DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Chapter1「暮海探偵事務所へ、ようこそ」
Story4:二人の美しい女性(ひと)
前書き
昨日ライダーの方上げたのに、半日程で書き上げてしまった。
なんだこのペース……しかもこれで一万文字越えとか……
なんかちょっと怖くなってきた。
―――ここは、どこだ?
うっすらと、しかしはっきりと意識が戻っていくのが分かる。なんだか、頬に当たる地面がやたらゴツゴツしている。
俺はさっきまで何をしていた? たしかEDENに行って、デジモンに出会って、デジモンではない化け物(ナニカ)に襲われて、それで……
そこまで思い返して、両手でバッと体を持ち上げる。足は膝立ちと同じようにし、丁度ネット用語の『OTL』に見える格好だ。
なんだか朝眠い状態にいきなり強い刺激を与えられた時のように、目を瞬かせて状況を確認する。
今目の前にあるのは、公道でよく見る黒いアスファルト。道理で地面がゴツゴツしている訳だ。てっきりフローリングに寝てるもんだと―――
そこでようやく、俺の耳に周りの様々な音が聞こえているのに気付いた。車の走行音にクラクション、視覚障碍者が信号を渡る時になる音、そして―――ざわざわと騒ぎ立てる、人々の声。
「…ねぇ、ちょっと……あれ、やばくない?」
「あぁ、何なんだ、あれ…?」
「気色悪ぃ…!」
どこかで事故か事件でもあったのか。そう思ったが、何やら違うようだ。なんとなくだが、視線が俺に向かっているように感じる。
取りあえず体を起こして、辺りを見渡す。やはり、周りの人達は俺を凝視している。何故かスマホを取り出して、写真を撮っている人もいる。しかも俺に向けて。
なんだ、何故俺を見て騒いでいる。そう思った矢先だった。
首を曲げ違う場所を見ようとして―――ふと視線が下に下がった。
青い、手のような何かが、そこにはあった。
摩訶不思議な物を見て、ギョッと驚く。だがそれに連動するように、青い手もビクリと動いた。
まさか、と思い遅る遅る自分の手を裏返して、手の平が上になるように動かすよう意識してみる。―――すると、やはり動いた。俺が意識した通りに。
(これは……俺の、身体なのか…!?)
そう思った俺は、すぐに視線を移して身体中を見る。
青い、塊がそこにあった。
思わず両手で、顔に触れてみる。まさか全身、こんな青い身体なのか? 顔も、髪も…全て!?
だから皆、俺を見て気味悪そうな表情をしているのか? いったい、なんなんだこれは!?
「コラァ!? 天下の公道のど真ん中でナニ騒いでんだぁ? まとめて逮捕すんぞ、あぁ!?」
「あぁっ、婦警さん! こっちに…!」
え、婦警さん? 今のガラの悪そうな喋り方してたのが!?
という感想を心の中で述べ、思わずその婦警がいるらしい場所を見る。何やら人ごみを分けて出てきたその人は、金髪―――というより茶髪の女性だった。
しかし、あの服装は婦警というより―――
「誰が婦警さんだ、誰が! 刑事さんだ、刑事さん! 見た目だけで物事判断してんじゃねぇ、逮捕すんぞ?」
そうだよな、やっぱ刑事さん―――刑事!? あの見るからにガラの悪そうな人が!?
って、そうじゃないそうじゃない。警察が来たんだ、事情を説明して保護してもらった方がいいかもしれない。
「あ、あの……」
「―――ん? あ? あぁ!? な、なんだありゃ!? どーなってんだ!? うへぇ、キモッ!? キモイから逮捕、ソッコー逮捕!」
(えええぇぇぇぇぇ!?)
ちょ、待って待って、いきなり逮捕はないでしょう!? っていうか、理由がキモイからって、どんな私怨だよ!?
とツッコミを入れている間にも、現れた刑事(?)さんは手錠を片手にジリジリと近づいて来る。しかし、逮捕されるのは……別に犯罪を犯した訳でもないのに…どうする…?
