遊戯王GX 〜漆黒の竜使い〜
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episode3 ーFakerー
前書き
faker:ニセモノ、と解釈してください。
「さぁ、話してもらいましょうか。"漆黒の竜使い"さん?」
ーーーもうバレてるじゃないですぁぁぁ!
葵に凄みのある笑みを向けられた華蓮、もとい"漆黒の竜使い"レンカは目尻に涙を浮かべつつ必死に現状を打開する策を考えていた。
まずは逃走を図ろうとするも、唯一の外へと続く扉の前にはまるで捕食者のような目つきを向ける葵がいるため、諦める。
そもそも、ルームメイトであるため今逃げたところで状況は変わらない。
「つ・か・ま・え・た ♪」
「ヒィッ!?」
打開策を考えるのに夢中になりすぎ、葵に接近を許してしまう。だが、気づいた時には遅く、妙に色気のある声を出す葵に両腕を掴まれ、情けない声を上げてしまう。
「理由聞くまで逃がすつもりないから、早めに吐いた方がいいわよ?」
「……あぅ」
ギラギラとした視線を向けられ、早速初めて会った時のお淑やかさは微塵も感じられない葵の変貌っぷりに華蓮は困惑すると同時に恐怖を感じる。
そして、ふと家を出る時には母親と交わした会話が頭をよぎる。
『そうよね〜。けど、女子寮なんでしょ?お母さん、華蓮が心配だわ』
『……どうして?』
『襲われないか……とか?』
『……⁉︎んなことあるわけないじゃん!』
『あらあら、顔を紅くしちゃって。けど、女子寮は万魔殿ムってよく言うじゃない?』
ーーー助けてください!!かえでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
内心で最も信頼する人物の名前を叫ぶがアニメのヒーローみたく都合よく駆けつけてくれるわけなく、葵の尋問に華蓮が根を上げるのはこの数分後だったりする。
◆◇◆
「なるほどね〜。道理でこんな中途半端な時期に転入生が来るわけね」
「うぐ……楓さんに内緒にしとけって言われてたのに……」
満足げな笑みを浮かべる葵の一方で、華蓮はマネージャーとの約束を守れなかった罪悪感からクッションに顔を埋め、すすり泣いていた。
それをみかねたのか、葵は顔を上げさせると情報端末を操作し、一枚の画像を見せる。
「……あなた、これに見覚えあるかしら?」
「え?……アレ?」
華蓮に端末の画面へと映し出された画像をみて、困惑気味の声を上げる。
画面に映っていたのは、森の中だろうか?周りを木々に囲まれた空間で二人の人物がデュエルをしている様子だった。画面奥の方に映っているのは、黄色のデュエルアカデミアの制服に身を包んだ男子生徒。そして、もう一人の人物は……
「……え、私?」
すっぽりと全身を包み隠すような黒いローブの人だった。そして、フードの隙間からは数束、紅い髪が垂れているのがわかる。
どう見ても、少し前まで"漆黒の竜使い"レンカとして闘っていた頃の衣装である。さらにローブの人物をレンカとたらしめる証拠がもう一つ映っていた。
「あ、これって『メテオ・ブラック・ドラゴン』?」
ローブの人物のフィールドにはレンカも使う『真紅眼の黒竜』の融合体の一つ、『メテオ・ブラック・ドラゴン』が確かに居た。
「ねぇ、葵さん。この画像ってなんですか!」
「そう、やっぱりあなたじゃないのね?」
「はい、こんなの全く覚えがありません‼︎」
葵の問いに対し、違うと断言すると、彼女は顎に手を当て考え込んでしまう。そして、しばらくした後納得したかのように頷くと語り始める。
「多分、この黒いのが華蓮じゃないとすると残る可能性は一つ。"漆黒の竜使い"レンカの偽者ね」
「に、偽者⁉︎」
思わぬワードにびっくりする。まさか自分の偽者が現れるとは夢にも思っていない。だが、同時に明日香や葵が執拗にレンカの正体を突き止めようとしていたことに納得する。
「まさか、この人が本当に偽者かどうか確かめるため?」
と自信なさげに尋ねると葵は首を縦に振った。どうやら正解のらしい。
だが、どうして"漆黒の竜使い"レンカなのか?
