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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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九校戦編〈下〉
  九校戦九日目(7)×無頭竜幹部&ジェネレーター捕獲からのガサ入れ

響子が運転する電動車は、俺達がよく乗る車であり交通管制システムに誘導などはしていない。真夜中になる時間にて、横浜市内へと入ってから幸典らと別れた俺達だった。東に横浜港、北に二十一世紀末の現在でも繁盛を続けている横浜中華街を臨む高台に、二人を乗せた車が停止した。

「度重なる日中直接軍事衝突が何度もあったと聞いてはいたが、まさか現在でも繁盛している横浜中華街を見るとは思わなかった」

「・・・・敵国の工作員がウジャウジャいるって分かってるのに閉鎖も検問もしないなんて、政治家は一体何を考えているのかしら」

「あの街は本国の圧政から逃れた華僑の、本国に対する主要抵抗拠点の一つだと言うのが建前であり、わざと泳がせてますからね」

「そんなの嘘だと分かっていても、それが織斑少将がそう言うのならあくまで建前だと仰りたいのね」

「限度というのがあるかもしれんが、日本が勝ったとしても講和条約が締結させてない以上、日本と大亜連合は三年前から休戦状態と化している。法的には交戦関係が継続中ですが、工作活動の拠点だと言ってもいずれメスを入れますのが今ではない。こちら織斑だが、そちらは到着したか?」

『こちら捕獲部隊本部、現在ホテル付近に到着しましたのでそちらも作業を開始して下さい』

俺と響子は了解とだけ言っといて、通信機をはめたまま横浜ベイヒルズタワーに向かうので追うかのようについて行く響子だった。この都市で最も高い建造物で、今世紀半ばまで『港の見える丘公園』と呼ばれていたこの場所には、現在では横浜港とその沖合を一望出来る三棟一体の超高層ビルが建てられている。

市民からはベイヒルズの略称で親しまれているが、ホテル、ショッピングモール、民間オフィス、テレビ局の複合施設である。魔法師の親睦団体である日本魔法協会関東支部も、東京ではなくこのビルに置かれている。本部は京都にあるが、このビルは純粋に民間施設というのが建前に過ぎない。

ここには東京湾を出入りする船舶を監視する目的で、国防海軍と海上警察が民間会社に偽装したオフィスを置いている。魔法協会支部がこのビルに置かれているのも、有事の際の防衛手段というのがもっぱらの噂とされている。俺も響子も、噂ではなく事実だと言う事は蒼い翼やCBでも知っている事だ。

「響子、そろそろやってもらおうか」

「了解。ホントはフェルトらがやるはずだけど、それだと私の出番が無くなるからとても感謝しているわよ一真さん」

時刻は真夜中で、警備員がいる通用口ではなく内側からしか開かない非常口の脇に、響子は小型の情報端末を押し付けた。片方の手でデバイスを操作すると、外部からの入力端子もなく無線入力機能もないはずの開閉装置が導電率の分布を改変された壁面を通して送り込まれたハッキングプログラムによって、二人を出迎えるかのように扉が開いた。内部監視装置も響子のハッキングによって、俺と響子だけのみ無力化されていた。

横浜グランドホテルというのは、今世紀前半に香港資本によって中華街に建てられた高層ホテルだ。ニューグラウンドホテルの前身である同じ名前のホテルとは何の関係も無いが、最上階の一つ上の階にいる者達は客には知られてないブロックとされている。

存在しないはずの本当の最上階一室では、慌ただしく引っ越しの準備が進められていた。この部屋は、香港系国際犯罪シンジケートである『無頭竜東日本総支部』がいわば東日本における活動指令室として使われた部屋だった。そしてその付近に到着した幸典らは、色々と準備をしていた。

「横浜グランドホテルの経営をしている香港資本自体が、随分前から無頭竜に乗っ取られたと聞いていたがまさかあそこに国際警察で指名手配していた者までいるとはな」

「そのようだな海斗。犯罪活動の指令室となっていて、今は引っ越し作業をしているそうだぞ。引っ越し家具がある訳ではないが、主な荷物はコンピューターシステムに記録されていない極秘帳簿の類だろう。織斑少将が全ての幹部らをここまで転移させてから、ガサ入れをするからとても楽しみではある」

