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dark of exorcist ~穢れた聖職者~

作者:マチェテ
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第29話「自己犠牲」

「グゲェアアアァァアァアアアァアァァアアアアァアア!!!」


フレースヴェルグの咆哮が遠くから聞こえてくる。
赤黒い羽毛で覆われた巨体が、凄まじい速度で向かってきた。

「遠くてよく見えなかったが…近づくとなかなかインパクトがあるな……準備はいいか、アイリス?」

「うん、いつでもいいよ」

銀のベレッタM9にマガジンを込め、両手で構える。
本来は二丁拳銃で戦うのがアイリスの戦闘スタイルだが、稀に一丁だけを両手で持って撃つ時がある。
遠くにいる悪魔を"狙撃"する時だ。

しかし、悪魔を"隠れてこっそりと殺す"この戦い方を、アイリスはあまり好んでいない。
卑怯な気がするし、何も分からないうちに死なせるのは心苦しいからだという。

だからと言って、狙撃の腕が悪いというわけではない。
しかも、今回のような場合は例外だ。最初の一撃が次の一手を決める。



「すぅ……はぁ……」

アイリスは深く深呼吸し、真剣な眼差しで狙いを定める。
視線の先には大鷲。銃口の先には大鷲の眼。



「………ごめんね」


小さな謝罪とともに、引き金を引いた。


発砲音と同時に弾丸が射出される。


弾丸は真っ直ぐ、寸分の狂いもなく大鷲の左上の眼を貫く。






「グギイイイィィィイィィィイィイイェェェエエエェェエェェェエエェアアアァアアァ!!??」

突然視界を奪われて混乱し、想像を絶する痛みで絶叫する。
赤黒い羽根を激しくバタつかせ、鳥類とは思えない絶叫を周囲にばら撒く。

「命中した! いい腕だアイリス!」

攻撃のプランを考えたシャルルも、アイリスの射撃の腕に驚いているようだ。




「うん……ありがと……」

シャルルに褒められたが、アイリスは浮かない表情を浮かべている。
その表情にシャルルは疑問を持ったが、すぐに大鷲の方に意識を戻す。

「よし……最初の一撃が効いているが……ここに引きずり降ろしてからが勝負だ」

そう言うと、フランシスカを構え、投げる態勢に入る。
それを見たアイリスも、腰のホルスターからもう一丁の銃を取り出し、大鷲に向ける。

「奴をここに引きずり降ろす! アイリス、撃て!」

シャルルの合図と同時に、アイリスの銃撃が始まった。


ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!

銃弾が大鷲の頭に当たる度に、鈍い音が響く。
見かけ以上に固いらしい。
しかし、飛んでくる銃弾には僅かだが怯んでいる。

「………」

シャルルは静かにフランシスカを投げる位置を探っている。



「(奴を確実に叩き落とすには………ここだ!!)」

流れるような綺麗なフォームで、フランシスカを投げた。
アイリスの銃弾をかいくぐり、大鷲に飛んでいく。



ドズンッ!!


一際鈍い音が鳴り響く。
フランシスカの刃は、アイリスが撃ち抜いた大鷲の左上の眼に深く突き刺さっていた。


「グゲエエェェエェェェェェェエエエェェエェァアッァァァァアアアアアアアァァァア!!!」


再び大きな絶叫が聞こえてきた。
それと同時に、大鷲の飛行速度と高度が劇的に落ちた。
このまま行けば、間違いなく3人のいる場所に落ちてくる。

「来たな……クリス、準備は出来ているか?」

「いつでも。それにしても……手強そうですね」

「ああ。見かけ以上に耐久力がありそうだ」

シャルルは残っているフランシスカ2本を腰のベルトの金具に固定し、ファルシオンに持ち替える。



大鷲がとうとう頭上まで迫ってきた。

「来るぞ! 退避しろ!」

3人が一斉に後方に跳ぶ。
その直後



ドゴオォォォォン!!!!



