東方紅魔語り
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異変終了ー日常ー
Part18 宴会と影
準備が終わり、陽が完全に落ち、提灯の火が辺りを照らし始めた時間帯に宴会は始まった。
どこから集まったのか分からないほどの数の妖怪が、持参したと思われる酒を片手に歩き回り、歌いまくっている。
自分で持ってくるなら先に言ってくれよな、おい。
しかし、この人気の無い博麗神社で宴会なんてして人なんて集まるのか?
と思っていたが、意外と集まったな。
ほら見ろ、彼処の人とか、屋台まで持ち出して焼き鳥売ってる。
あ、うまそう。
後で買いにいくか。
「お姉様!こっちこっち!」
「あぁもう……待ちなさいフラン。みっともない」
フランも満面の笑みで、片手にお面を持って走り回っている。
レミリアは冷静を装っているが、その目はあらゆる所に目移りしていて、実に楽しそうだ。
パチュリーは魔理沙と一緒に屋台を回っていて、少し笑っている。
咲夜さんは楽しそうにはしゃぐフランとレミリアに話しかけ、その笑顔を直に見てしまった。
今頃は布団の上で幸せそうな表情のまま、静かに眠っているだろう。
忠誠心は鼻から出るってやつだ。
霊夢は宴会のおかげで賽銭が集まり、ゴミ式賽銭箱に張り付いてニヤけている。
これ、宴会じゃなくてお祭りじゃなかろうか。
それにしても、いやぁ、楽しそうだ。
あのフランの笑顔を見れただけでも、来たかいがあったというモノだな。
けど……一つだけ、不満な事があってだな。
「機嫌悪そうね。血圧低いのかしら?」
クスクスと、扇で口元を隠しながら笑う一人の女性が、俺の横に座っている。
この金髪女性、名は八雲 紫。
こいつは、俺も宴会を楽しむぜーー!!と意気込んだ所に現れ、話があるから付き合えと言ってきた。
一瞬だけ殺意の波動に目覚めたが、携帯を取り出した瞬間に携帯を没収され、仕方なく付き合っている。
このババアめ……俺のフランLIFEを邪魔しくさりやがりおって……。
「用があるのなら、出来るだけ早くして下さい。俺は今、かなり忙しいので。ほら見て下さい、あのフランドール様の笑顔。アレをカメラに収めなくては……ま」
初めての宴会だからこそ最高の笑顔が撮れるんだ。
また次に宴会があったとしても、2回目ともなると感動が薄れて笑顔も薄まる。
今こそのシャッターチャンス。
宝石はいつまでも輝いていないんだ。
あ、こらそこのクソボケ妖怪。フラン様に話しかけてんじゃねぇ殺すぞ。
もし裏路地に連れ込んだりしてみろ。お前を三途の川に突き落とすぞ。
「いえ、別に特別な意味はございませんわ。ただ、外来人が紅魔館で働いていると聞いて、珍しいから一目見てみようと思っただけよ」
そんな事で俺のヘブンへの道を閉ざしたのか?こいつは。
許すべからず。
あとレミリアお嬢様。自分の妹がおかしな奴に絡まれてるから。はよ助けに行ってやれよ。
助けに行かないから……ほら、フランに投げ飛ばされた。
はしゃぎすぎて力のコントロールが出来ていないだろうし、サポートしないと。
「……で?まだ何か用が?」
「いえ、もう結構よ。もういいわ」
紫はそういい、俺から没収した携帯を渡してきた。
全く、有意義な時間をハチャメチャにしおってからに。
じゃ、早速フランの元へ……。
「大丈夫。あの事は黙っといてあげるわよ」
紫がポツリと呟くように言った。
……あの事?黙っといてあげる?
何のことだろうか。俺が何をしたのだろうか。
黙っといてあげる……という言い方をしてる……ということは、人に知られては不味い事だ。
人に知られて不味いこと……。
まさか……フランの部屋に夜な夜な忍び込んでいること、か?
いや、問題ないはず。
恐らく咲夜さんは知っているだろうし、下手したらフラン本人だって気付いているだろう。
断られない、ということは、合意の上で部屋に入れて貰えている、と思っていいはず。
バラされても困らない。
じゃあ……咲夜さんのPAD疑惑を晴らす為に、咲夜さんのタンスとかを漁くっていた事か?
確かにバレたら文字通り生死に関わるだろうが、それでも俺に携帯がある限り、無意味だ。
まさか……いや、まさか……あれか?
