ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第108話 笑顔が一番
その後の事。前話?では、リュウキとレイナは帰った? と言う感じの終わりだったけど。実はまだ話?は終わってなかったのだ。
因みに話と言うのは、この眠りについている少女の事ではなく……、竜を従えている少女、シリカの話題だった。キリトとリュウキが面識があると言うシリカの事。
「ああ~ キリト君が言ってたさっきのコの話だけど、そのコ リュウキ君も面識あるのよね? ……ビーストテイマーの女の子で13歳なんだってぇ~。それもとっても可愛いって専らの噂だよ? 何でも中層ではアイドル扱いだとか。 フェザーリドラって、すっごくレアだし、血盟騎士団内でも有名だよね~」
「ふぅ~ん……。そんなに可愛いコなんだ……。リューキ君も面識……あるんだ……」
なんだか、リュウキはレイナの視線を冷たく感じていた。さっき終わらせたと思ったのだが、どうやら話しを蒸し返してきたようだった。この家に来た時と同じような話だし。
「……ああ、シリカの話か。 まぁ確かに面識はある。知らない間柄という訳ではない。が……、それが どうかしたのか?」
リュウキはよく判らず、普通にレイナにそう返していた。アスナは軽くため息を吐く。正直言えば、判りきっていた事だけど、つまりは。
――やっぱり、キリト以上の鈍感君此処にあり、と言う事。
そんな人が、浮気の類をするとは思えない。でも、天然たらし、ジゴロになる可能性は大いに秘めているのだ。……つまり、無自覚に想いを寄せられている人が多くなる可能性があると言う事。
「そ~んなに、可愛いコと付き合い……あったんだ? 私も聞いてるよっ。記録結晶とかで、ブロマイドみたいなのもあったしさ? ……シリカちゃんって、とっても可愛いよねー」
レイナだって、今回はちゃんと聞いておかなければならないと、何処かで予感に似た物があった様だ。だからこそ、いつもなら鈍感なリュウキを見て苦笑いしつつ、安心しているのだが……、今日は色々と聞くのだ。
「ん……、幼さが残る少女だったのは確かだ。シリカと面識を持ったのは、もう結構昔からだったな。約1年……か。 まぁ今でも多少メッセージのやり取りをして、頼まれる事があったりだが、それはキリトも同じだった筈だぞ? それに、シリカのメッセージの内容の中にキリトの名もよくあったから間違いない。頼まれ事をしていただけだよ」
「って、お、おぃぃ! 変な感じでオレにふるなよ!」
「……ん?? 今のは 変、だったか?」
リュウキは何か変だったか?とキリトに聞くが……、キリトはリュウキの話は聞いていない。
何故なら……。
「き・り・と・く~~ん……」
「な、何にも無いって!」
アスナは睨みつつキリトを見ていたからだ。特に着目したのは、キリトの名も《よく》あったという部分だった。
キリトはアスナを必死に宥めつつ……、リュウキをジロリ、と睨みを利かせた。
だけど、キリトはリュウキの言葉を聞いていないのと同じような状況で、リュウキはレイナと真っ只中だ。
「ふぅ~~ん……。ほんとに浮気、してないの?」
「浮気……?」
リュウキはレイナの言葉にきょとんとしていた。それを見たキリトはと言うと。
「あ~……そう言やあリュウキ、シリカに≪指輪≫あげてたよな? あの時」
キリトがお返しとばかりに余計な事言ってしまったのだ。それもかなりの大ダメージと成りうる一言。キリトの《スターバースト・ストリーム》 リュウキの《ディザ・スターライト》も真っ青な高威力な一言。
だから、それを聞いたレイナは……。
「えええええっっ!!!!???」
それを聞いた瞬間、レイナは、大絶叫していたのだ。
その頃と言えば、確か……レイナは リュウキを追いかけていて、……よく撒かれてしまっていた時期だった筈だ。もう、過去の事と言えばそうであり、付き合ったり、それに結婚してなかった時だから、何したとしても咎める事なんか出来ないが。
「そ、それ……ほ、ほんとなのっ!?!? リューキ君っ!! 指輪をっ!? お、女の子に指輪あげたのっっ!? わ、わたし以外にもっ……」
