グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第24話:思い出のバカンス……出発しまーす。
(グランバニア城)
ウルフSIDE
地平の彼方より朝日が昇り始めた頃、俺とマリー・リューノは港行きの列車に乗る為旅行鞄を携え城から出発する。
リュカさんに貰った乗船券は、時間的に余裕がある物ではあるのだけれど、城内でもたついてると俺に仕事を押し付ける輩が居るかもしれない。
それに、あえてルーラを使わずに旅を楽しむ為にも、早めに行動しておいた方が都合がいい。
だから昨晩は残業(仕事も私事も)せず、早寝を決め込みました。
うん。清々しい朝ですワ!
計画では誰にも見つからない内に出て行くつもりだったけど、オジロン閣下は文句を言いたかった様で、俺達の出発を城門で待ち構えていた。
……それとも年寄りは朝が早いからなのかな?
「いいご身分だなウルフ」
「はい。閣下の甥御様が手配してくれましたから。存分に楽しんでくる所存です」
苦笑いで嫌味を言ってくる閣下に対し、満面の笑みで受け返すのは俺。
バカンスが決まった直後は大勢の方々が不平を言ってきた。
でも『リュカ陛下がセッティングしてくれた旅行に何か文句がおありですか?』と、言外に“文句があるなら国王に言え!”的な事を含めて言い続けたら、殆ど文句を言う奴は居なくなった。
アレでも国王だから、名前を使えて助かるわぁ……
「MHは持っているのだろうな?」
「当然ですよ閣下」
万が一の場合を考慮して、MHを託された者は私用での外出時も携帯しなければならない。
ただ余程の事がない限りコールしてくる事は無いだろうし、リュカさんがそれはさせないと言ってくれた。
って言うか、余程の事って何だ?
大抵の事柄はリュカさんが片付けてくれるだろう……
さて……
何時までもここに止まってると本当に仕事を押し付ける輩が現れるかもしれない。
列車の時刻も迫ってる事だし、そろそろ出発しようと思います。
「ではオジロン閣下……我らはバカンスに行って参ります。不在中の国王陛下の奇行は、全て閣下にお任せしますので、胃薬を常備して挑んで下さい(笑)」
「早う行け馬鹿者。この地位に就いてから胃薬を切らした事はないわい!」
冗談では無く真実なのだろうが、それがまた笑いを誘う。
うん、良い感じでの出発だね。
(グランバニア城前ステーション)
グランバニア城門から歩いて3分……最寄りのステーションに到着。
10日程の旅行だが、金さえ持っていけばどうにでもなると思い、俺の荷物は少なめだ。
着替え数着とMH等……あとはスケッチブックだけ。
しかし……同伴の女性二人の荷物が異様に多い。
大きい旅行鞄1つに、キャスター付きの大きいスーツケース1つ……更にはそれぞれのパーソナルカラー(マリーは赤、リューノは青)のショルダーポーチ。
何が入ってるんだ?
そんなに必要なのか!?
そして……どうして俺が二人の荷物を持たねばならないんだ!?
本心では文句を言いたかったのだけど、最近蔑ろにしてた罪滅ぼしと思ってグッと堪える健気な俺。
あぁ……尻に敷かれ始めてるって実感するね。
ハツキが見たら何て言うかな? 笑うだけかな?
(グランバニア城下環状線・列車内)
程なくやってきた列車に乗り込み、乗客の殆ど居ない車内の座席に腰を下ろす。
不必要だと思われる重荷から解放され、窓の外に視線を向ける。
グランバニア城下町の最南端にあるグランバニア城から、最北端にあるグランバニア港へは直線距離で12キロメートル程ある。
その城下町の外縁を円を描く様に運行する“グランバニア城下環状線”は、グランバニア城前ステーションからグランバニア港前ステーションまで45分。
環状線内側の町並みは80%以上の整いを見せてるが、外側はまだまだ発展途上。
特にグランバニア城下町の東側は、新たに闘技場スタジアムの建設が始まったので、日々その景色を変化させている。
まだ巨大な基礎工事段階だが、2年後には立派なスタジアムが出来上がる予定だ。
……予定つーか、出来上がらないと困るんだよね。
「何か……凄い建物よね。あれが2年で出来上がっちゃうなんて……本当に凄いわね」
リューノが俺の視線の先を見詰め感想を述べてきた。
本当にそう思うよ、俺も。
「出来上がったら、闘技大会以外でも使用するんでしょ?」
「そうらしいよマリー……多分リュカさんの頭の中には、アレの活用方法が満載だ」
リュカさんが広めた“野球”も出来る設計にしてあるし、歌や芝居を見せる為のステージにも変化可能な設計にしてある。
