戦国異伝
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第二百二十二話 耳川の戦いその十七
「わしもな」
「では」
「命を賭けて戦いましょう」
「まつろわぬ者として」
「この城で」
「そうしようぞ」
一応だ、松永はこう言った。
だが彼等との話を終えてだ、すぐにだった。
松永は彼等の前から姿を消してだ、城の中の茶室に自身の側近達だけを集めてそうして自ら茶を淹れてだった。
その時にだ、こう言った。
「ここで使っている茶器じゃが」
「どの茶器もですな」
「素晴らしいですな」
「殿が集められた茶器は」
「どれもが」
「うむ、しかしこの殆どをじゃ」
ここでだ、松永はこう言った。
「考えたのじゃが羽柴殿にな」
「といいますとあの、ですか」
「羽柴秀吉にですか」
「猿顔のあの小男に」
「うむ、渡そう」
こう言うのだった。
「そこから信長公に渡ってもよい」
「折角集められたのですが」
「それでもですか」
「その茶器をですか」
「全て」
「いや、全てではない」
そこは違うというのだ。
「わしはな」
「と、いいますと」
「これはな」
ここでだ、松永は。
その彼の茶器の中でもとりわけ彼が大事にしている平蜘蛛を見てだ。そうしつつ家臣達にこう言ったのだった。
「わしの傍に置く」
「平蜘蛛は、ですか」
「置かれるのですか」
「殿のお傍に」
「そうされますか」
「うむ、置く」
こう言うのだった。
「これだけはな」
「それ程大事だからこそ」
「それで、ですか」
「その茶器を置かれ」
「戦に挑まれますか」
「そうしよう、それでじゃが」
平蜘蛛からだ、松永は話を移した。今度の話はというと。
「わしがこの城で戦っている間にじゃな」
「はい、御前も他の家の方々もです」
「兵を挙げられて、です」
「織田信長を後ろから攻めます」
「そうします」
「特に都では」
心の臓と言っていいここでは、というのだ。
「高田殿がです」
「あの方がじゃな」
「はい、兵を挙げられ朝廷も抑え」
「そしてじゃ」
「都を完全に手に入れられます」
「左様か」
松永はそのことも聞いて頷いた。
「わかった」
「まさにです」
「ここで我等がどう粘るかです」
「それが我等の戦を左右します」
「そのこと自体が」
「そうじゃな、まあこれだけの兵がおればな」
松永は今城の中にいる兵の数からも言った。
「かなり戦えるな」
「鉄砲もあります」
「兵糧もかなりあります」
「塩も充分に」
「水までもが」
そうした籠城に必要なものが充分あるというのだ。
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