レイナは、震えているかの様な声、そして怒気、と言うより悲しみも含まれている様な声でそう聞いていた。……心なしか、目に涙が溜まっている様にも見える。
さっきでもあるが、当時、リュウキは男女関係にとか深く考える事などまるで無く、ただアイテムとして譲渡しただけなのは紛う事なき本心だ。でも、指輪の意味を知った今は、レイナが怒っている?意味を理解出来ていた。だからこそ、リュウキはレイナに向かって笑いかけた。
「確かにそうだ。ただ意味は違う。あの指輪は、装飾品。《エメラルド・リング》だ。あれは50層以下で最大の効果を発揮するアイテムだからな。だから、中層を主戦場としていた彼女に譲渡した。本当にそれだけだよ。中堅プレイヤーを支援すると言う意味でな。それ以外に他意は無い。……それに、何度だって言う。オレにはレイナが一番だ。これからもずっと……」
リュウキのこの言葉は嘘偽りはない。
レイナが信じてくれるまで、いや、信じてくれた後でも何度でも言える言葉なのだ。
「……っっ///も、もうっ! み、皆が……いるのにぃ……///」
そして、その言葉がレイナにとっては高威力。上記であった、キリトの一言が霞む程の高威力。……怒っていても、そう言えば表情が綻んでしまう。凄く幸せを感じてしまう。
キリトやアスナの2人がいても。
……何でも許してしまいそうになる。
でも、安い女だと思われないようにしないと、とレイナは思っているけれど、やっぱり今は無理なのだ。それに、指輪と言うのは、この世界では単なるアクセサリーとは違う。リュウキの言うとおり、ステータスが上がるものが基本であり、装飾品として重宝されているのだ。だから、レイナは本当に他意はないんだと信じられた様だった。それに、リズにも以前言わされた?事だってあるんだ。
リュウキの口癖、さっきも言ってくれた言葉。
「やれやれ……」
「本当……バカップルよねー? (私達も……見習わないと……かな?)」
アスナとキリトは同時にため息をしていた。
キリトは、2人をからかうつもりで言ったのだが、最終的には惚気に変わってしまったんだから。
でも、やっぱりアスナは、見習わないとと思わずにいられなかった。
そんな時だ。
べしんっ!と、キリトが顔を上げたその瞬間その顔面に衝撃が走った。そして、ノックバックが発生し、思わずのけずってしまう。
「あたっっ!!」
「……全く、余計な事を言うなよ」
リュウキがキリトの顔面に軽く一撃入れたのだった。
……軽く?
「何言ってんだよ! そもそも先に言ったのはお前だろっっ!?」
「オレはただメッセージの中にお前の名があると言っただけだ。誤解を招いたりしないだろ?」
「それを言うなら俺だって、お前が指輪をあげてたと言っただけだ! そ、それにオレだって誤解されるよーになんか言った覚えはなー……」
「……目が泳ぎすぎだ馬鹿」
キリトはリュウキにやり返すが、巧みに避けるリュウキ、だけど キリトも当然負けてない。そして暫く、ずっと2人で言い合っていた。……レイナとリュウキとはまた違った感じがする。
それは、そう……まるで、兄弟の様な感じだったんだ。
「ふふ、本当、仲良いよね?」
「ね? ……私も頑張らないと」
「あはは。私はお姉ちゃんとキリト君も十分だと思うけどね? ……私達の事、随分とからかってくれてたけどさっ!」
「えー。だってレイ達、ほんと見ててお腹いっぱいになるんだもん!」
「それ、お姉ちゃん達もだよっ! その言葉、そのまま返すもんっ!」
2人も、何だかんだ言ってとても楽しそうだった。
そんな雰囲気のおかげなのか、あるいは単なる偶然だったのか……。ベッドの中で眠っている少女の寝顔は微笑んでいたのだった。
その後、4人は以前にキリトとリュウキが買っていた何種類かの新聞を確認する作業に取り掛かった。
新聞、と言ってもそれは、紙を束ねた現実世界でのそれとは違い、雑誌程度のサイズの羊皮紙1枚でできているもの。
