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真田十勇士

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巻の十 霧隠才蔵その一

                       巻の十  霧隠才蔵
 筧十蔵を加えた幸村主従は都に向かっていた、安土を出た後は都に入るだけだと思われていた、だが。
 大津に来てだ、ふとだった。
 伊佐はその目を鋭くさせて幸村に言った。
「殿、どうも町の者達がです」
「特におなごがじゃな」
「騒がしいですな」
「そうじゃな。何かあったのか」
「少し聞いてみますか」
「うむ、何かあるのであろう」
「はい、さすれば」
 こうしてだった、伊佐がすぐに傍を通りがかった若い娘に声をかけた。
「何かあったのであろうか、娘達が騒がしいが」
「はい、実は」
 娘は伊佐の言葉を受けて彼に話した。
「大津に素晴らしい美男の方が来られまして」
「ほう、わしの様にか」
 美男と聞いてだ、清海がぬっと出て来て言った。
「それはどういった者であろうか」
「いえ、お坊様の様な面白い顔立ちの方ではなく」
「何と、わしの顔が面白いとな」
「何か大道芸をされる方でしょうか」
「違うわ、わしの何処が面白い顔じゃ」
「ははは、御主の顔は確かに面白いな」
 根津は娘の言葉に臍を曲げる清海に笑って突っ込みを入れた。
「絵にしたらもっと面白そうじゃな」
「御主までそう言うのか」
「実際にそう思ったからのう」
「思うでないわ」
「しかし。美男とな」
 穴山は娘の言葉に右手を自分の顎に当てて考える顔になって述べた。
「町中が騒ぐ位のか」
「そうなのです、そちらの若いお武家の方も中々ですが」
 娘は幸村の顔も見て話した。
「その方は随分と」
「そこまで顔がよいのか」
「はい、前右府様に負けないまでに」
 織田信長にもというのだ、信長は妹のお市の方もそうであるがその整った顔立ちでも有名だったのである。
「整ったお顔立ちです」
「ふむ。そこまでの美男ならな」 
 穴山はその話を聞いてだった、興味を持って述べた。
「見てみたいのう」
「そうじゃな、ではその男に会ってみよう」
 幸村も興味を持って言う。
「人は顔ではないにしてもな」
「それでもですな」
 海野が幸村のその言葉に応えた。
「一度どうした顔かは」
「見てみよう」
「ではその者は今何処におるか」
 望月は娘にその美男の居場所について尋ねた。
「教えてくれるか」
「はい、今は宿におられまして」
「この大津のか」
「左様です、その宿は」
 娘は一行にその美男が泊まっている宿の名前と場所を話した。その宿は大津の南にあった。その宿に向かうと。
 宿の前は町の娘達でごった返していた、筧はその賑わいを見てこう言った。
「いや、前右府様が道を通られた時の様な」
「そこまでの賑わいか」
「まさに」
 こう由利にも答えた。
「それ位じゃ」
「左様か。確かに賑わっておるな」
 由利もこのことを認めて言葉を出した。
「随分とな」
「しかし。あの状況ではです」
 伊佐はいつもの表情で静かに述べた。
「宿に入ることが出来ませぬな」
「そうじゃな、それにな」
 ここでだ、幸村は。
 その宿を見てだ、首を少し傾げさせてから述べた。 
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