黒魔術師松本沙耶香 客船篇
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19部分:第十九章
第十九章
「こうして同性とね」
「いいことよ。同性愛が罪悪というのは」
「あれは間違いなのね」
「我が国ではないわね」
目を細めさせての言葉である。これは歴史にある通りだ。実際に我が国では同性愛で捕まったり罪に問われた者は有史以来一人もいない。これが我が国である。
「それに。罪でも」
「いいのね」
「罪は犯すからいいのよ」
その細めさせた目と共の言葉だった。
「余計にね。それに」
「まだあるのね」
「甘い罪であればあるだけ」
沙耶香はこうも言ってみせるのだった。
「いいものではなくて?」
「そうね。その通りね」
「不義が許されないなら」
不倫をより艶やかに言ってみせたのである。
「それとは別の罪を犯せばいいのよ」
「それがこれ」
「そうよ。これがね」
同じ女を相手とすること、まさにそれだというのである。
「男の人は御主人だけよね」
「絶対にね」
「ならそうするといいわ」
それを認めたうえでの言葉だった。
「けれど女は」
「誰でもいいのね」
「こちらの罪は犯せば犯す程甘いものだから」
「わかったわ。それじゃあこれからも」
「そうしなさい。それじゃあ」
「ええ、また」
ここでようやく顔を戻した。そのうえで部屋を後にした沙耶香だった。その身体に女医の濃厚な香りをまとったまま。退廃を満たした微笑みを浮かべて去るのだった。
この日はこのまま眠った。そして朝になるとまずシャワーを浴びることにした。ところがここで部屋のベルが鳴ってきたのである。
清らかな音だ。朝の目覚ましとしてはかなりの気品ある音だ。沙耶香は一糸まとわぬ姿でベッドの中から出ながら。その音に応えるのだった。
「どうぞ」
「入って宜しいですか?」
「ええ、いいわよ」
昨日のメイドであった。彼女の声だった。
沙耶香はその声に応えてみせたのである。声にはもう微笑みが宿っている。
「どうぞ」
「はい、それでは」
こうして彼女は部屋に入った。しかし今度は一人ではなかった。
もう一人いたのだ。今度は黒髪の長い小柄な少女だった。やはりメイド服を着ていてその人形を思わせる楚々とした顔を彼女に向けていたのである。
「一人じゃないのね」
「駄目でしょうか」
あのメイドがおずおずと彼女に尋ねた。
「ベッドメイクは一人では」
「この部屋にお付きのメイドは一人じゃなかったのね」
「実は」
彼女の目が少し泳いだ。
「そうなりまして」
「そうなの。まあ一人より二人ね」
そのギリシア彫刻を思わせる見事な肢体を二人に見せながらの言葉である。髪は今は解かれその長い姿で胸や裸身を覆っている。だがその見事な大きさと形の胸も豊かな尻も引き締まった腰もだ。全てその形は二人に対して見せ続けているのである。
「その方が何かとね」
「いいですよね」
「その娘は知っているのかしら」
沙耶香は最初のメイドに今度はこう尋ねた。
「もう」
「はい、実は彼女は」
「そうなの。そちらの娘なのね」
「親友同士でして。私は今までそうした趣味がなかったので」
「いいわ。わかったわ」
沙耶香は彼女の言葉を受けて頷いてみせた。
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