ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった
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始まりは突然に
「おいおい、ポケモン移すのに金とんのかよ!なぁに?前のポケシフター的な感じじゃ無いの?なんでぇぇえ!」
彼は叫んだ。
ここは彼の自宅。その一室、不満からか回る椅子に座ってぐるぐるしながら、彼はノートパソコン片手に携帯ゲーム機を弄っていた。
「いや別に金がかかるのはいい。だけどニンテンドーカードを買いに行くのが面倒臭い!!」
家から一番近いコンビニでも500mはある。その微妙に近いのか遠いのか分からない距離が彼を悩ませていた。
「ま、いいや。ポケモンX……買ったは良いけど相棒達を連れて来られないんじゃやる気なんて出るわけもなし。カード買うのも面倒だし、その時間があるなら育成に費やした方が良い。そうだなー、久し振りにエメラルドやろう!最近気になったヌケニンの厳選でもしようかねぇ」
彼曰く、
『ポケモンは初代が最高傑作……なんて言う意見を俺は認めない。ポケモンはエメラルド、ルビー、サファイア第三世代が最高傑作だ!!ーー何故か?それはバトルに革命をもたらしたバトルフロンティアに始まり、新たな挑戦(ry』
ということだそうだ。
そんな彼は悩んだり、困ることがあると第三世代のポケモンで遊び気分を解消するのだ。今回はその良い例だろう。『面倒だからエメラルドをやる』単純だが、彼の第三世代を愛する気持ちは新作のポケモンソフトが目の前にあろうと揺るぎないのだった。
彼は持っていた3DSとノートパソコンを床に置き、ゴソゴソと押入れをあさる。折りたたみのゲームボーイアドバンスが手前にあることを確認。ただ、ソフトが一向に見つからない。それもそのはず、押入れの中にはポケモン関連グッズ(ぬいぐるみ、漫画、ゲーム等、全て保存用観賞用実用の三点セット)がぎっちりと詰まり一つのソフトを探すのは相当大変のようだった。
「見つからん。妥協してルビサファでも良いのにそれも見つからん」
と、その時だった。
ギチギチになっていた押入れの中、一番大きいバシャーモのぬいぐるみ(実物大)がすっぽ抜けた。奥まで探すために爪先立ちを敢行していた彼にとって、ぬいぐるみなのに数十キログラムを誇るソレに抵抗するすべなどなかった。
「ぬ、ヌマクロー!」
謎の叫び声を挙げながら彼はバシャーモに押し倒され、
ーー起動中だった3DSの画面に頭から突っ込んだ。
(あ、これゲームぶっ壊れ……!)
***
『まず始めに君の名前を教えてくれないか?』
ーーなんか懐かしいな。でも俺はこう聞かれたら必ずこう返すんだ。
……【ユウキ】って。
***
「ひ、人が倒れてる?」
ん?え?どこに?
「ヒヨクシティはすぐそこよね。……アブソル、この人運ぶの手伝って!」
アブソル?いいよなアブソル。かっこいい。でも進化しないし、種族値はそんな高くないんだよな。まあ冒険ではかまいたちにお世話になりましたけどね。
……いやちょっと待て。
what?アブソル?ポケモン?
……あ、なんだこのモフモフの手触り。柔らかい。しかもだんだん眠くなってきたし、ああ、ねむ、い……zzzz
***
「ん、はぁーーあ。よく寝たー!」
脳がハッキリしてくる感覚を楽しみながら俺は大きくのびをした。
まじでよく寝た気がする。伝説色違い厳選なんて無謀な真似をしていた疲れが祟ったのかな。
「つか……えっと、ここどこだ?」
俺は周りを見渡す。見慣れない天井に、見慣れない室内。徹夜三連続でカップラーメンのゴミタワーが出来ている俺の部屋とは似ても似つかない。おまけにmyふかふかベッドではない、入院患者が横たわるような硬めのベッドに俺は寝ていたらしい。
ついに病気でも発症したか。入院か。リアルじこさいせいが必要な瞬間が来てしまったのか。
「あ、起きました?」
と、一人だけだと思っていた室内に少女が一人。こっちを見ているのに気がついた。金髪をポニーテールで纏めたその女の子。金髪が似合う人間なんていないと思っていたが、その認識は改めざるをえないだろう。ちょっとびっくりするくらい似合っていた。
「……君は?」
「私はセレナ。貴方は?」
「俺は」
俺は……あれ?俺は、俺は誰なんだ。
言葉に詰まった。何故だか自分の名前が分からない。
