| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第1章:平穏にさよなら
  第4話「転機」

 
前書き
前回の回想が終わり、今回も緋雪視点から始まります。
一応前回や前々回から日にちは経っています。
 

 


       =緋雪side=





「じゃあ、お兄ちゃん、また放課後でね。」

「うん。午後もがんばりなよ。」

  昼休みが終わるので、一時的にお兄ちゃんと別れる。そして、私は教室へと戻る。

「えっと次は...国語かぁ。」

  得意でも不得意でもなく...感想に困る教科だ。...一応、前世の知識もあるからテストで高得点は余裕だけど。

   ―――ドドドドド!

「よかった!間に合った!」

  廊下から慌ただしい足音が聞こえてき、切羽詰った様子で何人かの生徒が入ってくる。

「(あぁ、いつものか。)」

  一人の男子生徒とそれを取り巻く女子生徒。

「(...転生者と、“原作”のキャラか...。)」

  男子生徒...織崎神夜(おりざきしんや)と取り巻きの女子生徒である聖祥九大美少女の内の7人の集団は、この学校で有名だ。美少女が一人の男子生徒を囲っているのもあるが、もう一人の有名人...と言うか、問題児である銀髪の男子生徒...王牙帝(おうがみかど)がよく絡んでいる集団でもあるからというのもある。

  ...私にとってはどっちもいい迷惑だけどね。

  洗脳などを無効化する特典を頼んだおかげか、洗脳などをされそうになった時、無効化するだけでなく洗脳しようとした事も分かるようになっていた。それで、織崎神夜が魅了系の特典を持っている事が分かった。...それも、本人が気づいていないタイプの。

  そのせいで取り巻きの人たちは皆魅了されてしまっている。...中にもう一人女転生者がいるけど、その子も魅了されていた。

  ちなみに王牙帝...所謂踏み台の方は、ニコポ・ナデポを頼んでいたようだけど、発動すらしていなかった。...どうでもいいか。

「(魅了...と言うか、妄信的になってる節があるのが嫌なのよね。)」

  既に好きな人がいる人には効かないみたいだけど、ほとんど見境ないのが嫌だ。第一、どこか本能的に織崎神夜が嫌だ。...なんていうか、行き過ぎた勧善懲悪?思い込みの激しい偽善者?そんな感じの類がなぜか感じ取れた。

「(...そう言えば、聖奈さんは効いてなかったっけ?)」

  お兄ちゃんのクラスメイトである聖奈司さんも、偶にあの集団に関わったりするけど、決して魅了されていなかった。それに、どこか他の人が魅了されている事に気付いている節があった。

