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禁じられた恋

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第一章

                       禁じられた恋
 ペーター=ヴィルフガッセンは学生の頃にだ、その歌の才を見出された。
「君はテノールとしてかなりの歌手になれる」
「僕の歌はそこまで、ですか」
「素晴らしい」
 彼の通っている学校の音楽教師が彼の才能を最初に見出し述べた。
「きっと歌手として成功する」
「じゃあ僕は」
「歌手、テノール歌手になるか」
「はい、じゃあ進学は」
「音楽大学だな、いい大学と先生を紹介しよう」
 早速だった、先生はヴィルフガッセンに言った。
「そしてだ」
「歌手として学びそして」
「大歌手になるんだ、いいね」
 先生は微笑みヴィルフガッセンの背中を言葉で押した、そして。
 彼は実際にだ、音楽大学に進学し。そこで音楽をさらに学び。
 そしてだ、さらにだった。
 ウィーンにも行き学んだ、そのウィーンである教授に言われた。
「君はテノールだが声が低い」
「テノールの中でもですね」
「そうだ、ドラマティコいや」
 ここでrだ、教授は彼に言った。
「ヘルデン=テノールか」
「あのワーグナーの」
「ワーグナーを歌いたいかね?」 
 教授はヴィルフガッセンの波打つ豊かな金髪を後ろに撫で付け細面で彫が深く精悍であり青く澄んだ目を持つ顔を見て問うた、そのすらりとした引き締まった長身も。
 その全てを見てだ、彼に問うたのだ。
「ヘルデン=テノールを」
「僕がヘルデン=テノールを歌うんですか」
「君の声域ならばな」
 クラシックでは声域が重要だ、それは同じテノールやソプラノでもだ。特にヘルデン=テノールはそのテノールの中で独特だ。
 そのヘルデン=テノールにとだ、教授は彼に問うたのだ。
「大丈夫だ」
「では」
「歌うのだね」
「ワーグナーを歌えるのなら」
 ヴィルフガッセンは目を輝かせてだ、教授に答えた。
「是非」
「そう言うと思っていた」
「やはりそうですか」
「ワーグナーは何か」
「テノールにとってですね」
「憧れだ」
 まさにだ、それそのものだというのだ。
「ワーグナーテノール、ヘルデン=テノールを歌えること自体がな」
「憧れですよね」
「誰でも歌えるものではない」
「まず声域で引っ掛かりますね」
「テノールの中でもあまりにも独特なのだよ」 
 テノールはテノールだ、しかしその声域はバリトンにかなり近いまでに低い。ワーグナーが生み出した極めて独特な声なのだ。
「声域が。そして」
「技術も」
「ワーグナーは難しい」
 教授はその技術のことも指摘した。
「その中でもテノールはな」
「主役であるだけに」
「歌の技術も演技も解釈もな」
「そのどれもがですね」
「相当に難しい」
 こう指摘するのだった。
「全てがな」
「そのワーグナーを歌えるんですね、僕は」
「まず声域でクリアーしている」
「技量や演技、解釈はこれから磨き」
「ヘルデン=テノールになりたいか」
「なります」
 ヴィルフガッセンは教授に強い声で答えた。
「絶対に、最高のヘルデン=テノールに」
「よし、では励むことだ」
「そうなります」
 ヴィルフガッセンは強い声でだ、教授に答え。
 ヘルデン=テノールとしての勉強を本格的にはじめた。ワーグナーの音楽だけでなくその背景にあるものまで全て学び。 
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