「厳重なセキュリティが施されたシステムに登載出来ない程秘密性が高い帳簿だからか、部下に荷造りを任せる訳ではないでしょうね。高級ブランドスーツを身に纏った壮年か初老の男達が、シルクのハンカチで汗を拭いているそうよ。よっぽど慌てている様子のようね」

「金銀宝石で煌びやかな指輪をはめた手で不器用に荷造りする姿は、余りにも似合わないよね~」

もちろんそれも没収するので、とても楽しみにしているしここに転移される時に魔法陣で動かなくしてから、電撃か薬で気絶か眠ってもらうつもりの様子である。なので軍医少佐である幸典は、すぐに刺せるように注射針をいつでも使えるように手元に置いてあった。それと当人達は笑いごとでは済まされない。

「おのれ・・・・このままでは済まさんぞ」

一人が手を止め、歯軋りが聞こえてきそうな声で呪詛を漏らした。

「それにしても、ジェネレーターが戦果ゼロで取り押さえられるとはな・・・・」

「想定外だ。まさか日本軍の特殊部隊がしゃしゃり出て来るとはな」

「お陰様で我々は夜逃げの真似事だ」

「一度勝利したくらいで増長しおって・・・・」

この場の誰もが心に秘めていた本音が表に出た事で、焦燥感に堰き止められていた愚痴の歯止めが利かなくなっていた。

「日本軍に対する報復はいずれ必ず果たすとして、それ以上に優先すべきはあの餓鬼の始末だろう」

「我々の計画をことごとく覆した生意気な子供か」

「織斑一真と言ったか?どんな素性の餓鬼だ?」

「それが・・・・詳しい素性が分からんのだ。調べがついた事といえば、氏名・住所・学校における所属と外見のみ。係累はおろか家族構成も不明、親の職業も会社員と言う以外の詳細は不明。日常的に必要となるデータ以外のパーソナルデータは一切判明しなかった」

「何だそれは?この国は世界的に見てもパーソナルデータのデータベース化が進んだ国だ。民間のデータベースを覗いて見るだけでも、それだけの情報しか取れないというのは可笑しいだろう」

「データがロックされているのではなく『織斑一真』に関するデータが組織的に消去されていると見るべきだろう。それ以外に考えられない」

無頭竜の幹部らが会話をしているのに対し、本人である俺は苦笑しながら通信機で聞いていた。そして発信者である同僚の顔をまじまじと見詰めて、そして無言で顔を見合わせていた。

「ただの高校生ではないのか?」

「あらゆる民間のデータベースを組織的に書き換えるとなれば、国家権力でも相当高いレベルの権力か権限が必要だ。あるいは国家の最高権力へ自由に介入出来るだけの影響力が」

「そう言えば民間人にすり替えた時もその餓鬼が、『ドウター化』の事を知っておりながら偽物と本物を見比べれる者だったと報告に上がっている。もしドウターの事を知っているとすれば、蒼い翼かソレスタルビーイングの関係者でしか思えない」

「私達はとんでもない餓鬼を相手しまったという訳なのか?ドウターの事を知っているのは、いくら日本軍でも知らないはずだ・・・・」

そのようにして荷造りの手が止まっていた彼らの耳に、突如とした苦痛かまたは苦鳴が届いた。部屋の片隅にぼんやりと立ち尽くしていた四つの人影は、東日本総支部幹部の護身道具として貸し与えられたジェネレーター。

外部からの攻撃を遮断する為、四種類の術式を担当する魔法発生装置の内の一つ、外壁の情報強化を発動していたジェネレーターが苦鳴の発生源だった。原因はすぐに分かり、望まずに理解したようだが南側の壁に大きな穴が開いていた事だ。

