ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第92話 姉妹の秘蔵の味
暫くアスナは、レイナをからかって楽しんだ後、漸く本題に、先ほどのあの悪魔についてを話し始めた。
「……でも、あれは苦労しそうだね?」
少し表情を引き締めなおしていた。
「は、はぅ~~……///」
レイナは落ち着きを取り戻しつつ、必死に表情を元に戻そうとしていた。出来たかどうかは……黙認しましょう。
「そ、そうだね……、何も確認できなかったし、少しチェックしてた方が良かったかな……?」
慌てて逃げ出したから、BOSSの姿形しか判らない。持っている武器も判らないままなのだ。
「まぁ……、レイナのおかげでそれ出来なかったしな」
リュウキは苦笑いをしながらそう言っていた。
「えっ! 私……何かしたのっ?」
リュウキの言葉にレイナは驚いていた。そんなレイナを見て少し微笑み。
「いや、冗談……だ。何もしてないよ」
そう返していた。だが、これはリュウキにとっての悪手であり、言わなくていい一言だったのだ。
「……リュウキ、まさかとは思うが、お前 アイツが突っ込んできた時、単独で迎え撃つつもりだったんじゃないのか?」
そのリュウキの一言を訊いてキリトは、察したのだ。リュウキにそう聞いていた。リュウキのその言葉から、キリトは察したようだ。
あの場では、アスナと殆ど同時に撤退した。前しか見えてなかったから、リュウキの姿は見えない。
でも、あの時結構キリトもいっぱいいっぱいだったから、そこまで気はまわせていないが、確か叫び声の種類は2つだ。即ち、アスナとレイナの声。でも、リュウキの声は全く聞こえなかったのだ。
そして、何よりも先ほどリュウキがレイナに言っていた言葉からでも十分推察もできる。
『リュウキはあの場に留まった……、が、狙ってか無意識か解らないが、レイナがリュウキを連れ出したんだろう。』と言う事が。
「ええっ!」
「なっっ!!」
そのキリトの言葉を聞いて2人は驚愕の表情をしていた。その後、つまり次の展開はもう予想が付くだろう。
リュウキは、アスナには勿論。レイナにもこっぴどく叱られてしまっていた。
つまり、皆に心配をかけた。
ゲーマーとして……血が騒いでしまった為とは言え……心配をかけてしまったのだ。だからこそ、リュウキは甘んじて受けていた。
そして、ある程度怒られた後。
「とりあえず、あのBOSSの事は、考えておこう」
キリトが切っ掛けの癖に、颯爽と会話を元に戻した。怒られていたリュウキを尻目に。
「ん~、やっぱり前衛に堅い人を集めてどんどんスイッチしていく……かな」
「うん。絶対に少数じゃもたないって思うから。半数近くは壁の人が欲しいよね……」
アスナとレイナはほぼ同じ意見のようだ。全てが未知数な以上は、防御を上げて望むのがセオリーだから。
「ん。他にはパリィで攻撃を捌く、と言う手もあると思うがな。どの程度防げるかも計れる」
リュウキがそう声を出した瞬間だった。
「もうっ! リュウキ君は、絶対無茶しないでよっ!?」
レイナは、過剰気味に反応していた。盾の防御以外でも、パリィで防ぐ事は出来るが、勿論タイミングを見誤れば多大なるダメージを負ってしまう可能性も高くなる。そして、当然スキルを使った後には硬直もあるのだ。
「……大丈夫だって。パーティプレイをする以上は個人プレイには走らない。作戦には従うさ」
リュウキはレイナを必死に両手で抑えながらそう答えた。とりあえず、レイナは興奮を抑えてその場に座る。
「……確かにリュウキの話も効果はあると思うが、安全サイドだと、片手剣使いでも 盾装備のヤツが十人は欲しいな……。でもまぁ、当面は少しずつちょっかいを出して、その傾向と対策ってヤツを練るしかなさそうだ。初見では危険度が大きすぎるし」
キリトはそう結論をつけた。これまでも、BOSSに関しては、一度でクリアをしたのは下層でのBOSSのみだ。中層から今現在の層付近のBOSSは、キリトの言うように即離脱をしながら、そのパターンや攻撃手段を確認。情報を公開しながら討伐をしてきたのだから。
アスナはそのキリトの結論には賛成だった。でも……、アスナは この時ある不審を思い出していた。
「ふぅーん、盾装備……ねぇ」
アスナは意味ありげな視線をキリトに向けていた。
「な、なんだよ」
「キミ、何か隠してるでしょ?」
