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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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九校戦編〈下〉
  九校戦十日目(2)×本戦決勝トーナメント戦一高対九高と師族会議からの通達

ホテルから会場にやって来た俺は、深雪らがいる所を探したら最前列に近い席にていつものメンツらと蒼太に沙紀が一緒にいたのだった。もう俺の事について詮索されないだろうと思うし、無頭竜を潰したのでもう厄介事は無くなったからだ。

それと第一高校の奴らにとっても、もう俺らの事をただの補欠やら二科生だからと言った差別を受けないで済んだ事が一番大きく変化しただろう。

「お兄様、皆がお待ちしてましたよ」

「待たせてすまないが、選手入場のようだな」

「それよりさ~、一真君は昨日の夜どこ行ってたの?あたし達、九校戦も気になるけど一真君の行動が気になっちゃったのよ」

「あーそれについてはこの場では話せないな。人気が無い所なら話してもいいが、本来なら守秘義務が発生する」

そう言いながら蒼太と沙紀がいた席付近に座ったが、決勝トーナメント第一試合は第一高校対第九高校。奇しくも新人戦と同じ組み合わせとなっていたが、九高にとっては雪辱戦の意識が高いのか選手三人揃って気合の入った表情をしていた。

それに対して一高の三人は、いつも通りに三者三様だった。泰然と構える会頭、どこかどぼけた雰囲気を出している辰巳、生真面目な表情で相手チームの挑発的な視線に応戦している服部。いつもと変わらぬ姿は、俺らが新人戦で戦ったようなどこか頼もしさが感じ取れた。

「俺達もそうだが、安心感やらがある様子だ。ま、俺対あの三人であっても勝てる要素はあるけどな~」

「そうですね。一真さん達もとても立派でしたし、例え魔法師が何人居ようが勝てると思います」

「俺と幹比古も現代魔法を使っていた訳じゃないもんな~」

「そうだねレオ。ただでさえガイアメモリといういアイテムを使って、エレメンツ使いである一真と同等の力を発揮出来たからね」

俺らの余裕振りを見た蒼太と沙紀だったが、それは事実だと受け取ってから試合開始された。フィールドは『岩場ステージ』となり、始まりのブザーと共に一高陣地から服部が飛び出して行く。俺みたいな規格外な速度程では無かったが、跳躍と脚力だけでは出せないような速度を出して敵陣へと突き進む。対して九高の動きが鈍かったが、剥き出しにされていた闘志だと九高に勝っていただろう。

先手を取ったのは一高の方で、気合の入り方ならば九高が先制攻撃をしていたはずだ。予想を越えた突進により、対応に迷いが生じる。突出したオフェンスである服部に集中攻撃と数の優位を確立させるかだったが、その停滞を狙った事で服部は自陣でもたついている九高三人に魔法を放った。

上昇気流と共に白い霧が九高チーム頭上に生じてから、霧の濃度が増した所で自らの重さに耐えかねた如く地上へ向かい崩れ落ちたと共にドライアイスの雹が降り注いだのだった。

「あれは収束・発散・移動系複合魔法『ドライ・ブリザード』のようだな。七草会長が早撃ちの時に使った魔法の原型に過ぎんが、空気中の二酸化炭素を集めてドライアイスを作ってから、凍結過程で余った熱エネルギーを運動エネルギーに変換してドライアイスを高速で射出する魔法だ。気温が高い程弾速が増す」

「ヘルメットを着けているので指先で摘まめる程度の礫で大怪我する事はありませんが、何発も続けて同じ所に命中させれば軽い脳震盪が起こります。なので戦闘不能を意味しますから、相手選手の一人が頭上に三人をカバーする魔法シールドを展開したようです。落下速度をゼロにする仮想障壁ですが、私ならシールドビットにより防ぎますね」

選手が張ったシールドにより、速度はゼロにしたものの空中に静止した後はそのまま重力に従って落下する。ドライアイスは周辺一帯の空気をも凍らせる事で、水蒸気を凝結させて霧雨が降り注いだ。地上から選手上まで上昇したまま、石灰岩の上まで行った事で霧雨は二酸化炭素を吸収して炭酸ガスを溶かし込んだ霧となった。この霧によって、九高陣地一帯から中々拡散する事も出来ないまま別選手がドライ・ブリザードの副産物を吹き払おうとした。

だがそれよりも速く魔法発動させた服部は、土砂粒子を細かく振動させる事で生じる微弱な摩擦電流を土砂の電気的性質を同時改変する事により、増量し地表に放出する術式。これは新人戦八高が使ってみせた電子強制放出と同種魔法だが、種類は同じでも威力と洗練度が桁違いとなる。

九高の魔法防御の境界線をなぞるような三日月型に、幅五メートルにも及ぶ地面発光によって、電光が無数に絡み合って明滅する事は無いがまるで蛇のように回り押し寄せる大群。