「そんなの変装し易いからに決まってるじゃない」
「……悪かったですね」
確かに黒いローブを被ってしまえばオーケーとか楽すぎる。それに声だって余り喋らないようにしているため、本物をそれだけで見分けられる人は少ない。髪の毛だってウィッグを使えばいい。
なんでしょう、なぜか悲しくなってきました。
「予想してなかったわけでもないんですけど?こんな事態になってしまうとは……プロフィールを隠匿するのも考えものですね〜」
「「っ!?」」
不意に第三者の声が室内に響き、息を詰める。即座に音源の方へと振り向けば、ティーカップ片手にソファに寛ぐーー
「ーー楓さん⁉︎」
「数時間ぶりですね、華蓮さん」
「……あら?新しい先生の方ね」
「どうも、橘 楓です。一応今はここの臨時教員ですが、レンカ氏のマネージャーを務めています」
立ち上がりそう言うと笑顔のまま握手を交わす。
「ルームメイトで二年の葵ですわ。今後ともよろしくお願いしますね」
「そういえば……早速華蓮さんがお世話になったようですが、やはり少女なので余りからかわないでくださいね?」
そう言う楓さんの笑みは酷く恐ろしい。だが、葵さんは怯むどころかあちらも余裕のある表情を浮かべる。しかし、ヤケに"お世話"の部分が強調されていたがどういう事か。
「ふふ、確かに普通の可愛らしい女の子、でしたね。怯える姿は可愛いかったですよ」
つい数分前、葵さんに詰め寄られ白状させられたシーンがフラッシュバックし、背筋がゾクリとする。
「ところで、楓さんはいつから居たんですか」
「そうですね、『楓さんに内緒にしとけって』べそかいてた時くらいですかね?」
「最初からじゃないですか‼︎」
◆◇◆
「それはさておき、問題はこいつをどうするかですか、ですね」
「スルーですか……」
「き、切り替えが早いわね」
相変わらずマイペースな楓さんに表情を若干ひきつらせる葵さん。
まあ解決は早い方がいいのだが、いい方法など微塵も思い浮かばない。
ふと目線を上へと上げると思案顔の楓さんと、視線がぶつかる。
「すっごく迅速かつ簡単な方法を思いつきました」
私の顔を見つめながら、ニタァと口角を上げ、一言。
ーーーなんか、すっごく嫌な予感がします!!!
◆◇◆
デュエリスト、レンカのニセモノが出たと伝えられた日の翌日の夜。私はニセレンカが出るという森の中にいた。勿論、デュエルの際に着用するフードを被って。
「はぁ、本当にこんな事で来るんですかね〜……はぁ」
人気のない森の中、ため息混じりに呟くと今朝伝えられた作戦を思い出す。
内容は至極簡単だ。
ーーニセモノをホンモノがデュエルで叩き潰す。
「はぁ……帰りたい」
もしかしたら来ないのではないか?と言った考えが頭を過る。諦めて出直そうと考えていた矢先、無線に連絡が入る。
『レンカさん、ターゲットが来ました。準備をお願いいたします』
「っ!ハイ」
即座に気を引き締め、周りを見回すと森の奥からゆっくりとした動作で全身をローブに覆った人物が現れる。
その姿は少し昔の竜使いレンカの姿と酷似している。そして、光源がほとんどない森の中という立地条件のため、判断をつき辛くしている。
ニセモノは私の事を確認するなり、デュエルディスクを構え起動させる。
「言葉は不要……という事ですか。ホント、少し前の自分にそっくりでーー」
ーーイラッと来ます!
