俺と乞食とその他諸々の日常
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二十二話:お話と日常
天下三分の計とは、はやてさんの出身である地球において昔の賢い人が自分の主君に献言した天下取りの戦略らしい。
内容としては主君にとって強敵であった大国と一気に対抗するのは困難であるとし,ひとまず他の国と結び,同盟により大国と対抗して全土の平定を企てようとするものらしい。
どうして俺が突如としてそんなことを語っているかというとだ。
「聞いとらんよ、こないな伏兵!」
「いえ、伏兵と呼ぶには強すぎます。まるで伏兵がオリヴィエだったようなものです」
「圧倒的すぎるわ、あんな戦力」
「仕方ありません……。ここは手を組み共にミカヤさんを打倒しましょう」
「く、そうするしかないっちゅーわけやね」
俺の両サイドをしっかりと固めて守勢の構え見せるジークとアインハルトちゃん。
その視線の先にはまだ顔を赤らめた状態で俺を見つめてきているミカヤ。
の、巨大なおっぱいがあった。確かに圧倒的な戦力差だ。
大人モードのアインハルトちゃんとジークのおっぱいを合わせてようやく互角になろうかという他の追随を許さぬボリューム。
これでは同盟を結ばざる得ないわけだ。
「なんだい、二人共。そんなに睨んで来て。私が何かしたのかな?」
「白々しいことを。既にお分かりでしょう」
「私らの邪魔する気ならミカさんでも容赦せんで」
「何か、勘違いしているみたいだね。私は別に君達の邪魔をする気はないよ」
視線だけで人を殺せるのではないかと思うほどの気迫を込めた眼差しに対してもミカヤは涼しい顔のまま答える。
面の皮が厚いというか、肝が据わっているのは流石と言う他ない。
「では、何が目的なのですか?」
「嘘は許さんよ」
「何、いじるべき友達が居なくなるのは寂しいから私の手元に置いておきたいだけさ」
自分勝手この上ない理論を一切悪びれた様子も無く語るミカヤに思わず戦慄してしまう。
どうして俺はこんなやつと友達をやっているのだろうかと、真剣に思い悩むも答えは出て来ない。
「お前は俺を何だと思っているんだ」
「おもちゃ……かな」
「前々から思っていたが最低だな、お前」
「君程じゃないよ、リヒター」
「よせ、テレるじゃないか―――とでも言うと思ったか!」
俺はお前程最低な人間になった覚えはない。
そんなことを心の中でぼやいていると両サイドの二人だけでなくこの場にいる全員が俺に向けて胡散臭そうな目線を送って来る。
女性たちの冷たい視線。効果は抜群だ。
「こうやって君を虐めている時が私にとっては何よりも幸せな時間なんだ……当たり前が一番というわけさ」
「良いこと言っているように見えてやっていることは下種のそれだろ」
「仮面を外した私に怖い物は何一つない」
「ドヤ顔で言うんじゃない」
もはや隠すことは不可能だと判断したのかノーヴェさんの前で堂々と素の自分をあらわにしているミカヤ。
ノーヴェさんの方も、もう慣れたのか特に気にすることなく料理を食べている。
どうせなら俺を開放するように言って欲しいがそれがないのが悲しい所だ。
「例え、おもちゃ扱いやっても渡さへんよ!」
「手元に置いておくというのはツンデレですか? それともヤンデレでしょうか? どちらにしろお兄ちゃんは私の様なクーデレが好きですので需要はありません」
「なぜ、そのことを!?」
「妹ですから」
至極当然とばかりに真顔で答えられて思わず、なら仕方がないなと納得してしまいそうになった自分を殴りたい。
それとアインハルトちゃんはクールではあるがクーデレではないと思うのは俺だけか。
「その反応という事は……事実なんやね?」
「ほほう、リヒターはクーデレ好きか……これで弄るネタがまた増えたよ」
「しまった!」
予期せずして情報が漏れてしまったことに焦りを覚えるが時すでに遅し。
目を光らせるジークやミカヤだけでなくヴィヴィオちゃん達にまで俺の弱点が伝わってしまう。
誰か、誰かこの場を収めてくれ…ッ!