先程まで壁だった所に穴が出来ており、突き破られたのではなく切り裂かれたのでもなく砕けたのでもなく、鉄骨と鉄筋と鋼管を残してコンクリートが砂とセメント粉末になって一瞬にして崩れた。苦鳴は、情報強化魔法を破られた反動をもたらした苦痛によるものだが、苦しげな声が発せられたのは一瞬の出来事となる。幹部達が苦鳴の原因に思い当たったのは、後追いの思考によるもので無頭竜は単なる犯罪シンジケートではなく、魔法を悪用する犯罪組織。

「おやおや、幹部達はさぞ驚いている様子のようですな。烈」

「そうだな。幹部として取り立てられる為には、魔法師である事が条件なのであそこにいる者達全員が魔法師だと言う事もな。そして織斑少将の事を餓鬼だと言った事について、今更後悔しても既に遅い様子だな。魔法を使い魔法を認識出来るのは当然であるが、何が起きた事までは認識出来る様子だが流石のジェネレーターでも抵抗一つ出来ない事だろうな。玄信」

小型偵察機で幹部らを見ていた烈と玄信であったが、苦鳴を漏らしたジェネレーターの身体から、身体情報のエイドス・スキンが剥ぎ取られていく。魔法師が無意識に展開している、他者の魔法から自分の身体を守る情報強化の防壁であるのがエイドス・スキンと言うらしい。

イメージとしては、鎧が融け落ち蒸発したという表現の方が近いのかもしれない。次の瞬間、ジェネレーターの全身に、実体で有りながらまるで立体映像のようなノイズが走り、着ている服ごと輪郭が消滅した。

ジェネレーターがいた場所には、ポッと薄い炎というよりも青と紫と橙が混じり合った人魂の炎が、スプリンクラーが作動する間もなくフラッシュのように一瞬で消えたのだった。絨毯に落ちた僅かな灰だけを残して、ジェネレーターの身体は消え失せていた。

幹部達は度胆を抜かれて叫ぶ事も喚く事も出来ずにいたが、慄然とした表情で互いに交互に顔を見合わせる。そこに不意に電話が鳴っていたが、組織の中でしか使われていない秘匿回線からの呼び出し音だった。幹部の一人が恐る恐る受話器を取ったが、映像はなく音声のみ通話である事がパネルに表示される。

『Hello.No Head Dragon 東日本総支部の諸君』

スピーカーから聞こえてきたのは、若い男の声であるが声の主を知っている烈らはそろそろ掃討作戦が発動したと感じ取った。少し時間を巻き戻す事にしようか。俺と響子は、横浜ベイヒルズ北翼タワーの屋上に来ていた。ここにはテレビ局の放映アンテナと共に、無線通信の中継装置が設置されている。その中継装置に、響子は例の端末を押し当て、タッチパネルをあれこれ操作してた。

「・・・・ハッキング完了。無線通信は全てこちらに繋がるように書き換えたわよ一真さん」

「トレミーにいるフェルト並みにハッキングが早いですね。流石は『電子(エレクトロン)魔女(ソーサリス)』だな、月中基地本部にいるクリス並みとも言える。端末でのハッキングやクラッキングなら、こちらの方が早いですが術式どうこね回しても真似は出来ないよ」

「ありがとう一真さん。まあ術式だったらそう簡単に真似など不可能に近いけど、トレミー経由でのハッキング系統だと絶対にフェルトが早いわ」

「有線は切断済みだよな?繁留『既に措置済みだよ一真さん』なら大丈夫だな。ところで諸君に聞きたい事があるのだが、狙撃銃で容姿を見れる訳だがどういう容姿の方がいいと思う?」

ここにいる響子と待機している幸典達全員に質問してみた。俺の容姿は、現在黒の戦闘服にグラサン姿をしているがこのままなのか別の容姿にした方がいいのか。そしたら全員がそのままの格好で充分らしいが、一応選択肢を与えたが赤白龍神皇帝か大天使化にしたとしても本物の神様が粛清をするなら、そのままの容姿で名乗ればいいと言っていた。俺は通信機を付けたまま、響子から指示されたコードを端末から打ち込んで音声通信に切り替えた。

ここでグラサンから風除けのバイカーズシェードを取り出して目を覆った。何もない空間から取り出したロングタイプのデバイスを取り出すが、銀色の長い銃身を持つハンドガンタイプのフォルムを模した特化型デバイス。

