真田十勇士
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巻ノ十六 千利休その二
「茶室におられます」
「茶室にか」
由利は小坊主の今の話を聞いて少し意外といった顔で述べた。
「お屋敷の中ではなく」
「はい、茶を飲みつつです」
「お話をというのか」
「そうお考えでして」
「だからなのか」
「茶室にと仰っていまして」
それ故にというのだ。
「私めも案内させてもらっています」
「そういうことか」
「そうなのです」
「何か堺に来て茶と縁があるが」
穴山は歩きつつ腕を組んで述べた。
「上方は茶が結構出回っておるか」
「そうですな、前右府様の頃より」
「あの方がおられた頃からか」
「あの方はお酒は駄目でした」
「ほう、そうなのか」
「実は全く飲めませんでした」
小坊主は信長のことを話した、彼の意外な一面をだ。
「それでお茶を好まれていました」
「そうであったのじゃな」
「お茶とくればお菓子ですが」
今度は菓子の話になった。
「あの方は甘いものがお好きでした」
「それはまた意外じゃな」
今度は海野が小坊主に応えた。
「あの方は大酒を飲みそうじゃが」
「それがです」
「実は違っていたか」
「はい、そうでした」
「それで甘いものがお好きで」
「はい、そうです」
それでだというのだ。
「あの方は」
「それで菓子がお好きで」
「お茶もお好きなので」
「ううむ、そしてじゃな」
「こちらではお茶が広まりました」
「そういえば岐阜でもな」
ここで言ったのは根津だった。
「茶も随分と出回っておった」
「左様ですな」
「最初はえらく高かったが」
しかしというのだ。
「それがかなりな」
「安くなりましたな」
「確かに」
「前右府様も茶を好まれていたので」
「それでか」
「はい、それでなのです」
茶を広めたというのだ。
「菓子もまた」
「菓子はまだまだ高いがな」
「はい、しかし」
それでもとだ、小坊主は茶室に向けて一行を案内しつつ話した。
「茶はです」
「相当に安くなったな」
「それで前よりも多くの方が飲める様になりました」
「よいことにな」
「それは旦那様も望まれていることです」
「利休殿もか」
「はい」
幸村は今度は幸村に答えた。
「そうなのです」
「利休殿は茶を道と考えておられるな」
「そうです」
「その道を誰もが出来ることがか」
「旦那様が望まれていることです」
「侍だけでなく」
「他の方々もです」
武士以外にもというのである。
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