普通自分の名前が分からないなんて漫画のような現象は起きない。そういう類の病気でもかかったのか。エピソード記憶がうんたらとかいう物語の主人公みたいなやつなのか。
黙り込んでしまった俺を不思議そうに見つめるセレナという少女にこれ以上不審がられないようにとりあえず適当に名乗っておくことにする。
「お、俺は……そう!ユウキ!」
「ユウキさん?……まあ私と同じくらいの歳だと思うから『さん』は要らないか。よろしくユウキ」
「あ、ああ。よろしく」
咄嗟だったからね。しょ、しょうがないよね。溺愛する第三世代ポケモン主人公の名前を言ってしまったけど、ユウキなんてよくある名前だしね。うん。問題はない。
「ユウキ……ユウキ?」
「どうしたの?」
「いや、どこかで『ユウキ』って名前聞いたことがあるような気がして」
まあ在り来たりな名前だし……。
『ユウキ』って俺の友達から二次元の女の子にもつけられるような汎用性の高い名前だし、そういう点ではデフォルト主人公の名前としては丁度良かったんだろう。
「ところで……ここドコ?」
「あ、そういえば言ってなかったわね。ここはヒヨクシティよ」
「ひよ、比翼、日浴?日浴市?」
珍しいな。日浴市なんて聞いたこともない。しかもヒヨクシティだと。えらいハイカラなアダ名だな。
……いやまず、何故俺が知らない場所に俺が居るんだってとこに突っ込んでいいだろうか。
と思い改めて周囲を見まわしてみる。
まず窓を発見した。見える景色は海。
……海!?俺の住んでいるところは海に面してないぞ!
と思ったがスルーしておく。ツッコミキャラを自負する俺としてはすぐにでもスキルリンクスイープビンタ並みの連続ツッコミをお見舞いしたいところだが、現状把握は大事だ。ツッコミはあとでも出来る。
そう考えて俺は視線を這わせた。
目についた先は鏡だった。
いや、まあいいや。こればかりは驚いたってしょうがない。
「なんだこの服装はぁぁぁぁぁ!!」
今の俺の服装はとんでもないことになっていた。
白と緑のニット帽にオレンジと黒系の色を基調とした半袖、半ズボン。つまり……
エメラルド、ルビー、サファイアの主人公『ユウキ』の格好になっていた。
……すんません。超大興奮っす!
だってお前、このコスプレ完成度やばいぞ。RSEを愛しすぎている俺が『俺としては緑より赤の配色の方が』……なんて小言の一つも言えないレベルで凄まじいからな!
いやまてまて。おつちけ……じゃねえや、落ち着け。
こんなに興奮していてはそれこそセレナに不審がられるだろう。
「大丈夫?」
「お、おう!全然大丈夫だ!はあはあ」
「どこも大丈夫ないでしょソレ」
そうだ。落ち着くんだ俺。表情はつのドリル。心はぜったいれいど。みたいな歌の歌詞を思い出せ。
「……でもさ」
「ん?」
「ユウキが12番道路のど真ん中に倒れてたのにはびっくりしちゃった」
「え?12番道路?……というか俺倒れてたの?」
「うん。意識もなさそうだったからここまで運んできてあげたんだよ」
「おお!ありがとな」
「うん……でも私だけじゃないわよ」
微笑んだセレナは自分の腰の部分で何かを掴むそぶりを見せた。
セレナが取り出したそれは。赤と白のゼブラに球体のフォルム。見慣れたそれを間違うはずもない。
……モンスターボールだった。
と、今度は案の定こんなことを言った。
「出てきて、アブソル」
ポンッと軽い音。
「アブソーール!」
白い毛並みに包まれた四本の趾が大地を踏みしめ、特徴的な藍色の角が堂々とそそり立つ。訪れた場所には必ず災害が起こることからついた別名は『わざわい』。しかしそれは災害を予兆する敏感な角を持っているからであり、実は人間にそのわざわいを知らせようとしてくれる優しい性格を持っている。その境遇に俺は感銘を受け、HGSSでは連れ回って冒険を楽しんだものである。
と、俺がそこまで詳細を羅列出来ることからわかるだろう。
それはルビー・サファイアで初登場したあくタイプポケモン。
まごうことなき『アブソル』がそこにいたのだ。
「ポ、ポ、ポケ、ポケモン!!!!!??」
「ど、どうしたの」
この先はまあ、しょうがないだろう。驚きが一周回って気がついたらアブソルに飛びかかっていた。
***
「ど、どうしたの!?いきなり」
「い、いやすまん。今のはしょうがないんだ。普通の反応なんだよ」
「?」
暫くモフモフやった俺はアブソルから離れ、気持ちを落ちつけていた。セレナに危ないやつ認定されただろうが今はそんなことは問題じゃない。
