ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第84話 アルゴリズムの変化
~2024年 10月17日 第74層・迷宮区~
現在最前線となっているのが、ここ第74層。この迷宮区に生息する強敵、その1匹がリザードマンロードだ。見た目は片手剣・盾を装備した二足歩行をするトカゲ。
その名前から察するに水辺に生息するもの、の様な気もするのだが水辺もない洞窟の中を闊歩していた。……とりあえず、細かい事はおいといて、その強敵との戦闘が続いていた。
「ふむ……」
リュウキは極長剣を構えながら考える。
基本、モンスターのその行動性には、ランダム仕様にはなっているが、ある程度規則性は勿論ある。幾つかかの行動、攻撃パターンが設定されており、其々のモンスターたちはそれにしたがって行動している。……これまでは リュウキの眼ではその不規則性捉えていた。
それは極端な話、何を出してくるのか判るじゃんけんの様なものだ。勿論そこまでの効力は否めないが、事通常のモンスター相手には絶大的な威力を発する。
だが、例外は勿論あった。
かなりの高性能のAIを搭載しているのか、度々パターンが《変わる》のだ。よく彼が、口にしていたのはその事である。それは今まではその層のBOSS戦でよくあったことなのだが。
「……通常モンスターにまで及んできている、な」
リュウキは極長剣で相手の鎧じゃなく、生身を露出している部分を正確に狙う。剣の柄を持ち突きの構えを取る。
それはまるで、細剣。アスナやレイナが好んで使用している細剣の突きのように滑らかで、そして何よりも早い。流石に細剣程の速度は出ないが、それでも高速と呼んでも良い程の5連撃の突き。
その両手剣をも凌駕するリーチを、最大限に活かした各部位への攻撃。両の腕・両の脚、そして最後には顔面。
“極長剣 上位剣技”《ディザ・スターライト》
リュウキは、すれ違い様に5連撃の突きをリザードマンロードに叩き込んだのだ。リザードマンロードを背に、リュウキは、剣をしまう。リザードマンロードは、攻撃をしようと剣を振り上げるが。
「ギ……」
まるで歯軋りに似た効果音を上げると同時に、その身体は硝子片となって、周囲に飛び散っていった。
「ふ……む。やはり、変化しつつある、か。ここから先も これと同等、いやそれ以上のモノが続くんだろうな」
リュウキはそう呟くと、メニューウインドウを確認。今回の相手との一戦で会得した経験値、コルを確認するとウインドウを消した。
「こんなものだな。よし」
リュウキは頷くと、迷宮区内を歩き出した。
彼は、レイナと結婚をしてそれ以降は最前線の攻略にのみ没頭している。そして、ギルド関係の活動が無いときは、レイナと共に行動をしている。それは攻略やレベリング……もあるが、主に行きたいところにいく。と言う事が多い。
所謂デートと言うヤツだ。
勿論、レイナは血盟騎士団の事もあるから、ギルド関係で出ているときもある。その時はリュウキは1人で行動をしている。そして、1人で行くときは、主に最前線で行動をしている。
基本的にBOSS攻略は今までどおり大手のギルドが時期を決定しているから 1人でする様な事は無い。……というより、もうこの層、上位の層レベルになると、BOSS戦をソロで挑むのには遥かに危険が付きまとう。それは、上位の層だとかそんなの関係なく 当たり前であり、そんな無茶が、彼女から許されるはずも無い。
「ははは……。何より心配をかけるわけにもいかないから……な」
そして、何より今の彼には帰りを待っている人がいる。……帰りを信じて、でも心配をして、待っていてくれている人がいるのだから。当然、無茶をする事は出来ないし、やらない。
リュウキはそのまま、迷宮区を歩き視て回っていった。
「……ん?」
暫く歩いている時の事。目算で凡そ4,50m先だろうか、このエリアで誰かが戦っているのが視えたのだ。
最前線において、他のプレイヤーに出くわすのは良くある事。だが、それは60層台の攻略の時だった。最近は 最前線で戦っている数が減ってきている為だ。リュウキも前線で出会うのは1週間ぶりだったりする。
そして、出会った相手というのが……。
「ああ、……成る程、やっぱりか」
リュウキは、更に近づいて、はっきりと判った。そこに誰がいるのかが。
全身黒一色……とまではいかないが、それに近しい装備。自分自身も他人の事、言えるほどセンスがある訳ではないが。そこに誰がいるのかはそれだけで、一目瞭然だった。
それは、《黒の剣士》そうキリトだ。
