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迷子の果てに何を見る

作者:ユキアン
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第五十五話

 
前書き
これで私を縛るものが減った。
私は何処へでも羽ばたける。
byアリス 

 
修学旅行 四日目 その2


side ネギ


「学園長、こちらが関西呪術協会からの返答の手紙です」

「うむ、ご苦労じゃったのう」

ちょっと失敗もあったけど、これで東と西が仲良く出来るんですね。

「なっ!?なんじゃと」

えっ、何かあったの?

「これは一体」

「どうしたんですか学園長」

「何でも無い。今日は疲れておるじゃろう、下がってよろしい」

「ですが」

「いいから下がりなさい」

「……はい、失礼します」

部屋から出る際に学園長の顔を見ると頭を抱えていた。その様子から返答の内容は拒否だったと分かる。どうして仲良くする事が出来ないの?それとも誰かが邪魔を、まさかアリスさんやテンリュウ先生の息子さんが。そうだ、きっとそうに違いない。早速今からアリスさん達の所に行きましょう。こんなの絶対間違っている。折角西と東が仲良くなれるチャンスだったのにそれを邪魔するなんて。よし、こうなったら僕があの二人を更生させてみせる。僕は教師なんだから、生徒が悪い事をしたのならそれを怒ってちゃんとする様に言うのが当たり前なんだ。

「ちょうど果たし状もあるし、行こう」



side out




side 零樹


あれとの縁を切りたいと決意してからアリスさんは感情が不安定だ。今なら簡単に挑発にも乗るだろうし歯止めが利かない可能性も高い。姉さん達もたぶん分かっているはず。放っておくと必ず何処かで壊れるのを。まあ、素のアリスさんを見れる様になったのでそれ位の苦労は甘んじて受けますけどね。

「アリス」

「……理解はしているんです。それでも、どうしてもあれの自分勝手さが、私を勝手に殺して暇つぶしに転生させた神とダブっちゃたんです。私が精霊魔法を使えないのも私が文句を言ったのが気に入らないというだけの理由でした」

「理解しているならそれで構いませんよ。少しずつ慣れていけば良いだけですから。あと1ヶ月もすればあれは本国で収監される予定ですし、僕も出来るだけ傍に居ますし、姉さん達も抑えにまわってくれます。問題はほとんどありません」

完全に無いとは言い切れない。不確定要素はいくらでもあるからな。そしてその中でも一番の地雷は

「見つけました」

……お前は旧日本軍の神風特攻隊なのか。しかも相手はイージス艦に対してライト兄弟が作った様な飛行機で自爆特攻なんてただの自殺だぞ。

「……何か用でもあるんですか」

今にもアリスがキレそうだ。それでも少しでも慣れようと我慢しているのがすぐに分かる。ここが生死の境だ。もし間違ったことを言えば直ぐさま処刑が始まる。いつでもアリスを抑えられる様に構える。

「修学旅行の時の貴方達の行動は間違っている。だからそれを正すのは教師としての僕の責任です。だからこれを持って来ました」

そしてスーツの内ポケットから果たし状を取り出した。

「……私はお前を教師として認めていない。更に言えばあの場での行動は生徒ではなく魔法に関わる者の立場で動いていた事だ。よってそんな責任は一切無いと思え」

おおぅ、アリスの口調が全然違う。

「そして」

投影で特製魔導銃を取り出し突きつける。

「決闘を申し込むというのなら命の覚悟をしなさい」

「なっ!?なんでそうなるんですか」

「決闘とは本来絶対に譲れないものを賭けて争う事よ。ルールは正々堂々と相手が負けを認めるか死ぬかでしか決着はつかない。それをお前が仕掛けて来た。そして私はそれに答えるだけ。零樹、介添えを頼みます」

