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万華鏡の連鎖

作者:fw187
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宇宙戦艦ヤマト異伝
  後方支援

 ガミラス宇宙軍の単座戦闘機、2座爆撃機、3座雷撃機、円盤型戦闘艇は緒戦で損傷を避けた。
 敵の物量は無限、防御力強化、戦力維持を図らねばならぬ。

 ドメル将軍指揮の艦隊、冥王星前線基地の連係作戦は有効に機能した。
 高速の機動部隊は巧みに敵の砲撃を避け、反射衛星砲の射程内に誘導。
 絶妙なコンビネーションで敵艦隊を罠に嵌め、各個撃破を繰り返している。

 ドメルとシュルツは期待に応え、強大な無限艦隊を何度も敗走させた。
 冥王星前線基地に設置された反射衛星砲と宇宙艦隊は善戦健闘を重ねた。
 無限艦隊の攻勢を幾度も撃退、貴重な時間を稼ぐ間に我々も怠けていた訳ではない。
 火星及び月に対宇宙空間用の防衛陣地を急造、地球軍の戦闘衛星《デス・スター》も改造。
 新開発の内部衝撃波発生式照射物質破壊光線砲(通称ショック・カノン)を搭載。
 嘗て火星《アレス》と木星《ゼウス》の間に存在した第5惑星、《氷王星》の名残。
 小惑星帯《アステロイド・ベルト》へ配置、《太陽系絶対防衛線》を構築する。

 大気圏の存在せぬ衛星フォボス、デイモス、月に反射衛星砲を設置。
 周囲に多数の反射衛星鏡を展開、火星軌道内部を絶対防衛圏の《聖域》として火力増強を図る。
 遊星爆弾及び発射施設は敵に利用されぬ様、入念に破壊した。
 《エネミー》と通称される植物的形状のタナトス生命体に寄生され、修復再利用されては堪らぬ。
 現在の我々ガミラス星人も地球人類同様、放射能は致命的な毒となる。
 地球人類の恐怖を、身に沁みて理解した。
 鬼畜ガミラスと罵倒されても当然、已むを得ぬ仕儀であり慙愧の念に駆られる次第であるが。
 常に私の傍に控える忠実な副総統、ヒスに麻痺銃《パラライザー》を手渡した。

「宇宙戦艦ヤマトとの決戦に於いて私の誤りに気付き、諫めてくれたのは君1人だった。
 地球人類と共存の道を選択しておれば、母星ガミラスが死の星となる事も無かっただろう。
 君を副総統に選んだ私の判断は、誤っておらぬ。
 私が暴走した時には、君の判断で引き留めてくれ。
 判断が誤っていると感じた場合には迷わず、私を撃て。
 これは最優先の至上命令だ、頼んだよ」
 10数時間が経過した後、私は副総統ヒスから或る指摘を受けた。
 彼に客観的な判断を委ねた事は、正解であった。

「総統閣下!
 戦闘開始より既に、12時間が経過しております。
 将兵の疲労も蓄積しており、総統御自身も御疲れと見受けられます。
 無限艦隊との戦闘は数千数万、いや数億時間に及ぶ長時間の戦いとなるでありましょう。
 我々も24時間体制に移行し、長期戦に対応する必要があるものと思われます。
 8時間毎に3交代、或いは12時間毎に2交代し交替制で戦況に対応せねばなりません。
 取敢えず、2直交替制とする事を具申致します。
 我が軍は優勢であり、戦局急変の可能性は低いと判断されます。

 総統には是非、率先して御休息をお取り下さる様に御願い申し上げます。
 不肖ながら、私が代役を務めさせていただきます。
 先に総統閣下から休息して頂き、ドメル将軍に指揮を一任する形が得策かと愚考致します。
 冥王星前線基地司令官もシュルツ、ゲールを交代させては如何かと思われます。
 私ではなくドメルの戦況判断であれば、間違いはございますまい。
 非常事態が発生した場合には、直ちに起こさせていただきます。
 総統が率先して休息をお取りにならねば、勇戦を続ける将兵達も納得致しません。
 交代して休憩を取る事を肯んじますまい、御判断をお願い致します」

 無論、緊張した貌で一気に捲くし立てるヒスを撃つ銃は持たぬ。
 忌まわしい記憶を乗り越え諌言してくれた友へ、私は空の掌を差し出した。
「ヤマト参戦まで陣頭指揮を執る気でいたが若気の至り、盲点に足を掬われる所だったな。
 不眠不休で戦闘を継続しておれば、致命的な戦術的失敗を犯す事になっただろう。
 正論だよ、言い難い事を良く直言してくれた。
 持つべきは信頼できる友だな、御言葉に甘え先に休憩させて貰おうか。
 ドメルとシュルツにも連絡し、直ちに編制替えを行う。
 私も率先して充分な睡眠を取り休憩班に模範を示す事とする、ありがとう」
 栄光と無縁の裏方に徹する私の分身、舞台の影から私を支える誠実な支援者(サポーター)
 無比の忠義を捧げ補佐役を務める名脇役、副総統ヒスが顔を輝かせた。


