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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第八話。『星座の女神』

2010年6月19日午前2時半。詩穂先輩宅。

「どうしてこうなった⁉︎」

詩穂先輩の家のリビングで俺は先ほど自身で持ち上げたソファの上で、俺は眠れない夜を過ごしていた。隣の部屋に美少女+α(飲んだくれ教師)があられもない姿でぐっすり眠っていると思うとドキドキしてしまう。
まあ、約一名。別の意味でドキドキしてるのだが。
なぜなら……
コンビニでアイスを買っていた俺の携帯にどうやって調べたのか、綴先生から『お使いリスト』なる名目で大量の酒類とツマミを買って来い、買わないと解ってるよな? 的なお使いメールが送られてきたからな。
しかも俺の進入を拒むかのように茨がそのドアを塞いでいるのが気になる。
なんでもあれは内側からはすんなり開き、外からは絶対に開かないようになっているらしい。
そこまでしなくてもあんな美少女だらけの空間に入りたいなんて思うはずがねえのに!
入ったら確実にヒステリアモードになる魔鏡に誰が好き好んで入るか。
部屋は別とはいえ、ただでさえ女臭さが満悦している空間で寝泊まりしないといけないんだぞ。
そんなヒステリア地雷満載な空間でぐっすり寝れるはずがない。
ヒステリアモードを避けたい俺にとって、この家は魔界に等しい。
そしてもう一つ、目が覚めてる理由として挙げるならば、女子達の他に気になっていることがあるからだ。

「『主人公』か……」

ここにきて、重くその言葉がのしかかる。
それと同時に心の奥底から湧き出す感情がある。
……これは焦りだ。
正直な話、俺は今まで主人公という存在になったことに特別な意味など何もないと思っていた。
それは当たり前のような日常を過ごせているせいもあり、あんまり主人公という自覚を持っていないからだ。
そりゃ、怖い目にはいくらでも遭っているのだが……それを引いてもいいことがあったからな。
そう……様々な都市伝説(一之江)達との出会いやその出会いにより起きた騒動で仲間が出来たことが一番大きい。
キリカをなんとかした時も、ずっと仲間くしていたい一心だったし。音央達の時は、2人とも助けたいと思ったからだ。
俺としては助けたいからしただけであって。感じた痛みや傷も、残っていないから気にならない。
仮に残ってたとしても怪我をするなんて、武偵時代には当たり前なことだったし。強襲科では誰も気にも止めなかったからな。
だけどなんとなくロアに狙われるのと『主人公』に狙われるのとでは意味が違ってくる。
少なくともこれまで戦ってきたロアは、生きる為、自分の存在を高める為に俺を狙った。『ハンドレッドワン』を倒せば、それだけでロアとしての知名度が上がるからだ。それはつまり、彼女らの存在が安定するという意味でもある。
だが『主人公』は違う。俺と同じ立場、つまり人間らしい、人間としての思考を持っているはずだ。
悩んだり苦しんだり楽しんだりを自発的にする人々なのだろう。
人間らしいということはそんな彼らが俺を狙うということはつまり、自らの意思で俺と俺の物語を取り込み、奪うということなのだ。
『人間』に狙われる。
そんな根本的な恐怖が俺を焦らせる。
俺が物語を、みんなを守るためには『百物語』を完成させなければならない。
それには他の『主人公』を倒して取り込んだ方がいい。
それをした方がいいという提案を一之江がいずれしてくれようとしていた、ということも焦りの原因になっている。
そして、『主人公』が『他の主人公』を倒して物語に取り込めるのなら俺も……

「俺も、同じように他の『主人公』やロア達に恐れられているってわけか……」

自分が知らない誰かから、そんな理由で恐れられているというのは精神的にあまりいい気はしない。
自分的には人畜無害だと思っているから尚更だ。

「どうしたものかなあ……」

……いや、対策はわかりきっている。
例の『終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)』という人物から逃げ続けた方がいいのだろう。
関わらない、それが生き残るのに一番賢い選択だ。
もしその人物の機嫌を損ねたりして、俺のことを取り込もうとか思われたら厄介だしな。
出来れば一生絶対に出会いたくない。
だが、今までの経験上。
俺が絶対、絶対とか言う度に関わることになってるので……

(遭遇は避けられないだろうなぁ……)

同じ街に住んでいる以上、いつか鉢合わせするのは避けられないだろうし。
その時、戦闘になったら。
俺は今のままで守りきれるだろうか?
俺が切れるカードはかなり強力なものばかりだが……一之江は相手の赤マントこと、スナオちゃんと引き分けだったし。
向こうにスナオちゃん以上の強力なロアが物語として取り込まれていたら……。
今の俺が使えるカードで、キリカがダウンしている状況で。仮に戦いになったとしたら……。
戦いに向かない鳴央ちゃんを除くと俺の戦力は実質一之江と音央の2人になる。
そこに俺を加えても三人しかいない。
相手の戦力が未知数なのにこっちの手札はすでに1人見破れている。
それも最大戦力の一之江が相手に知られてしまっている。
音央や鳴央ちゃんの能力は確かに強力だが、どちらかといえば戦闘向きな能力でなない。
そして。