その表面は、システムウインドウ上のスクリーンになっていて、ウェブサイトを観覧、操作する要領で収められていた情報を切り替えて表示させる事が出来るのだ。その内容は、各プレイヤーが運営しているゲーム攻略サイトそのものであり、SAO内でのニュースから、簡単なマニュアル、そしてF&Q、アイテムリスト、そして探し物、訊ね人リスト等、多岐にわたる。
この情報誌は、リュウキ自身もかつてはかなり絡んでいたから、どの場所に何が記載されているかは、大体把握している為、新着情報のみに目を向けた。そう、つまりはこの少女を誰かが探している、その可能性はないか?と言うもの。
だけど……。
「無いな」
「うん……」
「一応、これが最新のものだよね?」
「ああ、アルゴにも根回しして貰ったし間違いない」
目を通し出して数十分。購入した全ての新聞の内容を調べ終わった。情報誌だからこそ、淡い期待をしていたのだが、と一様に落胆を隠せない様だった。
「ん……もうこの娘が起きるのを待つしかないな。……約束通り、明日も寄らせてもらうよ。オレも色々と調べてみる」
「ああ、よろしく頼むよ。オレ達がちゃんとこの娘の事は見てるから」
「うん。ありがと、リュウキ君」
リュウキのその言葉に2人は、そう答えていた。レイナは、まだ眠り続ける幼い少女に寄り、そっと顔に手を宛てがった。
「明日は……目が覚めると良いね? キリト君も、お姉ちゃんも優しいから、安心してね……、きっと大丈夫、大丈夫だから」
眠り続ける少女に語りかけるレイナ。
――……きっと、大丈夫……と。
リュウキとレイナは、自分たちの家へと戻った。いつもなら、夜景を見に行ったり、簡単なゲームをしたりと、する事自体は山のようにあるのだけど、あの眠ったままの少女の事が頭から離れない為、そんな気にはなれなかった。
「今日はもう休もう」
「うん……」
レイナはリュウキの言葉に頷く。その表情は何処か暗い。
「……大丈夫だ。キリトとアスナだっている、それに……」
「……それに?」
リュウキは少し考えた後、レイナに向かって笑いかけながら。
「もうすぐ、目を覚ます。そんな感じがするんだ。……これは、ただの勘……だけどな?」
「……あはは。リュウキ君が勘っていうの、初めてかもしれないね?……でも、信じられるよ」
レイナは、リュウキのそれが気休めだとは思わなかった。直感の類だとは思うが、不思議な説得力が彼にはあるんだ。
いつもの《眼》を使ってもわからないと言ってたけど、レイナはリュウキの勘を信じた。信じられたから……不安が和らぎ、安心する事が出来た。
「ねぇ、リュウキ君」
「ん……?」
レイナは、そっとリュウキの手を取った。それは安心できる手。
大きさは自分とあまり変わらない筈なのに、不思議と全てを包んでくれている様な優しさを感じる、大好きな人の手。
レイナはそれを、じっと感じていた。
「……一緒に眠りたい、リュウキ君と一緒に」
「……ああ、勿論良いよ。一緒に」
安心して眠る為には欠かせない要素。それは、大好きな人、愛する人が傍に居てくれる事。
レイナは、安心して眠ることが出来た。
リュウキ自身も、安心出来る彼女の温もりを感じながら、家の天井を眺めている。
(……あの娘、不思議な感じがした、な。……起きれば判るんだろうか?何かが違う様な気もする……、SAOプレイヤーとは根本的に何かが違う事が)
考えるが……まだ、ピースが圧倒的に足りない。ただ判るのは、ただのプレイヤーじゃないという事だけだ。
「ん……」
……リュウキは、軽くレイナの頭を撫で、そして自身も目を瞑った。
~湖畔のロゴハウス キリトとアスナ宅~
夜の闇が消え失せ、東の空から光りが差し掛かる。
……朝の白い光が身体を包み込んだ。その温かい光りの中でまどろむアスナの意識に、穏やかな旋律が流れ込んできた。その1つは、間違いなく毎日のように聞いている起床アラーム。
アスナは、それをまどろみの中、聞き、意識覚醒の直前の浮遊感の中……どこか、懐かしさを感じるメロディーがアラームと共に意識の中に入ってきた
クラシック、協奏曲……心地よい音楽の中で、かすかな声でハミングも。
――……え?ハミング……?
