ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第80話 1つになる想い
~第53層 リストランテ~
それは美しい景色だった。
この場所は人が作った仮想世界だけれど、自然のままに自然が広がり、その自然はどこまでも続いていた。もう、ここが人工世界だなんて思えない。
そして、何よりもこの層には深い思い入れもある。
――……リュウキはその空を、眺めていた。
此処最近は普段より……眺めている時間が多かった。そして考える事も決まっていた。この大切な思い出の場所で。
「……誰かを好きになる。……か」
リュウキはその事を考えていた。好きになると言う気持ち、それを理解する事が出来たんだ。
……いや、きっと自分の中では判っていたんだと今なら判る。無意識に知らないふりをずっとしていただけなんだって、判っていたんだ。だからこそ、意識したその時からずっと、本当に怖かった。
その気持ちに気づく事だって、怖かったんだ。
なぜなら。
――……今まで自分の好きになった相手は、いなくなってしまうんだから。
リュウキの側に、ずっといてくれたのは爺やだけだった。……でも、厳密に言えば、爺やに対する自分の想いとは また違う。
思い返すのはサニーの事。
彼女と共に過ごしたあの期間はとても短かった
とても、短かったんだ。だけど一緒に仕事をして、そして遊んで。
毎日がとても楽しくて……楽しくて……。
そして、何時からか、彼女に惹かれていた。それは、きっと レイナといた時のそれによく似ている。
だからこそ今思えば……きっと、サニーの事も好きだったんだって思う。だからこそ あの時、とても辛かったんだ。仕事なんか手に付かない程に。爺やが側にいてくれなかったらどうなってたのか自分でも解らない程に。
仇をとって……自分の中で強引に解決したんだって決め付けてたけど。
心に深い傷跡を残した。……心的外傷となっていたんだ。
リュウキが、今を悔やみ、そして過去を思い出し、自分自身を見つめ直していたその時だ。
「リュウキ……君」
「ッッ!!!」
誰かがリュウキの後ろから、声をかけていた。声から……誰が後ろにいるのかは直ぐに、その声の主が判った。
「レイ、ナ……」
すぐ後ろに来ていたのはレイナだった。
――……何で、今ここにいるんだろう。何で、こんなに君の事を考えていた時に、傍に来ているんだろう。
リュウキの頭の中で、それらがぐるぐると回る。
彼女は、自分が……この世界で自分が好きになった人。好きだって気持ちを教えてくれた人。想いと心的外傷の狭間の中で溺れていたリュウキは、辛うじて心身を立て直す事が出来た。
「………その……どうかしたのか?」
そう、自然にレイナに聞く事が出来ていた。
でも、その言葉の一つ一つを言う度に、ありえないほどに心臓が脈打つ。デジタル世界だと言うのに、忠実に心の機微を。現実の全てをトレースしているようだった。
「う……うん。あのね……」
この時レイナの方も必死だった。必死に、言葉を考えていた。そして、直ぐにリュウキの事が好きだって言いたかった。
でも、凄く怖い。物凄く怖い。
リュウキから、フラれてしまう事もそうだが、何よりも、拒絶されてしまうのが怖かった。彼女は、リズやアスナには大丈夫だとって言ってもらったいたから此処に来た。後は勇気だけだと2人に言われたから。
「……レイナ」
「はっ、はいっ!!」
レイナが言おう言おうとしていたんだけれど……リュウキの方が先に声をかけていた。リュウキの表情は見た事のないものになっていた。真剣で、そして……申し訳なさそうに俯かせていた。
「……その、ごめん……な。レイナに今まで 不快な想いをさせた……」
「えっ……?」
俯かせたまま、リュウキは頭を下げていた。
「いや……そんなっ……」
レイナは思わず慌てていた。
そんな事、言われるとは思っていなかったから。そして、それは聞きたい言葉でもなかった。
「あのねっ……私、私は……。「オレは…」ッ!」
リュウキはレイナの言葉を遮るように……続けた。
「……守れない男なんだ。……レイナ。オレは《好きになった人》を守れない……。大切な時に、今までもそうだった。そしてきっと……、きっと、これからも そう なんだ。だから……レイナを、遠ざけて、たんだ……」
リュウキは、悲しそうで、そして申し訳なさそうな、表情をしていた。
そして、心の底から怯えている。それがよく判る表情だった。
「えッ………」
逆に、その言葉にレイナは驚いていた。凄く驚いた。
リュウキが悲しそうな顔をする理由が……わかった気がした事に。そして何より……リュウキの言葉の《好きになった人》と言う言葉、それを訊いて、顔が赤くなっていってるのがよく判った。
そして、リュウキの言葉の意味、その根底もレイナは、理解する事が出来ていた。
「………勝手な想いだった。……オレだけの、手前勝手だって判っているんだ。レイナの事、勝手に1人で想って。その上、レイナに不快にさせた……。皆にも色々と迷惑をかけた。……最低だよな。オレが馬鹿だったんだ……」
