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ソーサープリム

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第五章

 民族衣装で着飾って登校してお互いの服を見合って笑っていた、先生はその様子を見て目を笑わせて言った。
「皆ケチュア族になってきたね」
「はい、私達にこんな可愛い服があるなんて」
「思っていなかったですけれど」
「いい服ですよね」
「可愛いだけじゃなくて奇麗で」
「そう、先生が子供の頃はまだね」 
 先生はその目を細くさせてミレッラに答えた。
「着ている人がいたんだ」
「それが皆洋服になって」
「忘れてたんですね」
「そうだったんですね」
「そりゃ服だけがケチュア族じゃないよ」
 先生はこうも言った。
「心だからね、大事なのは」
「それでもですよね」
「服もまた民族」
「民族のものですよね」
「そうだよ、それがまた。しかも皆が着るのを見られて」 
 それで、というのだ。
「嬉しいよ、本当に」
「ケチュア族の復活」
「服はですか」
「そうなったと言っていいかな。もうインカ帝国はないけれど」
 それでもというのだ。
「いいものを見られて幸せだよ」
「そうですか、じゃあ」
「私達これからもこの服着ますね」
「そうしますね」
「そうしてくれたら嬉しいよ、いい服だしね」
 民族の服であるというよりもだ、その服は全てデザイン等もいいというのだ。
「ウールをわざわざ編んで刺繍も入れてね」
「手間もかけている」
「そうした服だからですね」
「そこに人の心も入っている」
「そうなんですね」
「そうだい、いいんだよ」
 こう笑顔で言うのだった、そして先生は今度はこう言った。
「先生も娘に買うよ」
「ケチュア族の服を」
「そうされるんですね」
「言ってる先生が買わないのはやっぱり駄目だからね」
 こう笑顔で言うのだった。
「そうするよ」
「それがいいと思います、この服特にこの帽子最初は何かって思いましたけれど」
 ソーサープリムを手に取ってだ、ミレッラが先生に応えた。
「こんな可愛い帽子着られるなんて幸せです」
「ケチュア族に生まれてだね」
「よかったです」
 心から言うのだった、ケチュア族であるということを自覚してだった。ミレッラは服のことからも笑顔になった。
 だがここでだ、先生はこうも言った。
「まあこの服もスペイン文化の影響あるけれど」
「そこでもスペインですね」
「やっぱり出ますね」
「まあね、よくも悪くもね」
 どっちでもというのだった、先生はここでは。
「ケチュア族にもスペインは影響を与えてるよ」
「侵略してきたけれど私達のかなりの部分も作ってくれた」
「そうした国ですね」
「言葉も文字もそうで」
 スペイン語である、言うまでもなく。
「それでだよ」
「この服にも」
「そうなんですね」
「影響を与えている」
「そういうことですね」
「そうだよ、この服もインディオとスペインが混ざった」
 そうしたというのだ。
「今のケチュア族の服なんだよ」
「そうですか、そうした服なんですね」
「インカ帝国とスペインを受け継いたケチュア族の服だよ」
 そうした服であるとだ、先生はミレッラと他の女生徒達に話した。ミレッラは先生のその言葉も聞いて自分達のことを思うのだった。そしてその中で。
 そのスペインについてだ、こう言った。
「何故か嫌いじゃないですね」
「侵略してきてインカ帝国も滅ぼしてね」
「その後もご先祖様に酷いことをしたけれど」
「そのスペインも侵略者でね」
「今のスペインとは仲がいいですし」
 宗主国であるからだ、このことは中南米の多くの国がそうだ。
「決して嫌いじゃないですね」
「愛嬌もある国だしね」
「はい、じゃあスペインも受け入れてこの服着ていきます」
「スペインも入って余計によくなってるしね」
「そうですよね」
 ソーサーに似たその帽子にそれがあると思った、インカ帝国だけでなくスペインもある、しかしそのスペインもまた悪いものではなかったと思ったミレッラだった。


ソーサープリム   完


                         2015・8・26 
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