた。

「……さて暇つぶしがてらに話でもしようか」

 少しの間を置いて、切り替えるようにフラダリは言った。

「なに?」
「君は国際警察から私たちのことをどうきいている?」
「どうって……カロス地方の悪の組織としか」
「では君は《フレア団》を観察し、私達の目的はどんなものだと思った?」

 明確に『フレア団』とフラダリが口にしたのは初めてだ。自分で認めたのだと知覚すると同時、相手が一大組織のボスだということを改めて認識する。

「お金……?」
「ああ……それは表向きだな。私の目的は別にある」

 ゆっくりと手を掲げる。



「君は人間の本質は善であるか、悪であるかどちらだと思うかね」



 問いかける。

「これはある学者の言葉だ。君はどう考える」

 有名な問いだ。
 人間の本質は『善』なのか『悪』なのか。あまり勉強が得意でないハルカにだって考えたことがある。ただ、意味が深すぎてどちらにも決めることが出来なかったと記憶していた。今改めて考えても結論などでない。大昔から人々が論じ合って来た題なのだ。一介の子供にまともな答えを期待されても困る。
 だからハルカは、

「人間の本質は悪だと思う。だって……フラダリ(悪いことしてる人)が目の前にいるんだもん」

 精一杯の皮肉を持ってこう返した。

「そうか……」

 フラダリはどこか遠くを見つめながら、一言だけそう呟いた。

「じゃあ聞くけど……」

 その表情の裏に何か得体の知れないものが隠れている気がして、ハルカは言葉を紡ぐ。

「あなたは……どっちを信じてるの?」

 フラダリがハルカへ向き直った。視線を交わす。
 フラダリの瞳は何かを躊躇う様に揺れていた。



「私は……────」



 その時だった。

「ぬおおおおおおおおおおおおおお」
「クロバッッ!」

 通路からクセロシキとその手持ちのクロバットが飛んできた。
 彼は壁にぶつかった衝撃で激しく咳き込みながら息を落ち着ける。その必死な表情のまま、彼は叫んだ。

「あんな奴がいるなんて聞いてないゾ!!!」

 通路を駆ける音をフラダリは耳で捉える。

(先ほどの子供……?)

 それ以外には考えられないが……嫌な予感がする。
 クセロシキは今何といった?『あんな奴』がいるなんて聞いてないと言ったのだ。ならばあの二人の子供ではない。
 では全く別の第三者か?
 いや、それはない。情報無しでアジトの場所を知ることなど出来ないはずだ。
 そこまで考えて、フラダリは気づく。

 いるじゃないか。

 一人、まだ姿を見せていない登場人物が。
 光に照らされ徐々に輪郭が明らかになる。その姿が完全にハッキリする頃にはフラダリの中でほぼ確信が芽生えていた。

「ふう。どうやら間に合ったらしい」

 噂の『彼』。
 ーー即ち背中に女の子を背負い、キノガッサを従えた帽子とリュックサックを持っている少年のことである。


「ハルカ……助けに来たぜ」


 彼の名はユウキ。
 ハルカが信じ、探していたその人だ。 
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