「...まぁ、いっか。」

  別に私は無闇に介入したくない。それに、今はお兄ちゃんと二人で生きて行くのだけでも精一杯だ。

「何がいいの?」

「えっ?」

  突然、話しかけられる。振り向けば、隣の席である月村すずかが座っていた。

「あー、別になんでもないよ。月村さん。」

「そうなの?ならいいけど...。」

  普段はお淑やかな感じの月村さんだけど、織崎君(普段は一応こう呼んでいる)が中心の出来事となると途端に妄信的になる。それは他の人も同じだ。

「(...なんか、周りが洗脳された人達ばかりでストレスが溜まりそう。)」

  男子達は別にそういうのではないんだけど、同じ女子としては...ね。

「(...早く放課後にならないかなぁ...。)」

  早くお兄ちゃんと一緒に帰りたい。





     ~放課後~



「ん~!やっと終わったぁ...。」

  終わりのチャイムが鳴り、私は大きく伸びをする。

「...っとと、まだ帰りの準備終わってなかったんだった。」

  鞄に持って帰る物を詰め込み、今度こそ帰ろうとする。

「....あれ?」

  ふと、そこで隣の机...つまり月村さんの机の上に何かが置いてあるのが目に入った。

「...あ、これ宿題に必要な奴...。」

  置いてあったのは国語の教科書で、今日の宿題はこれを使わないと分からない問題だった。

「...仕方ない。まだ放課後になったばかりだし、走れば追いつけるかな。」

  この程度で見捨てるほど私は薄情じゃないし、さっさと鞄も持って駆け出す。

「あれ?緋雪、どうした?」

「ごめん!お兄ちゃん!これ、届けに行かなくちゃならないから一緒に帰れない!」

  階段で待っててくれてたお兄ちゃんに手短にそう伝え、月村さんに追いつくために走る。





「月村さん!」

  校門を抜け、しばらく走った所で月村さんに追いついた。

「えっ、志導さん!?」

「こ、これ...忘れてたよ...。」

  持ってきた教科書を手渡す。

「あっ!あ、ありがとう...。ここまで走ってきたの?」

「まぁね...。ふぅ、疲れた...。」

  特典の恩恵か、私はそれなりに体力がある。...今回はそれでも疲れたけど。

「....あれ?いつものメンツは?」

  そこで月村さんがいつものメンツ(原作キャラとか)と一緒じゃないのに気付く。

「うん。今日はアリサちゃんとヴァイオリンの稽古だから。」

「そうなんだ。」

  道理でバニングスさんと二人でいた訳だ。

「えっと...アンタは志導緋雪...でよかったわね?」

「そうだよバニングスさん。」

  バニングスさんも会話に入ってくる。

「アンタも苦労してるわよね。」

「...?何が?」

「ほら、アイツよ。王牙帝。」

「あー....。」

  確かに、私にも絡んでくるんだよねぇ...。踏み台(アイツ)

「まぁ、そこまで苦労してないかな。いざとなったらお兄ちゃんが助けてくれるし。」

「そう言えば、一つ上のお兄さんがいるんだったね。」

  月村さんには一度お兄ちゃんの事を話した事があったっけ。

「王牙君も、さすがに上級生には逆らわないだろうね。」

「そうとも限らないんだよね...。普通にお兄ちゃんに突っかかるもん。あっさり受け流されてるけど。」

  お兄ちゃんは私の事を護るためか、護身術とかを独学で鍛えてるからね。簡単に撃退しちゃうんだよね。

「あー、そう言う所羨ましいわね。」

「あれ?そっちには織崎君がいるんじゃないの?」

  バニングスさんが言った事に私はそう言う。

「うーん...神夜は頼りになるんだけど...。」

「神夜君の場合、言い合いになってなかなか解決しないの。」

  ...なるほど。お兄ちゃんの場合は転生者じゃないからほんの少し潔く引くけど、織崎君の場合は転生者って互いに分かってる分、反発が凄いのか。

「...って、私はこっちだから、また明日ね。」

「えぇ。また明日よ。」

「教科書、ありがとね。」

  そう言って私は二人とは違う道に行って別れようとする。







   ―――キキィッ!





「「「―――えっ?」」」

  私達三人の声が重なる。理由は目の前に止まった黒塗りの車だ。

「えっ、ちょっ、何するの!?」

「いやっ、離してください!」

「くっ....!」

  中から黒服の人たちが何人も出てきて、私達を車に引き込む。

「(これは...誘拐...!?)」

  ダメ...特典を使いこなせない私じゃ、こいつらは倒せない...!

「(お兄ちゃん....!)」

  そうして、私達はなんの抵抗も出来ずに連れ去られていった。







       =優輝side=





「...どうしたの志導君?」

「えっ、あ、いや...。」

  緋雪が急いで走っていったのを見送っていると、聖奈さんに話しかけられた。

「なんか、妹が急いで何かを届けに行ってさ...。」

「そうなの?」

「多分、誰かの忘れ物を届けに行ったんだろうな。」

  ...まぁ、緋雪が言ったのならしょうがない。今日は一人で帰るか。

「じゃあね、聖奈さん。」

「あ、せっかくだから途中まで一緒に帰ろうよ。」

「えっ?」

  いきなりそう言われるとさすがに驚く。

「別にいいけど...。」

  なんでいきなりそんな事を?

  ...今更だけど、彼女は転生者(・・・)だ。それも、前世は男だったという所謂TS転生者。偶に原作キャラに関わっているのを見て怪しいなと思ってステータスを視てみたら、ビンゴだった。

  ...詳しくはプライバシーとかで視ようと思わなかったから簡略化したけど、こんな感じだった。

     聖奈司(せいなつかさ)
   種族:人間 性別:女性 年齢:10歳
   称号:TS転生者▼、聖女▼、天巫女(あまみこ)

  少し気になる称号があったけど、まぁ、これでTS転生者だって分かった。

「どうして僕と一緒に?」

「うーん...特に理由はないけど、偶々ここで出会ったから?」

  なるほど。飽くまで偶然か。まぁ、聖奈さんは分け隔てなく優しいからな。

「それに私、あまり同級生で普通に喋ってくれる子いないし...。他の学年はもってのほかだし...。」

「あー...。それで僕...か。」

  僕だけだもんな。普通に会話するのは。

「志導君以外は皆戸惑ったりしてね....。理由は分かってるんだけどそれはそれで寂しいから。」

「別にハブられてる訳じゃないから余計に辛いだろうな。それ。」

  そんな事を話しながら校門辺りまで来る。





   ―――ピキーン!





