遊戯王ARCーⅤ 〜波瀾万丈、HERO使い少女の転生記〜
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十五話 ー不動の奥義、です。ー
前書き
権現坂サンダー、二連続。
そして、久々の弟君のターンッ、です!
前話あとがきにTFオマケをくっつけましたのでよかったらどうぞ。
「頼む……どうか、この俺に貴殿の技を授けてくれ!」
一同が唖然とする中、一人権現坂は両手と額を床へとつけ請い願う。
「え、あ、ちょっ……⁉︎」
自分へと向けられた土下座に酷く狼狽し、未だに顔を上げない権現坂を見る。
そして、なぜこういった事態になったかというと、二人のデュエルが終了し、間も無くの事だ。
権現坂と優希の二人は互いの健闘を讃えた後、権現坂は一人立ち尽くし浮かない表情を浮かべていた。
「…………優希」
名前を呼ばれ、振り返れば鼻が触れそうなほどに近い距離に権現坂が居た。表情を引き締め、何か決意を固めた漢のような表情の権現坂に圧倒され、冷や汗を流し、内心ヒヤヒヤとしていると権現坂は膝を屈しーー
そして、冒頭へと戻る。
◆◇◆
「え、ちょっ……!なんで、いきなりそんな事⁉︎」
手を前でワタワタと振りながら、未だに頭を床へとつけたままの権現坂へと尋ねる。
そして、曰く「人に物事を頼む以上、礼を尽くすのは必然だ」と。
しかし、考えてみてほしい。ここは権現坂の道場であり、勿論彼の門下生は大勢いる。そんな中で次期当主が友好関係にあると言っても、敵だった相手に土下座までして請い願うのは誰がどう見ても不味い。
「な、なんで……わざわざ私に⁉︎ていうか、とりあえず頭あげて」
「む、むぅ……これはすまん」
「このままじゃ、話もできないから」などと適当に理由をつけ頭を上げさせる。一応、土下座を解いてもらう事が出来たが、それでも背筋をピンと伸ばし律儀に正座をする権現坂。そして、権現坂は慎重な面持ちで語り始める。
「……優希、お主は聞いたと思うが俺は遊矢が一人の力で融合召喚を成功させ、俺自身も新たな地平を見つけるため、お前とのデュエルに望んだと。だが……」
見つける事は出来なかった、と。
そう呟き、首を横へ振る。
その表情は酷く辛そうに思えた。
「……情けない話、俺一人の力では不動の、俺のデュエルの新しい可能性を見つける事は出来なかった。……だが、一つそこへと至るヒントは、得られた。」
そう言った権現坂の瞳に映るのは、私。
「なんでさ⁉︎」
「どうか……どうか、この俺にお前の技術を学ばせてほしい!甚だ烏滸がましい願いだとは重々承知している。……これも一つ、人助けだと思って、頼む!」
頭を下げ、再び土下座しようとする権現坂をなんとか止める。
「そ、そもそも、道場の跡取りが土下座なんて……!」
「そんな事は関係ない。それに弟子達はきっとわかってくれるはずだ。」
そして、極め付けに
ーー親父殿に追い出されたとしても構わん
と。
「なっ……!」
思わず権現坂の決意の固さに絶句する。
どうしてここまで力に固執するのかはチートとも呼べる現実の知識を得ている私では分からない。
だが、理由の中には今後の道場の繁栄のためと、成長し続ける親友と肩を並べ歩くためがあるのだろうと予想する。そして、その気持ちは分からなくもない。
「……優希、俺からも頼む!」
「っ……、遊矢!」
周りの者が固まっている中、遊矢が一人権現坂の隣へと並び、腰を折り、頭を下げる。
遊矢の援護もあり、優希も断わろにも断れる理由もない事から、『わかった』と傾きかけた刹那ーー
「ならぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
ーー沈黙に包まれた道場に怒号が轟いた。
声の発生源には、憤怒の感情を露わにした権現坂道場の現当主であり、権現坂 昇の父親が居た。