―――その時だ。
近づいて来るエンジン音、アスファルトを滑るタイヤの音。誰もがその音が聞こえてくる方向へ顔を向けた瞬間。
颯爽と現れた車が、物凄いドリフトで俺と刑事(?)さんの間に滑り込んできたのだ。
いきなり現れた車に、近づいてきていた刑事(?)さんは「うわッ!?」と声を上げた。その後手錠が落ちる音が聞こえたから、もしかしたら転んだのだろうか?
と考えを巡らせていると、現れた車のドアがいきなり開いた。
「面白い姿をしているな、君は……実に興味深い。乗りたまえ…厄介なことになる前に」
開いたのはどうやら助手席の方らしい。左ハンドルのその車を操っていたのは、まさしく金色の長髪女性だった。
白いロングの服に、黒い手袋とマフラー。黒いショートパンツ(というよりほぼ下着に近い)をはいて、ピンク色のレンズのサングラスらしきものを付けている。
文字にして羅列するとピンとこないかもしれないが、はっきり言おう―――結構大胆な格好をしている。この人、大丈夫だろうか? 乗れと言っているが……
「どうした、乗らないのかい?」
「……ッ」
えぇい、ままよ! 警察に逮捕されるよかマシだ!
そう決断し、すぐさま助手席に乗りドアを閉める。誘ってきた女性は「フフ…」と笑みを浮かべると、ハンドルを握りアクセルを踏む。
「あぁ、待てゴラァ!」
立ち上がってきた刑事(?)さんの制止を振り切り再び走り出した車は、先程来た道を逆走。俺を見に来ていた人ごみから急速に離れて行った。
「―――人よりは奇妙な現象に慣れてる方なんだが…こんな現象は初めて見たよ」
しばらく走っていると、金髪の女性が口を開いた。ドアの窓から外を眺めていた俺は、前を見て運転する彼女へと視線を向けた。
「私の声は聞き取れているかな? 話はできるかい?」
「え、えぇ…ちゃんと聞こえてるし、ちゃんと話せる」
「それはよかった。キミがもし、人ではない何かだったらどうしようかと思っていたところだ」
そうだよな、こんな青い身体な人型な何かなんて、普通人間だとは思わないよな。当然化け物か何かだと―――
しかし何故、俺はこんな身体になっているんだ? 俺の身体は、どうなっているんだ?
「そうか…キミ自身、自分の身に何が起きたのか理解できていないようだな」
「……えぇ、いったい何がなんだか…」
「…聞きたいことがあるなら、何でも答えよう。私の知りうる範囲でな」
たしかに、今はとにかく情報が欲しい。そうだな、まずは……
「俺の身体、傍から見てどう見えます?」
「…キミの体は“極めてデジタルな状態”にあるように見える。まるで、電脳空間からアバターのまま現実世界に飛び出したような……もしも本当にそうだとしたら、実に興味深い現象だ…ふふふふふ」
……この人、なんか楽しそうだな。俺を見ても怖がらない…いや、本当に興味深く感じているのか?
「……次の質問です。見る限りだとここ、多分新宿ですよね?」
「あぁ、“仕事”で“探し物”をしていてね。偶然通りがかって、キミをみつけたのさ。…自分で言うのも何だが、あらましは嘘のような真だ。今は中野にある私の“事務所”へ向かっている、そこで詳しい事情を聞かせてもらおう」
「は、はい……」
“仕事”、“事務所”、“探し物”……白い服だし、研究者か何かかと思っていたんだが……違うのか? いやそれよりも、なんで俺は新宿にいたんだ?
