黒魔術師松本沙耶香 客船篇
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28部分:第二十八章
第二十八章
「鎌が!?」
「夢の中では魔術はとりわけ効果を強くする場合があるわ」
沙耶香はその仮面の女に告げた。
「それが今というわけよ」
「何故こんな」
「何故もこんなもないわ」
言いながらであった。彼女の後ろに来た。まるで影の様に客室の中で会っていたその彼女の後ろに来ていた。彼女はその間に向こうの部屋への扉に入りそのまま姿を消してしまった。
「あっ、私の・・・・・・」
「私のではないわ」
また言う沙耶香であった。
「貴女はここにいてはいけないのよ」
「いえ、私は」
「貴女のいるべき世界はここではないのよ」
その仮面の女への言葉を出し続ける。
「そう、ここではないのよ」
「では一体何処が」
「仮面を外すのよ」
沙耶香はその仮面を一瞥させ右手を下から上に一閃させた。するとそこから一輪の黒薔薇が放たれ仮面の額を撃った。するとそれにより仮面は縦に真っ二つに割れたのであった。
「あっ・・・・・・」
「素顔を出して」
仮面が割れるとだった。そこからは豊かな黒髪に大きな切れ長めの二重の流麗な目を持っておりその右目の目尻に泣き黒子がある女が出て来た。妖艶かつ優しげな顔をしている。その顔をした美女の顔が出て来たのだ。見ればその顔は客船の彼女に非常に似ている。左右の鏡にもその美しい横顔が一斉に現われた。
「綺麗な顔ね」
「私は・・・・・・」
「あの人は幸せにやっていかなければならないのよ」
沙耶香はその女性を見ながら静かに告げた。
「だから貴女はもうあの人のことは忘れて」
「そして」
「貴女のいるべき世界に行きなさい。そう」
言いながらであった。そっと彼女に歩み寄りその唇に接吻をした。すると彼女はその目から少しずつ涙を流し。その涙とともに姿を消していったのであった。
彼女が消えると共に宮殿から船室に戻った。沙耶香はその手に一枚の写真を持っていた。そこにはあの美女が美しい赤いドレスを着てその中にいた。
丁度彼女もベッドの中から目覚めたところだった。沙耶香はその写真を彼女に見せてそのうえで尋ねるのだった。
「この女の人は?」
「姉さんです」
「そうだったの」
「よく似てると思われますか?」
「ええ、とてもね」
こう彼女に答えたのだった。
「まるでもう一人の貴女みたいに」
「主人の前の妻でした」
彼女はこのことを沙耶香に語るのだった。
「ですが」
「亡くなられて貴女が、だったのね」
「古風な話ですけれど」
「けれどある話ね」
「はい・・・・・・」
配偶者が死ねばその次の夫や妻にその配偶者の兄弟姉妹がなるということは昔よくあったことだ。彼女はそうして夫と結ばれたというのである。
「姉は主人をとても愛していました。私が主人を愛するのと同じ位」
「わかったわ」
沙耶香は彼女の言葉を聞いて小さく頷いてみせた。
「事情は」
「左様ですか」
「けれどこれで終わったわ」
「全てですね」
「ええ、安心していいわ」
こう彼女に告げるのだった。
「お姉さんのことは忘れなさい」
「全てですか」
「いい思い出だけ覚えていればいいのよ」
これが彼女への沙耶香の言葉であった。
「それだけね」
「ではそれ以外は」
「忘れなさい」
またこの言葉を出してみせたのである。
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