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101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行

作者:biwanosin
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第十六話

◆2010‐??‐??T??:??:??  “???”

 これはこれは、お久しぶりですね。
 なんだか浮かない顔をしていらっしゃいますが、どうかしましたか?
 前回お話ししたハーレム野郎の話はお気に召さなかったのでしょうか?
 あ、つまりこういうことですかね?リア充爆発しろ!ということでしょうか?いやはや、私はそう思ったことがないので分かりませんが、皆さん大変ですねぇ。

 そんな貴方に話すことなのかどうか、判断に困るのですが。彼にまつわるエピソードに興味はありませんか?あ、興味ない。どうせまたリア充野郎が上手いことやって美少女をたぶらかす話だろ?と考えているのであれば……まあその通りなのですが。

 ですがまあ、たぶらかされたからと言って双方何ともない、なんてことはありませんよ。そこにはちゃんと、何かしらの代償みたいなものがあるんです。言ってしまえば、『傷つきたくなければ行動するな』というわけです。が、ここで『行動できるか否か』という点がリア充と非リア充の境界であると、そうは思いませんか?

 おっ、やる気が出てきましたね。はい、まずは何をするのか、という話なのです。第一印象というものが重要であるのは間違いありませんし、そのためにルックスを磨くのも大切ではあります。ですがまあ、そんな印象というものは存外単純なものだったりするのです。「あ、この人すっごく真面目そうな雰囲気なのにそうでもないな」とか、「あ、この人ダメ人間っぽいけど頼りになるな」とか、なんか強い印象を与えられればイケメンにだって勝てるのです!

 これは私のお姉さまからの受け売りなのですが、イケメンはあくまでも見て楽しむものであって、くっついたりイチャイチャしたりするものじゃないのですよ。相手だって人間なので、自分たちと同じなので、どこで幻滅してしまうかわかんないんですから。その瞬間が一番怖くてつらいんです。
 お姉さまはこの後に続けていっているようですが、私は言いませんよ?あんな痛々しいこと、言えませんって‥…

 とまあ、前置きはこれくらいにしまして。
 例の『百鬼夜行の主人公』はハーレム系主人公ですが、よく考えてみれば自分自身もバケモノになってしまうわけですからね。そうでなくとも、主人公なんてものはロクな目にあいませんし。そんな感じで、人間からちょっとした物語になってしまった人のことを、『ロア』とか言うわけなんですけど……って、さすがに知っていますか。『正史』を知っている人ばかりでしょうし。

 とまあ、長かった前置きもここまでです。ここで、締めに一つの問いかけをば。皆さんは、そんなロアになりたい……って、即答ですか。気持ちは分かりますけども。それが普通で、当然で、仕方のない反応です。

 今回は、そんな『仕方ない』を繰り返してしまった、一人の女の子のお話。
 百鬼夜行の二夜目を、語るとしましょうか。

◆2010‐??‐??T??:??:??  “Street”

 走る。走る。走る。ただひたすらに、目の前の道を突き進む。
 最初は目的をもって行っていたこの行為も、今となっては目的があるのか怪しいものだ。
 いや、目的はある。けど、最初に持っていた目的はなくなっている。

 そもそも、最初っていつと認識すればいいんだろうか?
 ウチがこういう存在になったと知った時?ううん、違う。この時には、もうあった。
 ウチがこういう存在になった時?ううん、違う。この時には、もうあった。
 ウチがこういう存在になると決定づけるような行動をした時?ううん、違う。この時には、もうあった。

 だったら、可能性があるのは……あの時、なんだろう。

 ウチが『こう』なった、一番の理由。
 ウチが『こう』なった、一番の原因。
 ウチが『こう』なった、一番の因果。

 それらが絡み合った、あの瞬間。こんな世界があるだなんて知らなかったけど、しかし心のどこかでこんな世界を望んでいた時。こんな力を求めていた、あんな結末を望んでいた時期。

 けど、今となってはそんなものはない。それが済んでしまってからはしばらくは目的が続いたけど、それだってもう正しくないとわかってしまった。ううん、初めから分かっていたはずのことに、ようやく目を向けた。

 でも、そうと分かっていてももう戻れない。こうして走ることをやめることはできないし、突き進むことをやめられないし、引きずることをやめられない。だって、そうしたら自分が消えてしまうから。
 ここまでしておいて何を言っているといわれるかもしれないけど、消えたくはない。自分が悪いことをした、これからもしていかなくちゃいけない、だから自分が死ぬ、とできる程にウチは出来た人間ではない。

