黒魔術師松本沙耶香 人形篇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
5部分:第五章
第五章
翌日沙耶香は絵里に案内されその学園にやって来た。そこは東京の高級住宅街の中にある学園であった。
「ここだったのですか」
沙耶香はその学園の門でこう呟いた。
「まさかとは思いましたが」
そこは東京どころか関東全域でその名を知られたお嬢様学園であった。歴史も古く明治時代にそのはじまりがある。通う生徒達は何れも良家の子女ばかりであり今も沙耶香の左右を黒いブレザーにチェックのスカートとネクタイの気品のある女生徒達がにこやかに穏やかな言葉で挨拶を交わしながら校門に向かっていた。
「ここだったとは」
「もしかして驚かれていますか?」
絵里はそんな彼女の様子を見て何故そうなのかわからないといった顔を見せていた。
「昨日お話しましたけれど」
「学校の名前までは聞いていなかったので」
沙耶香はそれでもクールにこう返した。
「少し驚いただけです」
「特に驚かれることはないと思いますけれど」
彼女にとってはそうであっても沙耶香にとってはそうではないのである。だが絵里はそのことには気付いてはいないようであった。
「何はともあれまずは理事長のところに行きましょう」
「ええ」
沙耶香はそれに頷いた。
「私が案内致しますので。こちらですわ」
「わかりました。では」
絵里に導かれ校門をくぐった。そして学園に入る。学校の中は色取り取りの花と木々に囲まれ女生徒達の香が辺りに満ちていた。沙耶香はその中を進みながら校舎に入ったのであった。
校舎の中は意外と新しいものであった。沙耶香はその校舎を落ち着いた顔で見回していた。
「何か感じられましたか?」
「いえ、ここからは何も」
絵里の問いに答える。
「感じられませんね」
「そうですか」
「この校舎には何もないようです」
「ですがここの校舎に教室を持っている生徒も姿を消しています」
「一体何人程ですか?」
「今で七人です」
彼女は答えた。
「それが何か」
「いえ、数も関係する場合があるので」
沙耶香は言った。
「怪しげな輩が絡む事件はね」
「そうなのですか」
「あちらの世界の住人というのは変なことにこだわるところがありまして」
「変なことに?」
「そうです。例えば赤い服を着ている女の子だけを狙うとか美人だけを狙うとか」
「はあ」
「かと思えば無差別だったりします。まあ一概には言えないですね」
「随分と気紛れなんですね」
「人間だってそうですけれどね」
彼女はこう返した。
「けれどあちらの世界の連中は私達よりそれが強いですね」
「それは魔物だからでしょうか」
「そうです。魔物は我々とは何もかもが違います」
「頭の中もですね」
「そう、考えも。我々とは全く異なるのですよ。だから厄介なんです」
「では今回もすぐにはわからないでしょうか」
「それはこれから次第ですね」
二人は歩きながら話をしていた。校舎は白いが廊下は木製で黒い。沙耶香の服はそこに溶け込んでいる様に見えた。まるで影から浮き出ているかの様であった。
「私次第です」
「ではお願いしますね」
「これが仕事ですからね」
沙耶香は淡々とした言葉で述べた。
「そのかわりまた夜には」
「それは・・・・・・」
絵里はその言葉を聞いて俯いて頬を赤らめさせた。昨夜のことを思い出したのである。
「ふふふ」
沙耶香はそんな絵里の顔を見て微笑んだ。あの妖艶で何かに誘い込む様な笑いであった。彼女は絵里のそんな顔を楽しみながら教室を進んでいった。そして二人は理事長室に着いた。
「こちらです」
「はい」
絵里に案内され部屋に入る。そこは赤い絨毯が敷かれた綺麗な部屋でありその中央には黒檀の大きな執務用の机があった。右手の棚には無数の表彰状やトロフィーが置かれている。学校の常としてこうしたものは飾られている。その側には旗が掲げられている。校旗だ。
左手には日章旗があった。国旗も校旗も綺麗なものであった。非常によく手入れされていた。
そこまで見回したところで絵里が理事長に頭を垂れた。
「おはようございます」
「はい」
大人の女の声がした。だが執務用の机にはまだ誰もいなかった。声は左の方から聞こえてきていた。見ればそこでコーヒーを入れている妙齢の女性がいた。
ページ上へ戻る