「……親父殿!」
「馬鹿もん!仮にも跡取りが愚かな!他流派の、しかも今しがた一戦交えたばかりの敵に頭を下げ、乞い願うとは何事だ!」
鬼の形相でまくし立てる父親だが、権現坂の決意はそれくらいでは揺るがない。
「昨日の敵は今日の友だ。それに人に物事を願う時は礼を尽くすのが礼儀というもの!」
「それがどうしたというのだ!他流派を習うとは、言語道断!昇、お前は不動を継ぐ者としての意識があるのか‼︎」
「未来の権現坂の事を考えたからこその答えだ!このままでは、不動の決闘は時代の流れと共に取り残されるのがオチだ。だからこそ、俺は不動の真髄を極めようというのだ、親父!」
「ぐ、ヌゥゥゥ……。」
益々ヒートアップする親父殿。だが、権現坂とて一歩も喰い下がらない姿勢を見せる。そして、暫し両者にらみ合いが続いた後、私へと権現坂父の視線が向けられ、
「昇よ、お前の決意はよぉ〜く、わかった。
ーーーならば、デュエルだ!」
「エッ……!」
二度目の驚愕を露わにする。
「優希と言ったな。お前が師として相応しいかどうか……、この儂自ら試してくれるわ!」
なんで私が!、とまたデュエルかよ!という気持ちがせめぎ合う中、みこーんと一つの名案が思いつく。そして、未だに話の流れについていけていない奴らの中から、我が弟を発見し、思わずニヤリと笑みを浮かべる。
「徹ー?今デッキ持ってるよね?」
「ぇ?え、とりあえずあるけど……?あ、やべっ……!」
私の意図を察したのか目に見えて青くなる我が弟。
「レッツゴー、徹。お前がやれ!」
「…………え?えぇぇぇぇ!!」
長い沈黙の後、絶叫する徹。
それと共に焦ったように権現坂が口を開く。
「ま、待て優希!お前の弟はジュニアユースクラスではないのか⁉︎親父とて、実力者だ。さすがに無理が……」
「……ある、とでも?徹にデュエルを教えたのは私。とりあえず、LDSのトップクラス並みの実力はあるはずだけれども?」
とりあえず、沢蟹?だったかを完封したのだ。それくらいの実力あるはずだ。
「それに私とて山登りとガチのデュエルを連続でやるのは辛い。」
これでも女の子なんだから、とつけるのは忘れない。
「それにあんたの親父さんは私の実力じゃなくて、私の師としての実力をみたいはず。それに徹だって実力アップのチャンスなんだよ。」
所謂一石二鳥。いや、私も楽できるから一石三鳥か。
まぁ、なんにせよ徹の戦う意思がなければどうしようもないが……
「で、どうする?」
「…………」
数秒の沈黙の後、徹は「わかった」と首を振った。
「で、親父さんもいいよね?」
「ふん、構わん。だが、子供だからとて手加減はせんからそのつもりでかかってこい!」
「それは、こっちの台詞だよ!」
威圧的な態度を示す権現坂の親父に気圧されることもなく、むしろ強気の発言を返す徹。やる気は十分のようだ。流石、私の弟。
「いい心構えだ。ならば、来い。そして、心してかかってくるがよいわ!」
◆◇◆
「お、おい。優希、こんな大事な試合を……、徹の実力を疑っていないわけじゃないが任せていいのか?」
と塾長。いつもの熱血ぶりは何処へやら、額に冷や汗まで浮かべ訪ねてくる。
「確かに徹は年少組の中でトップだし、あいつには"儀式召喚"があるが……。だが、それだけじゃ、手も足もでないのがオチじゃないのか?権現坂の親父さんの全盛期はプロ並みの実力はあったんだぞ?」
心配そうに訪ねてくる口ぶりは、徹が儀式召喚の使い手を示している。否、儀式召喚しか知らないと言っているのと同じだ。
それもそのはず、普段はレベル6の儀式モンスターを軸にしたデッキしか使わせていないからだ。多分、皆の前で儀式以外を使ったのはLDSに見学に行った時以来。だからこそ、他の皆は知らない。との本当の実力を……!