アスナ自身は、完全な聞き手、音楽鑑賞をしているだけであり、歌ったりはしていない。ならば、この声の主は誰だろうか……?
そう思った瞬間、アスナはぱちりと目を開けた。
アスナの腕の中では、あの娘が眠っている。その腕の中で黒髪の少女がまぶたを閉じたまま……、アスナの起床アラームに合わせてメロディを口ずさんでいたのだ。
一拍たりともずれていないそのハミング。
有り得ないことだった。何故なら、起床アラームと言うものは、設定した自分自身にしか聞こえないようになっているのだから。……だから、彼女が脳内のメロディーとも言える曲に合わせて歌うなど……有り得ないことだったのだ。だけど、アスナにとって、そんな疑問はどうでもいい。
それよりも、目の前の少女の事が重要だった。
「き、キリト君っ! キリト君ってばっ!!」
「んん……ん?」
「お、起きてよっ!」
むにゃむにゃと寝ぼけ気味のキリトに喝を入れる様に声をかけ続けるアスナ。やがて、キリトも漸く意識が覚醒した様で、ゆっくりと身体を起こした。……そもそも、アスナの起床設定とキリトの起床設定はやや時間にズレがある。レイナと同じで、5分ほど早めに設定しているのがアスナだったから、キリトの脳内ではまだアラームは鳴っていない。だからこそ、中々目を覚まさなかったのだ。
「ん~……おはよう。アスナ、どうかしたのか?」
「早くっ! こっちに来て!」
アスナの声で、完全に意識を覚醒させたキリトは、ひょいと軽快に起き上がるとアスナが眠るベッドを覗き込んだ。……そして、なんでアスナが慌てているのか、直ぐにその訳が判るのだった。
「歌ってる……!?」
「う、うん……」
アスナは、ゆっくりと眠る少女の身体を揺さぶった。
昨日までは、何を言っても反応が無く、ただ眠り続けているだけだった。でも、今は 今だったら 連れ戻せるかもしれない。まるで、何かに憑かれている様に眠り続けるこの少女を。そう思ったからこそ、アスナは身体を揺さぶって。
「ね、起きて……。目を、覚まして」
アスナの呼びかけに少女の口吟む、唇の動きがピタリと止まった。呼びかけに答える様に、やがて、長い睫毛がかすかに震える。そして、瞼がゆっくりと持ち上がった。そのあどけない黒い瞳が至近距離から真っ直ぐにアスナの目を見た。
数度の瞬きが続いたあと、再び唇がほんのわずかだが再び開かれる。
「あ……うぅ……」
眠れる姫君が目を覚ました。少女の声はごくふすの銀器を鳴らすような儚くも美しい響きだった。
~湖畔のログハウス リュウキとレイナ宅~
その光りで満ちた世界の中で、レイナが初めに意識を覚醒させた。
彼女は、元々起床設定をリュウキよりも5分程早く設定している筈なのだけど。銀の輝きを持つ鮮やかな髪を持つ男の子。……目の前で眠っていた愛する人も同じタイミングで意識を覚醒させた様だ。
その時刻は7:50。
設定時刻よりも早い。目を覚ました後、脳内にメロディーが響き渡る。心地よいクラシックの音楽が響き渡る。寝起きのメロディーとしては最適なものだ。
「おはよう、レイナ」
「……おはよう、リュウキ君」
恐らく2人とも同じ気持ちだった様だ。昨日の少女の事を気にしていて……眠っている時もきっと気になっていたからこそ、意識を覚醒させた様だった。
そして、2人はベッドからひょいと身体を起こす。
「ん~……よしっ! 朝ごはんにするね? 食べたら……行こう!」
「ああ、そうだな。今日はもっとよく視てみるよ。……勿論、無理はしない範囲でな?」
「うんっ!よろしい! リュウキ君は、よく見ておかないと、すーぐ無理するからね? 無理はさせないよ?」
レイナは、リュウキの『無理をしない』と言う言葉を聴いて腕を組んで頷いた。胸を張りながらまるでそれは宛ら教師のそれだった。リュウキはレイナの言葉を聞いて頭を掻きながら答える。