「俺、か______」

実際、普段の俺では出来ることなんてたかが知れている。
Dフォンで一之江を召喚したり、ちょっとした近接格闘くらいならできる。
だが、それはあくまでも対人、それもアマチュアレベルの話だ。
一之江に扱かれて、ここ数ヶ月で対ロア戦を想定した訓練も受けてはいたが……どこまで通用するのかは解らない。
普段の俺は強い力を持っているわけでもなく、特別な能力を発揮出来るわけでもない。
もし、こっちの俺が『終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)』と遭遇してしまったら______。
いや、戦いになるのが『終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)』だけとは限らない。
もし、他の『主人公』との戦闘になったら______。
果たして俺は無事に帰って来れるのだろうか。

「どんな『主人公』がいるか、ちょっと調べてみるか」

悩んでいたって始まらない。
俺はDフォンを取り出すと早速『8番目のセカイ』に接続してみた。
画面に出たのはいつもながらの簡素なデザイン。
検索ワードの欄に『主人公』と入力してみる。
表示された件数は……108件。煩悩と同じ回数だな。
『主人公』という存在はロア的には煩悩の塊だよ、みたいに呼ばれてるようで不思議な気分になった。

「いかん。いっぱいあるせいでいまいちどれを見ればいいのか解らん」

以前、神隠しを検索した時にも思ったが……多すぎだろ、主人公⁉︎
主人公だけで『百物語』が完成するぞ。
これはあれか?
百物語を完成させるには、主人公を全員倒せ! みたいなハードモードが設定されてんのか。
鬼畜だな。ロア達を認識している『世界』さんは。
しかし困ったな。
こんなに検索数があるとどれを選んだらいいのか解らん。
やっぱりこういった検索は『魔女』であるキリカに任せた方がいいんだろうな。
そう思いながら、せめて自分と『終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)』を調べてみようと思い、検索をかけてみた。





101番目の百物語(ハンドレッドワン)

百のロアを従えるとされる『百物語』の主人公。
百の物語を集める使命がある。
百番目までの主人公は全員脱落済み。




『哿(エネイブル)

不可能を可能に変えるとされる『不可能を可能にする男』の主人公。
あらゆる物語に干渉し、改変、削除する使命を持つ。
必ず男性が主人公として選ばれる。
どんな物語にも干渉出来ることから『世界の改変者』とも呼ばれる。


「おおおぉぉぉ」

こんな風に俺の情報は載っていたのか。っていうか、案外少ないものなんだな。
特に『百物語』は。
もっと色々書いてあってもいいと思うのだが。
ざっと目を通してから、次に『終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)』について調べてみる。






終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)

千の物語を統べるとされる『千夜一夜』の主人公。
千の物語を語る使命を持つ。
必ず女性がその主人公として選ばれる。
星の数ほど物語を経験することから『星座の女神』『正義の星女神』とも呼ばれる。






……なんか凄い異名がついていた。
俺の『哿』にも『世界の改変者』とかあったが……『終わらない千夜一夜』には『女神』なんて仰々しい呼び名が付いている。
つまりそれだけ物語を経験する予定であり、それを女神のように格好良く解決するということなんだろうか。
反して、百物語の文面はネガティヴだ。百物語を達成出来た主人公は今まで一人もいない、という内容だけ。101番目たる俺『たち』が成功する可能性も示唆されていない。
この段階で既に『主人公』としての格が違う気がしてならない。
これは……積んでるな。
出会ってしまったら、なんとしてでもヒステリアモードになって。
(エネイブル)』の力で切り抜けるしか方法がない。
正義の女神様なんだから、仲良く出来たら一番いいのだが。
出会ってしまったら、ヒステリアモードの俺に丸投げしよう。
______いささか、というより。大分不本意だが。

「はぁ……ん?」

Dフォンの操作に夢中になって気づかなかったが、普通の携帯電話の方にメールの着信があった。
振動設定(バイブレーション)にしていたせいでまるで気付かなかった。

「あ……なんだ、理亜からか」

その表示名を見て安心しそうになり……そういえば、あいつらは今日お泊まりだと、メールが来ていたのを思い出した。女の子の家だというのは聞いているが……何故だろう。
なんだか面白くない。
かなめも一緒だから何の心配もいらないはずだが……やっぱり心配だ。別の意味でも。