「―――っ!?」

「どうしたの?」

  ...虫の知らせ(シックスセンス)が発動した...。

「(...これは...緋雪!?)」

  緋雪が嫌な予感の中心点だった。

「(一体なにが...。とにかく、緋雪の所へ!)」

「あ、ちょっと志導君!?」

  聖奈さんを置いて走り出す。いつもはセーブしてる身体能力もフル活用して、だ。

「(...もう、家族を失いたくはないんだ...!)」

  例えそれが転生者でも、僕の大切な家族に変わりはない。だから、僕はとにかく急いだ。

「....まったく...。私も追いかけよう。」

  後ろから聖奈さんも追ってきたけど、別に気にはしない。







「はぁ...はぁ...ここか...!」

  虫の知らせ(シックスセンス)の勘を頼りに辿り着いた先は、海沿いの倉庫の一つだった。

「ありがちな...。とにかく、行くか。」

  辿り着いた場所や、その近くに停めてある黒塗りの車から、誘拐だと分かったので、気づかれないように倉庫へと近づいていく。

「...?妙だな。見張りがいない...。」

  普通なら何人かはいるはずの見張りがいなかったのが、遠くからでも分かった。

「...怪しい...。」

  そう思いつつも、倉庫へと近づく。...すると。



   ―――ギャァアアア!!?



「―――っ!?」

  倉庫の方から、大きな叫び声が聞こえてきた。

「何が....!?」



   ―――アハハハハハハハハハハハハ!!



「緋雪.....!?」

  今度聞こえてきたのは大きな嗤い声。それも、緋雪の。

「一体何が....!?とにかく、急がなければ!」

  もう気づかれるとか関係なく全速力で倉庫へと走る。そして、辿り着き、中を覗くと...。

「ひっ!?こ、こっちへ来るな!」

アハハ(あはは)ソンナンジャ(そんなんじゃ)アタラナイヨ(当たらないよ)!」

「ひぃいいいいっ!!?」

  銃を乱射している男と、その弾を爪で弾く、赤い瞳(・・・)を輝かせ、七色の宝石のような物をぶら下げた羽のようなものを生やした緋雪がいた。

  ...それも、“狂ったように嗤い声を上げて”。

「っ.....!」

  辺りには、男と同じような格好をした男性が何人も倒れており、奥には緋雪のクラスメートの月村すずかとアリサ・バニングスが怯えていた。

「志導君!」

「っ!聖奈さんか...。」

  追いついて来た聖奈さんに声を掛けられ、少し驚いてしまう。

「誘拐だって分かって知り合いの凄腕の人たちを呼んだんだけど...これは?」

  “凄腕の人たち”...あぁ、高町なのはの父と兄か。

「分からない...。来た時にはああなってた。」

  すると、男が吹き飛ばされ気絶し、そこへトドメを刺しに行くように緋雪が...。

「やばっ...!」

「ちょ、志導君!?」

  人殺しをしそうになったので、つい飛び出してしまう。

「緋雪っ!」

「...アレ(あれ)オニイチャン(お兄ちゃん)?」

  名前を呼ぶと、こっちに反応する。

「っ...!」

  赤い瞳がこちらを向いた瞬間、僕は怯んでしまう。...あれは、やばい...!

「...今、何をしようとした。」

ナニッテ(何って)コロソウトシタダケダヨ(殺そうとしただけだよ)?」

  当たり前のように言ってのける緋雪。

「緋雪、それの意味が、分かってるのか...!?」

アタリマエダヨ(当たり前だよ)デモ(でも)コイツラハワタシタチヲコロソウトシタンダヨ(こいつらは私達を殺そうとしたんだよ)ダカラ(だから)ソノオカエシ(そのお返し)♪」

  ...やばい、これは正気じゃない...!