「んー……オレってそんなに無理してるか?」
「もっちろんっ! ……忘れたとは言わせないよ? BOSS攻略でもそうだし……、倒れちゃうまで頑張る所もそうなんだからね?」
レイナは ずいっと、人差し指を鼻先に伸ばしてそう言う。それを聞いたら、リュウキはもう何も言えない。
「はい。忘れてません」
「ん、よろしい!」
「「……あははは!」」
最後には、2人は笑顔になる。……2人は、いつも笑顔から一日が始まるのだった。
それは レイナが朝食を作っている最中だった。
「…えっ!? りゅ、リュウキ君っ!」
「ん? どうした?」
「お姉ちゃんから、メッセージ!! 見てっ!」
レイナは、リュウキの前に出て、ウインドウを可視化させた。リュウキの目の前にアスナから送れてきたメッセージが飛び込んできた。
その内容は……。
「目を覚ましたんだ……良かった」
「うんっ!! 本当だねっ! でも……ちょっと気になるね、……私も、あの娘は10歳くらいだって思ってたんだけど……」
「ん。……幼児化傾向か、ここは脳でプレイしてる世界だ。……何か心的外傷の様な出来事があったのかもしれない……な」
「うん……、お姉ちゃんとキリト君の所に行ってみよ? 私達にも出来る事あると思うんだ」
「……そうだな」
そう、あの少女が目を覚ましたとの知らせを受けた。朝、目覚めたら少女が歌を歌っていて、それで呼びかけたら目を覚ましたらしい。そして、話を聞こうとしたんだけど、自分の名前しか思い出せなくて、そして言葉も覚束無い。まるで物心ついたばかりの幼児の様だと。
その後、2人は足早にアスナとキリトの家に、目を覚ました少女に会いに向かった。
~湖畔のログハウス キリトとアスナ宅~
時刻は丁度正午。
「お姉ちゃーん!」
レイナは、ドアを勢いよく開く。……勝手知ったる他人の家?じゃないかと思える、まぁ姉妹だし問題ない事とする。
ともかく、レイナはノックもせずに急いで扉を開けた。
リュウキは、一歩引いていた所でいて、苦笑いをしていた。リズの店での事を思い返していた様だ。
「レイ、いらっしゃい」
「んー……?」
アスナと、そして少女が出迎えて……じゃなく、こちらに反応して振り返っていた。キリトは、新聞、情報誌を確認をしている様だったから。
「あ……」
レイナは、その少女の姿を見るなり、一目散に駆け寄った。少女は少し、驚きの表情をしていたけれど。
「よ、良かったね? えっと、ユイちゃんっ! 本当にさっ!!」
ぎゅっと、少女に……ユイに抱きついた。
「あっ……? え……」
「ちょっとレイ? ユイちゃんびっくりしてるじゃない」
レイナが抱きつく強さの方は思いのほか強く、ユイ本人にどうする事も出来ないそして、レイナもいきなりは拙かったかと、慌ててユイを離した。
「そ、その、いきなりごめんね? 起きてくれて嬉しかったから……」
「んー……」
ユイは、すっとレイナに手を伸ばした。そして、レイナもユイの手を取る。
ユイは、レイナの手を握ると、そのままレイナの胸に飛び込んだ。
「……ママと同じ匂いがするー……」
目を閉じて、ユイはそう笑顔を見せながら答えた。それは、目を覚ました時、アスナに抱きついた時に感じたその良い匂い。包み込んでくれる優しさ……と言った方が良いだろうか。
幼なさの残るユイにとっては、何よりも安心出来るのだ。
「ふふ……、そーかなー? ……ん? ママ??」
レイナは、ユイを抱きしめながら、アスナを見た。アスナはと言うと……、レイナと視線が合うと、何やら照れくさそうに笑いながら頭を掻いていた。
「ふむ、と言う事はキリトが父親と言う事、か?」
「あ……、まぁ、そ……そうだな」
リュウキもその言葉を聞いてキリトに聞いたら キリトもアスナ同様に照れている様だ。
「……うん。きいとは、…パパ」
そう言ってニコリと笑った。
