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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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35部分:第三十五章


第三十五章

「必ず通じるものだから」
「だからですか」
「案ずることはないわ。娘さんは貴方を父親として愛してくれているわ」
「血がつながっていなくともですね」
「血は確かに濃いわ」
 沙耶香もそれは認めた。だがそれだけではないともいうのであった。
「けれどね」
「けれどですか」
「そうよ。それを確かなものにするのは愛よ」
 まさにそれによってだというのだ。いささか沙耶香らしくない言葉であるのは自分自身も自覚していたがそれでも言ってみせたのである。
「それがあればこそよ」
「そういうことなのですか」
「これでわかったわね」
 沙耶香は船長に告げた。
「本当のことが」
「はい、確かに」
「それではね」
 ここまで話すと踵を返すのだった。そのうえで幸せの中にいる二人を後にして去った。沙耶香が戻ったのは元の船の中だった。船長は上機嫌の顔で部屋を出てそのうえで艦橋に向かっていた。
 その日の夜。沙耶香はポーカーをしていた。あのルーレット等がある遊戯場でそれをしながらだ。優雅に笑っていた。
 今は一人の紳士と勝負をしている。相手がストレートを出すとであった。彼女はフラッシュを出してみせた。明らかに彼女の勝ちであった。
 そのまま勝負を続けていたがやがて席を立った。するとその横にあの男が来たのであった。彼は沙耶香の横でこう囁いてきた。
「お疲れ様でした」
「これで終わりね」
「はい、全て」
 これが返答だった。
「有り難うございました」
「四つの仕事が全て終わったわね」
「これで四人共憂いなく過ごせます」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「一つ納得できないことがあるわ」
 こう言うのであった。沙耶香は今場の端に立っている。彼はその脇に来て話しているのだ。
「一つね」
「といいますと?」
「四人共貴方の家の人だったわね」
 言うのはこのことだった。
「そうね。嘘だとは言わせないわよ」
「お気付きでしたか、それは」
「気付かない筈もないわ。何故ならね」
「気配ですか」
「それでわかったのよ。貴方と同じ気配」
 それでだというのである。
「血のね」
「それでなのですか」
「そうよ。つまりは」
「ああ、実はですね」
 彼の方からの言葉だった。
「私は確かに一族の者ですが」
「傍流とでもいうのかしら」
「その通りです。私は本家筋ではありません。御当主様の執事長でありますが」
「執事長ね」
「そしてです」
 そのまま沙耶香に対して語ってきた。
 
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