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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十話。対決の刻

「なんじゃ、来たのかキンゾー」

「ブチ殺すぞ! お前らはその名で呼ぶんじゃねえよ‼︎」

「……」

状況が理解できない。
いや、目の前にいるのはキンゾーで。先ほどの言葉から察すると『蒼の邪眼(ブルーアイズ)』や『ターボロリババ』の仲間だというのは解る。
俺の目の前に立ち塞がるからには味方ではなく、敵対するといった意思表示なのだろう。
ここまでは解る。
だがな。

「なんでお前までいんだよ⁉︎」

それが解らない。
今まで深く考えないようにしてきたが。
リサ、かなめ、綴……そして、キンゾー。
俺の知り合いが都市伝説となって現れる率が高過ぎる。
確かにどいつもこいつも、ある意味『都市伝説』として語られてもおかしくないくらい人間離れてしているが、そもそも彼らはこの世界の人間ではない。
この世界の人間ではない彼らが、『都市伝説』として俺の前に現れる。
……これは全て偶然の出来事なのだろうか?
そんな偶然あってたまるか!
そう叫びたいのを我慢してキンゾーに問いかけるも……

「たっく……兄貴も兄貴だぜ? 何やってんだよ?」

キンゾーは俺の言葉をスルーして質問を質問で返してきやがった。
その言葉。そのまんまお前に返したい。
キンゾーは、首から上は相変わらず見えないが……俺が東池袋高でレオンから貰った特攻服に身を包み、手に俺のオロチに似たフィンガーグローブを着けている。特攻服の下が少し膨らんでいるのが解る。
おそらく軽量化したプロテクターを着けているんだろう。

「降りかかる火の粉を払おうとしていただけだ」

「チィッ、兄貴……なってんのか(・・・・・・)?」

舌打ちしてキンゾーがそう言った。
ああ______やっぱりこれは。

「おかげさまでな。そこの氷澄が一之江や俺の仲間を『奪う』って言ったのもあるが、なにより一之江を傷つけられたからな。
ならないはずがない……だろ?」

「チィッ……やり過ぎるな、ってラインには言ったんだがな」

「仕方ないじゃろう? お主に聞いていた以上に面白い相手だったからのう。『メリーズドール』もそこの『(エネイブル)』もな」

「何だ、言ったい貴様らは何を言ってる⁉︎」

一人状況が解ってないのか、氷澄が戸惑いの声をあげる。
そんな氷澄にレクチャーするように、キンゾーは語りかける。

「なってんだよ。HSS……ヒステリア・レガルメンテに」

「ヒステリア・レガルメンテ?」

氷澄の目が大きく開かれる。
その意味を正しく理解できたのだろう。
そう、ヒステリアモードには状況や熟練度にもよるが、派生がある。

『死に際』のヒステリアモード。アゴニザンテ。

力は増すが攻撃一辺になる『諸刃の剣』であるベルセ。

性的興奮を一切しなくなる代わりに攻撃力が皆無になるワイズマン。

そして……。

「兄貴がなってんのは、ヒステリア・レガルメンテ。
『王者のHSS』……HSSを持つ男が、自分の女を滅ぼされた時に発現するモノだ」

俺の知ってることをペラペラ言うGIII。
俺はすでに知ってるが。
人前で余計なこと話してんじゃねえよ!

「フン、そんな切り札を持っていたなんてな。
だが、いいのかGIII? お前が兄と慕う男の情報をペラペラ喋って?」

「べ、別に慕ってねえよ‼︎
あ、兄貴は人間辞めてる奴だからな!
このくらいの情報でやられる奴じゃねえんだよ」

おい、それはどういう意味だ?

「Rランク武偵の人間辞めてる代表のお前に言われたくねえ!
というか、ペラペラとヒステリアモードのことを勝手に話してんじゃねえよ!」

「う、うるせー! 兄貴は黙って俺に従ってればいいんだよ!
という訳だ、兄貴! お互いの『物語』をかけて勝負しやがれ!」

「待て! 何がという訳、だ! お前が戦う理由も聞いてねえのに誰が勝負するかー⁉︎」

何言ってんだ、お前は。
いきなり乱入してきて勝負しやがれって言う相手に、「ああ、やろう!」という奴なんているのか?
いるかもしれないが、俺はしないぞ。
やんないからな!