ズバリ、ストレートにアスナはそう聞いた。
「いきなり何を……」
「だって、おかしいもの。普通片手剣の最大のメリットって、盾を持てることじゃない。でもキリト君が盾持ってる所見た事無いし」
その事はずっと気になっていたのだ。下層の時から、キリトはずっとこのスタイルだ。最初の方はまだいい。……が、敵の攻撃力が増してくるから、どうしても最大のメリットである盾に頼る事は多くなるから。
そして、レイナも深く頷いた。
「そういえばそうだね? キリト君の剣はロングソードに分類されるものだし、私達みたいな細剣とは違うから。……ん? あっ! ひょっとして、スタイル優先って事なの?」
レイナはそうキリト聞くけれど、何故か、代わりにアスナが答えていた。
「えー、それは違うよレイ。だってキリト君だし。そんなの無いって。装備容姿を見てもそう思えるでしょ?」
アスナが言うように、キリトの装備は殆どが全身が真っ黒。ファッション的に考えたら……その、あれなのだ、と言いたいのだろう。
「何だか、失礼な事言ってr「だよね?」……って おい!」
最終的には、2人は妖しいな、と面妖な目を向けていた。キリトは……、2人の失礼な物言いに講義をしようとしたが……、墓穴を掘りそうだった為、口を閉じた。
「………」
リュウキは、ただ笑っていた。
そう、2人の言うようにキリトは図星だった。隠している技、それをキリトは持っていたのだ。だけど、今まで人前で見せた事は……、後にも先にもリズの前だけだった。
スキルの情報が大事な生命線だと言う事もある。
何より、リュウキの件もある。今更だとは思うが、周りから更なる隔絶を生む事もあるだろうと重った。だが、この場所にいるのは……、信頼できるメンバーだ。だからこそ……、知られても構わない。そう思って口を開こうとした時。
「まぁ、いいわ。スキル詮索ってマナー違反だもんね?」
「それもそっか? あははっ」
アスナとレイナは笑いながらそう言っていた。キリトは機先を制された格好で口を噤んだ。
「……まぁ本当に必要な時は、出し惜しみはしない事だ。……いつも後悔しないようにな」
リュウキはキリトに聞こえるようにそう答えた。その言葉には重みが十分に感じていた。
目立つ事を誰よりも嫌っているリュウキだ。
でも……、あの時、月夜の黒猫団の時、リュウキは決して迷わず、《それ》を使用し助けてくれた。だからこそ、キリトは自分自身もそうあろうと思っていたのだ。
「ああ……、勿論だ」
キリトは、リュウキにそう答えていた。使わなければならない時は、決して躊躇しない……と。その後、ふとレイナが時計に目を向けた時、目を丸くさせた。
「わぁっ! もう三時だよ? ……お姉ちゃんっ!」
レイナはアスナの方を向くとアスナもニコッと笑った。アスナもそれを聞いて。
「そうだね。遅くなっちゃったけど、お昼にしましょうか?」
「な、なにっ!」
アスナの言葉に途端に色めき立つのはキリトだ。
「……はは、キリト 目の色変えすぎだろ」
キリトのそれを見たリュウキはやれやれ……とため息を吐いていた。だが、勿論キリトだって負けてはいない。
「リュウキは慣れてるかもしれんが、オレは違うんだ! ちょっとくらい、仕方ないだろっ!」
どうやら、キリトはあの味の虜になってしまったようだ。あの時の料理にの味に。
「えー……、リュウキ君は楽しみじゃないの……?」
キリトと比べたら何処か冷めた様な感じがするリュウキを見てレイナは少し残念そうな表情でそう言った。いつも作る時は腕によりをかける。確かにSAOでの料理は簡略化されているけれど、絶対に想って作ったら美味しくなるって信じているから。
そんなレイナの想いを既に判っていたのか、リュウキは笑顔をレイナに向けた。
「……そんな訳ないだろ? レイナがオレに教えてくれたんだから。……食事の楽しさを、さ」
そのリュウキの笑顔を見たレイナは一気に顔を赤らめた。そう言ってくれるだけで、凄く嬉しいから。その言葉だけで、今日一日、頑張れると思う程に。
そして~、2人だけの世界を作ってしまいそうな2人を見たアスナは、こほんっと咳払いを1つして。
「あ~~はいはい。ご馳走様。も~っ これからお昼ご飯を食べる、って言うのに その前にお腹いっぱいになっちゃうよ?」
アスナは、苦笑いしながらそう言っていた。この人たちは本当にここにピクニックに来たかのような感じがするのは自分だけじゃないだろう。ここはそんな場所じゃないのに。