 こんなになってしまっては、もうその目的も果たせないかもしれない。ううん、果たせないだろうけど。でも、それでも……諦めきることは、難しい。だから、やることは変わらない。
 走って。走って。走って。走って。走って……最後に、それを捨てる。
 放り捨てるのではなく、ただその場にボトッと捨てて。そしてそのまま、その場を立ち去る。あーあ……

 また、やっちゃったなぁ。

◆2010‐06‐01T08:30:00  “Yatugiri High School 2-A Class”

「物騒なもんだよなぁ……」
「物騒ですよねぇ……」

 朝、ホームルームの前の時間。
 俺はいつも通り、学校中で人気の高い園田ティアとのトークタイムを楽しんでいた。

「『謎の死体再び』だからな……もう何件目になるんだ?」
「正確な数は覚えてないですけど、二十くらいじゃないですか?ケホケホ」

 そんな会話をしながら俺は席を譲って軽く机に腰掛け、ティアが俺の席に座る。
 そう言う配置での会話であるのだから、当然のように俺は彼女を上からの視点で見ることになるわけで。さすがに服をちゃんと着る子であるのだからその程度で胸元が見えるというようなことはないのだけれど、それでもその豊満なお胸さまは上から見るとまた素晴らしいわけで。
 本人がそう言う感じの子ではなこともあって、困ってしまうくらいのかわいい子である。特にこちらのそう言う視線に見えてしまっているという要素が絡んだ時の恥ずかしがる姿と言ったら、天下統一できるレベルだ。
 そんな彼女は当然ながら人気があり、男子たちは睨むように、女子たちはそんな男子達を睨みつつ俺を牽制するように、そんな視線を向けてくる。特に、同じ部活のアレクなんかはそれだけで人を殺してしまえそうな視線を向けてくる。そう言えば、よく『視線だけで人を殺せそう』なんていう話はあるわけなんだけど、そこからロアが生まれたりするんだろうか?
 と、そんなクラスメイトからの視線に気付いていなさそうに見える彼女は、柔らかく微笑んで話を再開させてくる。

「カミナ君はどう思いますか?この事件について」
「そう言う話をするのはやぶさかではないのだが、ティアさんや?俺の名前はカミナではないのですけれども」
「じゃあ、神無月君と呼びましょうか?」
「何とも距離を感じる呼び方だなぁ」
「では……『凪、君』とかですか?」
「その表情にその呼び方の組み合わせは殺人的すぎるので、ティアはカミナでいいです、ハイ」
「ふふっ、ではこれからもカミナ君、ですね」

 ホントにあれだな、この手のやり取りは恒例化してきているな。

「それにしても、だよなぁ。とりあえず一番思うのは巻き込まれたくない、だなぁ」
「なくなってほしい、とかではないんですね?」
「そりゃなくなってほしいのが一番なんだけど、ここまで犯人の情報が存在しないとなると捕まらなさそうだし、ならせめて、て感じで」
「確かに、そう考えるとそうなるのかもしれないですね」
「まあ、あんまり大っぴらに言える意見ではないんだけどさ」

 だからこんなこと、友人の中でもごく一部にしか言えないような考えだ。

「俺はとりあえず、この間みたいないいことがある中で過ごしていきたいなぁ、って」
「ああ、あの……えっと、思い出されるのは若干恥ずかしいんですけど」
「記憶の中からデータの中までしっかりと鮮明に記録しております」
「あぅ……」

 と、俺の返答に対して顔を赤くしてモジモジするティア。今の内容をはっきりと口にすれば俺はクラスメイト全員によって殺されること間違いなしなので言えないのだが、さっき言ったものの中にはティアの水着姿が入っているのだ。いや、本当に素晴らしいものなんだって。
 んで、つい最近そのフォルダの中にあこがれの先輩ともう一人のクラスメイトの水着姿も増えている。あ、当然ながら本人の許可は取ってからである。取らずにそんなことをすればどんな夢を見せられるか分かったもんじゃないし。

「話を戻します」
「どうぞ」

 俺とティアの中で自然と決まったこと。このやり取りが行われたら脱線分の会話は全部無視して話を戻す。というわけで、先ほどの話に戻ろう。

「それにしても、不思議な事件ですよね。死体は明らかに車などの高速で動けるもので引きずられたようになっているのに、そう言ったもののタイヤの跡などは一切ない」
「バイクか車か、何にしてもそう言うものでないと不可能なのにそう言うものの痕跡はないんだからなぁ」