アリスは退く気は全くないようだ。仕方ない。誰にも邪魔をされない様に一番強固な結界を一帯に張る。

「コインが合図だ。落ちた瞬間に開始だ。準備は良いな」

「いつでも」

「ちょ「では開始」

あれが何か言いたそうだったが無視してセルメダルを上空に弾く。
同時にあれが動き出した。良い様に解釈すると位置取り、悪い用に解釈すれば逃げ出したのだろう。おそらく後者が濃厚だ。アーウェルンクスシリーズを破壊したのを目の前で見ているから殺されるとでも思っているのだろう。最初の脅しも効いているのかもしれない。媒体である杖を背中に担いだままで構えもせずに逃げるのはどうかと思う。それに対してアリスは銃の照準をずっと合わせ続けている。銃口から足を狙っているようだ。そしてメダルが落ちると同時に発砲する。弾丸は狙いを外さずあれの足に命中し転倒する。魔力弾頭なので出血はしない。が、衝撃で骨が折れる音が聞こえた。

「うわあああああああああ、足が」

何も言わずにアリスは更にもう片方の足を打ち抜く。そのままあれに近づき蹴りとばすと次に杖を奪いさる。

「か、返して下さい。それは父さんの杖なんです」

自分の怪我を忘れたかの様にあれが暴れている。やはりこいつは幻想しか求めないというのか。

「これが私達のお父さんの杖だと、本当に思っているのですか」

本物は今は正式にナギさんの元に返ってますからね。パッと見では分かり難いですけどアレが偽物だという事はすぐに分かります。

「私達の?何を言ってるんですか」

「こちらで再会してからずっと失望してましたがそれすらも通り過ぎてしまいますね」

年齢詐称薬を取り出し半分に割り飲み込む。詐称薬は1粒で10歳前後の幻術が発生する。今の肉体は15歳前後ですからこれで

「この姿ではお久しぶりという所でしょうか兄さん」

初めて会った頃の、10歳前後のアリスが姿を現す。

「アリス、なの?」

「ええ、魔法が使えないからと正当な評価をされなかった貴方の妹ですよ。最も今の私はあなたと違い魔法世界の重鎮から大変評価されていますがね。既に卒業試験も合格していますし、『立派な魔法使い』にも任命されましたよ。辞退しましたけど」

「そんな、魔法も使えないアリスがなんで」

「それは以前までの話しです。既に私は魔法世界でも最強の一角ですから。そもそもこの学園最強と言われているのはあのぬらりひょん、学園長ですが実際の所はかなり弱いです。それこそ私の足下にすら届きません。無論貴方はその学園長の足下にすら届きませんが」

「嘘だ、今だって武器、に……なんなの、それ」

「ああ、やっと気付きましたか。この銃は私の魔力を編んで生み出している銃です。発想の違いですね。魔法が使えないのなら魔法を使える様になるものを使えば良いという考えの元に教わった魔術ですから。天才だとまわりにもてはやされて来た貴方にならこれがどれだけ凄い魔法か分かるはずです。最もこの技術もアリアドネーなら普通の、とまでは言いませんが少し専門に教われば簡単に使えるものです。それをこの学園に来て、正確には師匠達に会ってから気付かされました。私が見ていない世界があるという事を。それから貴方が遊んでいる間に私は色々と身に付けましたよ。色々な人たちに認められるだけの力を、村の人たちの石化を解く方法を、お父さん達の行方もですね」

「父さんの!?どこなの。父さんは何処に」

父さん、か。父さん達ではなく父さん。何故そこで母親も求めない。英雄だと言われている父親しか見ないんだ。歪んでいる。こいつは根元が歪んでいる。前提条件から間違っていたんだ。歪んだ目的を持っているんじゃなくて、歪んでいるから歪んでいるものが正しく見えてしまう。歪んでいるからこそ周りを正確に捉える事が出来ない。理由までは分からないがこいつはこれで普通なのだと勘違いしてしまっているのか。