「砂混じりの地面も疎らに生えた草や無造作に転がっている岩も、二酸化炭素が溶けたお陰で導電性が高まった様子だな。防衛戦の外側に電気の蛇は、魔法に関係なく地面を伝わりながら九高選手を襲うコンビネーション魔法である『這い寄る雷蛇(スリザリン・サンダース)』だな」

「コンビネーション魔法?」

「複数の魔法工程を一つの術式に纏め上げた魔法ではなく、複数の魔法がそれぞれに生み出す現象に組み合わせた個々の魔法総和よりも大きな効果を生み出す事が出来る魔法技術の事だ。飛び抜けて強力な得意魔法も他の追随を許さぬ処理速度も、他人の真似など出来ないマルチキャストも持たない代わりに多種多様な魔法をどんな場合でも確実に繰り出す安定性が服部副会長の持ち味だと推測する」

その強みでもあるが、状況に応じた多種多様な魔法を組み合わせて威力を高めるコンビネーション魔法は服部の真骨頂が最大限に発揮された技術とも言えた。九高三人の内の一人が、空中へ跳び上がって電流から逃れた様だ。

シールドを張っていた選手は、跳躍魔法に切り替えようとしても一歩遅かった。電光が九高選手の足に絡み付く事で、炭酸ガスを含んだ霧は選手の身体に付着していたが突風魔法を準備するも、霧の滴を吹き払った事で電撃を弱めたがシールドを張った選手は『スリザリン・サンダース』を喰らった。

「防護服とセットになったブーツ自体は絶縁加工されているが、スーツ本体の絶縁は簡易となっているので喰らったようだな」

「電撃を弱めた選手も片膝付いている様子」

「あのままの態勢でデバイスに指を走らせていますが、空中へと逃げた選手がまるで透明なハンマーで叩き殴られた様子だけど」

「あれは単一系統術式での卓越した出力と言う干渉強度を誇る辰巳先輩が繰り出した事で、瞬間的に下方法へ重力を掛けて敵選手を地上に叩き落としたのだろう。その間に敵選手は服部副会長に向けて、圧縮空気弾が向かうが十文字会頭の『反射障壁(リフレクター)』で守られたらしいな」

仲間の撃墜に気を取られていたが、服部に向かって行った圧縮空気弾を撃ち出した相手選手。水中と宇宙を除いたら、どこにでもある空気は元々戦闘用魔法媒体としてはポピュラーなものだ。攻撃手段と殺傷性を制限するルールがあるので、モノリス・コードでは圧縮空気弾や鎌鼬が多用される傾向だ。服部が届く前に見えない壁に四散したが、十文字家のお家芸であり鉄壁という二つ名がある。

反射障壁(リフレクター)で守られた後、服部は次の魔法を展開した。九高から一切防御をしてないが、敵の攻撃を全て会頭が防いでくれる前提となった魔法式の構築。地面から砂が舞い上がりながら、風が砂を巻き上げる。前方十メートルから生じた砂埃は突き進むにつれて量と速度が増し、砂嵐の濁流となって敵選手に襲い掛かる事で試合終了のアラームが鳴った。

「最後に使った魔法は、加速・収束系複合魔法『砂塵流(リニア・サンド・ストーム)』だな。巻き上げた砂を核として、移動過程で密度を増していくように構築された広域攻撃魔法で打ち倒された様子だな」

「エレメンツ使いである一真君は出来る訳?スリザリン・サンダースやリニア・サンド・ストームは」

「出来ない訳では無いが、地の精霊王を俺という媒体で使えば出来る事だろうな。と言っても地面から電流を流すには、服部副会長みたいな事は出来なくとも『雷撃鮫(ライジングシャーク)』を創り出して襲わせるというのが俺の場合だな」

「なるほど。電気か雷系統のを鮫と言う具現化によって、さっきみたいな攻撃が出来るという事か。にしてもレベルが高いような試合だったが、一真にとってはどうなんだろうな?」

そう言っていたレオだったが、正直俺だとレールガンで終わらせてしまうからな。使用された魔法と使用方法については、俺も出来なくは無いがあのような戦い方をしないのでな。

別に俺は服部の事を低評価した訳ではないが、正式な試合で勝っているとはいえ手抜きをしたようにも見えたからな。正式な試合では出力を八~九割をセーブさせたからな、もしセーブされてなかったら風刃の舞で終わっていただろう。

「次はいよいよ決勝戦ですね」

「決勝戦までまだまだ時間があるけど、冷たい物でも食わないか?皆」

「賛成。アイスがいいな」

俺の提案に雫が応えたが、ほのかも無邪気に話し掛けて来た事で生徒会副会長の魔法技能が高い事は当たり前のように知っている。昨日の事で本来の力を使ったが、それに関しては言わないで簡単に答えるしかない。

