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俺と乞食とその他諸々の日常

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十九話:因縁と日常

 控室にて久しぶりに会うヴィクターとエドガーと共に話をする。
 因みに今ジークが食べているおにぎりはエドガー作の物だ。
 偶には何も作らないでいいというのは楽な物だとのんきに考えながら俺はお茶を淹れる。
 基本的にエドガーからは紅茶の淹れ方しか習っていないがおにぎりにはやはりお茶だ。
 他の物は認めないので自分で淹れて喉を詰まらせかけたジークに渡す。

「ん! んー……ぷはぁ! おおきにな、リヒター」
「どういたしまして」
「全く、そんなに急いで食べたら喉を詰まらせますわよと言おうとしたところで……仕方がありませんわね、この子は」

 ヴィクターがしばらく撫でていなかった分を補給するためとでも言いたげにジークの頭を満足げに撫でていく。
 エドガーはもうその行動に関してツッコむのに疲れたのか黙って背を向けて後片付けをしている。
 俺もツッコんでも無駄だと分かっているので黙ってジークのほっぺたに付いた米粒をふき取ってやる。

「リヒター…ッ! わたくしの楽しみを奪うなんて死にたいんですの!?」
「生まれてこの方これ以上理不尽にキレられたことは無いな」

 凄まじい迫力でメンチを切って来るヴィクターに恐怖を通り越して呆れを抱いてしまう。
 なんだ、ジークの面倒を見るチャンスが減ったからキレるとか理不尽すぎるだろ。
 訴えたら勝てる自信しかないぞ。

「ただでさえ、娘を戦場に送り出す前だというのにそれをあなたは…ッ!」
「試合で死ぬわけはないんだから大げさすぎるだろ」
「そんなことはありませんわ! スポーツであっても運が悪ければ死ぬ事例なんて掃いて捨てるほどありますのよ! そもそもあなたはジークの想いを―――」
「わー! わー! ストーップ! それ以上は言うたらあかんってヴィクター!」

 何故か暴走を始めたヴィクターだったが何かを口にしようとしたところでジークが慌てて口を塞ぐ。
 何を言おうとしていたかはまあ、色々と面倒が起きそうなので無視するとしよう。

「ふぅ……確かにわたくしも少し取り乱していました。ごめんなさい、リヒター。今度のバイト代を30%カットで許してあげますわ」
「お前は俺を飢えで殺す気か!? それとパワハラで訴えてやる!」
「冗談ですわ、本当は50%カットです」
「誰か弁護士を呼んでくれ、訴訟も辞さない」

 まさに悪魔の笑みのお手本と言った感じの凄味のある笑みを浮かべるヴィクター。
 対する俺はレベル1で魔王に挑む勇者のような気持ちになりながら汗ばんだ手を握りしめる。
 如何なる力の差があろうと日々の生活の為に……俺は―――負けないッ!
 
「あの……そろそろ入場準備を」
「なんだ、居たのかエルス」
「前から思っていましたけど私の扱いが酷くないですか!?」
「………………そんなことはない」
「じゃあ、そのやたら長い間はなんですか!」

 気まずげに目を逸らす俺にエルスのツッコミが再び炸裂する。
 だが、時は金なりだ。時間が惜しいので足早にジークとエルスと共に入場する。
 別に逃げているわけではない。ジークもエルスに気まずげな視線を送っているが関係の無い事だろう。

「ジーク……無事に、生きて帰ってきて!」
「心配してくれるのは嬉しいけど(ウチ)もいくらなんでも大げさやと思うよ、ヴィクター」
「これが反抗期とでもいうのかしら…!」

 最後にこんなくだらない会話があったような気がするがきっと俺の気のせいだろう。





「お兄ちゃんは何があっても渡せません!」
「ポッとでの小娘がしゃしゃり出てくるんやないよッ!」
「この拳で守るべきものを守りきる! それが覇王の意志です!」
「全てを刈り取るエレミア舐めんでーや!」