「それでは、両者前に!アクション・フィールド、オン!『夢世界発動!」
徹と権現坂の親父さんの二人を起点に世界が創り変わっていく。
木目が美しい床は、土に変わり、天井は仮想の空へ。
瞬く間に、権現坂道場は雲海に浮かぶ一つの島へと変わる。
「いくぞ、小童!伝統に集いしデュエリストが!」
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最終進化系。アクション……」
「「決闘!!」」
定台詞と共にアクションカードが散らばり、デュエルがスタートする。
そして、ここのアクションフィールド『ドリーム・ワールド』は現在二人がいる大きめの島の他に背の低い木と、雲海の所々に浮かぶ小島しかないシンプルなステージだ。だが、このフィールド専用のアクションカードは徹のデッキにとって莫大なアドバンテージとなる。
「いくぞ、儂の先行!『超重武者 ワカーO2』を召喚し、効果発動!このカードを守備表示へ変更する!これでターンエンドだ。」
「僕のターン、ドロー!まずは……、儀式魔法『高等儀式術』を発動!デッキからおジャマ・イエロー、ブラック、グリーンを墓地に送り、儀式を執り行う!」
「っ!小童、貴様儀式召喚の使い手か!」
天から六本の光が降り、六角形を描く。そして、激しい閃光と共にサファイアの鱗を持った竜姫がその姿を現わす。
「謳え、勝利の詩を!光臨せよ、『竜姫神 サフィラ』!」
「出た、徹のエースモンスター!」
さっそくエースモンスターの登場に盛り上がりを見せる遊勝塾陣営。
「……ねぇ、塾長。そんなに心配?」
「あぁ、当たり前だ。俺とてプロだったがジュニアユースレベルが闘えるレベルじゃないぞ。」
塾長が元プロであったのは驚きだが、常識では測れないものもあるということはあるのだ。だから、私がやること一つ。
「徹!絶ッ対に、勝て!」
信じ、応援するだけだ。
そして、私の声援に応えるかのように、こくりと頷くと再び現権現坂当主へと向き合う。
「いきます!通常魔法『トライワイト・ゾーン』発動!墓地からおジャマ三兄弟を特殊召喚!さらにレベル2のおジャマ・イエローとブラックでオーバレイ・ネットワークを構築!」
「なっ!?徹が、エクシーズ召喚だと!おい、優希、どういうことだ!」
予想通り仲間内から驚きの声が上がる。
「あなたは混沌と迷世を切りさく知恵者!世界を化かせ、古狸三太夫!」
「ほぅ、姉が複数の召喚方法を使うのなら、その弟も同じか……。これは、侮れるのぉ!」
目の色が変わる。さっそく本気モードといったところなんだろう。だけど、徹はこれくらいでは終わらない。
「さらにチューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』を召喚し、効果発動!墓地からおジャマ・ブラック』。特殊召喚!そして、レベル2の『おジャマ・ブラック』にレベル3のチューナー『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロン召喚!殲滅せよ、『A・O・J カタストル』!」
「と、徹がシンクロ!?おい、優希、まさか!」
儀式、エクシーズだけでなくシンクロまで……!?と視線で訴えてくる一同。実際には、融合も教えているが。
そんな些細な事など構う事なくスルーする。
「さらに古狸三太夫のモンスター効果を発動します!オーバレイ・ユニットを一つ使用する事でフィールド上に存在する中で最も攻撃力の高いモンスターと同じ攻守の数値を持つ『影武者トークン』を特殊召喚します。最も攻撃力の高いのはサフィラの攻撃力2500。よって攻守2500の『影武者トークン』を特殊召喚!」
瞬く間に徹のフィールドに五体のモンスターが並ぶ。一部、おジャマな奴もいるが……。それでもこの光景は圧巻だ。
「行きます、バトル!カタストルでワカーO2を攻撃!」
「無駄ッ!ワカーO2は戦闘では破壊されぬ!」
「カタストルは闇属性モンスター以外と戦闘を行う時、戦闘を行わずに破壊する!」
「なにぃ!?」
ワカーO2の抵抗虚しく抹消される。
さすが、対属性兵器といったところだ。
「……こ、これって全部決まったら徹の勝ち、なの!?」
と、誰かが叫んだ。
勝ちどころか、死体蹴りオーバーキルなのだが、そううまくいくはずもなく……
「サフィラでダイレクトアタック!」