一番の問題はなぜここにアブソルがいるのかだ。
正直全く状況を把握できていない。俺はさっきまで家でゲームをしていた筈だ。そんでエメラルドをやろうと思い立って、押入れを弄ったらバシャーモの人形が倒れてきた。
ここまでは良い。
そんで俺も押し倒されて……バシャーモに押し倒されるとかご褒美じゃねえか。ごめんなんでもない。
そしてなすすべなく押し倒された先には任天堂の次世代ゲーム機が置いてあった。
思い出せるのはそこまで。俺の記憶は完全に途切れていた。
倒れた先にはポケットモンスターXのタイトル画面を表示した3DS。
そうだな。この状況で考えられることなんて俺には一つしかない。
ーー例えばゲームの中に入るとか。
「セ、セレナ。ホウエン地方って知ってるか」
だからこれは、そう、確認だ。
んな現実離れした現象が起こるはずない。あくまで取り敢えずだ。『地方?何それ。県じゃなくて?』とでも返ってくれば万々歳なんだからな。
まあきっと普通の返答が……
「ホウエン……あ!少し田舎の地方だよね。不思議な文化遺産が沢山ある」
ーーミシィィィィっと音がしそうなくらいの衝撃が俺の全身を貫いた。
***
「あ、あれはマリル!!本物は一段と愛らしい!」
何処を見てもポケモンポケモンポケモン。幸せ過ぎる!
「えーと、ユウキ?もうモノレール停車したけど」
「本当だ!おしっ行こうぜ」
そう。俺は平常運転だ。テンション爆上げだがそれだけ。
意外か?
いやいや俺は逆だ。パニックになる?そんなわけがない。ポケモン大好き人間、ポケモン狂の俺がポケモンがいて興奮しすぎてぽっくり……というならまだわかるが、ここがゲームの中だとか、元の世界に帰れるのかだとか、そんな転生物の主人公みたいな疑問は俺とは無縁だ。過程はどうあれ夢だったポケモンを見て、触れられる。それだけで俺はもう満足だった。
ポケモンの世界に入ってしまった?
いやいや
入ることが出来ただよ。
神様の悪戯だかなんだか知らねえが驚くと思ったら大違いだぜ。俺はむしろ感謝してるくらいだ!
「うおっしゃー!いくぜぇぇぇ!」
「な!ちょ!なんでいきなりテンション高いのよ!」
「知るか!お前友達とジムで待ち合わせてバトるんだろ?」
「い、いやそうだけど」
「見せろよ!俺に!」
「いいけど……まずは何をそんなにテンション高いのか聞きたいんだけど」
そんなMAXテンションで歩く。むしろあがりすぎて若干走り気味になって続けると洞窟が見えてきた。入口の両脇にそれぞれ柱が建てられており、その上にモンスターボールが入った彫刻が置かれていた。
「ん?あ!セレナだ!おーいこっちこっち!」
ジムの方から此方に手を振るのは一人の少女だった。その隣には少年も三人いる。なんかよくわからんがあれがきっとセレナの言っていた友達なんだろう。
「お隣さん!じゃあ早速勝負よ!」
「望むところだ!」
一触即発。まさにそんな雰囲気の中で、
「ちょーっとストップ!」
リュックを背負った少年が声を張り上げた。
「どうしたのよ。トロバ」
「どうしたもこうしたも無いですよ!!この人!!」
その少年は俺を指差してプルプルしていた。初対面の人間に指を指すとは教育がなってないぞ。親の顔が見てみたいもんだ。いや親不孝者な俺が言えたことでもないが。
「その人がどうかした?」
「トロバの知り合いか?」
今度は例のお隣さんと巨漢の少年が、リュックを背負った少年トロバくんに聞いた。
「あ、まだ紹介してなかったわね。……此方ユウキさん。何故か行き倒れていたところを私が助けたのよ」
「わぁぁぁあぁぁぁぁぁあああ!!」
するとトロバくんが叫んだ。
【トロバはこんらんしている!!】
ちょうおんぱか。大丈夫、こんらんはポケモンセンターに行かなくても治るから。でも人間だからおとなしく病院に行こうね。どうなるかわからないから隔離される可能性もあるけど。
「その格好にユウキという名前!……貴方は!」
何かね少年。病院には責任持って連れて行ってあげるから安心したまえ。病院があるのかはわからないけどね。
「ーー貴方はホウエン地方のチャンピオン、ユウキさんじゃないですか!!」
後書き
暁の利用方法がわからなかったので既存の作品をマルチ投稿って形で投稿して、やり方を覚えたいと思います。何かあったらご報告頂けると幸いです。
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