―――そうだ、白峰と真田はどうしただろう。ちゃんと無事でいると思うが……
「近くに、俺と同じような……高校生ぐらいの男女を見なかったですか?」
「いや、周囲にはキミ以外の人物はいなかったはずだ。…友達かい?」
「え、えぇ…まぁ…」
「…ひょっとするとキミの友達も、キミと同じような姿をしているのかな?」
「……わかりません。けど、多分大丈夫です」
「…そうか。しかし取りあえずは、自分自身の事を最優先に考えたまえ」
なんとなくだが、そう思った。というより、俺がこうなった原因がなんとなく掴めた気がする。それが本当なら、あいつらは大丈夫だ。
―――あ、そう言えば…
「すいません、俺あなたの名前をまだ…」
「ん? そうだった、自己紹介がまだだったな。最初に名乗るべきだったが、キミの存在があまりに興味深くてね。すっかり失念してしまっていたよ……すまない」
彼女がそう言うと、アクセルではなくブレーキを踏み始める。前を見ると、丁度赤信号だった。
「私は『暮海(くれみ) 杏子(きょうこ)』―――しがない『探偵』さ」
「たん、てい…ですか…?」
俺がそう呟くと彼女―――暮海さんは笑みを浮かべる。その時丁度信号が赤から青へ、それを見た暮海さんはアクセルを踏み、車を走らせた。
中野ブロードウェイ。通称コープ・ブロードウェイ。
東京の中野区にある複合ビルの名称。低階層はショッピングセンターで、それより上は集合住宅となっている建物だ。
今や「サブカルチャーの聖地」という言い回しがよく言われるこの場所に、暮海さんは俺を連れてきた。
そしてその一回の奥―――人があまり混み合っておらず、指で数える程しか歩かないような通りに面した場所。そこに彼女の言う“事務所”―――
“暮海探偵事務所”があった。
「―――なるほど、経緯は把握した」
今まであった事。EDENで白峰達と待ち合わせをし、デジモンと出会い、そしてあの黒い化け物(ナニカ)と出会った経緯を、一通り説明し終えると、彼女はそう言った。
「キミが電脳空間からログアウトして出現したという新宿のあの場所は、EDENへログインした場所と同じか、あるいはその付近なのかな?」
「…いえ、EDENへログインしたのは別の場所で、しかも新宿の近くという訳でもありません」
「ふむ…では、今こうして私と会話しているキミとは、また別のカラダが何処かに存在する訳だ」
「なッ……いや、そうか…」
たしかに、EDENへのログインの方法は、肉体から精神をデータ化して電脳空間へ送られる。俺の身体が今普通の肉体ではない以上、その可能性がたしかにある―――いや、高いと言えよう。
「肉体から精神データが出て、別の存在として現実世界(こっち)に現れた…そういうことですか? まるで幽体離脱みたいだな」
「いや、何らかの理由で新宿に移動した肉体が、『壊れたデータの怪人』のような姿に変化した可能性も、あながち捨てきれない」
「…なんか嫌ですね、その可能性」
しかしまぁ、可能性の話であればそれもありなのだが……
「いずれにしろ奇妙奇天烈な話ではあるが…目の前にまさしく、摩訶不思議な姿をしたキミがいる。現段階では、状況証拠による単純な推理しかできない。早速、情報収集を進めよう。
まずは、キミがEDENへログインした場所の現状を―――」
「あ、あの…すいません、暮海さん」
「ん? 何かな?」
情報収集はいい、たしかに現状の把握の為に情報は不可欠だ。
しかしその前に、はっきりさせておきたいことがある。それは―――
「なんで、あなたは俺を助けてくれるんですか。見ず知らずの顔も分からない……しかもこんな身体の俺を」
暮海さんには見えないだろうが、俺は真剣な眼差しを向ける。
だいたい、何故この人は俺を車に乗せた? それこそあの時言っていたように、人ではない化け物だって可能性もあった筈だ。それなのに、この人は躊躇なく俺を救い、あまつさえ俺の現状をどうにかしようと動いてくれている。
彼女をそうさせるのは、いったい何なのか。俺はそれが知りたかった。
「…ふふっ。キミは今、何処にいる?」