とりあえず、2人は赤くなってしまったが、それは置いといて。
キリトは勿論、リュウキもその手作りのサンドイッチを受け取り食事を楽しんでいた。一口、口の中に放り込み頬張る、噛みしめる。
そして、その後の第一声は勿論。
「う、美味いっ!」
「……だな」
男性陣は2人とも同意見だった。……二口、三口、立て続けに齧り 夢中で飲み込むと素直な感想が次々と生まれてくる。外見は、NPCレストランでもある異国風の料理に似ている。
だが、中身は一段と別物だ。味付けが全く違うのだ。ちょっと濃い目の甘辛さは紛うことなく二年前にまで頻繁に食べていた日本風のファーストフードと同系列の味。あまりの懐かしさに涙が出ると言っても大袈裟じゃないのだ。
「本当に懐かしい……、爺やがよく作ってくれてたな……」
あまりの懐かしさに、リュウキは思わずそう口ずさんでいた。何処か味付けも……似ていたから。
「……え? ほんとっ?」
レイナは比較的リュウキの側にいたから、それが聞こえたようだ。
「っ……、ああ 本当、だよ。オレの育ての親の事、だよ。以前に話した事あったよな? 懐かしい味、なんだ」
リュウキは少し赤くさせながらも答えた。
「……うん。……そっか」
レイナも微笑んだ。確か、リュウキが初めて好きと言う感情のベクトルが向いていた人のこと。リュウキが初めて他人を好きだって、理解出来た人。
親愛の意味を教えてくれた人。
そんな人に、レイナはいつか……、ここを出れたら、その爺やと言う人に会ってみたい、って強く思っていた。こんなにリュウキ君が信頼して、慕っている人なんだから、きっと素敵な人だって思えるから。
「はぁ、しかしマジで美味いなっ! おまえ、この味、いったいどうやって……」
「ふふんっ!」
アスナはニヤっと笑いながら、胸を張っていた。
「これはね? 私達の1年の修行と研鑽の成果よ! アインクラッドで手に入る約百種類の調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメータをぜ~~~んぶ解析して、これを作ったの。こっちがグログワの種とシュブルの葉とカリム水」
そう説明しながら、アスナはバスケットから小瓶を2つ取り出し、片方の栓を抜いて人差し指を突っ込んだ。どこか、形容しがたい紫色のどろりとしたものが付着した指を引き抜き言う。
「ほら、口をあけて」
キリトは、ぽかんとしながらも、反射的にあんぐりと開けた大口を狙って、アスナがぴんと指先を弾いて、その雫を飛ばした。それを味わったその瞬間、キリトの表情は驚愕で満ちていた。
「……これ、マヨネーズだ!!」
アスナはその表情にとりあえず満足すると続けて。
「で、こっちがアビルパ豆とサグの葉とウーラフィッシュの骨」
その調味料も形容しがたい形状・色だったが……、再び指からはじき出され、口に飛び込んだと同時にキリトはさっき以上に興奮する。
何せ、間違いなくその味は……。
「こっ……この懐かしい味は!! 醤油ッ!!!!」
そう発したと同時に、キリトはアスナの指を捕まえてぱくりとそのまま自身の口で咥えた。
「きゃあっ!!」
アスナは悲鳴と共に指を引き抜いたアスナは、キリトをギロッと睨む。あまりの感動に思いもよらぬ行動を取ってしまったキリト。
だから、直ぐに手を上げて降参をしていた。
「あははっ! 大胆だね~キリト君」
レイナは、指をぱくりと咥えたキリトを見て思わず笑っていた。アスナは睨んではいたけれど、実の所は凄く嬉しそうにも見えるんだ。多分……、姉は当分 手洗わないだろうな、と容易に想像がつくのだ。
「ははは……」
リュウキは、そんな2人を眺めながら、レイナお手製のサンドイッチを頬張っていた。キリトほど、口には出してはいないが、リュウキにとっても、これは本当に美味と感じている。世界にはまだまだ、自分の知らない事、楽しむ事 それが沢山あること、それを改めて知ったんだ。
嬉しいくないはず無い。
「はいっ! リュウキ君?」
レイナはアスナに習い、小瓶から液体を指に乗せて差し出した。それを咥えるのは流石に恥かしいようなので、リュウキは苦笑いをしながら指で掬い取る。レイナは多少は不満はあったものの、恥かしがっているリュウキを見るのも楽しい!とか、レイナは思っちゃっているから結果はオーライなのだ。