「させんわ!手札から『速攻のかかし』を捨て、効果を発動する!攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
やはり、かかしによって防がれてしまう。
徹も予想したいたようで、攻撃を防がれたことに動揺はない。
「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンド。そして、このエンドフェイズ時にサフィラの効果が発動されます。一つ目の効果を選択!カードを二枚ドローし、手札を一枚捨てます。」
「儂のターンッ!ドロー!小童、覚悟せい!貴様のカタストルとサフィラをリリースし、お前のフィールドに『溶岩魔人 ラヴァ・ゴーレム』を特殊召喚する!」
地中を破り、吹き出た溶岩が二体を飲み込みむ。そして流動するマグマは形を作り、溶岩のモンスターへと姿を変える。
「ひ、ひでぇ!相手のモンスターを生贄なんて!」
フトシが初めてしびれる〜、以外の台詞を言ったのは気のせいのはず。
「まだだ!儂は手札の『巌征竜 ーレドックス』と『超重武者 ビックベンーK』を捨て、効果を発動する!儂は墓地からビックベンーKを守備表示で特殊召喚する!」
「き、きた……、超重武者のエースモンスター!」
ラヴァ・ゴーレムの次は、高守備力を持つビックベンーK。まさかと思うが、親父殿のデッキはバーン要素を混ぜたものなのかと思い、聞いてみれば、頷かれた。
「ビックベンーKは守備表示のままで守備力を使いバトルできる。
行くぞ、バトルだ!儂はビックベンーKで影武者トークンを攻撃する!」
「っ!三太夫!」
古狸三太夫に担がれ、フィールドに散らばるアクションカードを取りに駆けるが親父殿のが一手早かった。
「粉砕せよ、ビックベンーK!」
「うわぁぁ!?」
ビックベンーKの薙刀が振るわれ、影武者を一刀両断。そして、爆風が徹の体を強く煽る。
今の一撃で徹のライフはきっかり4分の一、3000ポイントまで削られる。さらに悪い事に、徹のフィールドにはラヴァ・ゴーレムが存在するため、次のターンさらにダメージを負う事になる。
「儂はこれでターンエンドだ!」
「僕のターン!ドロー!」
徹がデッキからドローすると同時にラヴァ・ゴーレムが行動を始める。
「このスタンバイフェイズ、ラヴァ・ゴーレムのデメリット効果により小童!お前に1000ポイントのダメージじゃ!」
「なっ!?」
宣言とともに、溶岩が降り注ぎ着弾、爆発。それをモロに食らった徹は大きく吹き飛ばされる、浮島から弾き出される。
「徹っ!」
「くっ、この!三太夫!」
ゴロゴロと地面を転がり、島から落ちる寸前に駆けつけた三太夫に捕まえてもらい事なきを得る。周りから安堵の息が聞こえてくる。だが、まだデュエルは終わってはいない。
「呵呵ッ!手も足も出ないか、小僧!」
挑発的な発言と共に徹を見据える。
一気にライフを半分まで削り、有利を確信したのだろう。
「くっ!僕はまだ負けたわけじゃない!」
「ふん、だがラヴァ・ゴーレムをどうにかしなければ2ターン後にはゲームエンドじゃぞ?」
ふん、と鼻を鳴らしながら言う権現坂の親父。腹がたつが実にその通りなので反論のしようがない。
デメリットを持つ反面強力なステータスを持つラヴァ・ゴーレムだがビックベンーKは超えられず、擬似的なロックバーン状態にあるためどうにかしなければ遅くても2ターン後に徹の負けが決まってしまう。
「お、おい……、徹の奴。大丈夫かよ。」
「もしかして、負けちゃう?」
などと仲間内からも不安げな発言が聞こえ始める。
そんな雰囲気に当てられてか徹の表情に焦りが見れる。
全く見てられない。
「徹、シャキッとしろ!」
「ね、姉ちゃん……!?っ!うん!」
びくりと肩を震わせるがすぐに表情を一変させる。そこに焦りはない。
「ここからは僕ターンだ!手札から『森の聖獣 ヴォレリフォーン』を召喚し、さらに効果発動!手札を一枚捨て、墓地から『おジャマ・ブラック』を特殊召喚!」
「今さらモンスターを並べたところでなんになる!」
「それはどうかな!コストとして捨てた『おジャマジック』の効果によりデッキからおジャマ・イエロー、グリーン、ブラックを手札に加える!」
手札が一気に二枚しかなかった五枚まで増える。
それとともに背の低い木に引っかかっていたアクションカードを手札に加え、これで六枚。
「そして、『手札抹殺』発動!