キリトが、丁度 リザードマンロードのソード・スキルを掻い潜り、ソードスキルを一気に叩き込んだ。
“片手剣最上位スキル”《ファントム・レイブ》
6連撃に及ぶそのスキルは、片手剣においては最も強力なスキルだ。そして相手の全基本能力が下がる追加効果もあるスキル。だが、追加効果は、全く意味を成さなかった。
何故なら、そのスキルが決まりきったところで、相手のHPが0になり砕け散ったからだ。
モンスターを倒したのを確認すると、キリトは一息をついていた。表情から読み取るに決して、余裕はあまり無いようだ。リュウキは、キリトに近づいてゆき、声をかけた。
「……大丈夫か?」
「ッ! っとと」
背後からの突然の声にキリトは大層驚いたようで、思わずバックステップをして、見事なその身のこなしで、向き合った。
「はぁ……何だリュウキか? 驚かすなよ」
キリトは背後にいるのがリュウキだと解るとほっとなでおろし、右手に持っていた剣を鞘に収めていた。
「悪い。それより大丈夫なのか? HPの残は」
キリトは戦闘直後の為 リュウキはそれを聞いていた。
「ああ、まだ7割はあるよ。大丈夫」
実を言うと、多少は危険はあったし 集中もしていた。だがキリトは、心の底ではリュウキが来た事、それが安心に繋がったようだ。リュウキがいれば、最前線であろうと未踏破の迷宮区だろうが まず間違いなく、危険度は激減するのだ。だが……キリトにとっては複雑なのも事実だった。
『こいつには負けたくねーー!!』っと言うネットゲーマーならではのプライドを大いに刺激されるのだ。
それはデスゲームと変わり果てたこの世界の世界でも 当然奥底ではあったのだ。
「……この74層は、いや 70層以上からは敵のアルゴリズムにイレギュラー性が明らかに出てきている。……油断はするなよ?まぁ、言われるまでも無いとは思うがな」
リュウキは、今まで視てきた事を、キリトに伝えていた。だが、キリトの事は十二分に信頼はしているし、知っているからそこまで心配はしてなかった様だ。
「いや、リュウキに言われたら、こう……ガツンっと来るものがあるからな。肝に銘じておくよ」
キリトは決して油断しているつもりはない。リュウキの言うように、敵の不規則性が出てきているのは身を持って知っているからだ。
「そうか」
リュウキは背を向けた。
「ん? リュウキはもう帰るのか?」
キリトはリュウキに聞いた。リュウキが向いている方向、それは出口の方角だからだ。まぁ、横道に入ればまだ未踏覇の場所に行けるから、実際には判らないがキリトはそう聞いた。
「……ああ。……帰り、待っていてくれてるから」
リュウキはそう答えた。
「ああ、そう、だったな」
キリトはその言葉を聞いて 思い出した。
レイナとリュウキの事。
アスナの言うとおり、これこそまさに雨降って地固まる。と言うものだ。
「……しっかりやれよ?」
キリトはニヤッと笑うとそう答えた。
はっきり言ってしまえば、自分もそう言う経験があるわけじゃないから、何を言えば良いのかよくわからないが、とりあえず ひやかすよーにいっていた。……何だか、自分はクラインにでもなってしまったかの様に感じていた。
「……ああ、そうだな。まだ、よく解ってない事が多すぎるから。日々精進っと言うものだ」
リュウキはその冷やかしを冷やかしと思っていないようだった。
「たはは……」
だからこそ……キリトは苦笑いをしていた。リュウキはこういうヤツなのだ。その事を別に忘れているわけじゃないのに。 でも、以前と比べたら 断然今の方が良い、とキリトは強く思っていた。
「ま、とりあえずオレも今日は引き上げようかな。……出口まで一緒に行かないか?」
「ああ、構わない」
2人は、そのまま共に行動をする事になった。そして、道中 何度かモンスターに出くわしたが、この2人にとっては、まるで問題無かった。互いが互いを補い合い、最早死角は無い、とさえ言えるのだ。
ここまできたら、逆に出くわしたモンスターが可哀想だ、と思える程に。
(……そう言えば、リュウキと共に戦うのは基本的にBOSS攻略くらいだったからな……。前衛に手練がいれば本当に戦闘が安定するな)
キリトは、1戦、1戦を戦う事に、強くそう感じる。
回復のタイミング、スイッチのタイミング、そしてソードスキルの出すタイミングもそう。そして、何より……。
「キリト! 右、45度だ!」
リュウキの言葉にキリトはすかさず反応し、迎撃をした。