今から使う力は『滅』『無効化』と転移魔法だが、撃った者は魔法陣で転移されて幸典達がいる大型輸送車内の拘束室に転移される。落下防止柵の手前に立って、左手で持った神の力を最大限使えるようにしたデバイスを向けた。銃口が向く先は、横浜グランドホテルだったが最上階にいる者達の様子を透視していた。

「二度目だが、あんなポンコツみたいなのが『ジェネレーター』か」

「ポンコツ呼ばわりは賛成だけど、捕獲したのは初めてだったわ。特徴が情報部のレポートと完全一致していたから、あとは容姿が完全にとある映画に出てくるサイボーグよね」

ベイヒルズの屋上からグランドホテル最上階までは、直線距離で一キロ超であるが俺の目がスコープ代わりとなっているので照準器などは必要ない。それと実弾銃ならばサイレンサーを装着しているが、こいつは神の力を最大限使えるように調整した端末の為なのでサイレンサーも必要ない。

響子には、別の端末から俺が見ているモノを映し出す事が出来る端末で見ていた様子。それに室内に何人の魔法師がいて、その内何体がジェネレーターであるかまでもが判別可能だからだ。

「自我を奪われた魔法発生装置。兵器として開発された魔法師の成れの果てではあるが、あんなポンコツジェネレーター無しでも俺らは充分使える優秀な部下達がいる」

「そうですわね。私達にはヴェーダや自立支援型AIゼロや裏方である者達がいますし、今更ジェネレーターがいたとしても私達がサポートすれば機械以上の力を発揮しますでしょう」

魔法師の皆が皆、兵器に甘んじている訳ではないが不適当な発言では無さそうだった。ジェネレーターの在り方と優秀な部下とでは性能以上の力を発揮する事で、どっちがポンコツかは見て分かる。生体兵器など必要性がない我らにとっては、優秀な部下+IS部隊と機械部隊であるオートマトンがあるだけでも充分だ。この装置を破壊するのは別に構わんが、一応機能停止させてから捕獲が目的とされている。

俺の力を最適化されたデバイスの引き金を引いた事で、軍事機密以上の機密である『滅』と『無効化』と転移魔法の三つを一つの魔法として使った。コンクリートの外壁を原料の粉末ごと消滅した事で、媒体となった壁に物理的な穴が開いた事で外部からの魔法干渉を妨害する閉鎖の概念にも穴が開く。視界は先程よりも良好となって鮮明に見えた室内は、発動中の魔法を強制的に破られてショックを受けたジェネレーター。

「幸典、そろそろ始まるようなので準備は出来てますね」

「ああもちろんだ。俺もだが海斗や大地らも取り押さえるのを手伝ってくれ」

「それに普通なら魔法が破られたからと言って、魔法師にあそこまでダメージが返る事はないわよね。自分の意志で魔法を中断・中止出来ない為の弊害なのかもしれないけど、観測事象を冷静に分析する一真さんの攻撃意志というより殺意はとても強いわよ」

「一人のジェネレーターが生み出した五人の幹部を覆い守る領域干渉とは別に、三体のジェネレーターが自分を守る領域干渉のフィールドを識別しているみたいだけど。一真さんからしてみれば、引き金を引いた事で外壁の消滅によるダメージを受けたジェネレーターの『領域干渉フィールド』と『エイドス・スキン』と『肉体』の情報を読み取る事で無効化が発動したわね」

大型輸送車内にいた海斗、幸典、ミーガン、ステラの順で言っていたが大地は俺らが見ていた映像を見ていた。三つの情報を読み取ってから、発動する力は三工程で行われていた。標的の肉体を守っていた領域干渉と情報強化を無効化させてから、標的の肉体を転移魔法陣に包まれて消し去った。

転移先で待っていた幸典らは、魔法陣で羽交い絞めになっていたジェネレーターを機能停止に追い込む事で完全に停止をさせてから動かないように拘束をした。一体目の機能停止完了と言う報告を聞いた俺と響子は、三つの力を三工程で発動した力によって魔法力で守られているはずの魔法師の肉体をも、消滅と無効化によって消し去ったと見えた。