差出人・理亜

タイトル・確認です



内容・こんばんは、兄さん。理亜です。
確認なのですが、兄さんも今日はお泊まりですよね?
それはちゃんと男性の部屋なのでしょうか?
兄さんを疑うつもりはありませんが。
どうしても気になってしまいます。
女性と二人っきりで夜遅くに出歩く……なんてことはありませんよね?
兄さんを信じていますが、どうしても気になってしまったので。
こんな夜中に申し訳ありません。





どばっ、と冷や汗が大量に流れた俺だった。
なんだこのピンポイントなメールは?
一之江と二人っきりでコンビニに行ったのがバレてる?
イヤイヤイヤ⁉︎
誰にも見られなかったはずだ。
少なくとも俺が知る知り合いには会わなかった。
一人を除いて。

……まさか、な。

そんなはずはない。
そんなこと、あるはずないだろ。
きっと俺が知らないクラスメイトとかに目撃されただけだ。
……そう思いたい。


それよりも、だ。
どう返そうか。
……アランの家とかにしておくのが無難と言えば無難なんだが。
従姉妹とはいえ、一緒に住んでいる大事な妹に嘘は吐きたくない。
だが……。

『女の先輩の家で、他は女子+αです』

なんて返信したら『不潔です!』と怒られるのは目に見えている。
だがありのままを話す訳にはいかない。

「どうしたもんか……寝てたことにする……か?」

いや、駄目だ。それは問題の先送りだ。

「音央辺りに口裏を合わせて貰うか……」

携帯の前で悩むこと数分。
______答えが出なかった俺は、一度部屋を出ることにした。
外の空気を吸って、リフレッシュする為だ。
幸い一之江が借りていた鍵がテーブルの上にあったし、これで戸締まりをすれば問題ないだろう。

「まさかこういう悩みを抱くとはなあ……」

最近、悩み尽きないな、などと思いながら。
俺は詩穂先輩の家を後にした。






2010年6月19日。午前2時45分 夜霞市内某所




雨がしとしとと降る夜中の街を。
コンビニで購入した傘を差しながら、俺は電話をかけていた。
相手はアランだ。

『イヤだよ、そんなの』

「そこをなんとかしてくれ親友のアラン」

『こういう時だけ親友って呼ぶなモンジ』

「モンジって呼ぶな」

『ほほう? いいのかなぁ? 僕が協力しないと、理亜ちゃんが怖いんじゃないかなぁ?
くっくっくっー』

くそっ! アランのくせに足元みやがって‼︎

「……受けてくれるならキリカや一之江とのウハウハデートのセッティングをしてやってもいいぞ」

『何⁉︎ 美少女達とのウハウハデートだと⁉︎』

「『毒舌美少女と小悪魔っ子なクラスメイトとのラブラブデート』です」

『く、クラスメイト、ら、ラブラブデート……!』

「ご協力頂けませんか、アラン様」

『いいだろう! 僕は今日、モンジと過ごしていた』

ふっ、チョロイな。

「ありがとうアラン……それとモンジって言うな」

『わはは。どこにいるのか知らないが、ちゃんとデートさせろよ!』

「おう、恩にきるぜ」

アランとの電話を切って、ひとまず安堵する。
結局嘘を付くことに変わりないのだが、アランとも電話口とはいえ過ごしたのは事実だ。
まぁ、そのせいで別の問題も出来たが……。

(……デートのセッティング、どうしよう)

ノリと勢いでデートさせる、と言っちまったがキリカはともかく、一之江を説得するとか……無理ゲーじゃねえか?
マズイ。背後を刺される未来しか見えない。
……どうしよう。
ま、それはおいおい考えるとして。
それよりも……

「女の先輩の相談に、友達と乗っていました。アランもだよ……っと」

そんな返信を理亜にしつつも、胸が痛むが仕方ない。
……今回は些細な問題だ。
理亜だって、まあ、怒る原因が嫉妬から来るものなのか潔癖症だからなのかは解らないが、もしバレてもちょっと怒るくらいで許してくれるはずだ。
だが、これからはどうだろう?
命懸けで俺が何かをしようとしていると知ったら、その内容を知ったら、理亜はどう思うだろうか?
クールだけど、優しい彼女のことだ。心配して心を痛めるかもしれない。
もし、俺が今までのモンジ______一文字疾風______ではないと知ってしまったら。
どうするだろうか?