「決闘!」
「……決闘」
◆◇◆
ニセモノとホンモノのデュエルが始まったのと同時刻、葵と楓の二人は彼女らからは視認できない位置に陣取り、観戦していた。
「さてさて始まりましたね〜」
「えぇホント。こんなあっさり釣れるなんて……馬鹿なのかしら?」
楓はスポーツ観戦でもするかのように楽しげな表情を見せ、葵は呆れを表していた。
「しかし、まぁ。まったく似てないわね〜」
目線の先に立つ黒ローブのニセモノと黒ポンチョのレンカを見比べ、ため息を吐く。
身長から、立ち姿、振る舞い。そして、強者が放つ特有の威圧感を黒ローブからは少しも感じられない。もっとも、アカデミアの生徒に連勝しているだけあって実力はそれなりにあるのだろうが……。
『ーー先行。ドロー!マジックカード『紅玉の宝札』発動。手札の『真紅眼の黒竜』を捨て、二枚ドロー。さらに追加エフェクトによりデッキからレベル7の『レッドアイズ』を墓地に送る。
手札から『伝説の黒石』を召喚し、エフェクトを発動する」
紅く煌めく黒石が現れ、一際強い光を放ち、強靭な体躯を持ったドラゴンのシルエットが浮かび上がる。
『自身を墓地に送り、デッキから『真紅眼の黒竜』を特殊召喚する。来い、レッドアイズ!』
『G、GYAaaaaaa‼︎』
『……っ⁉︎』
ドラゴンの咆哮が大気を震わせ、翼を羽ばたかせるたびに強風が起こり木々を揺らす。召喚されたレンカの代名詞であり、エースモンスター『真紅眼の黒竜』がニセモノをその紅い瞳に映す。
「1ターン目から最上級モンスターを召喚……ね。まぁこれくらいはしてもらわないと」
「おろ?案外手厳しいコメントですね。それだけレンカさんに期待している、と受け取ってよろしいんですかね?」
「ま、そんなところよ」
『……ドロー』
二人が会話している間にもレンカはカードを二枚伏せるとターンを終え、ニセモノのターンが始まっていた。
『……マジックカード『融合』を発動する。手札の『沼地の魔神王』、『メテオドラゴン』を融合!出でよ、『メテオ・ブラック・ドラゴン』‼︎』
「……メテオブラックドラゴン」
「レッドアイズの融合体の一つが早くもお出ましですか」
岩石のようながっしりとした体躯に灼熱を纏わせたドラゴンが姿を現わす。そのモンスターの攻撃力はそこらの上級モンスターを上回る3500。
『……バトル!メテオ・ブラック・ドラゴンでレッドアイズを攻撃。メテオ・バースト!』
『くっ……!」』
レンカ:4000→2900
メテオ・ブラック・ドラゴンの放った火炎弾がレッドアイズへと命中し、破壊する。レンカは早くもダメージを負ってしまう。
「あら、ダメージ受けちゃったけど」
「どってことないですよ、これくらい」
茶化すように言う葵に楓は少しむくれながら返答する。一方で、レッドアイズを破壊されたレンカが動きを見せる。
『ドラゴン族が破壊されたことにより手札から『霊廟の守護者』を特殊召喚する!さらに、破壊されたのが通常モンスターだった時、墓地から通常ドラゴン族一体を手札に加える。『真紅眼の黒竜』を手札に加える』
レッドアイズを破壊され、ガラ空きになったフィールドに新たなモンスターを呼び込み、レンカは守りを固める。
『カードを二枚伏せ、ターンエンド』
『ドロー!二枚目の『紅玉の宝札』を発動。『真紅眼の黒竜』を捨て二枚ドロー。さらにデッキからレベル7の『レッドアイズ』を墓地に送る。そして、マジックカード『手札抹殺』を発動!』
レンカは三枚、ニセモノは一枚の手札を捨て、その枚数だけドローを行った。そしてレンカはフードから覗く口元を僅かに釣り上げ、笑みを見せる。
『マジックカード『テラ・フォーミング』を発動。デッキからフィールド魔法『アンデッド・ワールド』を手札に加え、発動する!』
「「んなっ!?」」
フィールド魔法がリアルを侵食していき、二人のいる周辺が瘴気が立ち込める死者の国へと姿を変える。
「ど、どういうこと!あの娘のデッキはドラゴン族でしょ。なのになんでアンデッド族のカードが……」
「そりゃまぁ、そういう構築にした…って事でしょうが……あ。い、いるんですよ!レッドアイズにアンデッド族が!」
「はぁ!?」
『g、GYAaaaaaarrrrra‼︎』
素っ頓狂な声を上げる葵とは別に、二人が闘っている方角から身の毛のよだつ竜の咆哮が轟いた。
◆◇◆
「フィールド魔法『アンデッド・ワールド』発動!」
「っ!?」
発動とともにフィールド魔法の影響を受けた周辺が変貌していく。溢れ出る瘴気により、木々が腐り落ち、空気は澱み、怨霊達が飛び回る。一瞬にして亡者が住まう死者の国へと変貌し、私の目の前に立つニセモノが動揺したことがよくわかった。
