パンデン
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第三章
「俺達も買うか?」
「チベット族の人の服を」
「ああ、登山の時は登山の服を着るにしても」
「ここにいる間はですね
「やっぱりああした服の方がいいからな」
彼等が今着ている洋服よりもというのだ。
「だからな」
「あの服を着て」
「そしてな」
そのうえでというのだ。
「快適に過ごそうな」
「そうですね、その方がいいですね」
大山も春日の言葉に頷いた、そしてだった。
食事の後は服屋に行った。そのチベット族の服が売られている店にだ。どれも生地が厚く袖が長い。そうした服を実際に着てみると。
大山は鏡で自分の格好を見てだ、自分と同じ服を着ている春日にこう言った。
「何かもう」
「現地の人みたいだな」
「チベット人みたいですね」
春日に笑って言った。
「完全に」
「同じアジア系だしな」
「だからですね」
「もうそれこそな」
「チベット族の服を着たら」
「俺達もチベット人になるんだよ」
春日も笑って言う。
「少なくとも外見はな」
「もうチベット人ですね」
「そうだよ、それじゃあこの服で街に出てな」
「また観て回るんですね」
「そうしような。ヒンズー教やチベット仏教のお寺も観るか」
「あっ、チベット仏教の」
「面白いものも観られる」
春日の笑みはここでは思わせぶりなものになった。
「驚くぞ」
「チベット仏教のお寺で」
「ああ、前以て言うけれどな」
「驚くんですか」
「観たらな」
「何かよくわからないですけれど実際に行ってみたらですね」
首を傾げさせながらだ、大山は春日に応えて言った。
「わかるんですね」
「よくな」
「わかりました、じゃあ行きましょう」
「チベット仏教のお寺にもな」
こうしてだ、春日は大山をまた観光に連れて行った。ネパールに多いヒンズー教の寺院だけでなくチベット仏教の寺にもだ。
高山地帯にある寺は石造りで同じ仏教のものでも日本のそれとは全く違う、それは僧侶達の服だけではなかった。
その日本のものとは全く違う寺に入ってだ、大山が春日が言う様に驚いた。そこに描かれているあるものを見てだ。
それは卍である、しかし。
ただの卍ではない、何とだ。
「あの、これって」
「あれだな」
「はい、あれじゃないですか」
その卍を見つつ言うのだった。
「逆さになってて」
「ハーケンクロイツだな」
「それじゃないですか」
逆卍だ、それこそまさにだ。
「ナチスのあれじゃないですか」
「そうだな、しかしな」
「あの、卍は正義の象徴で」
「逆卍は、だな」
「邪悪の象徴じゃ」
「それは孔雀王だろ」
春日は笑ってこの漫画にあった話を出した。
「ラスト=バタリオンの時に出てたな」
「あら旭日の艦隊でも書いてましたけれど」
「卍が正義の象徴ならな」
「これってお寺にあったら」
「いいんだよ」
「いいんですか!?」
「その逆卍はあれなんだよ」
春日もその逆卍を見ている、ハーケンクロイツ。しかしその目は邪悪を見ているものでは決してなかった。
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