僕は手札の四枚とアクションカードの計五枚を捨て、五枚ドロー!そして、『貪欲な壺』発動!おジャマ3兄弟とサフィラ、カタストルをデッキに戻し、二枚ドロー!そして、『儀式の準備』発動!デッキから『竜姫神 サフィラ』を手札に加え、さらに墓地の『高等儀式術』を手札に加える。」
「お、おぉ!なんか凄え!」
手札が7枚に増えたばかりではなく、さらにサフィラの儀式の準備を整えてしまう。
恐ろしい強運だ。そして、アクションカードもコストに使い捨てるあたり、私に似てきた気がする。
「……アクションカードに、あんな使い方が。」
と、エンタメデュエルの第一人者の息子である遊矢も魅入ってしまっている。
だが、いくら手札を増やしたところで肝心要のラヴァ・ゴーレムが除去できていない。
「僕はレベル2のチューナー『森の聖獣 ヴォレリフォーン』でレベル8『溶岩魔人 ラヴァ・ゴーレム』にチューニング!」
「っ!レベル10のシンクロモンスターじゃと!」
さらにラヴァ・ゴーレムさえもシンクロ召喚のコストとして踏み倒され、目を剥いて驚く。
そして、その間にも二つの緑の輪が垂直に並び、その中心を極光が貫く。
「天よ!運命よ!事象の理よ!巡る天輪に乗せ此処に結実せよ!!五千年の沈黙を破り、光と共に降臨せよ!!」
雲海を突き破り、純白の長躯の龍が空を駆ける。
「シンクロ召喚!!レベル10《天穹覇龍ドラゴアセンション》!!」
「な、なんだ!このモンスターは!」
空さえ覆いそうなほどの巨躯は、神々しい程に純白の体躯を浮島に巻きつくようにとぐろを巻く。
「ドラゴアセンションの効果発動!シンクロ召喚成功時に手札の数×800ポイントアップする!」
現在の徹の手札は7枚。その800倍ということは、5600。
ビックベンーKの守備力を軽々と上回ってしまう。だが、徹はそれだけでは終わらず……
「その効果にチェーンして、リバースカード発動!『反転世界』!効果モンスターの攻守を入れ替える!」
「なっ!?」
ドラゴアセンションの効果による攻撃力の上昇値5600に加え、元々の守備力3000分をプラスし、なんと攻撃力は……
「は、8600!?」
「インチキ効果もいい加減にしろよな!」
恐ろしいまでの数値を叩きだす徹。さすがの私もびっくりだ。
そして、それだけではなくビックベンーKの超守備力も減衰し、下級モンスター並みの1000まで下がってしまう。
「まだだ!まだこれだけじゃない!僕はおジャマ・ブラックとおジャマ・イエローでオーバレイ!勝利の風を巻きおこせ!ランク2『ダイガスタ・フェニクス』!
さらに古狸三太夫の効果発動!オーバレイ・ユニットを一つ使い、フィールドに存在する最も攻撃力の高いモンスターのステータスをコピーしたトークンを召喚する。来い、影武者トークン」
緑色の炎を纏う不死鳥が紅く煌めく渦から現れ、三太夫の隣へと並ぶだけではなく、超巨大な狸が現れる。
早速二人がいる浮島は乗員オーバーだ。
「なんということだ……。」
ビックベンーKを弱体化されただけではなく、超弩級モンスターが二体。
これに絶望せずしてなにに絶望すればいいのか。
「さらに『ダイガスタ・フェニクス』の効果発動!オーバレイ・ユニットを一つ使い、このカードは二回攻撃できる!
そして、バトルだ!ドラゴアセンションでビックベンーKを攻撃!『超次元昇天葬』!!」
「ヌゥゥゥン!やらせん!手札から『超重武者装留 ファイヤー・アーマー』を捨て、効果発動!ビックベンーKの守備力を800下げ、このターンでは破壊されない!」
私との試合でも権現坂が使用した赤い大盾がまたしてもビックベンーKを護る。
「くっ……、僕はカードを二枚伏せ、ターンエンド。」
渾身の一撃を防がれ、悔しさを露わにする徹。
だが、権現坂の親父殿もギリギリだったのかしきりに額を流れる汗を拭っている。
「中々やるではないか、お主。」
「それほどでも。けど、この勝負。姉ちゃんのためにも勝ちます!」
まさかの勝利宣言に一同ギョッとする。
だが、一変も揺るがない徹の眼差しを見ると権現坂の親父殿は突然豪快に笑い出す。
「その齢でその覚悟見事!天晴れだ!だからこそ、魅せよう!我がデッキの神髄を!そして、抗ってみるがいい!我が奥義に!」
「なっ!?まさか、親父殿アレをやる気か!」
アレは流石に不味い!と権現坂が焦り始める。
だが、その奥義とやらが全く見当もつかない。
「儂のターン、ドロー!行くぞ、『コアキメイル・デビル』を召喚!」
「なっ!?まさか星見ループ!?」
フルモンデッキでコアキメイル・デビルときたら星見ループしか思い浮かばない。だが、そんなの超重武者デッキで可能なのか?