「志導君!危険だよ!」

「分かってる!...だけど、あの緋雪は....。」

  正気じゃない。...だけど、あれは僕が何とかしなくてはいけない。...そんな気がする...。

「...緋雪、今のお前は正気じゃない。だから、無理矢理にでも止める!」

  僕が止めなければ、取り返しがつかない事になる。...そんな予感がする...。

ジャマスルノ(邪魔するの)ナラ(なら)イクラオニイチャンデモヨウシャシナイ(いくらお兄ちゃんでも容赦しない)!」

  そう言って緋雪は僕の方へ飛びかかってきた。

「っ、シュライン・メイデン(shrine maiden)!」

〈分かってます!〉

  咄嗟に聖奈さんが前に出て、水色の宝玉が中心に埋め込まれた白い十字架を掲げる。

  すると、澄んだ女性の声が聞こえ、白色の魔法陣に緋雪が阻まれる。

「ッ....!ジャマ(邪魔)!」

「くっ...なんて力...!」

  緋雪はその魔法陣を邪魔だと思い殴るが、聖奈さんは必死にそれを保つ事で防ぎ続ける。

「下がって!志導君!」

「......。」

  聖奈さんの言葉に耳を傾けずに、僕は緋雪の動きを視る(・・)

     志導緋雪 Level4
   状態:狂気▼、暴走▼、吸血鬼化▼

  ...ステータスの一部が表示される。だけど、今は少し目を通すだけで無視する。

  今は緋雪の攻撃の速度・威力・癖を見切る...!

イイカゲン(いい加減)...コワレロ(壊れろ)!」

「(っ、ここだ!)」

  動きを見切り、咄嗟に緋雪の前に出る。

「えっ!?」

「せいっ!」

  振り抜かれる腕を受け流すように掴み、思いっきりその勢い事背負い投げで叩き付ける。

「アグッ!?」

  合気道の要領で叩き付けたから、結構なダメージが入ったはずだ。

「緋雪!しっかりしろ!お前は、こんな事はしないはずだ!」

()ナニヲ(何を)....!」

  力を入れにくいように腕を押さえつけ、そう訴える。

「頼むから...正気に戻ってくれ...!」

  今まで見たこともない緋雪の豹変ぶりに、僕は涙を流しながら必死に懇願した。

オニイ(お兄)...チャン(ちゃん)....?」

  その言葉が通じたのか、緋雪のハイライトのなかった赤い瞳に段々と光が灯る。

「ア...ワ...私....。」

「....!良かった....!」

「...お兄ちゃん....?」

  赤くなった瞳と生えた羽はそのままだけど、正気に戻った事に僕は安堵する。

「あ...私....。」

  今までやってた事を思いだしたのか、瞳が揺れ、怯えの色を見せる。

「....大丈夫。もう終わったから...。」

「お兄ちゃん....。」

  それを抱きしめる事で安心させる。

「...まったく、ヒヤヒヤしたよ。まさか、いきなり前に出るなんて...。」

「あはは...ごめんね。聖奈さん。僕の事助けようとしてくれたのに。」

  さっきの魔法陣とかについては今は聞かない。おそらく、普通に魔法なんだろうし、今は緋雪が元に戻っただけでも良しとしよう。

「っ....。」

「...?緋雪?どうした?」

  抱きしめてるから横顔しか見えないけど、どこか様子が変だった。

「っ....、お兄ちゃん...離れて...。」

「え?どうしt「お願い!」わ、分かったよ...。っ...!?」

  そうして僕が緋雪を離すのと、緋雪が僕を突き飛ばそうとするのは同時だった。

「ぁ....ああ....!」

「緋雪....?」

  突き飛ばされた体を起こし、緋雪を見ると、緋雪は喉を抑えるようにしながら苦しんでいた。

「喉が...喉が渇くの...!」

「喉...?何か飲み物でも....。」

   ―――...いや、分かってる。ただの喉の渇きじゃないって事くらい。

「お兄ちゃんを見てると...喉が...。」

「緋雪....。」

   ―――...でも、信じたくないんだ。

「渇く....欲しい.....。」

「もしかして緋雪、その姿は....その衝動は...。」

   ―――...例え、ステータスを視た時から想像できた事だとしても。



「血が....欲しい...!」



   ―――...緋雪が、血を吸いたくなる衝動に負けてしまうなんて。



「吸血衝動....!」

  僕を見つめる緋雪の瞳は、爛々と赤く輝いていた。

「っ....!」

  思わずステータスを視る。

     志導緋雪 Level4
   状態:吸血衝動▼、暴走▼、吸血鬼化▼

「やっぱり...!」

  思った通りの状態に、思わず歯噛みする。

「志導君!今度こそ下がってて!」

  聖奈さんが前に出て、さっきの十字架を掲げる。

  今度は聖奈さんが光に包まれる。

  光が晴れると、聖奈さんは黒いリボンが付いた大きなボタンのようなものが付いたリボンのように伸びる青い縁の大きな白い帽子を被り、左側頭部に天使の羽の髪飾りを付け、裾と縁のラインが赤色になっている黒い上着を着て、チェック柄の灰色の膝上までのスカートと縁がリボンになっている白いソックス、黒い靴を履き、縁のラインが青色の白いマントを胸元の赤いリボンで止める形で羽織った姿になっていた。