______自分から望んで一文字に憑依したわけじゃない。
______自分で選んで『主人公』になったわけではない。

だが、だからといって、逃げ出したくない。今の俺でも頑張れば、誰かを救えたりできるのだから。
それは今までの。
『ただの一文字疾風』では無理だったことが出来るという意味だ。

「全てをありのままに話すことは出来ないが」

でも、心配をかけないように振る舞うことは出来るはず。少なくとも、理亜やアラン達には、こんな殺伐としたホラーでオカルトな世界は一生知らないままでいてほしい。
……そうだ。知らなくていいんだ。こんな世界は。

「出来ないんだ」

と、その時だった。
気づけば目の前に見知った人物が立っていた。
白い帽子に、白いワンピース。
それらを身に付けたヤシロちゃんは今日も突然現れた。
手に持つ白い大きな傘は色合いはバッチリだが、大きさはミスマッチだな。

「やあ、こんばんは、ヤシロちゃん」

「うん、こんばんは、お兄さん」

俺が軽く会釈すると、ヤシロちゃんは帽子の下に笑みを浮かべながら返してくれた。
目の前に突然現れたヤシロちゃん。
突然現れた彼女は、安心と不安を同時に与えるような、そんな存在だ。
俺がこんな殺伐としたホラーなオカルト世界に首を突っ込むキッカケになったのも、思えばヤシロちゃんにDフォンを手渡たされてからだ。

「それで、何が話すことが出来ないの、お兄さん?」

「ん、ああ……ほら。自分の家族とか友人とかには話せないよな、と思って」

「そうなの?」

「そうなんだよ。知ったら巻き込んでしまうだろ?」

音央の時も似たような事を思ったが、結局彼女はこっち側に来てしまったからな。

「ふぅん……そういうものなんだね」

「ああ、そういうものなんだよ。っていうか、ヤシロちゃんはこんな時間に、こんなところでどうしたんだ?」

「うん? もちろん、お兄さんに会いに来たんだよ?」

「……子供がこんな時間に出歩くなんて危ねえぞ。送ってやるからさっさと家に帰れ」

「ふふ、はーい。気をつけまーす」

「うん、素直でよろしい」

その素直さを1/10でいいから、一之江やアリアに分けてやってくれ。
もっともヤシロちゃんもロアだから、本当ならこんな心配はいらないなんていうことは知ってるが。
でも、やっぱり気になっちまうんだよな。
こういう子も、ちゃんと楽しい日常を過ごせるようになればいい。
そんな風に思ってしまう。

「お兄さん?」

「っと、悪い。考え事をしていた」

「ううん。わたしのことまで考えるなんて。お兄さんはやっぱりスケコマシさんだね」

「うぐっ」

一之江に言われた『ハーレム野郎』という言葉を思い出す。
俺はハーレム野郎なのか……。
いや、違う。ただの誤解だ。
女を避けてる俺がハーレム野郎なはずはない。絶対。うん。

「それでね。十字路……『四辻』では、良くないものと出会う。そんな都市伝説が実はあったりしてね?」

「ん? 良くないもの?」

「そう。だからこの先に進めば、お兄さんはこれから『主人公』として、とても大変なことになるの」

「『主人公』として……?」

胸の鼓動が高まる。それは今正に俺が悩んでいるものだからだ。

「その結果、もしかしたら望まない方向に向かうかもしれないし、望んでも苦しいことになるかもしれない。今なら、ここを戻ればそういう苦しい思いをしなくても済むけど。どうする?」

このまま進めば、望む望まないに限らず、苦しい道になるかもしれない、か。
そして、ここから早急に立ち去れば。先輩の家にでも戻れば。
きっと朝が来て、ドキドキ、デレデレして怒られる……という。
当たり前な日常を過ごせるのだろう。
迷うことなんかねえ!
当たり前な日常を選ぶべきだ。
俺が一番望んでいるのはそれだろ?

そう思っているのに。


「進んだ先に……俺が望んだものはあるのか?」

そんな質問をしてしまう。
俺の質問に対し、ヤシロちゃんは少しもったいぶるかのように歩いてから。
くるっと体を向けて。

「苦しくても、進めば何かはあるよ」

ただ一言、そう告げた。

「……戻ると何もないってことか」

進むか、戻るか。
その二択しかないのなら……
俺が出す答えは決まっている。

「ありがとう、ヤシロちゃん。やっぱり俺は先に進むよ。苦しくても、自分に何が出来るのか探してみるよ」

その『何か』も、探してみなければずっと見つからないままだしな。
たとえ苦しくても進まなければ、何も手に入らない。
それに俺は東池袋高で学んだ。
『力を持つ者には正しく力を使う責任がある』ということを。

「そう、やっぱり進むんだね。そんなお兄さんに、朗報なんだけど」

「朗報?」

「うん。この先に進めば、お兄さんはみんなを守れるようになるかもしれない」

みんなを守れるように?

「それは……」

どういう意味だ、と聞こうとしたところで。

「もっとも、大事なものを奪われなければ、だけどね」

ヤシロちゃんの口元が酷薄な笑みに変わった。
 
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