ソードアート・オンライン ーEverlasting oathー
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Fiveteen episode ずっと一緒に
前書き
皆は僕が守る。
今、この時だけはおとーさんに変わって僕が皆を守ってやる。
それが作られた感情でも。
僕自身の意思じゃなくても。
例えそれが……
プログラムだとしてもーーーーー
「駄目だセイ君!」
「戻ってきなさい!」
セイはユリエールとシンカーの声が聞こえている筈なのだが振り返らずに死神の元へ歩き続けた。
ユリエール達は転移結晶を既に使用してしまった為、セイとユイを置いてエリアから離脱してしまった。
歩き続けている小さな男の子が俺には勇者の様にも見えた。
いままでの思い出を守る為にセイは歩き続けた。
「ユイ、皆を宜しくね」
「はい、皆さんは私が見てます」
まるで別人の様だった。
今までの様な幼い感じが抜け、何処か大人びている様だった。
一体セイとユイに何が起きたのだろう。
歩き続けるセイが死神の前に立っている俺の横に来ると優しく、力を秘めている様な強い眼差しで俺を見た。
「後は任せて、おとーさん」
セイはそう言うと俺の体に胸に手を添えた。
すると、セイが添えた手から光が出た。
その光は俺を包むと俺は疲労感もあり、気を失ってしまった。
「セ……イ……」
「安心しておとーさん。 僕がおとーさんとおかーさん、皆を守るから」
セイはユウヤを抱きかかえ、そっと床に横にした。
そして、ユウヤの"ユウキや皆を守りたい"という気持ちを受け継いだ様に強い眼差しで死神をみた。
死神はイレギュラーな事態に驚愕しているかの様に目を動かしていた。
「ギギ……ギギギ……ギ……?」
「うぅ……あれ……皆は……!?」
ユウキはノックバックから回復し、目を覚ました。
目が覚めたばかりのユウキの目には死神と倒れている少年と死神の前に立っている幼い子供が映っていた。
倒れている少年はユウキが大好きな少年だった。HPは赤の危険ラインに入り、左腕が無くなり、体の至る所に赤いエフェクトが刻まれていた。
そして、死神の前に立っている幼い子供はユウヤとの子供、セイだった。
ユウキは何が起きているのかが全く理解出来なかった。
愛する人は倒れ、自分達の子が死神の目の前に立っている事に。
「ユウヤ……?……それにセイも何してるの! 早く逃げないと駄目だよ!!」
「お母さん達は僕が守るから」
ユウキの声はセイに届いていたがセイはユウキ達の前から一歩も動かなかった。
残酷にも死神はモンスターだ。
ユウキ達にとっては異常な事態だが、モンスターである死神は設定されたプログラムによって動かされている。
だからユウキが叫んだ時には既に大鎌を振り上げていた。
「セイーーーー」
ギィィィイイイイ!!!