「優希はわかったようだな。
親父殿のデッキはバーンデッキなのだ。それも超重武者の強固な耐性を活かしたロックバーンだ。」
「そんな無茶苦茶な……。」
無茶苦茶なのだよ……。と半ば諦めかけた権現坂が呟く。
「行くぞ!儂は手札の『星見獣 ガリス』の効果発動!デッキトップを墓地に送り、それがモンスターならばそのレベル×200のダメージを与え、さらにこのカードを特殊召喚する。そして、当然儂のデッキは全てモンスターで統一されておる!」
「そんなッ!?」
つまり、星見獣ガリスの効果は必ず成功する事になる、だけではなく手札に『A・ジェネクス バードバン』が入れば有名なループなコンボが完成する。そして、この流れなら持っていてもおかしくない。
「いくぞ、ドロー!
デッキトップは『超重武者 テンーBN』!レベルは4!よって800のダメージを喰らえ!」
「っ!僕は『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、『コアキメイル・デビル』の効果を無効にする!うわぁっ!?」
流星が浮島へと衝突し、激しい揺れをもたらす。
「さらに『星見獣ガリス』を手札へと戻し、『A・ジェネクス バードマン』を特殊召喚!そして、『星見獣ガリス』の効果発動!
んんっ!ドローォ!くっ、デッキトップは『超重武者装留 ブレイク・アーマー』。レベル1だ!よって、200ポイントのダメージを喰らえい!」
「くっ!?けど、これでもう星見獣ガリスの効果は使えない!」
きっかりライフを1000ポイント削られ、残りは1000だけ残る。なんとも危うい。
権現坂に至っては口を開けたまま固まるという間抜けな顔を晒している。
「な、なんという事だ。親父殿の星見ループをかわしおった……。」
「ふん、昇よ!それだけでは終わらんぞ!儂は先ほど墓地へと送られた『超重武者装留 ブレイク・アーマー』の効果を発動する!墓地の同名カードを全て除外し、儂の場の『超重武者モンスターを選択し、その元々の守備力との差分のダメージを与える。儂は『超重武者 ビックベンーK』を選択する!」
今、ビックベンーKは『反転世界』の効果で守備力が1000になっている。そして、元々の守備力との差は2500。
流石にこれはヤバイ。
「その瞬間、アクションマジック『ミラ・くるっ⁉︎』発動!モンスター一体の攻守を入れ替える。僕はビックベンーKを選択!」
「おおっ!うまい!これなら、守備力の差は0になる!」
ざわざわと驚きと感嘆の声が上がる一方で、これで終いと思っていたのか権現坂父は悔しそうに顔を歪める。
「うまく躱しおって、全くしぶとい。だが、これでビックベンーKのステータスは元に戻った!バトルじゃ!ビックベンーKよ、ダイガスタ・フェニクスを攻撃せよ!」
「リバースカード発動!『和睦の使者』!」
このターンで三度も相手の必殺の一撃を防ぐとなると、嬉しいやら凄いやらでもう感想も出てこない。
「儂は墓地の『ADチェンジャー』の効果を発動し、『コアキメイル・デビル』を守備表示に変更。そして、ターンエンドだ。」
おそらくは手札抹殺の時にでも落ちたであろう。
相手もなんやかんや言ってだいぶ粘る。
「このターンで、終わらせる!ドローッッ!」
今までで一番の気迫を纏い、デッキからカードをドローする。
そして、親父殿も徹の闘志を感じ取ったのか小山の上で腕を組み、成り行きを見届ける。
「行きます!魔法カード『融合』!僕は古狸三太夫とダイガスタ・フェニクスを融合!古き神よ、我が呼びかけに応え現界せよ!レベル4『旧神ノーデン』!
そして、ノーデンの効果発動!墓地からレベル4以下のモンスターを効果を無効にし、特殊召喚する。僕は『エフェクト・ヴェーラー』を特殊召喚!」
「融合召喚も……。しかも、チューナーを呼んだって事は!」
これで融合、シンクロ、エクシーズ、儀式を全て網羅した事になる。
ソフィアでも出したいところだが、あいにくそんな構築にはなっていない。
「僕はレベル1のチューナー『エフェクト・ヴェーラー』でレベル4の『旧神ノーデン』にチューニング!シンクロ召喚!レベル5『転生竜サンサーラ』!さらにジャンク・シンクロン』を召喚し、効果で墓地から『おジャマ・イエロー』を特殊召喚!
そして、レベル3のチューナー『ジャンク・シンクロン』でレベル2の『おジャマ・イエロー』にチューニング!