「誰が貴方に教えるものですか」

「なんで、どうしてだよ」

「貴方はもっと社会を知るべきですね。何の対価も払わずに何かを得れると思わないで下さい。私はこの情報の為に色々なものを無くしました」

主にプライドとかですね。ナギさん達に甘えている所を見事に撮影されてましたからね。

「さて、貴方は私から情報を得る為にどんな対価を払ってくれるのですか」

「そんなことどうでも良い。教えろ」

「…………巫山戯るのもいい加減にしろ。自分の立場も状況も分かっていない屑が」

今までの遊びの殺気から本当の殺気に切り替わる。そしてアリスの魔導銃から実弾が撃ち出される。足を撃ち抜き、腕を撃ち抜き、腹を撃ち抜き、そして額に銃口を押し当てる。

「正直に言いましょう。私はお前の事が大っきらいです。殺したい位に。それでもお父さん達が悲しむだろうと思って、今まで少しでも成長してもらおうと色々と裏で手を回したりもしてあげていましたがそれもこれまでです。お前との縁をここで断ち切らせてもらいます。聞こえているか分かりませんけど」

既に腕を撃ち抜かれた時点で気を失っているあれに対して引き金を引く。


カチッ


「それがアリスの答えですか」

「殺す価値もなくなりました」

僕の方を見る事も無く、あれの顔を見続けている。

「ここまで歪んでいるとは思っても見ませんでした。それなりに近い場所にいたのに今日になって初めてこれの歪さが理解できました」

「僕も理解できましたよ……大丈夫ですか」

「何がですか」

「これの、兄の実態を知って後悔はありませんか」

「私は、私は自分が進むべき道を決めました。だから後悔はありません」

「そっか、学校の方はどうするの」

「残念ですけど辞めるしかないですね。さすがにここまでしてこれと一緒にいれる位に図太くはありませんから。それに学園側もうるさいでしょうからしばらくは何処かに身を隠そうかと思います」

「なら、荷物をまとめに行きましょうか」

「えっ?」

そういう反応をするという事は一人で行く気だったみたいですね。

「僕は言いましたよね。アリスに一番傍に居て欲しいと。一緒に行くに決まってるじゃないですか」

「零樹、ありがとうございます」

「というわけで姉さん、後はよろしくお願いします」

「事情の説明と結界を解いてからにしなさい」

逃げようとしたが普通に追い付かれて捕まる。

「事情は見れば分かる通りとしか、とりあえずは生きてます。傷もいたって普通の物のみで、2、3日後だと思ってたのが今日になっただけです。今回の事は全部僕らに押し付けてもらえば良いです。たぶん今回の事で賞金を賭けられてもおかしくないのでちょっと海外に逃げようかと。場合によっては魔法世界まで。麻帆良祭には帰って来ます」

「なるほど、大体の事は理解したわ。貸し1よ」

「わか「家族全員に」えぇ~」

「それだけの事をしてるのよ。理解してるでしょ」

「ふぅ~、分かりました。何時か必ず返します」

「分かればよろしい。時間を稼ぐ為に結界の構成だけ教えなさい。チマチマと解呪していくからその間に逃げなさい。余裕ができたら連絡も寄越しなさいよ」

「ありがとう、姉さん」

今度こそ念のための脱出用の転移魔法を使い二人で店まで戻る。とりあえず専用のダイオラマ魔法球と修学旅行に持って行っていたカバンを担ぐ。アリスも似た様な格好をする。

「とりあえずどこに行きます?」

「そうですね。どうせなら旅行だと割り切って世界中を駆け巡ってみません?」

「それは面白そうですね。なんなら世界遺産を全部回ってみますか」

「良いですね。とりあえず日本にある11カ所を回ってから中国に渡る感じでしょうか」

「それで良いと思いますよ。じゃあ、行きますか」

結界が完全に壊れたのを感じたので素早く麻帆良から普通に電車で脱出する。何故かって?魔力の痕跡をたどられたりしたら面倒だからに決まっている。お金はそこそこあるから大丈夫。3000万$もあれば余裕だろう。さ〜て、婚前旅行と行きますか。


side out
 
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