キリトは、敵がどこから、どう来ようが その軌道が判る様に錯覚していた。……リュウキの眼は、最早ゲームバランスを壊してると思えてしまう。リュウキ自身は、まるで敵の考え?が筒抜けでいて、その行動の先まで、未来まで視えているかのようだった。動く場所、そして攻撃してくる位置がよく解るからこそ簡単にカウンターを見舞えるように見える。カウンターで当たる為、基本的に会心の一撃であり、通常よりも高威力になるから、さらに戦闘にかかる時間が短くなるのだ。
戦闘が何度か続いたが、問題なくキリトとリュウキは共に迷宮区を抜け出した。
「しかし、ほんっと便利だな。いやマジで。リュウキのその眼は。攻略組の連中 皆が持てれば格段攻略速度が増すって核心するよ」
「……無いもの強請りしても仕方が無いだろう? それに、《これ》は本来なら使う予定がなかった力だ」
キリトの言葉にリュウキはそう返した。
「ん? 使うつもりが無い? 何でだ?」
キリトはその言葉に疑問を持ったようだ。ここまで役に立つ能力は他には無いと思えるから。使わないなんて、宝の持ち腐れだろう。
「……不正をしている気になるからだよ。オレは、元βテスター上がりと呼ばれているが、これじゃ本当の《チーター》になってしまうだろう? 別に不正を仕掛けたつもりが無いのに、使えるんだから」
リュウキはため息1つ、そう答えた。確かに、相手のレベル関係なく、識別スキルも関係なく、全てを見通すそんなものを持っていたら……。そう考えてしまっても不思議じゃない。それに何よりネットゲーマーは嫉妬深いと言う事もあるのだ。過去にもそれは経験があるから。
「……だが、助けれる事もあるからな。この力のおかげで。だから、オレは迷ったりはしないよ」
リュウキはそうも答えていた。
使えるものは何だって使う。そのせいで、罵られると言うのなら喜んで受け入れる。その為に守れる者があるのだったら。
「だよな……。オレも、ちゃんと考えないと……」
キリトは、リュウキの言葉を聴いてそう呟いた。
「……ん? キリトも何かあるのか?」
リュウキはキリトの呟きが聞こえた様で聞き返した。
「あ、ああ……ちょっとな」
キリトは、リュウキに訊かれ 口籠っていた。どうやら、教えたくない……と言う事だろう。
「……まぁ、別に強制はしない」
リュウキはそれ以上聞かず、極長剣をしまった。
「……そう言えば、リュウキのその剣」
キリトは、指差しながらリュウキが聞いた。
「ん? 極長剣のこと……か?」
リュウキは、肩に掛けた、極長剣を手に取った。
「ああ、確か……リュウキは、気がついたらスキル一覧に出てたっていってたよな?」
「……ああ、そうだ。一通りの武器をスキルを試していたら気づかない間に出ていた。と言うのが正しいな。……正確な出現条件は今だに不明。アルゴに聞いても俺以外で使える者がいないから、……まあ、所謂ユニークスキルで間違いないだろうな。もう随分になる。……頼りになる相棒、だな」
再び極長剣を手に取りながらそう答えた。この剣はこの世界においての相棒の様なものだ。この極長剣に命を何度も救われたんだから。
「なるほどな……やっぱそんな感じか……」
キリトは口元に手を当てながら考えていた。……そこまで言ってしまえば、もうバレバレだ、って思うのは自分だけだろうか? とリュウキは思っていた。
「……はぁ、っと言う事はキリトも出たのか? 新しいスキル、エクストラスキルが」
リュウキはため息を吐きながら、そう言っていた。
「ッッ!! な、何で!?」
リュウキの言葉を聞いて、キリトはビクッ!!っと身体を震わせた。
「……いやいや、そこまで言えば筒抜けだろう。オレのスキルの事確認して、意味深な顔して『そんな感じか……』とか、言えばさ? ……大丈夫か? そんな調子で話してたら、それもオレとじゃなく、アルゴと話してたら、1回の接触で、倍以上は情報抜かれるんじゃないか?」
リュウキは呆れながら言っていた。アルゴと話したら、10分に10個の情報を抜かれるぞ? とも思えていたのだ。
「うゔ……確かに……」
キリトは、冷静に考えれば、教えている!と言っているも同然だと思えていた。……何故だろうか、リュウキの前じゃなぜか緊張感が揺らぐのだ。
「……まぁ、気をつけろよ。あまり騒がれたくないのなら」
「はぁ、善処するよ」
……ぐうの音も出ないのはこの事、だろう。
でも、たまには悪くない……とも思うんだ。頼りになる男が共に戦っていると考えたら……無意識に安心をしてしまうのだろうから。
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