 何やらおかしな雄叫びを上げながら拳と拳をぶつけ合わすジークとアインハルトちゃん。
 話している内容が観客席にまでは届いていないのが不幸中の幸いだろう。
 表面上はお互いの全てをかけている熱い戦いだが内面はなんともアホらしいものだ。
 向こうのセコンドであるノーヴェさんのように呆れた顔するのが普通だろう。
 ……俺が争いの原因になっていることがなければ。

「すまない、エルス。トイレに行ってくるから後は頼んだ」
「逃げようとしたってそうはいきませんよ」
「後生だから逃がしてくれ! この戦いが終わった後が怖すぎる!」
「自業自得です」

 冷たい声で宣言しながら逃げられないように俺を手錠で拘束するエルス。
 どっちが勝っても俺に不幸な展開が訪れそうな空気が嫌すぎる。
 というか、アインハルトちゃんはいつの間にブラコンになっていたんだ。
 慕ってくれるのは嬉しいがいくらなんでも拗らせ過ぎだろう。

「ルーキーが(ウチ)に勝とうなんて百年早いんよ!」
「……一度も抱きしめられたことがないくせに」
「全力のエレミア相手にして五体満足で帰れると思うなやーッ!」

 投げ技に絞め技さらには鉄腕による拳での破壊。
 どこか勝ち誇ったような声で告げられた事実にジークが激昂して繰り出し続ける。
 ……試合に勝って勝負に負けるとはこういう事を言うのだろうか?
 それにしてもジークの奴えげつないな。まあ、試合だから仕方ないけど。
 後、アインハルトちゃんも回復が凄いな。あれはティオの能力か。便利な力だな。

「くッ! 流石です。ですが食費ぐらいはご自身で稼いだらどうですか?」
「な、何で知っとるんや!」
「当然です。あなたよりお兄ちゃんに近しい存在ですから」
(ウチ)の方が近しいわ! そんなら君は一緒に寝たことあるんか?」
「―――ッ!? 羨ま……いえ、妬ましい…ッ!」

 試合的には負けているにも関わらずに終始煽っていたアインハルトちゃんだったがジークの俺と一緒に寝たことがある発言でこれでもかとばかりに顔を歪ませる。
 因みにこのやり取りはジークがフロントチョークを決めた状態で行われているのでセコンド以外には聞こえない。
 というか全体に聞こえていたら恥ずかしくて死ねる自信がある。
 後、アインハルトちゃんはなんで知っているんだ? 俺は教えた覚えなんてないぞ。

「君とはご先祖様のこと以外にも話し合わんといけんことがぎょーさんありそうやな。でも、今はおやすみや」
「……空破―――断ッ!」
「まだ、落ちてへんかった!?」

 アインハルトちゃんが打撃を加えて絞め技から抜け出す。
 すぐさまジークが逃がさないように攻撃を仕掛けるがその手はすり抜ける様に躱されてしまう。
 そして、生み出した一瞬を逃がさずにアインハルトちゃんの強烈なカウンターがジークの顔面に入る。
 観客席で先程の女の戦いなど知らずに喜ぶヴィヴィオちゃん達。
 出来る事なら俺も何も知らずにあの中に入りたい。切実に。
 それと今の攻撃は―――

「……マズイかもな」
「確かに強烈な一撃でしたがそこまでですか?」
「違う、マズイのはアインハルトちゃんの―――命だ」

 危惧した通りに顔を上げたジークの目は冷たく澄んだものになっていた。
 WAGAYA NO OWARI 以来だな、あれを―――エレミアの神髄を見るのは。

「ガイスト・クヴァール―――」

 鉄腕から放たれる一撃は全てを破壊しつくす。
 アインハルトちゃんが回避に全力を注いでいなかったらやばかったな。

「チャンピオンの爪がリングを……抉り取った?」
「あれがジークの奥の手……というか禁じ手だな」
「見たことはありますが何故禁じ手なのですか?」
「去年ミカヤの右手首から先を粉砕したやつだ。……エミュレートを軽く超えてな」
「ッ! じゃあ、さっきのがアインハルト選手に直撃したら…マズイですね」