「はい、はい。リヒター君を虐めるのもおもろいけどそろそろ本題に入ろっか」
はやてさんが壊れかけた場の空気を直して本来の目的である話に持っていく。
そして、俺に対して意味あり気にウィンクしてくる。俺は助けられたのだ。
その事を理解した俺の口からは自然と言葉がこぼれてくる。
「あなたが神か?」
「後日? 貢物? 持ってこいやて?」
「あんたなんか、神じゃない! クズだ!!」
折角感謝したのに、報酬として贈り物を持って来いなんて腹黒い。
やっぱり俺にとっての神はなのはさんしかいないらしい。
『バスケがしたいです……』並みの膝の付き方をした俺を放置してシリアスな話は進むのだった。
話を聞く限りアインハルトちゃんのご先祖である覇王イングヴァルトとジークのご先祖様の一人であるヴィルフリッドは友人だったらしい。
仲が良かったらしいのだがどうも聖王女オリヴィエが『ゆりかごの王』になった件から疎遠になり色々と複雑な感情があったらしい。
……今となってはそれ以上の感情があるから余り気にしてないらしいが。
「それにしてもなんだかすごい話を聞いちゃってる気がするんですが……」
「貴重なお話ではあると思うんですが……」
「まあ、これでも食べて落ち着け」
『モゴッ!?』
一般庶民として話について行けずにぽかーん、と口を開けているミウラちゃんとエルスの口の中にケーキを一欠けらずつ放り込んでみる。
一瞬むせそうになりながらもケーキを飲み込む二人を尻目に俺もケーキを食べる。美味い。
「ビックリするじゃないですか、リヒターさん」
「相変わらず、シリアスには向きませんね……」
「つい、投げ込みたくなってな」
文句を言ってくる二人を軽く流してアインハルトちゃんを見る。
やっぱりというか、ジークみたいに先祖の記録に苦しんでいたんだな。
できることなら傍迷惑な先祖を一発殴ってやりたい。
「すいません。私にもお二人のようにケーキを下さい、お兄ちゃん」
……やっぱり殴らなくてもいいかもな。なんというかそこまで堪えていないように見えるし。
取りあえず、可愛らしくあーん、と口を開けるアインハルトちゃんにケーキを一切れ食べさせてやる。
表情の変化はないが頬を赤くしながら食べる姿が可愛い。
「う、私も……あ、あーん」
「どうしたジーク? 別に虫歯は無いぞ」
「リヒターのアホッ!」
自分もとばかりに口を開けてきたジークに真顔で返してやると何故か罵倒されてしまう。
勝ち誇ったようなアインハルトちゃんの顔が魅力的だ。
まあ、俺もそこまで鬼じゃない。目を潤ませていかにも怒っています的なジークの口に俺のフォークごとケーキを突っ込んでやる。
「わふっ!」
「どうだ、美味いか?」
「か、かかか、間接キス……ふぎゅ」
「ジーク! しっかりしなさい!」
ボン、とでも効果音が付きそうな勢いで頭から煙を出しパタンと倒れるジーク。
ヴィクターが声を掛けるが本人はトマトのような顔ながらも至って幸せそうに眠っている。
「分かっていて弄ぶなんて……悪い男です」
「失敬だな、コロナちゃん。俺だって相手ぐらい選ぶさ」
「チャンピオンを何だと思っているんですか?」
「愛すべきおもちゃ」
「……実はミカヤさんとお似合いなんじゃないですかね」
コロナちゃんが失礼なことを言ってくるがそんなことは認めない。
俺がミカヤと似ているわけがない。
俺はジークにしっかりと愛情を注いでいるがミカヤは俺に愛情は注いでいない。
「ほら、コロナちゃんも君は私のおもちゃがお似合いだと言っているよ」
「アインハルトちゃん、助けてくれ」
「膝枕一時間で手を打ちましょう」
「ジーク、お前だけが頼りだ」
練習刀を引き抜くミカヤから逃げるためにアインハルトちゃんに頼ったのに何故か交換条件を出された。
俺の妹がこんなに計算高いわけがない。
このままでは埒が明かないので最終兵器ジークを呼び起こす。
ジークの耳元でボソリと呟く。
「………出禁」
「今ならなんでもするから許してー! ……あれ?」
「丁度いいところに起きてくれた。すまないが俺を守ってくれないか?」
「そ、そんな急に告白されても……」
「一体どう考えたらそうなるんだ?」
頬に手を添え、顔を赤らめるジークに思わずこめかみを抑える。
そして今更ながらに気づく―――俺の周りにはまともな女性が少ないと。
後書き
おまけ~ミカヤへ告白~
「……好きだ」
「ふむ、私も君のことが好きだよ」
至極真剣な顔で告げられた好きという言葉にも動揺せずにミカヤは冗談を返す。
どうせ、いつものように冗談だろうと、本気ではないと思って。
「冗談じゃない、俺は本気でお前のことが好きなんだ!」
その返答にリヒターは怒鳴るように返す。ミカヤは思わず怯えて一歩下がってしまう。
それを見て自分の失態を悟った彼は顔を歪めて出来るだけ優しい声を出す。
「すまない……お前を怖がらせるつもりはないんだ。だが分かってくれ、俺の気持ちを」
真っ直ぐに自分を射抜いてくる青色の瞳がどうしようもなく心臓を打ち鳴らす。
彼女は平常心に戻るために乾いて唾も出なくなった喉を鳴らす。
しかし、顔は予想外の事に紅潮したままでいつもの凛々しさは感じられず、乙女を思わせる。
「その……好きと言うのは、Loveなのか? Likeじゃなくて?」
「分からないのなら何度でも言おう。好きだ、愛してる。この世の誰よりも」
「そ、そうか……すまない、少し混乱している。ちょっとだけ待ってくれ」
「……分かった」
何かを耐える様に目を閉じその場で立ち尽くすリヒターの姿をミカヤはボンヤリとした目で見つめる。
金髪青眼で背も高く、顔立ちも悪くない彼は改めてみるとドキリとしてしまう。
自分は彼の事をどう思っているのか。落ち着いてそう考えるはずだったにもかかわらず、何故か体は彼に近づいていた。
止めようと思えば止められる。だが彼女には止める気が起きなかった。
目前に迫る彼の顔、そして触れ合う唇。驚いて目を見開く彼。
そこまでなって彼女はようやく気づく。
「なんだ……私も君のことが……大好きなんだな」
悪友として過ごしてきたが、彼と居るといつも居心地がよかった。
燃える様な恋慕に駆られることは無かったが彼が他の女性と居ると面白くなかった。
冗談で好きと言ってもどこか冗談のような気がしなかった。
今まで気づかなかったのがおかしい程に愛していたのだ。
「それじゃあ……俺と付き合ってくれるか?」
「ああ、喜んでだ」
満面の笑みで微笑みかける彼女を彼は強く抱きしめる。
痛みを感じる程だが今はそれが心地よい。
彼女は彼の耳元に息を吹き替える様に囁く。
「浮気は許さないからね?」
「お前以外は愛さないさ」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいよ」
甘い言葉をささやきながら彼女もまた、強く彼を抱きしめるのだった。
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