「うるせー! やろうぜ!
兄貴の物語は俺のモノ。俺のモノは俺のモノだろ?」

どこのジャイアンだ、お前は?
クソ、一難去って。また一難。
一之江がやられた今。俺には仲間がいない。

「待てキンゾー。それはあまりに一方的過ぎるぞ?」

と思ったが。ラインが助け船を出してくれた。
さすがは年の功。
見た目はロリだが、中身は婆さんだけあって常識的だな。

「わらわたちが先に狙ってた奴なのじゃ。ここは共闘するというのでどうじゃ?」

どうせそんなことだろうと思ったよ!

「チィ、仕方ねえな。先に倒した方が兄貴を『物語』に加えるってのでどうだ?」

「というわけじゃが、よいかの氷澄?」

「俺は構わない」

「ふざけんな!」

「じゃあ決まりだな」

「ちょっ、待て!」

俺の意見は完全スルーかよ!
右手拳を振り上げてプルプル震えた俺にラインは若干気の毒そうな目を向けつつ。
ラインの体を掴んでいた俺の腕を捻り上げた。

「ちょっ? い痛だだだっ!」

腕捻りをかけられた俺はラインを咄嗟に放してしまう。
俺の拘束から抜け出したラインは一瞬にして、その姿を消し。
気づけば遠く離れた電信柱の真下にいた。

「それじゃ、とっととやっつけるかの氷澄、キンゾー?」

「ああ、やるぞライン!」

氷澄の両眼が青く光り。

「ケッ、本当なら兄貴とはタイマンをやりたかったんだけどな。
仕方ねえ……おい、兄貴。(タマァ)までは取らないから安心しろよ」

「ふざけんな! 何でお前らと闘らなきゃならないんだ!」

「……馬鹿だな兄貴は。そんなの決まってんだろ。俺には俺の、氷澄には氷澄の戦う理由があるからだ」

理由?

「何だよ、その理由って……」

「氷澄の理由は言えねが……というより詳しくは知らねえが、俺はあるロアを追ってる。そのロアの力が俺には必要だからな。
だがその為にはより強いロアの力が必要だ。
だから俺は『物語』を集めてやる。
最高の物語を集めて望みを叶えてやる!」

「何だよ、その望みって?」

「あー……そりゃあ、言えねなァ」

顎を指で掻きながら片眉を上げたジーサードは、答えない。

「じゃあ質問を変えてやる。
お前はそのロアの力を使って、何をするつもりだ。まさかと思うが死人を生き還らす……なんて言わないよな?」

俺に問われたジーサードは目つきをシリアスなものに変えた。

「______知ってて聞いてくるのはマナー違反だぜ!」

(……)

しばらく黙って回答を促しても、何も言わない。
ジーサードの目に、深い哀しみを感じる。

(……ああ、そうか。ジーサードは……)

ベルセ気味のレガルメンテの頭だったせいか……解った。
解って、しまった。
ジーサードは、死者蘇生をしようとしている。
ジーサードがかつて愛した女性を。

「______生き還らせようとしてんだな。サラ博士を……!」

俺のその言葉に______ジーサードは。

「ああ、そうだ。生き還れるんだ! ロアの力があればな!」

あまり触れられたくないからか、低い声で答える。

「まだそんなこと考えてたのか……」

「諦めるかよ! やっと見つけたんだ。サラを生き還らせる方法を!
死者の書(ル・ヌ・ペレト・エム・ヘル)』……そのロアの力があれば生き還るんだ、サラが!」

「おい馬鹿よせ、そんな事は。死人を生き還らせるなんて自然に逆らう行為だぞ」

『人喰い村』で自身がやらかした事を棚に上げつつ、ジーサードの説得を試みたが……。

「ハッ、知るかよ。俺は神にだって逆らってやる!」

ジーサードは恐れるものなど何もないという強気な姿勢を崩さなかった。
まぁ、解ってたけどさ。
相模湾上空で戦ったあの時も同じこと言ってたし。
だが、キンゾーよ。
その後、女神こと、緋緋神様が乗り移った『闘戦勝仏』・孫悟空に胸貫かれてなかったか?
レーザービームで……。
キリスト教徒(クリスチャン)なら嘘でも神に逆らうとか言うのは辞めた方がいいぞ。
でないとまた、撃たれるぞ。
今度はBC兵器とかで。

「だから悪いな……俺の目的の為にもここで散ってくれよ、兄貴!」

「散らせるものなら……散らせてみやがれっ!」

ラインや氷澄の動きにも注意しつつ。
『桜花』の構えを取る。
ジーサードの方に視線を向けると。

(……やっぱり、ソレを使う気か)

ジーサードの構えを見て思わず笑ってしまった。
お互い考える事は同じなんだよな。
俺達には銃も刃物も効かない。
俺達は銃弾を斬り、逸らし、跳ね返し、受け止める。
刃物は素手で掴んで止められる。
そんな人間離れたした技を使える奴と戦わなければならない。
ならどうするか?
そんなの決まってるだろ?