本当にその容姿から考えたら一回り程幼く感じる。
「えー、でも お姉ちゃんがママなら、私はおばさんになっちゃうの?」
何だか少し複雑そうにレイナはそう言っていた。でも、このコに笑ってもらえるなら、別に良いかな?とも。
「えと……、その……」
ユイは、レイナの名前をだそうと必死に考えるが、直ぐには覚えられなかったようだ。それを把握したレイナは微笑みを向けて。
「私はね? レイナ。れ、い、な。よろしくね? ユイちゃん」
「れ、れ、れー……な……?」
「そう、れーな。れーなだよ。ユイちゃん」
ユイは、何とか発音する事が出来て、それが当っていた事を聞くと、ぱぁっと花開かせた様に笑みを出した。
「……れーなっ! れーなは、おねーちゃん」
「あ……ふふふ、うん! お姉ちゃんの方が良いな? おばさんよりもねっ! ……でも、おねえちゃん。かぁ」
レイナは姉と言う立場に憧れはあった。自分には兄と姉の2人がいる。どっちも大切な兄姉。自慢の姉であり、兄でもあるんだ。容姿端麗で学業成績だって優秀。運動神経も良い。……だから、自分も姉の様になりたいと思っていたんだから。
「はは……」
「んー……?」
キリトの傍で笑っていたリュウキの事にユイは気づいた様だ。
「あのね?あの人は、リュウキ君。りゅ、う、き、君なんだよ?」
「り、り……りうき……」
「……ああ。言いやすい呼び方で良いよ」
ユイは、その言葉を聞いてニコリと笑う。さっきもそう言ってくれた人がいたから。……パパ、と慕う傍にいる人に。だから、リュウキの事も信じられると思った様だ。
「おにぃちゃん……りうきは、おにぃちゃん……」
「お兄ちゃん、ね。……ああ、良いよ」
「おにぃちゃん!」
レイナに抱きついたままで、リュウキの方にも手を伸ばした。そのままでは、届かないから、リュウキはユイの伸ばしたその手を掴む。柔らかく、とても温かい手だった。
「はいはーい。皆お腹すいたでしょ? ご飯にしよ?」
「うんっ」
「あ、私も手伝うよ? お姉ちゃん」
レイナは立ち上がってそう言うけれど、アスナは首を振った。
「レイはお客さんだしね。今日は私がご馳走するよ! それに、もう出来ちゃってるし」
ニコリと笑って、テーブルの上を指さした。そこには、ホットミルク、そして多種類のパン料理。
その中には恐らくは、ユイの為であろう甘いフルーツパイも添えられていた。レイナとリュウキは軽くアスナに礼を言い、テーブルの椅子に腰掛けた。
そして、アスナたちの家で、囁かな昼食会が始まった。
「ん……、やっぱり、これが一番」
「キリトは辛党だったな、そう言えば」
「ああ。まぁな、リュウキはどうなんだ?」
「オレは、どっちもイケるな。料理の質が良すぎると言うのもあるが」
「ふふふ……」
「えへへ……」
レイナとアスナは、褒められているのが判って表情をほころばせていた。その顔を見たユイもつられてニコリと笑った。
キリトは、辛党……と呼ばれる所以たるパン。マスタードが大量に付けられたサンドイッチを頬張る。リュウキも、キリトに進められて、頂いていた。辛党だと自他共に認めるキリトは、本当に美味しそうに頬張る。リュウキも、少し顔をしかめてはいるが、美味しそうなのは変わらなかった。
それを見たユイは……じっと、サンドイッチに興味をそそられた様だ。
「ん……、正直まだ早い、と思うが」
「そうだよな。ユイ、これはな? すごーく辛いんだぞ?」
「ん~……」
ユイは2人のその言葉を聞いたけど……。やっぱり、探究心の方が優っていた様で、両手を差し出しながら言った。
「おんなじのがいい。ぱぱと、おにぃちゃんの」
「ほほぅ、そうか。そこまでの覚悟なら俺は止めん。そうだな。何事も経験だ」
「まぁ、否定はしないけど、まるで オレもキリトの子の様に聞こえるな?ユイがそう言うと……」