集いし願いが新たな地平へ誘う!ゴー、シンクロ召喚!駆け抜けろ、『アクセル・シンクロン』!」
2連続シンクロ召喚を決めてみせる。だが、これだけでは終わらない!
「僕はレベル5のチューナー『アクセル・シンクロン』でレベル5の『転生竜サンサーラ』にチューニング!」
「なっ!?シンクロ・チューナーだって!?」
そんなものあるのか⁉︎などと驚きの声が上がる。
そうこうしているうちに晴天だったフィールドは黒く厚い雲に覆われていき、不穏な空気を漂わせていく。
「冥界を流るる嘆きの河より亡者の激流を逆巻き浮上せよ!!シンクロ召喚!!《冥界濁龍 ドラゴキュートス》!!」
巻き上がる黒い竜巻とともに雲海を巻き上げ、現れたのはドラゴアセンションに対比されるかのように漆黒のドラゴン。
冥府の河を駆け上がり、現れた龍を獲物を前に咆哮を轟かせる。
そして、一同が驚いたのはそのドラゴンの容姿だけではなく、その攻撃力。
「こ、攻撃力4000……!?」
「脳筋も、ほどほどにしろよ!」
今更ながら徹のフィールドの平均攻撃力が凄い事になっているのに気がつく。
多分、現実でもこんな脳筋フィールドは見られない。
「これで、最後!儀式魔法『高等儀式術』発動!デッキのおジャマ・イエロー、ブラック、グリーンを墓地に送り儀式を執り行う!
今再び地上へと降り立ち、謳え、勝利の歌を!光臨せよ、『竜姫神 サフィラ』!」
おまけと言わんばかりに、ラヴァ・ゴーレムに喰われ退場したサフィラが再び降臨する。
今、徹のフィールドには、攻撃力4000のドラゴコキュートスに、攻撃力8600のドラゴアセンションと同数値のトークン。そして、おまけの攻撃力2500のサフィラだ。
いくら相手のフィールドのモンスターが全て守備表示だからと言って、オーバーなキルになる事は明白だ。
育て方を間違えたかもしれない……。
「バトル!サフィラで『コアキメイル・デビル』を攻撃!
そして、影武者トークンで『星見獣ガリス』を攻撃!」
瞬く間に消される二体のモンスター。そして、相手の場に残るのはビックベンーKとバードマンの二体。そして、攻撃可能なモンスターも二体のドラゴンのみ。
だが……
「ドラゴコキュートスでバードマンを攻撃!『冥界の幽鬼奔流』‼︎」
「ぐぬぅ!だが、儂の場にはまだビックベンーKが居る!」
だから、このターンではやられない!とでも言いたいのだろう。
だがしかし……、徹はニヤリと口角を上げ、一言。
「それは、どうかな‼︎」
「なにっ!?」
「ドラゴコキュートスのモンスター効果発動!相手モンスターを破壊した時、もう一度続けて攻撃する事が出来る!喰らえ、『冥界の幽鬼奔流』ダイニダァ‼︎」
ドラゴコキュートスから放たれた黒い闇の奔流が、悲鳴にも似た声を上げる権現坂父諸共ビックベンーKを呑み込む。
そして、ついに自らを守る壁がいなくなる。
「これで……、ラスト!ドラゴアセンションでダイレクトアタック!『超次元昇天葬』!!」
「ぬ、ぐぉぉぉぉぉ‼︎⁉︎」
ドラゴアセンションから光の奔流が放たれ、直撃。そして、遂に相手のライフに0を刻み込む。
◆◇◆
デュエルの決着がついた後、道場は痛々しいまでの沈黙が支配していた。
それもそうだろう。たかだか、ジュニアユースクラスの少年がプロレベルの、然も権現坂道場の現当主を倒してしまったから。
「あいや、天晴れ。見事な闘いであったぞ、小僧。いや、トオルと言ったな。」
「い、いえ……」
皆が視線が二人へ集まる中、先に口を開いたのは権現坂の方だった。
「いや、しかし中々に楽しいデュエルだったぞ!ははは!」
突然、豪快に笑いだす。だが、一通り笑い声を上げると急に黙り込み、真剣な表情が浮かぶ。
「……いやはや、しかし負けてしまうとは儂も錆び付いたということか。
なるほど、これは確かに昇の言う通りかも、しれぬ。」
「っ……親父殿」
下を俯き、ブツブツと呟き始める。
僅かにその言葉を聞き取った驚きとともに歓喜の感情を表情に表しながら、親父殿の様子を伺う。
そして、考えが纏まったのか立ち上がり、権現坂の下まで来ると拳を強く握り締め……
「……ふんっ!」
「ぶっ……⁉︎」
ーーぶん殴った⁉︎グーで……!