「相変わらず『滅』と『無効化』は凄いですわね一真さん」

「まあな。この力は俺しか使えない神の力だから、いくら魔法を技術化出来たとしても俺の力を技術化するのは不可能だろうよ。さてと狩りする前に最後の審判という声でも聞こうかね」

響子が発した事で、改めて『滅』と『無効化』が凄い事だと漏らしていた。そして待機状態となっていた通信機を情報端末の音声通信を立ち上げたのだった。中継器のハッキングにより、専用回線の認証システムは意味を失ってしまった。

「Hello.No Head Dragon 東日本総支部の諸君」

俺は声音を自然な口調で話し掛けた。こうして幹部らが電話を取った事で、戸惑いを隠せぬ顔で同僚へと振り返る。時間を遡ったので、今の現状を把握出来るがこの回線は幹部同士の通信用であり、本部との通信用の専用回線として使われていたからだ。

支部長、それか総支部評議員クラスの幹部で無ければ組織の構成員であっても使用不可である。存在も知らない通話回線状態となったので、無頭竜には十代から二十代の幹部はいない。

「・・・・何者だ?」

問い掛ける声が訪問のような口調ではないのは、先程目の当たりにした人体消失によって心に恐怖心が芽生えたのだった。

『先程貴様らが言っていた織斑一真という餓鬼だが、随分と世話になったのでその返礼に来た。有難く思え』

声は大人だったが、口調がまるでこれから消し去りますよ的な殺気が籠った口調だった。セリフと共に幹部を守っていた領域干渉フィールドを無効化で無力化した。電話に出ている男だけではなく、意志を持たぬジェネレーター以外の全員が反射的に部屋の片隅を見た。

視線の先で薄い炎が燃え上がって消失した事で、続いて熱源があったのかスプリンクラーが反応して高圧の霧が天井から吹き付けられた。先程までいたジェネレーターは消失したが、裏では幸典らがいる所まで転移されてから機能停止まで追い込む事で完全停止した。

「どこだっ?十四号、どこからだっ?」

幹部の一人がひっくり返った声で叫んだが、魔法師であれば事象改変の反動で何に対してどこから魔法が使われたのかを知覚する事が出来る。人体を消失してしまうような強力魔法がこれ程の至近距離で作用したならば、それがどこから放たれた魔法なのか本来ならば分からないはずはない。正確な距離は掴めなくとも、少なくともどちらの方向に術者がいる程度の事が分かるはずなのに対して、この幹部はただ喚く事しか出来なかった。

動揺を知らないジェネレーターは、同類が壊されても怯えてパニックにもならない。十四号はのっそりとした動作で、壁に穴を開いた穴を指差す。その穴の向こうというのは、この街では一番高い場所である横浜ベイヒルズタワー。別の幹部が慌てて狙撃銃を手に取り、光学・デジタル複合スコープに目を当てて倍率を上げて行く。ベイヒルズ屋上にて、西に傾いた上弦の月光に半身を浮かび上がらせた一人の男が立っていた。

倍率を更に上がると、バイカーズ・シェードに隠された人相は分からなかったが先程名乗ったので、無頭竜の策を潰していった餓鬼だと分かると狙撃しようとした時だった。こちらの引き金の方が早かったのか、弾け散ったスコープの部品で眼球を傷付けられた。片目を押さえて呻き声を漏らす同僚を気に掛ける余裕はなかった。

「十四号、十六号、やれ!」

ジェネレーターに反撃を命じる声は一人のものではなかったが、返ってきた返事は否定だった。

「不可能デス」

「届キマセン」

機械は出来る事しかやらないのか、そう否定した。どんな状況でも安定的に魔法を行使する事を目的とした改造ジェネレーターには、死に物狂いで限界以上の力を振り絞るという機能は無いに等しい。