 エルスの声に無言で頷く。
 因みに俺は未だに手錠で拘束されているためにいまいち緊張感が出ない。
 何はともあれ、エレミアの神髄での勝利は基本的にジーク自身も望んでいない。
 コントロール出来るのなら別なんだろうが……今のジークには難しいしな。
 こうして考えている間にもジークは圧倒的な力でアインハルトちゃんを屠っていく。

「マズイです! あの距離で無防備な相手に大技を放ったら…ッ」
「それをさせない為に俺がいる!」

 俺だけがあいつを止めることが出来る魔法の言葉を言える。
 出来れば言いたくないが背に腹は代えられない。
 アインハルトちゃんの為に、なによりもジーク自身の為に!
 大きく息を吸い込んで言葉を吐き出す。



「それ以上やったら家を出禁にするぞ、ジークッ!!」



「それだけは堪忍してーや! ……ハッ!?」

 何とか我に返りほんの少しガイストの軌道を逸らすことに成功したジーク。
 幸いアインハルトちゃんの方もティオの活躍でかすっただけで済んだようだ。
 もっともこれ以上戦い続ける体力は残ってないようだが。

「……もっと、マシな言葉はなかったんですか、リヒターさん?」
「そう言われてもな。俺も自分の家を守る為に発した言葉だから、これ以上の言葉は思いつかないんだ」
「せめて愛を叫ぶとかならロマンチックで許せたんですが……」
「お前は俺に自殺でもさせたいのか?」

 恥ずかし過ぎて冗談抜きでベッドから出て来なくなるぞ。
 エルスと言い合っている間に試合は圧倒的な強さを見せつけたうえでジークの勝利となった。
 気を失っているアインハルトちゃんも心配だが今は明らかにへこんでいるであろうジークからだな。
 試合が終わると逃げる様に姿を消したが―――


「俺から逃げられると思うなよ?」
 
 

 
後書き
おまけ~ふーどふぁいたージークと非日常~

 切っ掛けはある意味当然のことだった。

「ジーク、自分の食費ぐらい稼いで来い」
「え? でも、どうやったらええん?」
「大食い大会の賞金でも狙ったらどうだ?」

 回り出す歯車。運命という名の時計は時を刻み始める。

「勝負事はなんであっても負けへんでー!」
「ええい、奴の胃袋は化け物か!?」
「あれ、もう終わり? ほな、ごちそうさま」

 少女のもう一つの物語は加速していく。

「え? 次元世界一の大食いを決める大会?」
「えっへん! 僕は凄いんだぞー! 強いんだぞー!」
「なんか、ようわからんけどリヒターの為にも勝つで!」

 来る日来る日も戦い続けやがて少女は伝説となる。

「生涯無敗のチャンピオンが遂に生まれました!」
「あはは……なんかすごいことになっとるけど、お金も貰えたから別にええよね?」
「むー、今度は僕が勝つんだからなー!」

 こうして少女は新たなチャンピオンとなり再び次元世界最強の座に舞い戻った。

「リヒター! お金持ってきたでー!」
「……え? マジなのか? 冗談のつもりだったんだがな……」
「えぇっ! (ウチ)の頑張り返してーや!」
「まあ、くれるのならありがたく貰っておこう。多分余るからその金でどこか遊びに行くか」
「そ、それって……デートのお誘い?」
「嫌なら、今後のお前の食費の為に貯金でもいいぞ」
「行く! 行く! リヒターと一緒ならどこでも!」

 少女戦いはここで一旦終わる。しかし、時が来れば彼女は再び戦いの舞台に立つだろう。
 彼女がチャンピオンである限り。

 

「デート……ふふふ、野次馬根性が働いちゃうなぁ。ミカヤ・シェベル、行きまーす!」

ふーどふぁいたージーク 続く



続きませんよ(´・ω・`)
因みに主人公は本編でもジークが食費を出せばかなり優しくなりますww 
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