 長期戦に備え交代制へ移行、複数の当直班を編成すべし。
 副総統ヒスの提案は、直ちに実施された。
 ドメル、シュルツ以下の将兵達も諸手を挙げて賛同。
 我がガミラス宇宙軍は長期戦に備え、2直体制に移行したが。
 数日に渡る防戦の末、冥王星前線基地は破壊された。
 戦闘開始後10数日を経て土星《クロノス》の衛星、タイタン基地を撤退。
 更に木星《ゼウス》表面、メタンの海に漂う浮遊大陸基地にも無限艦隊の攻勢が及んだ。
 旧第5惑星《氷王星》軌道の太陽系絶対防衛線へ向け、ガミラス宇宙軍は徐々に後退を強いられた。

 植物状タナトス生命体《エネミー》は各種機械に寄生、共生し驚異的な性能を発揮する。
 地球を放射能で汚染した遊星爆弾、超大型ミサイル等を再利用されては堪らぬ。
 汚名挽回の機会を与えてくれた女神は言うに及ばず、沖田や古代に会わせる顔が無い。
 ガミラス製の遊星爆弾が水星(テラ)を破壊、地球人類が絶滅する最悪の事態は回避。
 私は安堵に胸を撫で下ろし、末代までの恥辱を免れた事を感謝した。

 我が愛妻サイレン星人の女性メラ、愛娘ジェラも太陽系防衛戦に参加。
 増幅器の補助で数万光年の彼方に在る群衆、1人1人の思考を読み取る精神感応能力。
 宇宙戦艦ヤマト乗組員に精神接触、鮮明な幻覚を体感させた暗示能力を発揮。
 被弾損傷した艦艇に取り残された乗組員達の思考を、水星《テラ》地下都市から的確に捕捉。
 幻影結晶体《ファントム・クリスタライザー》の如く、状況に応じた適切な幻覚を送信。
 彼女達の暗示誘導に拠り、多数の宇宙戦士達が爆発する艦艇から脱出に成功。
 味方艦艇に収容され水星《テラ》へ生還を果たし、九死に一生を得る事となった。
 運び込まれる負傷兵を手厚く看護した地球人、支援者《サポーター》達の賜物である。

 献身的に働いてくれた数多の医療従事者達には、百万言を費やしても感謝の言葉が足りぬ。
 多数寄せられた身体回復祈願御守、手折りの千羽鶴、手製の戦勝祈願の品々。
 心尽くしの品々は将兵に新たな力を与え、戦意回復に貢献してくれた。
 一般家庭で心を込めて作られた、膨大な量に上る手料理の差し入れ。
 特筆すべきは日頃味わう事の無かった、家庭の味。
 戦闘配食として全ガミラス将兵に支給され、意外な効果を発揮。
 無限艦隊相手の戦闘に倦み疲れ、低下した士気を劇的に回復させた。

 徒労感から気力が衰え、戦闘意欲が喪われるタナトス生命体最大の武器。
 地球人達が『ピュロスの勝利』と呼び、アルコン艦隊も味わったであろう無限の罠。
 幾ら撃破しても敵は後から後から無限に現れ、一向に減る気配が無い。
 何の痛痒も覚えず、我々の攻撃が全くダメージを与えておらぬと錯覚させられる。
 心理吸血鬼《サイコ・ヴァンパイア》の如く気力を吸取り、無気力状態に陥れる虚無の陥穽。
 地球人一般家庭、歴史に名を残す事も無い数多の庶民達に感謝しなければならぬ。
 我がガミラス軍の精鋭達を、無限の罠から救い出してくれたのだから。
 戦力外の筈の彼等が眼に見えない戦力となり、我がガミラスの名誉を救ってくれた。
 地球人類を滅ぼさずに済んで、本当に良かった。
 私は心底から女神に感謝し心の裡で誓った、『女神よ、帰依し奉る』と。

「親愛なるガミラスの皆様へ。
 私は惑星メルの王女メローラ。
 御協力に感謝致します。
 異なる時空では皆様と同じ祖先を持つ人類の戦士達が、血の滲む様な努力を重ねています。
 諦めないで下さい、貴方達は孤立無援ではありません。
 放送を受信した方々は全て、協力を表明して下さいました。
 志を同じくする数多の友人達が、貴方達を救援する為に努力を重ねています。
 必ず救援が届きます、今こそ私達が女神を救う時です。
 私は、次元間移動中の方々を誘導する任務に戻らなければなりません。
 希望を捨てないで下さい、以上で連絡を中断致します」

 メローラ姫から贈られた超次元間の遠隔通信を受け、ガミラス将兵は希望を取り戻した。
 無尽蔵に増殖する植物状の精神寄生体、敵《エネミー》の操る大艦隊を邀撃。
 宇宙戦艦ヤマト乗組員達が戻るまで、太陽系防衛戦は継続されねばならない。
 私は、女神から学んだのだ。
 諦めない限り、道は開けると。

 だが外宇宙の彼方から押し寄せ、数多の渦状星雲を蹂躙する無限艦隊は強力であった。
 止まる事を知らぬ破砕流の強襲、怒涛の波状攻撃は幾度と無く繰り返された。
 海王星の衛星トリトン、木星メタンの海を巡る浮遊大陸の秘密基地は既に撤収。
 ガミラス星人の大半は第4惑星、火星に降りる事無く輸送船団の居住部で待機。
 地球人類の一部も乗船するが収容能力は限られ、大半は水星《テラ》に残留。
 輸送船団は後方へ退避し最内周惑星、火王星《ヴァルカン》軌道上に待機。
 已む無く放棄の事態に至り二者択一を迫られ、断腸の思いで第3惑星を優先。
 各個撃破を唱えるシュルツに新たな故郷、火星を託し艦隊は月へ後退する事となった。 
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