頭を下げ、俯かせていたリュウキだったが、もう レイナの方に向き直し、そして彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「……これからは、以前の様に戻る様に努力するから……。 すまない。少し時間を、くれないか。必ず……必ず元に……戻る「戻らなくていいっ!!」ッ」
レイナは最後まで言わせず、リュウキとの距離を一気に縮めて、近づいて……、その震えているからだに、ぎゅっと しがみついた。
「私も……私もリュウキ君のことが好きだから! 大好きなんだからッ!!」
レイナは涙を流しながら、そう叫んだ。
「レイ……ッ」
リュウキは驚きながらも勢いよく抱きついたレイナをしっかりと受け止めた。
「私……ずっとあなたのこと、好きだった。きっと、初めて会って……お姉ちゃんと仲直りが出来たあの時からずっと……っ。会えない時もずっと。あなたのこと、想っていた」
リュウキを抱きしめる力を強めながら……、レイナは続ける。想い全てを 彼の心に届ける為に。
「わたし……わたしはあなたの事がっ リュウキ君のことが好きっ。心から大好きっ……」
涙を流しながら、レイナは続けて言っていた。リュウキはこの時、初めて互いが好き同士である事に気がついたんだ。
「……オレも、好き……だ。オレの事を聞いてくれたあの時から。ずっと……心に残っていた。判らない感情を、判らなかった……感情を……漸く知れたんだ。その好きになるって事教えてくれた……」
リュウキは、レイナの事を受け止めこそしたが、抱きしめ返してはいない。彼女を抱きしめてしまえば、もう 戻れない。逃れられなくなってしまうと感じたから。
自分にとって、呪いとも取れるかつての過去の出来事、それから逃げられないと感じたのだ。自分がじゃない。……目の前のレイナが。
「だが……。ぼく、ぼくは……ッオレ……、オレは レイナを失いたくないんだ。でも……でもっ……、オレといたらっ……きっと、君は……。《あの時》みたいに」
だからこそ、リュウキは身体を震わせていた。
抱きついている為、その震えはレイナにも十分に伝わっていた。震えだけじゃない……、リュウキの悲しみも、一緒に伝わってきた。
あの時、話してくれた《サニーを失った時》の事だと。
リュウキは、その闇に囚われてしまっている。闇の中で、苦しんでしまっているんだ。
「わたしはっ、絶対にいなくならないから……。……貴方を守る!私が貴方を守るからっ……お願いっそんな事、言わないで……」
だから、レイナはリュウキに必死に訴えた。
リュウキは、自分といればきっと失うと想っている……。だからこそ、避けると言う行動をするしかなかったんだって、いま判った。
きっと好きと言う気持ちを理解して、その時に強く残ったんだろう。あの時の記憶が。
「判ってるっ……、私は、判ったのっ リュウキ君が言っている意味、私、判るから! 前に話してくれたあの時の事を言ってるんだって……。 でも私は、いなくならないから……貴方の前から絶対に……。絶対に離れないからっ」
レイナは繰り返した。何度も何度も。
『貴方の前からいなくならない。傍にいる』と。
「ッ……ッッ……」
リュウキはただただ、震えていた。以前の、普段の彼からは想像がつかない状態。弱々しく……ただただ震えている。
そう、まるで子供の様に。
「ずっと、一緒……貴方の側にいる……から」
リュウキはそれを聞いて、地面に崩れ落ちる様に膝をついた。レイナもしっかりと抱きしめていたから、それも一緒だった。
「れいな……れい……な……」
この時、初めてリュウキはレイナの事、抱きしめた。もう放してしまわない様に。……二度と失わない様に。
「……リュウキ君は私が守るから。……だから、リュウキ君も私を守ってね?2人で……一緒に強くなろう。そうすれば……きっとずっと一緒にいられるから」
「……うん。レイナ」
リュウキはレイナと向き合った。吐息が吹きかかるほどに近くに。
「オレは……レイナの事が……好きだ」
「私も……リュウキ君の事が好きです。……大好きです」
2人は自然と寄り添うように……そっと口付けを交わした。
リュウキはキスの事なんて経験もなければ 知識も無いに等しい。行為そのものは当然だけど、知っていた。……ただ、それは2人の唇が合わさる。それだけの事、と考えていたのかもしれない。何故、そんな事を?とこれまでは思っていた。でも、自然に、自然に 自分の唇をレイナの唇に当てていた。
相手を求めるように……長く長く。
キスをする理由も、リュウキはこの時、初めて理解できたのだった。
そして、レイナ自身も、これはファーストキス。
初めては、自分の全てをその人に任せられる程、好きになった人にと心に決めていた。
そして、この世界で出会って、初めて恋をしたんだ。切欠は一目ぼれ、なのかもしれない。でも、それだけじゃない。何度も何度も、会ってる内に、話している内に、優しさにも触れた。
心から、好きになった人だから。
だから、避けられた事がずっと辛かった。
だからこそ、今日想いが1つになったのだから。
彼を求めている間……、今までの悲しみを全て、涙と一緒に流した。触れ合う温もりを、鼓動を感じながら
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