確かにあれは不味いだろう。知られれば、俺は終わる。
いや、しかし、何故こいつがあの事を……。
「……黙っていてくれますか?」
「えぇ勿論。私は嘘は……」
「俺が毎日のようにフランドール様の寝ていた布団の匂いを嗅いでいた事を、本当に黙っていてくれますか!?」
お願いだ、あれは不味い。
もし知られれば、俺は朝と夜の時間帯だけフランから隔絶される気がする。
変態として、絶対零度のような冷たさの目で見てくるかもしれない。
それは避ける。
お願いだ紫さん、いや、紫様。
どうか、どうかあの事だけは……。
と、ビクビクしながら紫の顔を見てみると、何やらおかしな目をしていた。
変な目だ。
頭のおかしい奴を見る時特有の、冷たい瞳だ。
…………あ。
「えっと、その……もしかして、知りませんでし、た?」
俺の問うと、紫は音もなく消えた。
紫の座っていた場所に穴が空いていたのだ。
彼女の持つ、境界を操る程度の能力を使用し、空間と空間の境界を開いたのだろう。
あれを確か紫は、スキマと呼んでいた筈。
そして俺は悟った。
あ、俺無駄な事しちゃったわ、と。
「あれ、でも、紫の反応的に今のじゃなさそうだし……じゃあ、紫の言っていたのは……?」
……いくら考えても分からん。
結局、紫は何を言いたかったんだ?
「有ーー波ーーー!」
声が聞こえたから振り向くと、そこにはフランがいた。
手を振って、俺を呼んでいる。
紫の言葉は気になるが……ま、どうでもいいか。
「はい、どうしましたか?」
「あのさ……お姉様が……」
フランは人混みの中を指差した。
レミリアがどうかしたのだろうか。レミリアの事だから人混みの中で迷子とか?
くそっ、咲夜なしではレミリアを送り出さない方がよかったか!
そう思いながら人混みの中を凝視してみると、そこにはレミリアがいた。
片手で何かを掴んでいた。
黒い羽を持ち、大量の新聞を持った烏天狗の顔を握り潰さんとばかりに持ち上げていた。
「あー……フランドール様。あれはですね、自業自得というものです。心配しなくてもいいですよ」
「そうなの?」
「はい」
あぁ、自業自得だ。
新聞を持っているのを見た辺り、この宴会を利用して沢山の人へ一気に配る気だったようだな。
そこをレミリアに見つかったと。
欲を出すからそんな事になる。
レミリアは力加減もできるし、射命丸も妖怪だ。死にはしまい。
「ふーん……あ、じゃあさ、有波も一緒に回ろうよ。一人じゃつまんないんだー」
「喜んで!!」
ここ一番の笑顔を見せ、俺はフランの後を追いかけた。
妖怪・八雲 紫は不可解な空間にて、己の従者である九尾の妖狐、八雲 藍と話をしていた。
その二人の表情は険しく、複数の書類を手に真剣に話し合う。
能力、幸福、不幸、救われない。
そのような単語を並べる藍の言葉を、紫はやはりと言った表情で頷いていた。
その話は数時間にも渡り、そして、八雲紫は少しため息をついた。
「……『彼』を、紅魔館から離れさせましょう。『彼』の為にも」
「どこに移します?」
「紅魔館、いえ、『フランドール・スカーレット』から出来るだけ離れた場所ならばどこでもいいわ」
地獄にいる閻魔、四季映姫は、その目に映る映像を見て、顔を歪ませていた。
彼女は閻魔ゆえに、あらゆる人の過去を覗く事ができる。それで白か黒か、はっきり付ける為に。
いつもの四季映姫ならば、その映像の人物が少しでも人を殺せば黒。少しでも善行を積めば白と、即断する。
しかし、この時の四季映姫は迷っていた。
白黒つける能力を持つ彼女が、初めて白黒付けるべきか迷っていた。
その映像に映るのは、血を纏った幽鬼のような子供。
ゴクリと生唾を飲み込み、彼女は背後に仕える死神に話しかけた。
「小町」
「はい?」
「私は、この人物を、どう裁けばいいと思いますか?」
初めて聞く、映姫のそんな質問。
どんな殺人犯も、どんな化け物のような人外も、全て顔に出すこともなく裁いてきた映姫が口に出す、その言葉。
一緒にその人物の過去を見ていた小町と呼ばれる死神は、あはは、と笑った。
そして、こう言った。
「灰色ですかね。」
そして、その日の夜。
妖怪が活発化する時間に。
有波 風羽化は、地上から姿を消した。
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