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3部分:第三章


第三章

「ゆっくりとな。いいな」
「またか」
「何をするかと思えば」 
 同僚達はモンフォールのその言葉を聞いて忌々しげな顔になった。
「今度はそれか」
「何処まで残忍な男だ」
 そうは言ってもだった。命令は下された。そうしてそのうえで処刑が実行された。老婆はまず井戸の中に投げ込まれた。それからだった。
 石が次々と投げ込まれそのうえで頭に顔に肩に石が投げつけられる。老婆は悲鳴を挙げながらその石を次々と受けていく。
 血が滲み顔が歪む。老婆はモンフォールを呪詛する声を出しながらそのうえで石に埋もれていった。その石の中で死んでいった。
 老婆は死んだ。その前にはまだ縛り首にされた者達が揺れている。そこに烏達が群がりその目をついばみ腹を裂いて内臓を食べていく。骸も次々と食われていく。
「こんなことが何時までもできる筈がない」
「その通りだ」
 モンフォールと共に戦う者達はその烏達を見ながら述べる。
「確かにカタリ派は異端だ。しかしだ」
「あの男はあまりにも無法だ」
 だからだというのだった。彼を忌まわしく思うのは。
「そして残忍だ」
「最早人ではない」
 こうまで言うのだった。
「最後はどうなるか」
「神は果たして許されるか」
 許しはしないと思っていた。そうしてだった。
 カタリ派の拠点の一つであるトゥールーズをせめていた。モンフォールは陣頭で指揮を執りそのうえで勝利を収めた後のことを考えていた。
「勝てばだ」
「城の中にあるものは全て我等のものです」
「そうですね」
「そうだ。全てだ」
 いつもの様子に酷薄な笑みを浮かべての言葉であった。
「捕虜はいつもの様にする」
「またか」
「城の中にいるのは女子供もいるというのにか」
 周りの心ある者達はここでまた顔を顰めさせた。
「殺すというのか」
「また惨たらしく」
 しかしその言葉はモンフォールの耳に入らない。若し入っていたとしてもだ。彼が聞く筈もなかった。間違いなく同じことをしていた。
「今に恐ろしいことになるぞ」
「報いを受けるぞ」
 その言葉をよそにであった。戦いが行われていく。城からは次々に迎撃の石が来る。中には投石機により打ち出される巨大なものもあった。
「怯むな!」
「こちらも投げ返せ!」
 指揮官達はその石をよそに攻撃命令を出し続ける。
「そして攻略しろ!」
「憎き異端を滅ぼせ!」
 彼等は城を攻めることを考えていた。だがモンフォールは違っていた。
 戦いの中で空を見上げる。空には烏達が舞っている。
「烏達も腹を空かせている」
「腹をですね」
「異端を食らわんと」
「そうだ。あの者達をまた殺してくれる」
 城を見て邪悪な笑みを浮かべるのだった。
「それからだ」
「それからですか」
「そうだ。それからだ」
 また腹心達に対して告げるのだった。
「いいか、一人も残すな」
「今度はどうしますか」
「どうして殺しますか」
「そうだな。今度は両手両足を砕くとしよう」
 巨大な車輪によって壊すのだ。そうしてそのうえで晒しものにする。欧州においては昔から広く行われている惨たらしい処刑である。
 それを行うというのである。彼は最早そのことだけを考えていた。
 しかしだった。ここで城から巨大な石が飛んで来た。それはモンフォールに向かって来た。
 一瞬であった。石が彼の頭を直撃した。兜も何もかもが砕け眼球が飛び出す。
 頭が完全に砕け散っていた。血だけでなく脳漿も撒き散らす。歯も飛び散りそのうえで背中からゆっくりと倒れていく。
 その彼にそれまで空を舞っていた烏達が一斉に群がった。そうして今死んだばかりの亡き骸を貪っていくのであった。瞬く間に骨や内臓が見えていく。
「全ては神の思し召しか」
「死んだな」
「うむ」
 同僚達は彼が烏に食われるのを冷ややかな目で見て述べた。
「今まで烏に食わせていたのが烏に食われる」
「それこそが神の思し召しだな」
「その通りだな」
 それが神の思惑だったかどうかはわからない。しかしシモン=ド=モンフォールは確かに死んだ。それだけは間違いがなかった。そうして烏達にその無惨な骸を貪られた。彼が今までしてきたように。それだけは間違いのないことであった。


烏   完


               2009・10・13
 
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