「え? …『暮海』、『探偵事務所』…ですよね?」
「そう。電脳犯罪事件をはじめ、多種多様な超常現象事件の解決に確かな実績を誇る、『暮海探偵事務所』だ。キミの身に起こった怪異的現象の謎を解明するのに、これほど頼もしい場所はないだろう?」
「まぁ…確かに…」
その実績がホンモノなら、ですけど……
「そして、キミが腰かけているのは…依頼人用のソファー」
「ッ、俺依頼人扱いだったんですか」
暮海さんの言葉に思わず腰を浮かせる。しかし彼女はその行動を予想していたかのように、笑みを浮かべて手で落ち着くようジェスチャーをする。
「なに、依頼報酬の件ならば心配しなくていい。キミの存在は、すでに何よりの報酬なのだよ。大船に…そうだな、『メアリー・セレスト号』あたり乗り込んだつもりでいなさい」
『メアリー・セレスト号』…確かに大船だけど、それって確か……
「さて、話を戻すとしよう。キミが何処でログインしたか、だが……それよりも何よりも前に、キミの姿をどうにかしなければいけないな」
「あ、そうか…この身体のままだと、情報収集も何も…人と会話することすら難しいんじゃないかと…」
暮海さんにしてきされ、ようやく気がついた。
そう、厄介なのはこの見た目だ。
情報収集するとなると、人に聞き回ったりするのもあるだろう。そうなれば必然的に、この見た目で声をかける事になるのだが……
皆さんはどうだろうか。青い『壊れたデータの怪人』のような見た目と言われた今の俺を見て、正気を保ったまま話ができるだろうか―――答えは否だ。
そうなれば、情報収集なんてできないし、最悪の場合警察へ連行…なんて話になってしまう。
「いや、それだけじゃない。見る限りじゃ、その身体はとても不安定な状態に見える」
「不安定、ですか…?」
「あぁ、今にも崩れて消えてしまいそうに、な」
……なんだか、怖いぞそれ。この身体がどれぐらい持つか、なんて…わからないじゃないか。
「―――じっくり観察して確信したが、キミはまさにデータの塊…『電脳(デジタル)体』そのものだ。しかし、キミは私の声を聴き、ソファに腰かけ、会話している。現実世界の物理法則に従っている証拠だ」
「た、確かに……」
「つまり、リアル特性をもったデジタル体―――『半電脳体』とでも名付けるとしよう…ふふ!」
……なんかより一層楽しそうに見えるのは、俺だけだろうか。いや、俺しかいないのだから、俺しかわからんか。
っていうか、ネーミングそのままだな。
「名付けなど、だいたいそんなものだ」
「心の中を読まれた!?」
「探偵だからな、これぐらい当然だ」
それはそれとして置いといて、と自慢げに話す訳でもなく、話を元に戻す暮海さん。
「キミのカラダがデータで構成されているならば、見た目をどうにかする事自体は、さほど難しくないだろう。適合するデータを取り込み、修復すればいい」
「なるほど…しかし適合するデータが、都合よくありますかね?」
「今のキミは、基本的にEDEN内で使用されているアバターと、構造を同じくしているはず。クーロンの放置データの中に、アバターパーツのデータが見つかれば上々なわけだが…」
クーロンか…そう言えば、テリアモンを置いてきてしまったが、大丈夫だろうか。
―――ってあれ? ちょっと待て、その前に……
「俺、この身体でEDEN行けるのか…?」
「そう、問題はその状態でログインできるかどうか、なのだ」
そうだよな、肉体のないこの身体だとどうなるか…しかしクーロンに行ければ……
そう思って考え込んでいると、正面にある大型の薄型テレビがふと目に入った。…いや、それだけじゃない。何か……
「…ん、何だ? …端末(テレビ)が、どうかしたか?」
「いえ、何か…変な音が……」
「音? いや、今それに電源は…」
思わず立ち上がってテレビを眺める俺を見て、不審に思った暮海さん。電源が付いてない事を確認しようと、デスクから身を乗り出してテレビを確認しようとしている。
しかし確かに電源は付いていない。普通この状態だと、音なんか流れない筈なのに、何故…?
