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真田十勇士

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巻ノ十六 千利休その六

「地獄でも充分暴れられますな」
「そのつもりです」
「鬼でも天狗でも倒してもみせますぞ」
「どの様な相手でも」
「そうしてみせます」
 こう利休に言う、そして。
 幸村もだ、こう言った。
「拙者も同じ考えです」
「何処までも、ですな」
「この者達と同じです」
「そして鬼や天狗が相手でも」
「逃げませぬ」
 こう言うのだった、利休に。
「この者達を見捨てては」
「逃げることはですな」
「勝敗は戦の常、負けることもあります」
「その時にですか」
「退くこともです」 
 それもまた、というのだ。
「戦においては大事です」
「常勝はないと」
「むしろ常勝であってはならないかと」
「戦えば常に勝つことはですか」
「あってはなりません」 
「では何があるべきでしょうか」
「兵法は百戦百勝は最善にあらずです」
 これが幸村の返答っだった。
「戦わずに勝つです」
「戦う前に相手にですか」
「そうです、勝てないと思わせて下がらせる」
 まさにこのことがというのだ。
「最善かと」
「では戦いに至ることは」
「よくはないと考えています」
「戦わずに済むのならですか」
「戦は人が死に多くの銭を失い」
 幸村は利休に戦の現実を話した。
「田畑は荒らされ町は燃やされ。城の中にいる女達も巻き込まれます」
「苦しむのは民だと」
「田畑や町は戻せても迷惑を被ります」
 民は戦になればその場から逃れ近くの山等から戦を見物するのが常だ、しかしそれでも田畑が荒らされるからなのだ。
「ですから」
「戦はせぬに限りますか」
「拙者はそう考えています」
「だから戦わずに勝つことがですか」
「最善です」 
 それが最もいいというのだ。
「拙者はそう考えています」
「そういうことでありますか」
「はい、その様に考えております」
「わかりました、それは羽柴殿も仰っております」
「あの方もですか」
「戦わずに相手がこちらに来るのならです」 
 幸村が言う様にというのだ。
「それが最善とです」
「仰っていますか」
「はい」
 その通りだとだ、利休は幸村に話した。
「私は羽柴殿のそのお言葉を聞いて感服しました」
「その通りだと」
「思いまして」
「それで、ですか」
「羽柴殿にお仕えしようと決めたのです」
「では」
「近いうちにお返事を返します」
 秀吉、彼にというのだ。
「私のお茶をいつも飲んで頂ける様に」
「左様ですか」
「はい」
 こう答えるのだった。
「その様に」
「わかりました、利休殿は既に羽柴殿と親しいと聞いていましたが」
 懐刀の一人と言われていることをだ、幸村も利休本人に言った。 
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