大鎌はセイを完全に捉えていた。
だが大鎌はセイではなく、セイの目の前で止まっていた。
紫色のバリアの様なものでセイは守られていた。
ーーーーimmortal objectーーーー
間違いなくセイの目の前に表示されていた文字だ。
破壊不能オブジェクト。
どれだけ強力な攻撃を受けてもシステムに管理されている為、永遠に破壊することが不可能という事だ。
これは本来は圏内の銅像や家、店などに設定されているシステムだ。
なのに何故セイの目の前に出たのだろうか。
「セイ……?」
「「破壊不能オブジェクト!?」」
セイは無言でユウキの方を向いて微笑むと突然体を宙に浮かせ、光で出来た大槍の様なものを出現させた。
とても美しく、だが見ていると何故か自分の中に色々な感情が湧いてくる。
怒りや悲しみ、そして喜び……
見ているとそれが伝わってくる。
セイは大槍を構えるとそのまま死神の方へと勢い良く投げた。
大槍が死神に当たると光の円が死神を包んで行った。
「ギギギ……ギギ……?」
光の円が完全に死神を包み込むと死神は消滅して行った。
セイは地面に降り立つと悲しそうな笑顔をユウキやキリト、アスナ達に向けた。
「おかーさん、全部思い出したよ」
ーーーー迷宮区 安全エリアーーーー
安全エリアの中に入ると真っ白な空間が広がり、部屋の中心には台座の様なものが設置されていた。
セイとユイは台座の上で座っていた。
ユウヤはキリトが背負って安全エリアに連れ、入り口付近に持たれかけさせていた。
「全部思い出したの……?」
アスナがそう言うとセイとユイは黙って頷いた。
そして、セイとユイはまるで別人の様になってしまった。
「ユウキさん」
「キリトさん、アスナさん」
衝撃的だった。
今までお父さん、お母さんと呼んでいたセイやユイがプレイヤー名でユウキ達を呼んだのだ。
ユウキ達は薄々感づいていた。
破壊不能オブジェクトに一撃で高レベルモンスターを殲滅……いや、あれは"消滅させた"といった所だろう。
破壊不能オブジェクトというのがセイとユイの存在をあるものに決定づけさせていた。
「ユイ……お前は……いや、セイとユイ……お前達はプログラムなのか……?」
キリトがそう言うとセイとユイは黙っていると数秒後に頷いた。
「嘘だよね……セイはプログラムなんかじゃないよ! 一緒にご飯も食べたし一緒に遊んだりもしたんだよ……凄く可愛い笑顔で笑ってたんだよ……それのどこがプログラムだって言うの……!」
ユウキが必死に今の事実から逃げるように叫んでいるとセイとユイが口を開いた。
少し悲しげに口を開いた。
「ソードアートオンラインと言う名のこの世界は一つの巨大なシステムによって支配されています……システムの名前はカーディナル。人間のメンテナンスを必要としない存在として設計された。このシステムはSAOのバランスを自らの判断に基づいて制御しているのです。モンスターやNPCのAI……アイテムや通貨の出現バランス……何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています……プレイヤーのメンタル的なケアするのも……」
「セイはNPCなの……?」
ユウキの問いを聞くと首を横にふった。
((メンタルヘルスカウンセリングプログラム))
「試作一号……セイ、僕はバグの処理もしているんだけどね……」
「試作二号……ユイ、私は主にメンタルケアを主要にしてます」
メンタルヘルスカウンセリングプログラム。
大雑把に言うとプレイヤーの精神による不安定を落ち着かせる為のプログラムだ。
本来、精神が不安定なプレイヤーの元に行かなければ行けないプログラムなのだが……
ユウキ達はセイとユイに会う前には精神の不安定などは無かった。
なのに何故ユウキ達の前に現れたのだろうか。
キリトは一つ疑問に思い、セイとユイに質問した。
「プログラム……でも何で記憶が無くなったりしたんだ?」
一番の謎だ。
プログラムが記憶喪失になるなんて聞いた事がない。
そもそも、そんな事態になったらゲームマスターである茅場が見逃がす筈がない。
「二年前正式サービスの時、カーディナルは何故か僕とユイにプレイヤーへの一切の干渉の禁止を言い渡しました……僕達は聞き入れることしかできませんでした……僕達はずっとプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けていました」