その為にスタジアムの側にも新たなステーションを建設し、新たな路線を運行させる計画になっている。
新たな路線は環状線では無く、グランバニア城下を東西に突っ切る形で建設予定だ。
路線名はスタジアム線と名付けるらしい。(ヒネリがないなぁ……)
列車の増線計画は他にもあり、グランバニア国内は何処にでも行ける様にしたいとリュカさんは思っている。
その案の一部として、グランバニア城前ステーションを出発した列車は、そのまま城下の東にある村“グラント村”を皮切りに、グランバニア最東端“ヒストニス村”……更にはそこから北上し“エルヘブン”グランバニア最北端の“ノーザスレーン”へと線を繋げる計画らしい。
ここまでの計画は諸大臣等にも話しており、可能な限り早急に建設を進めたいと考えている。
んで……これ以降の事は俺とティミーさんとオジロン閣下にしか話してないのだが、西に聳えるグランバニア連峰を越える路線もリュカさんの頭の中にはあるらしい。
かなり標高の高い山々だから、列車を走らせるのは難しいだろうけど、やり様によっちゃぁ何とかなるとリュカさんは言う。
きっとその通りなんだろうなぁと思いつつ、リュカさんのアイデアには驚かされてばっかりだ。
因みにグランバニア城前ステーションを西側に発車した列車は、何とか山を登り“チゾット村”へ……そして山を下りると“ネッド村”へ。
そこからは南下し、グランバニア最南端“レゾナシア”へ……そこからまた西へ移動し、海峡を渡って“メダル王の城”で終点という路線を計画している。
山登り・山下りも難所だが、海峡を渡るのも大事だ。
どうするのかは聞いてないけど、リュカさんにはアイデアがあるらしい。
余談だが、この話を聞いて『え!? メダル王の城ってグランバニア領なの!?』と驚いてしまった。
メダル王と名乗っているが、別に国を治めてる訳でも無く、趣味が講じて城を建ててしまっただけらしい。
話を戻そう……
グランバニア王国領を最西端・最南端・最東端・最北端と移動する列車を走らせるには、最短でも30時間以上はかかるらしい。
その為に列車も特殊なのを作るのだ。
その名も“寝台車”という!
つまり、列車の中で寝起きが出来、食堂も完備してる宿屋みたいな列車だという。
凄くね? リュカさんの考える事って凄くね!?
地方へ路線が開通すれば、人も物も沢山行き交う事が出来る様になる。
経済的な面から見ても大きく期待できる事だ。
凄く楽しみな事だ。
因みに……ここまではティミーさんも計画を知っているのだが、この先は俺にしかリュカさんは話してないという……
と言うのも、最北端の村からラインハットへ……最西端の地点からテルパドールへ路線を延長させるのが真の狙いだと言う。
流石にリュカさんだけの思惑では他国の事柄を進める訳にも行かず、話し合って計画を実行させて行くのだろうけど、リュカさんの頭の中にはグランバニア・ラインハット・テルパドール・サラボナ通商連合と、全てを結んで大きな環状線を作りたいと考えてるらしい。
具体的には、グランバニア最北端から海峡を越え、王都ラインハットの南に位置する“レヴェリア村”へ路線を繋げ、ラインハット城下へ行ったら次は西へと向かわせる。
ラインハット川を越えてサンタローズ付近へステーションを造り、更に西のアルカパも経由させる。
そのままラインハット最西端のレヌールまで繋げたら、今度は南下してポートセルミ・ルラフェンとサラボナ通商連合の町に路線を繋げる。
そこから南西に路線を延ばし、ルドマンさんが住むサラボナへ行ったら、陸地を巧く使って東南のテルパドールへ。
リュカさん曰く、ここまでの海峡は巨大な橋を築けば対応できるだろうけど、サラボナとテルパドールは距離がありすぎるから直線的には無理だろうとの事。
その対応策として、トンネルを掘り“ボブルの塔”へ延線させ、それからテルパドールへの海峡を橋で越えれば何とかなるだろうと言ってた。
後は東へ路線を延ばせばグランバニア領のメダル王の城へと辿り着く。
長く険しい道のりだろう……
リュカさんが言ってたが、リュカさんの存命中に完成はしないだろうとの事。
だから跡継ぎのティミーさんには言わず、ティミー陛下の下で面倒事を一手に引き受ける事になる俺にだけ話したのだろう。
だってティミーさんに話しちゃったら、気負いすぎて失敗しそうだもん。
やっぱりリュカさんはナイスな人選をすると思うよ。
俺が苦労する当事者でなければ、諸手を挙げて賛成してるのに……
あぁ……仕事が落ち着く日は永遠に訪れないな。
お……そろそろグランバニア港前ステーションに到着するぞ。
降りる準備をするかな……
ウルフSIDE END
ページ上へ戻る