「同じこと考えてるな……」

「ハッ、今更何言ってんだ?
『______剣は銃より強し。拳は剣より強し…… 』だ! そして、俺達には音速の拳がある!」

なら解るだろ?
キンゾーのそんな言葉が聞こえた気がした。

「いくぞ、『厄災の眼(イーブルアイ)』‼︎」

「『音速境界(ライン・ザ・マッハ)』‼︎」

「いくぜ! 『流星(メテオ)』‼︎」

俺を挟むように、右側からライン。
左側からはジーサードがバイクに乗ったまま迫ってきた。
アクセルを吹かしながら『轢いてやる』とか言ってたが……お前本当は武藤じゃないよな?
内心の心配を他所に、ほとんど同時にライン達は突っ込んできたが、完全に同じタイミングではない。
わずかに間がある。
それなら!
俺はヒステリアモードが見せる超超スロー空間の中で自身の筋骨を順番に連動させていく。

(橘花______絶牢______桜花ッ!)

それは以前、相模湾上空での戦いで放ったカウンター技。
それを俺は代わるばんこ順番に放とうとしたが……。

(______ありえん)

思わずそんな言葉を心の中で呟いてしまう。
迫り来るライン達は変わらずに突っ込んできた。

「ぐはっ……」

だからラインには橘花で受け止めた力を、絶牢で返して、桜花気味の蹴りを体に叩き込んで吹き飛ばした。
しかし、ジーサードは俺が使う技が何かが解ったのか、『流星(メテオ)』をキャンセルして咄嗟にバイクから降りて『流星(メテオ)』とは別の構えをとっていた。
突っ込んできたバイクは『桜花』気味に蹴りを入れて吹き飛ばしたが、キズ付いても弁償とかはしないぞ。
まぁ、今はバイク事は後で考えよう。
それよりもだ。ジーサードが行なっている構え。
あれは……。

(……絶牢)

『見せたら殺せ』。
そう先祖代々受け継がれてきた秘中の奥義。
全身を回転扉のように使い、相手の力を返すカウンター技。
それを使う気だ。俺がジーサードに攻撃をした瞬間に。

(マズイ。やられた……ッ!)

絶牢を返す技はない。
どうする?
どうしたらいい。
クソ、考えろ金次!
お前は『不可能を可能にする男』だろ!
そうか!
ないなら……作ればいいんだ!

「______『絶牢』ッ!」

気づけば俺はジーサードが放った『絶牢』を『絶牢』で受け止め、返していた。

______パアァァァァァァァァァァァンッ!

絶牢を絶牢で返す二重カウンター。
名付けて『絶花(ぜつか)』。
桜花で始まり、橘花で終わる、花を使い果たして敵を絶やす______俺の新技だ!
俺の蹴りがジーサードが放った蹴りとぶつかり合い……。

「______うがァァァァァァッ!」

ジーサードの呻き声と共に、衝撃が上半身まで及んだのか、奴が着ていた特攻服の下にあるプロテクターが、破片となって飛び散った。それと同時にドサリと地面に倒れるジーサード。

(勝った……のか?)

桜花と絶牢を何度も放ったせいで、乱れた息を整えてながら安堵したその時______

「まさか、ラインだけではなくジーサードがやられるとはな。
だが、これで戦いが終わったと思ってないだろうな? 一文字疾風」

氷澄がその双眸を青く光らせながら笑う。

「通常のロアとの戦いならば、確かにこれで決着してもおかしくない。だが______『主人公』と戦っているということを、お前はまだ知らないようだな」

「……何?」

「俺が思い描く『主人公』像は、窮地こそ自身の転機に変える」

ドクン。
その『主人公』の在り方に、俺は寒気みたいなものを感じた。

「ライン」

氷澄は倒されたラインの名を呼ぶ。

「お前は______『いなくなったと思ったら目の前にいる』ロアだろう‼︎」

「っ⁉︎」

俺はラインが倒れている方へ視線を向ける。
が、そこには誰もいない。

「なにっ⁉︎」

倒したはずのラインがいない⁉︎
と、その時。
一瞬、何かの気配を感じて、慌てて横を見た。
今、一瞬だが、誰かの姿が見えた……⁉︎
いや、そんなはずは……。
『橘花』と『絶牢』、『桜花』のコンボ技を喰らって無事でいられるはずが……。
視線を氷澄に向けると______。