ユイがキリトからサンドイッチを受け取っている際、リュウキはそう思っていた。ユイに、兄と呼ばれて、そしてキリトはパパと読んでいるのだから、そう思っても不思議ではないだろう。
「こんなデカイ息子はいらんぞ?」
「……あほ」
「あははは! ……って、ユイちゃん大丈夫?ほんっと、キリト君の味覚変なんだよ??」
「あぅ……」
2人のやり取りを笑っていたレイナだったけど、ユイの行動を見て、その激辛サンドを口に運ぶ瞬間を見てしまって、思わずそう声をかけた。アスナはと言うと、もうすでに口の中いっぱいに入れてしまったユイの姿を見てハラハラしている様だ。
泣いてしまったらどうしよう……と心配しているのだろう。
でも、ユイは……。
「んん……お おいしぃ」
難しい顔をしていたけれど、ゴクリと音を鳴らせながら飲み込み、そして笑顔を見せた。辛いからこそ、難しい顔をしたんだと思うが、そんな事、おくびにも出さないユイを見てキリトは、笑う。
「中々根性があるヤツだ」
そう言ってユイの頭をぐりぐりと撫でた。
「ん。そうだな……大したものだ」
その辛さをよく知っているからこそ、リュウキもそう言っていた。
「えー? ……でも、そんなに美味しいのかな?」
レイナもユイの様に興味を持った様だ。リュウキも言うように別に辛党というわけではなく、基本的に嫌いな物はない。……そもそも、美味しい料理自体、この世界ではレイナたちに会うまで知らないし、欲しくも無かった様だから。
だから、あまり辛い物は食べたこと無かったから……、ひょいっと1つとって口の中へ。
「あっ! ちょっ れ、レイっ!?」
アスナは慌てて止めようとしたんだけれど……、既に遅し。姉妹だから、レイナの好みは知っている。……辛いの苦手なのに、誰かが美味しそうに食べてたら、どうしても 自分も食べてみたくなるのだ。だからこそ……食べた後で絶対に。
「っっっ!?!?!!! み、水、みずぅぅっっ!!」
手をバタバタさせながら絶叫をしていた。ユイは、その姿を見て、少し驚いた様な顔をしていたけど、直ぐに笑顔になる。
「ふふ、レイナもユイを見習わないとな?」
「……とな?」
ユイとリュウキは笑顔でレイナにそう言っていたけど、レイナはそうはいかない。現実世界であれば、きっと脂汗が沢山出そうで、それこそ口から火がでそうな程辛かったから……。
「ぅぅ……、む、無理だよぉ、あんなに辛いなんて思わなかった……ひどい目にあったよぉ……」
「ははは! なら、ユイとオレ、リュウキは激辛フルコースに挑戦するか? 根を上げたほうが負けだ」
「ふふふ……うん!」
「勝負、か。なら負けないぞ。ユイ、キリト」
3人で妙な勝負が成立しそうになったが、食事事情を握っているのは、この姉妹なのである。アスナは、呆れる様な顔をしながら。
「もうっ! 調子に乗らないの、そんなの作らないんだからね!」
アスナの言葉にキリトとユイは見合わせながら笑う。
「……だってさ?」
「だってさ! あははっ……」
レイナは、まだ口の中に辛さが残っているのか、コップいっぱいに入った水を3回程空にして。
「わ、私もとーぶん、辛いの……要らないかなぁ……、辛味調味料も……」
「レイもちょっと考えて食べてよ、もうっ! いっつも 食べた後に後悔するんだから」
そんなレイナにもアスナは苦言を言っていた。
……そして、その後。
皆でユイの事を調べる事にした。調べるといってもそんな難しい事ではない。ユイ自身にウインドウを開いてもらい、ステータス情報を見せてもらうのだ。……それは、個人情報になってしまうがこうなってしまえば仕方がないだろう。ユイは、キリトとアスナの事を頼りきっている様子であり、親の様に思ってる。それに、2人もユイの事を大切に思ってるからこその事だから。
勿論レイナやリュウキも同じ。……姉、兄とユイは呼んでいるのだから。
