Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#23 強襲・神託の盾騎士団
この巨大戦艦タルタロスが震え、そして とてつもなく大きな音が響いてくる程の衝撃。何があったのか、確かに判らないが、判って無くても嫌な予感しかしなかった。
「艦橋どうした!?」
声管を使いジェイドが連絡を取る。すると慌てた様子で直ぐに返答が返ってきた。
『大佐ッ!! 敵襲です! 前方上空にグリフィンの大集団です!!総数は……総数は不明!! 全体連絡!! 総員! 第一戦闘配備につけ! 繰り返す!! 総員! 第一戦闘配備につけ!!』
その伝声管の声は、この部屋に響き渡る程の音響だ。何が起きたのか悟った他のメンバーは、急いで外を見た。
『グ オ オ オ オ オ オ オ オ !!!!!』
外、この空の上空には、まるで空の全てを覆い尽くすかのような数の魔物が、グリフィンの大集団が押し寄せてきたのだ。
いや、それだけではない。空にはグリフィン、そして大地からは、ライガの群れが襲ってきているのだ。如何に戦艦とは言え、数の暴力である。全てが合わされば タルタロスよりも大きな巨大魔物の様なものだから。
『グリフィンから 多数のライガが降下!! お、応戦間に合いません!! 船体に張り付き攻撃を……! 〝ドガァァァン!〟 ぐわぁぁッ!!』
その連絡が艦橋との最後の通話だった……。その伝声管を伝って響いてきた爆音が影響だろうか、戦艦が更に大きく揺れた。
「きゃーーーっ! ルーク様~~ アニスこわーい~~」
アニスが、揺れを利用してルークに飛びかかった。所謂抱きしめ~と言う事。
「うわわ!?」
ルークは揺れに戸惑っていてそれどころではなかった。
「魔物たちが連携行動を……!? どういうこと!?」
ティアもこの現状を理解する事が出来ない。ただ、この場所が危険だと言う事以外は。
「艦橋! 応答せよ!艦橋!!」
ジェイドが、何度か連絡を取ろうとするが返事が帰ってくる事は無かった。
凄まじい揺れは、このタルタロスを壊す勢いで続き、それと連動している様に、モンスター達の唸り声も続いていたのだが、突如 前触れも無く、それは止まった。
「と……止まった………!? イオン様 大丈夫ですか?」
ティアが、漸く揺れが止まったのを確認すると、急いで膝をついているイオンに手を差し伸べた。
「は はい、ボクは大丈夫です」
イオンの傍にいたアルは、周囲を警戒していた。
「何とか……とりあえずは止まったね……。まだ安心は出来ないけど……」
確かに震えは止まったけど、あれだけの数のモンスターの唸り声が突然消えたのだ。その方が不自然過ぎる。
「じょー……冗談じゃねえ! こんなアブネー陸艦! 俺は降りる!!」
ルークは直ぐに立ち上がると、ドアに向かって駆け出した。
「だ、駄目だよルーク!! 外には敵がいるかもしれないのに! 今はっ!」
アルが引き止めようとするのだが、そう言い終える前にルークは飛び出してしまった。
その時。
「そのとおりだ!」
通路で待ち伏せしていたのか、目の前に突如大男が現れた。 巨大な大鎌の様な武器がルークの首近くまで振り下ろされ壁に突き刺さる。ほんの少し ズラすだけで ルークの首を斬られてしまうだろう。あの大きさの鎌だ。少しでも当たれば、大怪我じゃすまない。
「迂闊に動くなよ この坊主の首が飛ぶぞ? さあ 大人しく導師イオンを渡してもらおうか」
佇まいから、只者ではないと言う事は誰もが感じた。身体程の大きさの大鎌を軽々と扱うその腕力、そして、まるで射抜くかの様な眼光。そして強大な威圧感をこの男は放ち続けている。
男の名は。
《神託の盾騎士団 六神将 黒獅子ラルゴ》
直ぐに、部屋にいた全員は、飛び出し ラルゴがいる通路に全員が集まった。確かに数を考えればこちらが圧倒的に有利なのだが、相手はルークを人質に取っている。だから、迂闊には動けないのだ。
「戦乱のたび骸を漁るお前の噂……、世界に遍く轟いているようだな。 死霊使いジェイド」
「いえ―――貴方ほどではありませんよ。神託の盾騎士団 六神将 黒獅子ラルゴ 成る程、六神将が着ているとは誤算でした。……が、あなたがたった1人で この私を倒せるとでも?」
一触即発の状態だった。と言うより、ジェイドは、ルークを人質に取られている事を忘れている物言いだった。極限までの駆け引き、とも言えるだろうか。
(死霊使い? まさか……)
ティアは死霊使いの名に驚いているようだ。それ程までに、有名な異名なのだろう。でも……、今は、それどころではない。ルークを助ける事が先決だ。そしてイオンもそう。
あの男が、神託の盾だと言うのであれば、目的はイオンだろうから。
アルは、ゆっくりと後退る。ラルゴは殆どジェイドのみに集中している様だから、それくらいであれば、動ける。そして、ティアの後ろにまで来ると。
(ティアさん……暫く動かないで……オレをそのまま隠してて!)