「シュライン!彼女を無力化するよ!」

〈了解です!〉

  またもや女性の声が聞こえ、気が付くと聖奈さんは十字架を模した青いラインの入った白い槍を持っていた。

「っ...ぁ....シャルラッハロート(Scharlachrot)....!」

〈はい。〉

  それに対して緋雪は、蝙蝠の羽が張り付けられた赤い十字架のアクセサリーを掲げる。

  聖奈さんの時と同じように女性の声が聞こえ、緋雪の場合は赤い光に包まれる。

  光が晴れると、緋雪は白いカチューシャと胸元に赤いリボンを付け、所々を赤いラインやリボンで意匠を凝らした、白いフリル付きの黒いドレスを着た姿になっていた。

「嘘...デバイスをいつの間に...!?」

  すぐさま歪んだ時計の長針・短針を繋げたような杖を持ち、そこから赤い魔力の大剣を形成する緋雪。

「...とにかく、無力化を...!」

  デバイスを取り出した事に動揺するも、すぐに向き直る聖奈さん。

「お願い....逃げて....!」

「緋雪....。」

  正気を失いそうな目で僕に懇願してくる緋雪。

「...志導君、アリサちゃんとすずかちゃんを連れて逃げて...!」

「聖奈さん....。」

  聖奈さんも緋雪と同じように僕にそう言う。この戦いに巻き込みたくないのだろう。

「私だって、彼女を相手にいつまで持つか分からないの...。」

「えっ....?」

  弱音のように呟かれた聖奈さんの言葉に、月村さんが反応する。

「今の緋雪ちゃんは、本能に振り回されて暴走しているんだろうけど...。...なんでかな、今の緋雪ちゃんを見てると、冷や汗が止まらないの....!」

  ...多分、緋雪が自分よりも圧倒的な強さを秘めていると、聖奈さんは感じ取ったのだろう。

  ...そうなると、ますます僕はこの場から退いた方がいい。だけど...。

「緋雪を置いてなんて....。」

「気持ちは分かるけど逃げて!」

「っ....!」

  分かってる。確かに分かってるんだ。...だけど、大切で、もう失いたくない家族が、目の前で苦しんでるんだ。僕だって人間だ。理に適った行動を取ろうとしたくない時だってある。

「...ぁ....逃がサなイ...!」

〈封鎖領域、展開します。〉

「しまっ....!?」

  もたついている間に、緋雪が何かを行い、この場にいる僕らが結界に閉じ込められた。

  ...それはいい。まだ、それは戸惑いこそすれど、慌てるような事じゃない。

  ...それよりも、僕は緋雪の...また、正気じゃなくなってしまいそうな顔を見てしまった。

「....三人共!できるだけここから離れて!」

「「は、はいっ!」」

  結界に閉じ込められても、できるだけ避難させようと指示を出す聖奈さん。その言葉に、月村さんとバニングスさんは従うけど、僕は動かない。

「志導君!何やってるの!?」

「...っ、分かった。」

  緋雪の瞳を見て、僕は逃げたくなかった。でも、聖奈さんの言うとおり、足手纏いな僕は避難するべきだと思い、できるだけ距離を取る。

「血ヲ....寄こセ....!」

「来るっ....!」











   ―――そして、望まれない戦いが始まった。









 
 

 
後書き
聖奈さんのバリアジャケット姿はリトバスのクドリャフカを想像してください。

 シュライン・メイデン(shrine maiden)―――聖奈司の、持つインテリジェントデバイス。愛称はシュライン。名前の由来は巫女の英語訳です。ちなみに、元々“祈り”の英訳を名前に混ぜようとしたんですが、英訳がプレイヤー(Prayer)という名前に不似合だったのでやめました。ちなみにAIの性格は清楚な女性をイメージしてます。(cv川澄綾子)

 シャルラッハロート(Scharlachrot)―――緋雪の扱うアームドデバイス。愛称はシャル。由来は緋色のドイツ語です。AIの性格は東方の十六夜咲夜をイメージ。(cv田中理恵)

前回から長めの話になっていますけど、そろそろ少し短くしたいです。
感想、お待ちしてます。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