だが、不可解な事があったのだ。
ユイにウインドウを出させる事が難しかった。通常であれば、右手のゆびで軽く振るだけで、それは出てくるのだが 何度も試した後で漸く、ユイのゆびの下に紫色の四角い窓が出現した。単なる接触感覚の不良か、と思えたが、問題は次なのだ。
メニューウインドウのトップの画面には、基本的には3つのエリアに分けられている。最上部には、プレイヤー名の表示、そしてそこから下にHPバー、EXPバーがあり、その下右半分に装備フィギュア、左半分にコマンドボタン一覧。その配置だ。これまでに例外は無かった。元βテスターだろうと、初心者だろうとそれは同じだ。
……だが、ユイのそれは違った。
最上部には、《Yui-MHCP001》と言う奇怪なネーム表示があるだけで、HPバーもEXPバーも、レベルの表示すらも存在しなかったのだ。装備フィギュアはあるものの、コマンドボタンは通常よりも遥かに少なく、僅かに《アイテム》と《オプション》の2つだけが存在するだけ。
「……バグ、なのかな? だって、あるべき物が無いなんて……それ以外考えられないよ」
「………」
「いや、なんだかバグ、と言うよりは、もともとこういうデザインになっている様にも見えるな……」
「そうだよね。運営者がいたら問いただす所だけど、GMコールに今更応じるとは思えないし」
其々考えを、意見を交換している最中、リュウキは ユイのデータを凝視していた。眼を集中させる。
気づいたら、あの《眼》で、ユイの事を見ていた。その時だった。
「?? おにぃちゃん? ユイ、なにかおかしい?」
ユイも気づいた様で、リュウキにそう聞いていた。リュウキもこの時ユイのデータを、ではなく、ユイ自身の事を視ていたと言う事に
「いや……そんな事無いさ。ごめんな。ちょっと怖かったか?」
「……んーん。おにぃちゃん、やさしい。やさしい め、してる。ユイこわくないよ」
「っ……」
リュウキはユイのその言葉を聴いて思わず 身体に電流が走ったかのような錯覚をしていた。この《眼》に関しては、色々と言われてきていたのだから。……妬みの類もあったし、果ては笑う棺桶の連中が言う竜鬼と言う仇名だった。
だから……あまり、自分でも良い印象を持ってなかった。
……それに、この力はただの 不正な力。だけど、この世界は遊びでは無いから使っているだけの力。
でも、レイナを守れる。……誰かを守れる力なら喜んで使う。使える事に感謝もしている。……だけど、心の何処かには、そう思っている自分もいたんだ。
屈託のない笑顔で、ユイにそう言われたリュウキは、次第に柔らかい笑みになった。
「ありがとうな。ユイ」
「うんっ! おにぃちゃん、わらった。えがおっ!」
笑顔が何よりも好き。そう言わんばかりにユイは、リュウキに抱きついていた。
「あー、リュウキ君ずるいよ! 私もっ!」
レイナもユイに、リュウキ事抱きついた。2人にもみくちゃにされているユイだったけれど、心地よいのかずっと笑顔を絶やしていない。
「全く……もうちょっと緊張感を持てってな……」
「ユイちゃんも笑顔だからね。……ちょっとくらいは良いって思うけど……む~……」
アスナは、嫉妬を感じていた?のだろうか。ママと呼ばれたのに、ご飯ではパパとおにぃちゃんと一緒が良いと言ってるし。完全に、パパっ子、おにぃちゃん子になっちゃってるから。
キリトもそれは例外ではない。
パパと呼ばれた時。
――……このコを守ってあげよう。
そう強く想ったのだから。
……だから、ちょっと今は2人にちょっと嫉妬していても仕方がないだろう。それ程までに、2人はいい笑顔だから。そして横でいるアスナも同じだった。
この場は、ユイを中心に笑顔で囲まれていた。
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