「まだ、これからです。墓地の『馬頭鬼』のエフェクトを発動!自身を除外し、墓地からアンデッド族を特殊召喚する。甦れ、『真紅眼の不死竜』!」
瘴気を纏い、死の国の住人となったレッドアイズがレンカのフィールドへと現れる。
「墓地の『ADチェンジャー』を除外し、エフェクトを発動。『メテオ・ブラック・ドラゴン』を守備表示に変更。バトル!『真紅眼の不死竜』でメテオブラックを攻撃!」
「っ!リバースカードオープン!『火霊術ー紅ー』!『メテオ・ブラック・ドラゴン』を墓地に送り、攻撃力分のダメージを与える!……終わりだ!」
メテオブラックが巨大な紅蓮となり、遅いかかる。これをマトモに食らってしまえば、レンカのライフは0になる。だがーー
「くっ……墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、エフェクト発動!効果ダメージを半分にする!うわっ!」
ーー危機一髪でそれを回避すると、不死竜は狙いをニセモノへと定めそのアギトを開く。
レンカ:LP2900→1150
「……不死竜でダイレクトアタック!」
「リバースカードオープン!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、一枚ドローする」
不死竜の放つ闇色のブレスは、障壁に防がれニセモノへと届かなかった。だが、攻撃を防がれた直後、再びドラゴンの咆哮が森に響く。
「リバースカードオープン!『真紅眼の凱旋』発動!墓地から『真紅眼の黒竜』を特殊召喚!そして、レッドアイズでダイレクトアタック!」
「なっ!?うわぁぁぁぁ!」
ニセモノ:LP4000→1600
「カードを伏せ、ターンエンド」
「くっ、ドロー!」
一度に大ダメージを受けたニセモノはダメージの際の衝撃が堪えたのか苦しそうにする。
「マジックカード『強欲な壺』を発動!デッキから二枚ドローし、さらに『融合回収』発動。墓地の『沼地の魔神王』と『融合』を手札に加える。さらに、手札の『サンダー・ドラゴン』のエフェクト発動。このカードを墓地に送り、デッキから同名カード二枚を手札に加える。そして、『融合』発動!二体の『サンダー・ドラゴン』を融合!出でよ、『双頭の雷龍』!」
召喚されたのは紅い体躯で、名の通り二つの頭を持ったドラゴン……ではなく、雷族。もっとも今は瘴気に侵され、アンデッドと化しているが……。
てっきりまたレッドアイズ融合体でも出すのだろうと思っていたレンカはえ、と声が漏れてしまう。
だが、同時に"漆黒の竜使いニセモノ事件"について聞かされてからずっと疑問に思っていたことがようやくはっきりする。
(見せてもらった画像は全てメテオブラックだけでした。その中に、一枚もレッドアイズは居なかった。そこから考えられるのは、あの人は『真紅眼の黒竜』を持ってない!)
疑問が確信へと変わるとレンカは思わず呆れた。よくもまぁそんなので私のニセモノを名乗ろうと思ったと。それと同時にふつふつと怒りに似た感情が湧き上がってくるのを感じた。そして、決めた。
ーー徹底的にぶっ潰す、と
◆◇◆
「二枚目の『融合回収』を発動!墓地の『サンダー・ドラゴン』と『融合』を手札に加え、そのまま発動する!手札の『沼地の魔神王』と『サンダー・ドラゴン』を融合!出でよ、『双頭の雷龍』!」
二体目となる紅いドラゴン族っぽい雷族が召喚され、計4つの頭がニセモノのフィールドに並ぶ。しかし、『双頭の雷龍』の攻撃力はレッドアイズを超える2800。攻撃を受ければ、破壊されてしまうのは必然だ。
「バトル!『双頭の雷龍』で『真紅眼の不死竜』と『真紅眼の黒竜』を攻撃!サンダー・スパーク!」
「くっ……」
レンカ:LP1150→750→350
二つの頭から放たれた雷撃が不死竜を穿ち破壊する。そして、同様に二体目からも攻撃が放たれ、レッドアイズを破壊する。
二度のダメージを受け、レンカのライフはレッドゾーンを大幅に割り、デッドゾーンまで食い込んきているが、その立ち姿からは余裕を感じさせる。
「ターンエンドだ」
「ドロー!」
デッキからドローをし、ターンを開始させたレンカは改めてフィールドを確認する。
レンカのフィールドには、レッドアイズ蘇生罠『真紅眼の凱旋』と伏せが一枚。
対する相手は、『双頭の雷龍』が二体のみと、手札もなく墓地で効果を発動するようなカードも置かれていない。
攻めるには絶好のチャンスである。
「マジックカード『生者の書ー禁断の呪術ー』発動!墓地から『真紅眼の不死竜』を特殊召喚し、さらに墓地の『沼地の魔神王』を除外する!」
地面が割れ、業火が溢れる中を不死竜が飛翔する。そして、無数の亡者の手が沼地の魔神王を墓地ではないどこかへと引きづり込んでいった。
「さらに『真紅眼の凱旋』の効果発動!墓地から『真紅眼の黒竜』を特殊召喚!
