| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/The All

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

02:御華功

功を廃倉庫の奥に運んだアーチャーは功を地面に下ろすと、自らも柱を背にして腰掛け、思考の海に飛び込んだ。

──そもそもこの男は、どうやって自分を召喚した?
アーチャーは──天宮刹那という名の少女は、この時代、否、この世界に於いては無名に等しい。
他にアーチャー適性を持つ英霊など幾らでも存在するし、まず刹那という英霊を呼び出す事など不可能に等しいのだ。
その不可能を可能にするのが、触媒と呼ばれる、サーヴァントに所縁のある品だ。
その触媒を使う事によって特定のサーヴァントを狙って引き当てる事が出来る。それならば自分を呼び出した事にも納得がいく。

──では、その触媒とは?
先程言った通りに、刹那という少女はこの世界には存在した事は無い。
触媒を使って召喚しようにも、その触媒が無いのだ。
それにこの御華功という男は、自分を知らなかった。
つまりそれは、故意に触媒を使ったと言う事は無い証である。

それらの情報から考えて、一番可能性が高いのは──

「……お兄様の悪戯ですね、確実に」

脳裏に、純白の少年神のニヤけ顔が浮かぶ。考えれば考えるほど、それ以外考えられなくなってきた。
《主》という少年神は基本自由な性格をしている。刹那をこの時代に送り込んだという事は……

「また面倒な事になりそうですね……」

《主》の言う『面白い展開』に刹那は巻き込まれるのだろう。
それが彼の為になるならば異論は無いが、それでも彼の『面白い展開』は周りにとっては『天変地異』だ。
他の『天宮刹那』ならまだしも、この『天宮刹那』は英霊化の影響により、利己的思考が芽生えている。
幾ら彼の意思でも、少しは拒否感はあるのだ。

「ま、やる事は変わりませんがね」

自分の使命は、勝利し、聖杯を手にする事。そして願いを叶え、《白亜宮》へと帰還する。
結果は変わらない、至極単純明快な事だ。

だが、刹那は思考の海から出ようとしない。もう一つ、考えねばならない事があるのだ。

それは、彼女のマスター。──召喚者、「御華功」についてだ。
彼の名に付いては、彼女の『眼』が教えてくれた。彼に魔術の才能が無い事も、それに見合わない膨大な魔力を持つ事も。

その『魔力』だ。
その魔力の性質は、魔術を使うには余りに向いていない。
では何に使うのか。
基本的には、魔術的要素を余り必要としない肉体強化だろう。或いは魔力そのものに形を与え、それ自体を攻撃とするか。

けれど、それだけではあるまい。
彼の魔力には見覚えがあった。それこそ、刹那の知るアッシュや《主》のような、『魔法』に特化した──

「……いえ、有り得ませんね」

この世界に存在する『魔法使い』は、過去現在を含めて7人。未来にも、魔法使いが現れるなどという記録は無い。
故に、御華功という男が、『魔法使い』である筈が無いのだ。

──まあ兎にも角にも。少しは戦力になるかもしれない。

「──『皇帝特権』」

『治癒魔術を使える』という事実を自らに付与し、功の体内の魔術回路に治癒を施す。
元より刹那の持つ高い魔術スキルと相まって、その傷はすぐに癒えた。
そして──

「──さあ、起きなさい召喚者。何時まで寝惚けているのです」

ガンッ!
思いっきり蹴った。

「くぺぁっ⁉︎」

奇妙な断末魔を残して、功の体が吹っ飛んだ。
廃倉庫の片隅に乱雑に置かれていた麻袋の山に頭から突っ込み、暫くすると飛び上がるかのような速度で飛び出し、叫んだ。

「殺す気かッ!?」

「安心なさい、手加減はしました」

「そういう問題かよ⁉︎」

痛つつ……等と呟きつつ功が立ち上がると、それを見届けた刹那は直ぐに背を向けた。

「方針を変えます。オマエは普段通りに生活しなさい。マスターと遭遇した場合の交戦も許可しましょう。しかし、サーヴァントが居るならば話は別です。全力で逃げなさい、援護ぐらいはしてあげます」

「……?アーチャー?」

「気が変わっただけですよ。どうやら、思った以上にサーヴァントは化け物揃いのようです。
オマエの無駄に膨大な魔力も、使い道があるやもしれませんしね」

「じゃあ……!」

顔に笑みが浮かび、功がアーチャーに触れようとした──その、瞬間。

「──自惚れるな、人間」

「……っ⁉︎」

氷のように冷たい声が、功の体を凍り付かせる。

「オマエの力は雑魚同然だ。マスター相手でもマトモに戦えると思うな。私の援護無しに戦うなど、無謀を通り越して愚かだという事を、心に刻んでおけ、落ちこぼれ」

「──。」

「……言いたい事はそれだけですよ。精々、戦いの準備でもしておきなさい」

アーチャーは最後に一言付け加えると、霊体となって虚空に消えた。
功は、何も言えぬままその場に立ち尽くした。











────────────────────────────────────────────











「──は、はは……!ははは!アハハハハハハハッ‼︎」

女は、狂ったように笑った。

「勝った!勝ったわ!聖杯戦争?アハハッ!もう終わったも同然じゃ無い!」

眼前に跪く男──サーヴァント、ランサー。
女は自らの魔術で、その正体を一瞬にして見抜いた。
その正体は──

英雄どころでは無い。

即ち

──神霊。

決して聖杯戦争に現れるはずの無い、神の化身。
その神霊が、今自分のサーヴァントとして降臨した──

「──殺しなさい!壊しなさいッ!この世の全てをブチ壊しなさいッ!
私を見捨てたこの世界を、あなたと聖杯の力でブッ壊すの!あぁ……素敵、想像するだけで鳥肌が立ってくるわ……!」

男は

「──何をしているのランサー、さっさと立って他のマスター共を……」

立ち上がり

「──ちょっと、何やってんのよ……!」

その漆黒の槍を

「──れ、令呪を以って……!」

振り下ろした。

それだけで、令呪の刻まれた左腕を分断し、心臓を断ち、そして女は絶命した。

「──世界を滅びへと誘う者よ。物言わぬ土へと還るがいい」

パタリ、と。
女は大地に伏し、その傷口から血を溢れ返らせる。
男は冷たい目で女の骸を一瞥すると、その槍を消し、空に浮かぶ月を見上げた。

「──地上に降りるのは、何万年振りだったか」

男──その昔、主神とも呼ばれた最高神『オーディン』は、夜の暗闇に溶けて消えた。










──生存マスター、残り6人。
──生存サーヴァント、残り7体。

令呪総合数、残り17画。
功の令呪数、残り3画。
 
 

 
後書き
ランサーが死んだ!ならぬランサーのマスターが死んだ!このひとでなし!← 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