IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
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第24話 「ドイツの冷氷」
前書き
アメリカへの長期留学中のGASHIです。日本を離れてからむしろ執筆意欲が増したのは、大量の課題を目の前にした現実逃避か・・・。考えないでいきましょうか。
夢を見ていた。
とある国のとある都市に俺はいた。周囲には硝煙の臭いが漂い鼻腔を擽る。建物だったらしい瓦礫が散乱し土煙が煩わしいその地には大勢の人間が横たわっている。
ある者は気を失って地に伏し、ある者は気力を削がれて空から目を逸らすように項垂れていた。しかしたった一人、上空に佇む黒い機影を睨み付け、憎しみと怒りを真っ直ぐにぶつける者がいた。
地に立つ者は復讐を誓った。声を荒らげ、空に立つ敵に牙を剥く。そして・・・。
「・・・懐かしいな。」
小綺麗な天井が見える。夢は覚めてしまったようだ。俺はゆっくり起き上がると、ただボーッと考える。
「面白い・・・。」
忘れかけていた遠い記憶を夢見た意味、寝起きの頭には難しい問題だ。ただきっと面白いことが起こると、そんな小さな予感がするのだった。
「えっと、今日も皆さんに転校生を紹介します・・・。」
山田先生の一言にクラスがざわつく。また転校生かよ。この学園、毎年こんなに転校生多いのか?普通に入学しろよ、普通に・・・。
2日連続の転校生というイベントに騒がしくなる生徒たちだったが、当の転校生が入ってくるとたちまち静まり返った。銀髪に眼帯をした小柄な少女はシャルルとは明らかに違う雰囲気を漂わせていた。冷たいその視線がクラスの空気を凍てつかせる。
「・・・挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ。」
「はい、教官。」
千冬さんの言葉に反応する転校生。教官ね・・・。確か、千冬さんは学園に赴任する前に1年間ほどドイツで軍隊教官やってたって束さんが言ってたな。ってことはドイツの軍人?・・・なんか見覚えがあるような気がするんだけど・・・?
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ。」
「了解しました。」
長い銀髪・・・、眼帯・・・、華奢な体躯・・・、熱のない目・・・、氷のように凍てついた雰囲気・・・。欠けた記憶の中を手探る。そして思い出した、とある殺伐とした記憶。今朝の夢だ。
(そうだ。あの少女だ。確か名前は・・・)
彼女は確かに名乗った。その冷たい視線に珍しく熱を込めて。聞いたその名は、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
(ラウラ・ボーデヴィッヒだ。)
俺の思考が彼女の自己紹介と重なった。俺の予測は確信に変わった。満足して様子を観察する。ボーデヴィッヒは品定めするかのように視線を巡らせた後、その視線を一点に定めた。その眼光の先は織斑 一夏その人である。ワンパターン過ぎて欠伸が出るほどベタな展開だ。
「貴様が・・・。」
そう呟くとボーデヴィッヒはゆっくりと一夏に近づいていく。一見、自己紹介の時と何ら変わらない様子に見えるが、俺には確かに見えた。静かな、それでいて明確な冷たい憤怒と憎悪の念が。燃えて然るべき感情まで冷めきっているとはなかなか凄まじい。そして、それを悟ってしまった以上、俺は動かなければならない。
「初対面で随分物騒な挨拶をするんだな。」
「・・・邪魔をするな。」
彼女が一夏の横っ面にビンタをお見舞いするより一瞬早く俺は自席を離れてその腕を掴む。しかし、それでも彼女は懲りないらしい。すかさずもう一方の腕を振り上げ、一夏の頬を張ろうとする。
「いい加減にしろ。」
しかし、彼女の張り手は一夏の頬に届く寸前に止まる。俺が一瞬彼女に殺意を向け、さらに顔面に向けてグーパンチを放ったからである。といっても、彼女が動きを止めたと同時に俺も寸止めに抑えたが。
「・・・有象無象風情が。」
「良い日本語知ってるじゃないか。」
予想外の殺意に一瞬驚いたようだが、すぐに平静を取り戻し俺と向き合う。一触即発の局面、正直割と楽しい。どちらが先に動くか、まだ両者がそれすらも考えつく前にうちの鬼教師が動いた。
「貴様ら、私の時間を無駄に奪うつもりか?たいした度胸じゃないか。」
「・・・はっ。失礼しました。」
流石にボーデヴィッヒも敬愛する元教官から睨まれては敵わない。ビシッと姿勢を正すと自分の席に去っていく。周りの生徒が尋常じゃなく気まずそうだ。
「せっかく楽しくなりそうだったのにー。」
「不満か?そんなに刺激が欲しいなら特別に課題でも出してやろうか?うん?」
「・・・謹んでお断りします。」
スゴスゴと自分の席に戻る。さてさて、ドイツからの転校生はどれほど俺を楽しませてくれるだろうか。ちょっと面白くなってきたなぁ。
後書き
ちょっと短めですね。まあ、朝礼なんてこんなものさ・・・。
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