そう思った、その時だった。
―――――こっちよ……翔(と)びなさい
頭の中に、はっきりと聞こえた。女性の声だ。
思わずテレビを確認する。勿論電源は付いていないままだ。じゃあ何処から……
そして近づいて再度テレビを見ると、その中央に―――俺の身体と同じような色が、見え始めた。
とぶ…? こっちっていうぐらいなのだから、テレビに向かってか? いやそれはいくらなんでも……
「おい、どうした…おい……!」
―――――できるわ……さぁ、翔(と)んで
また、聞こえた。さっきよりもはっきりと。途中暮海さんの声も聞こえたがそれよりもはっきり聞こえた。
とぶ……よくわからないが、取りあえず……
そう思ってテレビの画面に向けて、右の手の平を翳してみる。
するとテレビと俺の間に、青いデータの穴が開き、俺の身体がそこへ吸い込まれていった。
気がつくと、そこは何かの通路のような場所だった。
通路、と言っても現実のそれではなく、データでできたものだ。
これがなんなのかはわからないが、どうやら先があるようだ。取りあえず、進んでみるとしよう。
しばらく進んでいると、データの通路も終わり出口が見えてきた。そこを潜って出てみると、そこはなんと―――EDENだった。
EDENの床に着地して、振り向いてみる。出口であたものが、すぐさま消えてしまった。どうやら戻る事は出来ないようだ。
さて、ここはEDENのどこだろう。
そう思っていた矢先に、デジヴァイスに通信が入った。この状態で操作できるか不安だったが、取りあえず出てみることに。
『―――暮海杏子だ。私の声が聞こえているか?』
「暮海さん? なんで俺のデジヴァイスの番号が…?」
『危ういタイミングだったが、キミのデジヴァイスの反応を何とか追跡できてね。後は少し調べれば…と言ったところだ」
通信の相手は暮海さんだった。しかし、勝手に人の個人情報を見るなんて、怖い事をする人だな……
『…一体、何が起こったんだ? キミの姿が、まるで端末に吸い込まれるように…消えた』
「……はい、実は…俺も不思議で仕方ないんですが、誰かに『とべ』と言われたんです。それでテレビの方に手を向けたら、なんかデータでできた通路のようなところに出て、進んでみたらEDENに…」
俺の説明を聞いた暮海さんは、「なるほど…」と顎に手を当てて少し思考する。
『キミが通ったのは、まさしくネットワーク回路の流れの中だろう。事務所の端末は、EDENネットワークにも接続している』
「じゃあ俺はそのネットワークを通って、EDENに来た…そう言う事ですか?」
『おそらくな。キミにとってネットワークは、まさしく“道”として視覚化されるようだな』
「視覚化…テレビに見えた青いアレは、接続されていたネットワークだったのか…」
『しかし、現実世界から電脳世界への遷移(せんい)が、そこまでダイレクトに実行できるとは、驚きだな…』
と、申されましても、俺にはピンとこないんですが……
『端末接触による、電脳世界への潜行(ダイブ)…いや、跳躍(ジャンプ)か…』
「…? あの、暮海さん? どうかしましたか?」
『よし、今後キミのその能力を「コネクトジャンプ」と呼ぶことにしよう。まったく予測していなかった能力だが、嬉しい誤算だな』
「……中々厨二くさいですね、その命名」
『「エターナルフォースブリザード」などよりかは、マシな命名だと私は思うが?』
「…御尤もで」
言われてみると確かに、あんな長々とした魔法名よりも、数十倍マシだと思ってしまうな。
『とにかく、EDENへ行けたのだ。そのままアバターパーツのデータを調達してくるといい。「クーロン」へ向かいたまえ。あそこなら放置されたままのジャンクデータがごまんとある、目当てのデータぐらい簡単に見つかるさ』
「りょ、了解」
俺が返事を返すのを待ってから、彼女は通信を切った。
……取りあえず、クーロンに行こう。さっきから人の目線が刺さって心が痛い。やっぱ変に見えるのか…
そう判断し、急いでログアウトゾーンまで。しかし……
―――こっちよ…来て
また、あの声だ。
俺をあのネットワークの回路まで導いた、頭に響く声。それがまた、聞こえたのだ。