「これ、シグルスの葉とレイヤーフィッシュの骨、マドロンの油で作ったの! どう?」
レイナはニコリと笑いながらそう聞いた。先ほどアスナがキリトに味あわせた調味料とはまた違うモノの様だ。……リュウキは、受け取ったその液体を一舐めして表情が一変した。
「……ッ。なるほど、これは魚のフライのサンドには最高に合うな? 凄く美味しいよレイナ」
リュウキは満面の笑みと褒め言葉で返した。
「えへへ~……嬉しいよっ」
リュウキからそう言って貰えて、レイナは目を細めて喜んでいた。
「えっ? それは何なんだ?? どんな味なんだ!?」
キリトはレイナとリュウキのやり取りを聞き耳を立てていたのか、激しく反応していた。まだまだ、美味い物があるのか!?っと思っているようだ。それはまるで、お預けを喰らった仔犬の様だ。
「はいはい、意地汚いことしないの、私も持ってるから」
アスナは、小瓶からその液体を出すとキリトの指に数滴垂らす。
「こ……これは!!」
キリトは目を丸くさせる。日本人の朝食には欠かせないのは醤油。そして、その美味しさから虜になっている人も数知れないマヨネーズ。中にはマヨラーと自分を呼ぶ人もいるとかいないとか。
そしてこれは魚のフライには欠かせない、っと自分は思っているその味。
「これ、タルタルソース! じゃないのかっ!? いや、絶対にそうだろっ? これっっ、この歯ごたえと味っ!!」
キリトは何度も指を舐るようにしながら言う。醤油も好物だが、これもキリトの好物でもあったりするのだ。と言うか、タルタルソースだって最高だ。LOVEだと言ってもいいくらいに。
「キリト、興奮しすぎだ……。っと言いたい所だが、オレも正直同じ気持ちだ。最高に美味しい」
リュウキもクールだがそう答えていた。だって、それほどまでに美味しいんだから。
本日は見事!男性陣の胃袋を?んだ女性陣。今日のMVPは2人だと言っても良いだろう。
レイナとアスナは、ニコリと笑ってハイタッチをしていた。
「しっかし、凄いな……。コレほどまで再現するなんて……。これ、オークションに出したら凄く儲かるぞ! 絶対だ」
その話は以前、キリトから聞いていた言葉だ。あの時は、しどろもどろだったから、アスナは表情を強張らせていたのだが、今回は違う。純粋に美味しいと思って、そう評価をしてくれているのだから。
「ほんとっ!?」
だからこそ、今回はアスナは喜びを表していた。
「ああっ! 間違いない!」
キリトのテンションはまだまだ上がる。
「……この世界で2人の上を行く料理人なんて、恐らくはいないだろう。……間違いないな。オレも保障する」
リュウキも頷きながらそう言っていた。味覚エンジンの全てを解析してしまうプレイヤーがいるとは単純に思えないと言うのもあったが。
「あははっお姉ちゃん! 嬉しいね~。そう言ってくれるとっ!」
レイナは大絶賛している2人を見て笑顔になる。冥利に尽きる……と言ったも同然だ。
だけど……。
「あッ! いや、駄目だ!! ヤッパリ駄目だ!」
キリトは突然、さっきまで言ってたことを否定していたのだ。
「ええっ!! 何で!?」
レイナは笑顔になったその次の瞬間にはそうキリトが言っていたから思わず、こけそうになっていた。
「えー! ……む~~! なんでよ?」
アスナもレイナと同様だった。さっきまでは褒めながら言ってくれたのに、何かケチでも思いついたのか?と思った様だ。
「はぁ……」
リュウキは大体の理由を察したようだ。苦笑いをしていた。
「違う、そうじゃない。オークションになんて出したら、俺の分が無くなる!!」
キリトは真剣な顔つきでそう言っていた。それを見たアスナは思わず頬が緩くなってしまう。
「意地汚いな……。たまになら……作ってあげるわよ」
アスナは苦笑いをしながらも、最後はそっぽ向きながらそう言っていた。その頬は赤く染まっている様だった。
「あはっ♪」
レイナはそんな姉を見ながら……、微笑んでいた。
「………ん」
リュウキもそれは同様で、微笑ましい。と思っていたようだ。何だか……、この場にいられる事、それ自体が幸福なことだと思えたから。
信頼出来る人達と共に過ごす空間。それは、例えどんな所であったとしても……幸せだと思えるのだ。
暫く4人は此処が何処なのかをすっかり忘れて、食事を楽しむのだった。
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