「口答えするな!やれ!」

抑揚が全く無い声で口々に応えた十四号と十六号に対して、目を押さえながら膝をついた癇癪を破裂させる幹部。だがその答えは電話口からだった。

『俺がやらせるとでも思ったのか?』

十四号と十六号の身体にノイズが走ると、二人は転移先である機能停止された仲間と共に機能停止させられて捕獲された。

『ポンコツ道具に命令するのではなく、テメエらでやってみたらどうなんだ?』

そう言われては怒る気力もなく、肉眼では人がいると見分ける事が出来ない超狙撃ポイントにいるからだ。幸い肉眼で確認出来るのは、一真以外だとISを装着した者だろうな。視認や認識出来ない相手に魔法を届かせる程の技量を、この場の誰も持ち合わせていない。

一人が有線電話に飛びつき、別の男は携帯端末で必死に無線通話を繋ごうとしている。有線は断線させたシグナルが返ってくるのみとなり、情報端末の音声通信ユニットからは最初の受話器からの声だけしか聞こえない。

『そんな事をしても無駄だ。今その部屋から通信出来る相手は、この俺だけだ』

「バカな、無線通話まで・・・・一体どうやって・・・・」

『有線は既に切ったし、無線については電波を収束したのさ。ま、それを聞いたからと言っても貴様らが知る必要が無い事だな』

幹部らは意味を理解する知識があるだが、知識は絶望感を高めるとしか役割を果たさなかった。周辺にいる名は知らない幹部らを消失させたと思わせて、転移されながら電撃を浴びてから幸典達が待つ車両内に転送された。まだ気絶してない者には、幸典お得意の薬が入った注射で一発で寝かせた。

「もう一人来るぞ」

「う・・・・ここは?」

「ここは地獄の入り口だが、眠ってもらう」

そうして注射をどこでもいいので刺してから、即効性ので眠らせたのだった。

『ではそろそろ本番といこうか』

最後の審判かのような言い方で、片目を押さえた男と一人が出入口へ突進したり無線通信をしようとした男を一斉に転移魔法で地獄の入り口へと向かわせた。無頭竜東日本総支部の幹部である残された三人は、自分達の命が死神の手に握られている事を悟った。否、悟らずにはいなれなかった。

「待て・・・・待ってくれ!」

無頭竜東日本総支部の地位にある男が、受話器を奪い取って叫んだ。

『一体何を待てと言うのだ?』

思わず叫んだ言葉だったが、見逃してくれる相手ではないと察していた。人間をデータのように消し去るやり方は、情けがある人間がやる事ではなかった。

「わ、我々はこれ以上、九校戦に手出しをするつもりは無い」

『お前は何を言っているんだ?九校戦は明日で終わりだ』

「九校戦だけではない!我々は明朝にもこの国を出て行く!二度とこの国に戻って来ない!」

『お前みたいな者がそんな口頭約束をする権限何て無いと思うぞ?ダグラス=(ウォン)?』

名前を知られていた事に心臓が止まったかのようなショックを受けながら、(ウォン)は必死となって交渉をしようとしていた。

「私はボスの側近だ!ボスも私の言葉は無視出来ない!」

『ほう。何故そんな事を言えるんだ?』

「私はボスの命を救った事がある!命の借りは、救われた数だけ望みを叶える事で返すのが我々の掟だ!」

『その貸しで命乞いでもするつもりなのか』

二人分の視線が(ウォン)に突き刺さる。裏切りに対する憎悪と殺意がそこには込められていたが、それを気に掛ける余裕すら無かったから自分だけ助かろうと考えていた。

『その貸しは、自分の命を買い戻す為に必要不可欠何じゃないのか?』

「違う!そんな事をしなくても、ボスは私を切り捨てたりはしない!」

『お前にそれだけの影響力がある人間なのか?』

「そうだ!」

『ならそれを今から三つ数える間に証明が出来るのか?』

「それは・・・・」

『No Head Dragon・・・・頭の無い竜。その名はお前ら自身が名乗り始めたのではなく、リーダーが部下の前にすら姿を現せない事から敵対組織によって名付けた呼称とも言えるな。部下を直々に粛清する時も意識を刈り取って、自分の部屋へ連れて来させる徹底振りだとこちらが調べた情報だと聞く』