アルは、小さくそう呟くと、譜術を発動させる為の術式を、ラルゴに見えない死角の位置に刻んだ。
「!?(わかったわ……)」
一瞬ティアは、突然の事に驚いていたが、振り向かず直ぐに理解してその場で、隠す様に身構えた。これにより完全にラルゴからはアルが見えなくなる。
「ふん……。確かに死霊使い殿を相手にするのは聊か骨が折れそうだが、これを使えば別だ。ふん!」
「!!」
ラルゴはそう叫ぶと、ジェイドの頭上に小さな箱のようなものを投げつけた。その箱は、ジェイドの真上にまで到達すると分解し。
バリバリバリ!! と、まるで雷の様なものが、ジェイドに降り注いだ。
「こ、これは! 封印術!!」
ティアが、投げられたそれが何なのかを悟り、叫ぶが、もうジェイドの身体を包み込んでおり、既に遅かった。
「し! しまった!!」
雷の様な結界がジェイドを包み込み、そして その雷は一瞬だったのだが、ジェイドの身体を蝕む様にとり憑いた。ジェイドは堪らず、その場に疼くってしまった。
「ふん。これは本来、導師の譜術を封じる予定の物だったがまあいい!! これで貴様は、強力な譜術が使えぬ!!」
ラルゴはそう叫ぶと、一気にジェイドに攻め寄った。封印術それは、その名の通りの効力を発揮する。封印するのは、相手の譜術だけでなく、その身体能力もある程度低下させる事が出来るのだ。
故に、マルクト軍の大佐として、今まで培ってきたジェイドの強大な譜術の殆ど、そして身体能力が封じられてしまったのだ。
「くっ!!」
ジェイドは、咄嗟に槍を出し撃退の体制をとった。幾ら譜術を封じられたからと言って、おめおめと殺られる彼ではない事をアルは知っている。あの巨大ゴーレムと戦っている際に、放った槍術は、譜術にも負けずと劣らない力だったから。 そして、その身のこなしも。
「アニス!! イオン様を!!」
ジェイドは、アニスにそう指示を出すが、アニスは既に判っていた様で、返事をする前にイオンを引連れて走り出す。
「させぬ!!」
ラルゴは鎌を構えなおした。ここに来た理由がイオンだから、それを見逃す筈が無いからだ。そして、この瞬間を待っていた。攻撃の構えを取ったその時が一番ダメージが通り安いのだ。
「ジェイド!!そいつから離れろ!!!」
「!?」
「何ィ!」
後ろからアルの声が聞えた為、ジェイドは接近し攻撃せずに後ろに跳躍、 アニスに気を取られていたラルゴの元から、ルークを連れはなれた。
「足元注意だッ!! 唸れ! 吼えろ! 沈黙を破りし、大地より迸るは神成る雷! 《ライトニング・ボルト》」
アルが詠唱を終えたと同時に、ラルゴの足元が、突然光り出した。
「これは……っ! バカな! いつの間に!」
ラルゴは、驚愕の表情を大地へと向けた。その光、そして力を一瞬で把握したのだ。これだけの力の譜術を発動させるのには、それなりの時間を要すると言うのに。
思考を張り巡らせてしまった為、防御体勢に取れなかった。
その次の瞬間、足元から頭上まで雷撃が迸る。
雷撃は、先ほどジェイドを襲ったそれに似た輝きだが、性質は全く違った。流石のラルゴでも、鎧、鎌、その全て電気が通る物質だ。絶縁される訳でもなく、その雷撃は、全てラルゴに伝ったのだ。
「がはああッ!!! おっ おのれぇぇ!!!」
ラルゴは倒れるどころか体勢を立て直そうとしていた。
「ッ……! アレを直撃して気絶さえしないなんて……!!」
そのラルゴの頑丈さ、タフネスには驚愕だ。雷撃は、相手の意識を刈り取る。たとえ、刈り取る事ができなくとも、一時的に麻痺させる効力がある筈なのに、ラルゴは立ち、そして迎撃準備をしているのだ。
「いえ! でもチャンスです!!!」
ジェイドは、勝機と判断し、素早く槍を構えた。雷撃をまともに受けたラルゴは倒れこそしなかったが、動きは鈍くなっていた。
その隙をつき。ジェイドは、槍でラルゴの体を貫いたのだ。
「!!! 刺ッ」
傍にいたルークは、槍が身体を貫くその場面を、目の前で見てしまった。それを見て、ルークは一瞬気を失うような感覚に襲われてしまっていた。
ジェイドは体を抑えながら、槍を消した。
「大佐! おケガは?」
ティアも駆けつける。
「大丈夫です。助かりましたよアル」
ジェイドは、そう言うと槍を何処かへとしまい、こちらを向いた。
「どういたしまして、……とりあえず 何とかなったね」
アルはそのままジェイドの方に手を上げた。あの封印術と言うものを受けた時、心配をしたんだけど、大丈夫そうだから、安心した様だ。
「このまま艦橋を奪還しましょう。イオン様はアニスが無事合流先へ逃がしてくれたはずです」
「でも、大丈夫なの? さっきのアンチ……何とかってやつは?」
アルがそう訊いた。安心した、とは言っても、あれだけ苦しそうにしていたんだ。それなのに、一気に奪還までしよう、と言っていた事に驚いたのだ。
「大丈夫です……っと、言えればいいんですが、封印術を完全に解くには数ヶ月かかってしまいます。 ですが、ティアの譜歌。 ルークの剣術。そしてアルの譜術が あればタルタロスの奪還は十分可能です。……協力していただけますか?」
軍人として、力を借りなければならない状況には複雑な思いはあるのだが、選んでいる場合ではなく、そして、何が最善なのかを考えたら、これしかないのだ。
「オレは勿論だよ。早く親書を渡して欲しいし、イオンやアニスも心配だからね」
「私もです。行きましょう ルーク」
「あ、 ああ………」
ルークはとりあえずは返事をしていたが、頭の中は先ほどの突き刺す場面から離れなかった。
(人……を刺した……)
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