しかし今度は頭にではなく、しっかり耳に届いた。ちゃんと聞こえてきた方向も分かる。
来い、というのだから、行ってみるべきか? 暮海さんが名付けた「コネクトジャンプ」の能力に気づかせてくれたのは、間違いなくこの声の主だ。
……行ってみるか。
そう決断し、俺は声のする方へと歩みを進める。
このエリアの壁の際まで歩いて行くと、突如視界がホワイトアウト。思わず腕で目を覆うが、すぐに別の場所に移った事に気がつく。
「―――私の声が届いたようね」
凛とした声。これは確かに、あの時聞こえた女性の声だ。
そう思いゆっくりと、目を覆っていた腕を下ろす。
そこには、紫髪のメガネをかけた女性がいた。白いシャツに、黒いワンピースのような服装。手には何か、ファイルのようなものが握られていた。
「ようこそ『デジラボ』へ。ここはデジタルワールドと微かに交わる、デジモン達の楽園」
「でじ…らぼ…?」
「私は『御神楽(みかぐら) ミレイ』。あなたに、この楽園を解放してあげる」
紫髪の女性―――御神楽さんは、そう言ってメガネをクイッと上げる。
…未だに状況が把握できない。ちょっと待て、色々整理しよう……
「…いくつか、質問してもいいか?」
「どうぞ。答えられる範囲で、だけれどもね」
「じゃあまずは……」
俺はそう言って、フラリと彼女の前へ。そしてガシッと両肩を鷲掴みにし……
「『デジタルワールド』は、存在するのか!?」
「ッ……えぇ、存在するわ」
俺の質問に、御神楽さんは少し驚いた表情を浮かべる。しかしすぐに小さな笑みを浮かべ、頷いて答えた。
そうか…やっぱり、あるのがデジタルワールド。デジモンが存在しているのだから、あるとは思っていたが…!
「じゃあ、デジモンは人間が作った存在じゃなく、デジタルワールドに“生きる”デジタル生命体…そうだよな!」
「…えぇ、そうよ。あなたの世界では、デジモンは人間が作ったプログラムだとされているみたいだけど」
そうか、そうか…やっぱりそうか! じゃあテリアモンに触れた時に感じた温もりも、ホンモノだったんだ。ユーゴが言っていた“デジモンはプログラム”っていう感じに違和感を覚えたのも、間違いじゃなかったんだ!
「……よし、謎は解けた。俺からはもういい」
「…本当に面白い人ね。ここについて、知りたいとは思わないの?」
「…………あ、そうか。それもそうだな」
いやぁ、デジモンの事ですっかり失念していた。失敬、失敬。
「で、ここ『デジラボ』っていうのか?」
「そう…『デジタルモンスター・ラボラトリ』。『タルラボ』でも『モントリ』でも、略し方は自由だけど…」
「いえ、『デジラボ』で結構です」
「ふふ、私もそれをオススメしているわ」
そうだよな、他二つはなんか違うよな。『デジラボ』でいいよな。
……そう言えば、
「あなたが俺を、ここに呼んだのか?」
「…いえ、それは少し違うわ。―――あなたが、私を呼んだの」
「俺が?」
「そう。あなたはデジモンと、深く“交わり”はじめている。その“運命の交叉”に引き寄せられ、あなたを見つけた。つまり私は、あなたに呼ばれたのよ」
「“運命の交叉”…あなたとの出会いも、運命だとでも言うのか?」
「ふふ…どうでしょうね」
さて、話はこれぐらいにして。
そう切り出して、彼女はここ―――デジラボの施設について、話し始めた。
デジモンを広い空間に置いておける『デジファーム』、傷ついた身体を癒す『メディカルマシーン』など、デジモンと関わっていく上で必要になっていくであろう施設が、いくつかあった。
「これ全部、俺が使っていいのか?」
「その為にここへ呼んだのよ。それと、『デジファーム』に関してはあなたのデジヴァイスと直結できるようにしてあるわ。もしデジモンを外に出さないでいたいなら、デジヴァイスを起動してデジファームに送るといいわ。デジヴァイスを通じてなら、そこでデジモン達と通信もできる」
へ~、中々便利だな。
「デジラボの機能については、理解できたかしら」
「あぁ。こんないい場所を使わせてくれて、ありがとうな」
「…お礼なんかいいわ、私はただ確かめたいだけ。あなたが私の見込んだ通りの人なのかどうか、ね」
なんだそりゃ、なんか試されているとでも言うのか?