激しい衝撃音と土煙とともに、大鷲"フレースヴェルグ"が凱旋門の展望台に落ちてきた。


「(遠くから見ていた時は気づきませんでしたが……想像以上に大きい…)」


シャルルから約15mと聞いていたが、近距離で見るとかなりの巨体だった。
しかも、落ちてきたときの衝撃を考えると、重量もその巨体に見合う程度はあるらしい。

そんな怪物に、この狭い展望台で暴れられると厄介だ。

「シャルルさん!」

「分かっている! 起き上がる前に畳みかける!」

クリスは拳を、シャルルはファルシオンを力強く握り、大鷲の頭目掛けて駆けだした。
渾身の一撃を怪物の頭に浴びせるために。

しかし……











「ゴガアアァァアアアァァァアァァァァァアアアアァアアアアァァァアァァ!!!!!」


先程までの絶叫とは違う、威嚇するような低く鋭い叫び。

「うぐっ!?」

「くっ……!?」

突然の大鷲の叫びに、2人とも耳を塞ぐ。
それを待っていたかのように、大鷲が起き上がる。
起き上がると同時に、巨大な翼を翻す。

強烈な突風が2人を吹き飛ばす。

「うわぁ!?」

「くそっ!」

クリスは思い切り吹き飛ばされ、シャルルはファルシオンを地面に突き立て何とか耐えきった。
だがそれで終わりではなかった。


「グゲェェエエアアァアァァ!!!!」

大鷲が3人に向かってその大きな翼を、薙ぎ払うような動きで翻す。
耐え難い突風と、赤黒い羽根が飛んできた。
羽根の先端は非常に鋭く、突き刺さっただけでも重傷を負うだろう。



「ッ!アイさん!!」

態勢を立て直したクリスが、アイリスを羽根から庇うために駆けだす。






ドスッ!  ザスッ! ザスッ!






「ぐっ…!!」


「クリス君!!」




クリスはアイリスの前に両手を広げて立ちはだかり、アイリスの盾となった。
羽根はクリスの右腕と左脇腹を抉り、心臓には深々と羽根の軸が突き刺さっていた。


「アイさん…大丈夫ですか? どこもケガしてないですか?」

口から血を垂らしながら、アイリスの心配をする。

「私はいいよ!! それよりクリス君の方が……」



「大丈夫ですよ。僕は"フォールマン"ですから。この程度じゃ死にません」

笑顔でそう答えると、心臓に突き刺さった羽根に手をかける。
徐々に手に力が込もり、ズブズブと血と肉片が傷口から溢れ出てくる。
しかし、当の本人はそれを全く気にしていない。

次の瞬間、ズブッ!と大きな音と同時に、羽根がクリスの心臓から引き抜かれた。
傷口からは、失血死してもおかしくないほどの血が垂れていた。



「僕は見ての通りの化け物です……だからアイさん、心配しないでくださ……」

心配しないでください、というクリスの言葉は途中で遮られた。
言い終える前に、アイリスが自身のコートを脱いでクリスの傷口に当てたからだ。

「………」

「ア、アイさん? 僕に止血する必要は……」

「必要じゃなくても…使って……」

顔を俯かせたまま、アイリスはクリスに黒いコートを傷口に押し当てる。













「君は………もっと自分を大事にして。自分を化け物なんて言わないで」



俯いていたアイリスが顔を上げると、目に溢れんばかりに涙を溜めていた。


「アイさん………」



涙をぬぐいコートを手放すと、腰のホルスターから2丁拳銃を取り出し、大鷲の方に視線を移す。


「私が戦うから……クリス君は少し休んでて」

クリスに背を向け、フレースヴェルグと対峙する。



「大丈夫か? アイリス」

「うん……大丈夫」

「……クリスが心配なら、手早くこの仕事を済ませよう」

「…………うん」




「(クリス……自己犠牲は感心しないと言った直後にこれか……)」

シャルルはアイリスに気付かれないよう、クリスを強く睨む。
クリスもその視線に気付き、申し訳なさそうに顔を伏せた。



「…………行くぞ」


シャルルの静かな呟きに、アイリスは静かに頷く。 
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