権現坂は殴られた拍子にゴロゴロと床を転がる。
そして、殴られたであろうデカッ鼻を痛そうに抑えながら、父親に抗議の声を上げる。
「な、なにをするか、オヤジ!?」
「ふん、お前のような親不孝者、……何処へとでも言ってしまえ!」
『なっ!?』
衝撃的な発言に今この場にいる者全員が絶句する。
「そして、お前がほざく極地とやらを見極めるまでこの道場に顔を見せるではないわ!戯け!」
「……お、親父殿…。」
ポカーンと、口を開けたままの表情でそう言いきった親父を見たまま、固まっていた。
『まったく……、不器用な父親ですね〜。認めるなら、認めると普通に言えばいいものを……。これだから、頑固親父属性は』
いつの間にか隣にデスガイドが居り、一連の流れを見てため息を吐いていた。
あぁ、そういう事か。了承したって事なのか、今の。
デスガイドの言葉を聞いて、私もようやく理解する。
普通、あんなの見たら絶縁か、破門かと思うだろ、と内心でつっこんでおく。
そして、権現坂は親父さんの意図を察したのか立ち上がり、親父さんに深々と頭を下げる。
「……すまん、親父!」
「ふん、お前に頭を下げられる通りはないわ。……さっさといけ。」
ぶっきらぼうにそう言い返すが、若干声が震えているのがわかった。
……親父さんも辛いのだろう。
「……優希、もう一度頼む。
この漢、権現坂。一人の決闘者として弟子入りしたい!是非、この俺に貴殿の技を授けてくれ。」
親父さんに頭を下げた後、道場の片隅で見守っていた私のところまで来ると腰を折り、頭を深々と下げて請う。
ここまでされて、私も断れるほど薄情ではない。
「うん、私にできることなら。え〜と、よろしく?」
「おぉ、ありがとう。感謝してもしきれないほどだ、優希!」
「お、おう……さいですか。とりあえず、暑苦しいから離れろ」
感激のあまり涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま目の前で感謝の言葉を並べる権現坂をなんとか宥め、遊勝塾の面々と言葉を交わし、今日は解散となる。
そして、他の面子が一足先に帰った後、権現坂の父親に呼び止められる。
「な、なんですか……」
「……優希と言ったな。……ありがとう」
文句でも言われるのかとビクビクとしていると、予想とは真逆に、頭を下げられ礼を言われた。
訳が分からず、ポカーンとしていると親父殿の独白が続く。
「昇のことを頼んだ。あいつは根が真面目でいい奴だが、一旦決めたことは最後まで曲げない性格でな、手を焼かせるかもしれない。だが、あいつが思う極地とやらにどうか届かせてやってほしい。」
「……けど、私なんかが、出来ますかね?」
恐る恐る訪ね返してみれば、大丈夫だ、と笑顔で返される。
「お前の弟は、姉の為に勝つと言っておっただろう。弟子に慕われる者はいい師となる。……必ずな。」
「……。」
その言葉にどれくらいの確証があるのかはわからない。けど、人にものを教える立場にある人、直々ならば説得力は十分だ。
「……少し、不安ですけど。絶対に、私にできる限りはやってみます!」
「あぁ、儂の息子を頼んだ!」
こうして、権現坂が私に弟子入りしたのだったのだ。
後書き
というわけで、VS権現坂(父親)。
デッキは高守備力を活かしたバーンデッキ。(書いてた自分がわけわからんです。はい。)
今回のアクションフィールド&カード
『夢世界』
周りを雲海に囲まれ、主に中央の大きめの浮島がメイン。周りには、小さめの浮島が幾つも浮かんだフィールド。
アクション魔法
『ミラ・くるっ⁉︎』
モンスター一体を対象にして発動。
攻撃力、守備力を入れ替える。
TFSP風オマケ
出現条件:《神崎 優希》のシナリオをクリア
《神崎 徹》
パートナーデッキ:『僕は共に頑張る』
お気に入り:無し
初期段階『僕は頑張る』地属性バニラビート
二段階目『僕は強くなる』レベル6儀式軸おジャマ
三段階目『僕は無双する』???
禁止・制限デッキ『僕は泣くまでやめない』八咫カオス
次回は念願の(ずっと)デスガイドのターン。……多分。
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