「最後にもう一つ、心ばかりのプレゼントよ」
彼女の言葉に少ししかめっ面になっていると、彼女はファイルを開いて何かのデータを取り出した。
そして俺に向けて指でスライドさせると、そのデータは光の球となって、俺の身体に入り込んだ。
「…!? 一体何を…」
「今送ったのは、『ハッキングスキル』。それはデジモンを使役することで発揮される力よ。ハッカー御用達の、とても危険な力」
「ハッキング…俺はハッキングなんてするつもりは…!」
「それでもきっと、あなたの役に立つはずよ。それに力は持つ人の意思一つでどうにでもなる、どう使うかはあなた次第よ」
だけどこれだけは憶えておいて、と御神楽さんは捕捉をする。
「あなたは、デジモン達と特別な絆を深めることができる。デジモン達と生き、喜び、哀しみ、そして成長しなさい。絆を深めれば、きっと、デジモン達はあなたを助けてくれる。いずれそれは、とても大きな力―――あなたの運命をも切りひらく程の力になる」
「運命を…切りひらく…」
「『コネクトジャンプ』…あの不思議な力を、そう名付けたのね」
「ッ!? なんでそれを!?」
「ふふ…女性に秘密は付き物よ」
うッ、なんか大人な感じの受け流しをされた気がする……
「あの力については、私もわからない…ハッキングスキルに似ているけど、何かが…違う。ただ、あなたを導く特別な力であることは確かよ」
それじゃ…これからもよろしくね。
彼女はそう言うと、軽く手を振ってくる。見送ってくれるようだ。
どうやら、彼女とはこれからも関わっていくようだ。それもなんとなくだが、長い付き合いになりそうな予感……
「あぁ、よろしくお願いします―――御神楽さん」
「ふふ…ミレイでいいわ」
御神楽さんの返事には、曖昧な笑みを浮かべ、俺はログアウトゾーンに乗っかった。
「確か『クーロン』に向かう途中だったわね? 今回だけは、特別に出口を繋いであげるわ。次からは“アクセスポイント”から、ここに尋ねてきてね」
「はい、では…!」
俺がそう言うと、視界が再びホワイトアウト。おそらく次に到着するのは、クーロンであろう。
テリアモンは無事だろうか、少し不安を募らせるも行ってみなければわからないと自分に言い聞かせ、俺は足が地に着く感覚を待った。
後書き
OTL:ネット用語。がっかりした時を表現する絵文字。もうだいぶ古いかもしれないが…
茶髪の婦警さん:実際にいるかどうかはわからないが、この人いいキャラしてると思う。
暮海さん大胆:白い服に胸の辺りと開けておくあの格好、大胆としか思えない。だいたーんッ!
中野ブロードウェイ:『サブカルチャーの聖地』と言われてはいるが、その実元々はオタク文化とはなんの関係もないらしい。
幽体離脱:最近あの二人をなんかのCMで見かけ、「まだ生きてた」と失礼な感想述べたのは私です。
メアリー・セレスト号:1870年頃に実際に存在した帆船。ポルトガル沖で無人のまま漂流していたのを発見された、いわゆる幽霊船。
エターナルフォースブリザード:最強の氷結呪文の名前。まさにザ・厨二である。
とまぁ、今回はここまで。
いやぁ、最初にメアリー・セレスト号について調べた時は、少し冷や汗をかいたね、マジで。
さて、こんな早く書けるとは思っていなかったので、これからサーターアンダギーを作ろうとおもうのですが……あ、これは私事なので関係ないですね。
次はなのは書こうかと思っていたんですが…思っていた以上にデジモンを書くのが楽しいので、モチベーションを上げるべく次もこちらにしようと思います。
誤字脱字のご指摘、ご感想等ありましたら、よろしくお願いします。
次回もお楽しみに~!
ページ上へ戻る