死の恐怖や消失の恐怖とは別種類の戦慄が(ウォン)を襲った。余りにも詳しく自分達の事が知られているので、自分達は一体何に手出ししたのか分からず仕舞いであった。

『貴様がそれだけの影響力を持つと言うのなら、当然首領の顔を見た事はあるはずだ』

考えている暇が無いので、生き延びる為には死神の気まぐれに付け入るしかなかった。

「私は拝謁を許されている」

『それでは首領の名前は何と言う?』

(ウォン)は口を閉ざしたが、それは組織の最高機密であり長年に渡り刷り込まれた恐怖と忠誠が、目の前の恐怖を凌駕した。しかしそれは僅かな時間でしかならなかった。

「ジェームス!?」

また一人、仲間が消失した事で人としての死をも許さぬ粛清。それは彼らの首領の手により下される、死者に対する冒涜と同じくらい悍ましいモノに思えた。

『今のがジェームス=(チュー)だったか。国際警察で死に物狂いで探している人物が、すぐそこにいたとはね』

「待て・・・・」

『次こそお前にしようか、ダグラス=(ウォン)?』

「待ってくれ!・・・・ボスの名はリチャード=(スン)だ」

『それは裏の名だろうに・・・・表での名前は何と言う?』

「・・・・孫公明」

『ではこれから聞く事で、お前への粛清についてが左右するかもしれんので正確に答えてくれよ?まずは住所だ』

香港にある高級住宅街の住所、オフィスビルの名称、行きつけのクラブなど聞かれるがままに(ウォン)は喋った。

「・・・・私が知っている事はこれで全てだ」

『こちらの質問もこれにて終了だ。ご苦労だったな』

「では、信じてもらえるのか?」

『そうだ。貴様は紛れもなく、無頭竜首領、リチャード=(スン)の側近のようだな』

打ちのめされた虚無感を漂わせていた(ウォン)の顔に、僅かな希望が浮かんだ。だがそれは絶望へと変わるカウントダウンだった。

「グレゴリー!」

最後の同僚と共に、完全に消失したかに見えたが今頃は海斗や大地が幹部らに逮捕状を見せてワッパをしている所だろう。その他の部下達は無頭竜の構成員を次々に逮捕している所なので、最後の一発で終わらせる事にした。

「・・・・何故だ!?我々は、命までは奪わなかった。我々は誰も殺さなかったではないか!」

と叫ばれてももうすぐで今回の任務は終了するのだが、最後に聞いた言葉を聞いた所である俺と響子。

『・・・・我々は誰も殺さなかったではないか!』

通信機から都合の良い理屈が聞こえてきたが、それは結果論にしか思えない。彼らは大量殺人を目論み、それを俺らで阻止した事もあるが大事な事を言う俺。

「お前らは目の前の命を散らそうとして来たが、先程粛清について左右するかもしれんと言ったがそれは嘘だ」

『何だと・・・・』

「お前らが何人殺そうが生かそうが、粛清対象であるのは変わらない。お前もドウター化が出来る以上、これ以上泳がせておく訳にもいかない。俺いや我は創造神黒鐵として、全てのドウターを排除するのが目的である」

『何故ドウターの事を知っている!そしてその名前を知っているという事は、CBか蒼い翼でしか知らない事だ。まるで悪魔のような力ではあるが、これが本物の力だと言うのか!?』

ドウターの事を知っている以上、野放しはこれ以上の事はしないでダグラス=(ウォン)の断末魔の声が聞こえたと共に捕獲完了という報告を聞いた響子だった。あとは警察関連の者達を無頭竜がいた最上階をガサ入れしたので、俺達の仕事はこれにて完了となった。

大型輸送車内には、ジェネレーター四体と無頭竜幹部ら六人を逮捕した事を玄信ら国防軍と国際警察と公安に報告。俺達の仕事は終わったからか、俺と響子らは撤収となってハッキングを元通りにしてから俺らの事を待っている者達の所へと帰還した。

ホテルに戻る前に、大型輸送車に乗っていた者にバイト代を渡してからそれぞれ帰還をし、響子はバイト代と共に深夜と真夜に深雪と共に情事をしてから寝たが、ちゃんと浄化をしたので奏の記憶を保持したままとなった。 
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