今日は選手兼エンジニアとしてではなく、観客の一人としてここにいる。今まで邪魔してきた無頭竜も気に掛ける事は毛頭無いし、今は高校生らしく過ごした方がいいだろう。

「先程ワゴンの屋台が出ていたから、そっちで食べるとしようか」

「ええ、是非!」

少年三人と美少女五人、それが他人から見るとどう思うかは分からないが俺らはアイスクリームワゴンへと連れて行った。モノリス・コード決勝戦は『渓谷ステージ』となったが、俺らの時は天候丸ごと変えた事でのチート技を見せた事による雪山ステージと化していた。

ま、それはさておき蒼い翼から告げられた決定を伝える為に、真由美は選手控え室を訪れると、そこには四葉家現当主と七草現当主である四葉真夜と七草弘一が護衛者と共にいたのだった。

「お父さんとお母さん!何でここにいるの!?」

「いいじゃないか真由美」

「そうよ。それに真由美が伝えるのは、ただステージが決定したから伝言しに来ただけじゃないんでしょ」

単なる伝言役という生徒会長が務める事ではないが、この決定を伝える為だけなら真由美は自分で足を運んだりはしない。

「十文字君、いる?」

出入口のインターホンに話し掛けるとすぐに『今行く』という返事があった。少し時間が経過してから、克人が上半身タンクトップと下半身プロテクション・スーツ姿で、扉代わりのキャンパスをかき分けて出て来た所で弘一と真夜の事に気付いたのだった。

「こんな格好で済まんな・・・・四葉家現当主に七草家現当主までいるとは思わなかったのですが、この格好の事については申し訳ありません」

「気にしないで。別に裸って訳じゃないんだし」

「私らも気にしてはいないから、安心しなさい克人君」

克人の身体から、微かなアルコール臭が漂って来た。飲酒な訳ではなく、消臭剤に含まれている僅かなアルコール分の匂いで、出て来るまでの間は真由美らと顔を合わせる為に汗の臭いを消した結果となった。

彼は特設フェミニストでも無いのが、紛れも無くジェントルマンだ。そういう気遣いをアピールしようとしない所が、克人らしい作法なんだと真由美らは思った。

「それで?」

急ぎの用を棚に上げて埒も無い事を考えていた真由美らは、改めて問われて我に返った。

「決勝戦のステージが決まったけど、ちょっといいかしら?詳細はお父さん達が言うらしいんだけど、付いて来てほしいの」

決勝だけならば今この場で一言だけなのだが、克人は何故や何とも問わずに黙って真由美らの背中に続いた。なお先頭は真夜と弘一の護衛者で、克人を連れて来たのは三日前に一真に相談を持ちかけた部屋であった。遮音障壁を形成したかと思えば、真夜らが端末を取り出して人払いと防音結界を張ったのだった。

「真由美の口よりも私らから言った方がいいと思って来たのだが、師族会議にいる私らの側近達から通達があったのだよ」

「そうなのですか?」

「という事は克人君は聞いてなさそうね」

「はい」

克人の答えは真由美だけだったら一言だけだが、ここには師族会議に出席している現当主らがいるからだ。本来なら師族会議用の暗号通信を解読には手間がかかるらしいので、短くない時間というより一人になる時間が必要である。試合の合間とはいえ、リーダーが長時間席を外して周囲に不審を招くのはまずいと十文字家は考えたのだろう。

と真夜と弘一がそう解釈したが、真由美と克人は他のチームメンバーだと立場が違う。生徒会長やチームリーダーという立場の違いではなく、社会的に立場が違う事であるが、真由美は現十師族直系であるが克人は十文字家次期当主と定められている。

「一昨日、一真様が一条将輝を倒した事は知ってますよね」

「・・・・それについては実際に見てましたが、それが何か?」

「十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在であり、十師族の名前を背負う魔法師はこの国の魔法師の中で最強の存在でなければならない」

「例え高校生のお遊びであっても、十師族の力に疑いを残すような結果を放置する事には許されない。という事が決定されたわ、ただし師族会議の者達は織斑家の後ろ盾が零家・四葉家・七草家・九島烈様と蒼い翼がいる事を知らない様子だったと言っていたわ。一昨日の試合がお遊びで片付けられるレベルではなかったという事だけど、つまり十師族の強さを誇示するような試合を求めているのよ」

真由美と克人はなるほどと言いながら、織斑家の事をよく知らない師族会議の者達にとってはこのような馬鹿馬鹿しい事を十文字家次期当主が処理するべきではない。

だが織斑家の事を知らない者にとっては、十師族では無い者が一条を倒してしまったので日本の恥となってしまう考えを持ってしまったからだ。それから克人はまるで『任せておいて下さい』と一言口にしてから決勝戦までの時間までにプランを頭に浮かべていた克人だった。 
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