バトルフェイズ!『真紅眼の不死竜』で『双頭の雷龍』を攻撃!」
「なにっ、攻撃力の低いモンスターで攻撃を……!」
「その瞬間、速攻マジック『禁じれた聖槍』発動!そのエフェクトにより、『双頭の雷龍』の攻撃力を800ポイントダウンさせます!」
聖槍の一撃を見舞われた雷龍は、見るからに衰弱する。その攻撃力は2000までダウンする。
「いけ、不死竜!黒・炎・弾!」
「ぐ、ぁぁ!」
ニセモノ:LP1600→1200
双頭の雷龍を破壊し、ダメージを与えるもニセモノの黒ローブは唯一覗く口元を愉悦に歪めていた。大方、勝ったと思い込んでるんだろうとレンカは推察すると大げさにため息を吐く。
「……所詮ニセモノ。その程度ですか」
「なにっ⁉︎」
突如、腐敗した地面からプラズマが迸ると、土砂を撒き散らしながら先ほど不死竜にょって倒されたばかりの『双頭の雷龍』が姿を現した。しかし、その姿は痛々しく赤かった体表は黒ずみ、腐敗した肉が崩れ、骨が覗いている。
「な、なん…だと」
「不死竜は破壊したモンスターを蘇生し、操る。甦れ、『双頭の雷龍』!」
完全に復活を遂げた雷龍は身体から電撃を走らせ、復活の雄叫びをあげた。
「雷龍であなたの雷龍を攻撃する!サンダー・スパーク!」
「づっ⁉︎相打ちか……!向かい打て、雷龍!」
二体の雷龍の放つブレスが中央で拮抗し、激しい衝撃が大気を震わせる。ほどなくして、力を使い切った二体はサラサラと砂のように崩れ消えて行き、フィールドに残ったのは二体のドラゴンのみ。
「あ…、あぁ……」
「……終わり、ですね。やれ、レッドアイズ!」
「あァァァァァァァァッ⁉︎」
ニセモノ:LP1200→0
◆◇◆
「いっやー、まさかドラゴン族と思わせてアンデッドとかレンカさんもやることエグいですねー!!無慈悲なところがプロデュエリスト"漆黒の竜使い"らしいですね。」
「エグい……ってか悪趣味ね。だけど、嫌いじゃないわよ。あーゆー戦術」
少し放たれた場所から観戦していた二人は、デュエルに決着がつくと各々の感想を話し始める。
曰く、悪趣味
曰く、無慈悲
ーーーだけど、スゴイ。
先制ダメージを喰らい、続く射出バーンでゲームエンドとなると思いきや、冷静というか、冷酷なプレイングで相手の攻撃全てを跳ね除け、大逆転勝利。デュエリストとしての圧倒的な格の違いを見せつけたような闘いだった。
「で、あいつ。どうするわけ?」
「は?あいつ……?ドイツのことですか?」
「え?えぇ?!?」
無事にレンカの勝利を見届けた葵は、ニセモノの処罰でも聞こうと話しを振るが、首を傾げ誤魔化されてしまう。挙句、何事もなかったように帰宅しようとする楓に二度驚かされる。
慌てて、腕を掴むとなぜか不満げな視線が返ってくる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あのニセモノ、捕まえなくていいのかしら⁉︎」
「別にいいんじゃないですか?精々騙りでしょぉー。いいですよー、それくらい。好きにやれば。レンカさんにボコされて改心したでしょうし。"漆黒の竜使い"の名が傷つくような事態もないですし。」
まぁ、そんなことになったら私自ら出向きますが……と笑いながら呟く楓の表情に葵は
酷く恐ろしいものを感じる。頬を引きつらせているのを知ってか知らずか楓はケラケラと笑いながら続きを話してく。
「それに、私は心が広いんですよ〜。孤島で起こった騙りくらいこれくらいの罰で十分ですよ。そもそも、掴まれたら書類とか報告とかメンドイじゃないですかぁー」
「んなっ⁉︎この駄目マネージャー、ぶっちゃけやがったわ!!」
「あー、仮にも歳上且つ先生に駄目マネージャーは酷くないですかね〜〜?!」
「堂々と職務放棄してる人に言われたくないわね」
ぎゃーぎゃーわーわー、と二人のたわいない口論はレンカが戻ってくるまで続いたとか。
後書き
葵と楓がなかなかいいコンビです。(´・ω・`)
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