「ばぁ」

「うおぉぉぉっ⁉︎」

目の前にラインが立っていた。
そんな馬鹿な……⁉︎
俺は目の前のラインを見つめた。
やがてその姿がぼんやりと消えていき……。

「ふむ、氷澄。『ばぁ』はどうかと思うんじゃが」

その姿は氷澄の真横に現れていた。

「っ⁉︎ 今、何をしやがった?」

「お前は俺の青い光を受け過ぎていたのさ」

氷澄は口元に歪んだ笑みを浮かべて、俺に語りかける。

「故に、暗示にかかりやすくなっていた。いるはずのないものを、見るくらいにはな」

「いるはずが……ない?」

「うむ、つまりお主が見たわらわとキンゾーは幻______氷澄の使う『幻の邪眼(ファントムアイズ)』によって、幻惑を見せられたということじゃよ」

「だが、お前はこう思ったはずだ。『ラインとジーサードは目の前にいる』と」

「そう、わらわとキンゾーは『ターボ婆さん』と『首なしライダー』のロアじゃからな。
『そこにいる』と思わせれば、現れることができるのじゃよ!
ほれ、そこに……キンゾーがいるぞ!」

ラインが指差した方へ視線を向けると。
そこには無傷でバイクに跨ったキンゾーがいた。

「ったく、何やってんだよ、兄貴?
幻になんかに惑わされやがって……だらしねえなァ」

その姿を見た瞬間。俺はハッキリと解った。
違う。今まで見えていたキンゾーとは雰囲気がまるで違う。
例えるならばそう。
カナではない兄さんや『静かなる鬼(オルゴ)』と呼ばれていた父さんのような、圧倒的な存在感がある。そこにいるだけで周囲を圧倒するような、そんな威圧感を放っている。

「本当に……キンゾー、か?」

「その呼び方やめろって言ったろ!
ったく、兄貴といい、ラインといい変な呼び方しやがって」

心底嫌そうに言うキンゾー。
キンゾー呼びは嫌なんだな。

「そりゃ、悪かったなキンゾー。
で、やっぱりお前の目的はサラ博士を生き還らすことなのかキンゾー?」

「キンゾーはキンゾーじゃろ? 他の呼び方なぞ、わらわは認めん」

「てめェら……!」

などとキレたキンゾーだったが、すぐに目的を思い出したのか会話を続けた。

「幻の俺も言っていたと思うが、俺は『死者の書(ル・ヌ・ペレト・エム・ヘル)』のロアの力を得るまで誰にも負ける気はねえからよ!
だから……悪いな兄貴。
ここで散ってくれよ」

ジーサードは言うやいなや、俺の方にバイクを走らせてきた。
幻惑ではない本物のRランク武偵。
それも血の繋がった弟に『物語』を狙われるとは。
ジーサードの力は以前戦った時よりも格段に増している。
まだ拳を交わしてないが解る。
雰囲気で。
俺のように数多くの修羅場くぐり抜けてきたのだろう。
一つ一つの動作がより洗練されている。
ただでさえ強かったジーサードはその腕前をさらに上げたのが解る。
そして『ロア』としても覚醒している。
だが……何故キンゾーが『首なしライダー』のロアなんだ?

そもそも『首なしライダー』の都市伝説とはどういったものだったか。
確か、とある道路を横断するようにピアノ線が張ってあり、そこに猛スピードのバイクで突っ込んだライダーは首をはねられてしまった。しかし、首のないライダーを乗せたままバイクはしばらく走り続けた。それからというもの亡霊となった彼は夜な夜なその道路を猛スピードでさまよい続ける。首が切断される原因は道路標識やガードレールに変化していたり、走り回る理由は自分を殺害した犯人、もしくは切り落とされた自分の頭部を捜している、とかそんな感じだ。

キンゾーが首なしライダーと呼ばれるには首を切断しないとなれないはずでは?
そう思い俺の前でバイクを止めたキンゾーに聞いてみると……。

「それがよ、この世界に来た時に俺が着ていた光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)のコートがイカれちまってよぅ。首から下が消えなくなっちまったのさ。
直すのも面倒だからそのまんまにしてたら、ヤシロが現れた、ってわけさ」

えっと、つまり。
キンゾーが来た時に着ていたステルス迷彩の服が壊れて首から上だけしか消えなくなっていたのにもかかわらず、キンゾーはそのまま着て過ごしていたせいで。
周りから、世界から『首なし男』が存在していると認識されてしまった、というわけか。

……何やってんの、キンゾー? 
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