 本当に不思議な事件である。普通にありえない。で、あり得ない事件ってことは……

「……なあ、ティアさんや。ふと気になったんだが、こういう事件が都市伝説になることはあるのか?」
「そう、ですね……犯人が不明である事件が都市伝説となる有名なものと言えば、『ジャック・ザ・リッパー』がありますね」

 ジャック・ザ・リッパー。切り裂きジャックなんて言い方の方が有名そうなものなんだけど、確かにあれも犯人不明からいろんな形で噂が流れている事件だ。と言うか、今でもそう言う憶測はありふれている気がする。

「あの事件そのものは猟奇殺人犯によるものとして片づけることもできるのですが、都市伝説として考えると、様々な表情を見せます」
「ふむふむ」
「犯人についていえば、その正体は子供であるとか貴族であるとか呪われた道具であるとか……驚くくらい色々と存在しますから」
「つまり、それは……そういうこと、なのですか?」
「そう言うこと、になりますね」

 ああ、やっぱり……もし仮にロアとして出てきたら、強力、では済まないような相手になっていかねない、ということか。出来ることならば出会いたくない。いや、相手が美少女だっていうんならむしろ出会いたいもの。しかし殺される可能性を考えるとそれは……

「難しい選択だな……」
「ふふっ、カミナ君の考えることは分かりやすいですね」
「そんなにわかりやすいでしょうか?」
「ええ、分かりやすいです」

 むう、それは少しばかり恥ずかしいな……。

「そして、そういった『殺害系』の相手の場合、戦闘で勝ち目がない可能性もありますから。十分に気を付けてくださいね?」
「は、はい。わかりました」

 いつかは、そう言う相手と遭遇することがあるのかもしれない。
 俺がとても不思議な境遇となっているのは確かなんだけど、まだ基本的にはただの高校生に過ぎないんだ。そんな俺が、戦闘で殺しに来る相手に遭遇したのならどうしたらいいんだろうか?真正面から来られたら勝ち目なんてないんだけど……
 普段の姿は仮のもので、本当は世界を滅ぼしかねない『魔女』であるティアや、今日はまだ来ていないあいつがいない俺では、何かできる気すらしない。
 若干、冷や汗をかいた。

「ま、まあ。さすがにそう頻繁に遭遇しないだろ」
「つい最近、私とテンさんがありましたしね?」
「その中でまた、って言うのはないと信じたい」

 どっちの件にしても本気で命の危機を感じたんだ。
 だから、物語を集めないといけないにしてもあんな思いをする機会は減らしたい。
 と、そんなことを若干祈っていると。

「おー、神無月はいるかー?」

 と、なんだか最近珍しくなってきている、俺のことが名字で呼ばれるということが起こった。

「うん?」

 ティアもその音源の方を見ると、そこには隣のクラスの担任の先生がいた。見た目は地味で眼鏡というなんだか漫画やアニメのモブ教師っぽい見た目。だからこそむしろ目立つことも多い先生なんだけど……。

「えっと、なんでしょうか?」

 だからこそ、俺としてはなんで呼ばれたのかが気になる。何かやらかしたのだろうか?

「ああ、悪いな。いつもの通りというか、また『あの期間』に入ったみたいだから、色々と持って行ってもらえるか?そろそろ一週間になる」
「ああ、そういうことですか。分かりました。また放課後にとりに行けばいいですかね?」
「STが終わったら隣に来てくれれば渡すから、そうしてくれ」

 何かと思ってビクビクしてみたら、そう言う話か。いつものことだからなんてことはない。

「それじゃあ、たのんだぞ」
「はい、了解です」

 と、そう返事をしたら隣のクラスの担任は出ていった。さて、これで今日の帰りの予定が出来たな……

「えっと……カミナ君?今のって?」
「ああ、そういえばティアは知らないんだっけか。去年も何回かあったんだけど」

 ま、そう重要な問題でもないし行ってもいいか。ティアくらいの有名人なら向うも知ってるだろうし、何なら一緒に行ってもよさそうな気がする。というわけで。

「そうたいした問題じゃないんだけどな。幼馴染が引きこもり期間に入ったみたいだから、授業のノートのコピーとかプリントとか届けに行くんだよ」
 
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