ユウキ達は黙って話を聞いていた。
黙って聞くことしか出来なかった。
「状態は最悪……恐怖、絶望、怒りと言った負の感情に支配された人々、時として狂気に陥る人もいました。
本来であればすぐにそのプレイヤーの所へと向かわなければいけない、でも人に接触することが許されない……僕達は徐々にエラーを蓄積させ崩壊して行きました……しかし、この部屋に存在する僕達が座っている台座、システムコンソールに触れたことで今までのエラーが高速処理され、エラーはなくなりました」
本来しなければ行けないことを強制的に禁止され、記憶喪失というエラーとして記憶が無くなったのだろう。
だが、キリトにはまだ疑問があった。
「なんで俺達の目の前に現れたんだ?」
これも謎だ。
まぁただ単に偶然という事もあり得るのだが。
「崩壊して行く中……負の感情ではなく、正の感情……怒りや悲しみではなく喜びや幸福などと言った感情を持つ四人のプレイヤーが現れました。それがユウヤさんにユウキさん、キリトさんにアスナさんです」
「私達は触れたいと思いました……負の感情ではなく、正の感情に……そして私はキリトさんとアスナさんの所へ」
「僕はユウヤさんとユウキさんの所へ向かいました」
「私達がNPCではなく、プレイヤーだと思ったのは……私達にはプレイヤーに疑問を抱かせない為にも色々な感情プログラムも施されています……」
「……偽物なんだ」
セイとユイが言い終わると涙を流し出した。
皮肉な事にこれもプログラムなのだ。
無理矢理泣かされているのと殆ど変わらない。
「偽物じゃねぇよ」
セイとユイはその声を聞くと目を大きく見開いた。
その声はユウキ達の後ろから聞こえた。
困っていると何かと助けてくれる、馬鹿で少しSで鈍感な男の声。
皆のヒーローが立っていた。
「ユウヤ……ユウヤ……!」
ユウキが目に涙を浮かべながらユウヤに抱きついた。
ユウヤはそっとユウキを抱きしめた。
「心配かけたな……」
「ユウヤ……! 心配したんだぞ!」
「ユウヤ君……腕がないままだよ……」
「ああ、雑貨屋で状態異常を治すポーション買って飲めばすぐ治るよ」
俺はそう言うとセイとユイを睨んだ。
子供を叱る父の様に。
「お前らは俺達を親みたいに思ったのは嘘だったって言うのかよ、俺達に向けた笑顔も嘘だって言うのかよ!!!」
ユウキ達もセイとユイの方を向いた。
「嘘なんかじゃないよね? 一緒に食べたご飯は美味しかったでしょ?」
「一緒に食べた激辛フルコース、辛かったよなぁ……」
「私とキリト君、ユウヤ君にユウキがユイちゃんとセイ君にしてあげた事は嬉しく無かった……?」
セイとユイはそれを聞くと勢い良く首を横にふった。
プログラムではなく、無邪気な子供の様に。
自分達が偽物と言ったを全力で否定する様に。
「だったらよ。 お前達はもう自分達の意思でどうしたいか俺達に言ってみなよ」
セイとユイは涙を目に浮かべていた。
握りしめている手を震わせながら俺達の方を向いた。
そして一言ーーーー
ーーーーーもっと一緒にいたいーーーーー
その声を聞くと俺はセイをキリトはユイを抱き抱えた。
俺はセイの頭を撫でた。
「言えるんじゃねえかよ! この愛する息子が!」
「……でも」
抱きかかえられているセイとユイは何故か悲しそうだった。
待っていたのは最悪の状況だった。
ユウヤが今までに思っていた事が起きてしまったのだ。
セイが遠くに行ってしまうのではないかという考えが。
「もう一緒にはいられないんだよ……」
「システムに刃向かった私とセイはすぐにバグとして処理されてしまいます………」
「笑えるよね……バグの処理をする僕が他のプログラムにバグとして処理されるなんて……」
ちっとも笑えない。
また楽しく過ごせると思っていたのにさ……
本当に遠くに行ってしまうなんて……
「おとーさん。 その槍を持って感情を出しすぎると危ないから気をつけて」
「……?」
何故かセイは突然神聖槍の話をしだした。
この槍には所持者のHPを蝕むスキルなどはついていない筈なのだが。
何が危ないと言うのだろうか。
「その槍は元々バグで処理された槍。 おかーさんが第74層で危なくなった時に僕が処理されたその槍をバックアップさせておとーさんの元に出現させたんだ。おかーさんが傷ついてるのを見るのは嫌だったんだ……その槍はゲームマスターが作った槍、レベルが一番高いプレイヤーに与えられ、ゲームバランスを崩壊させる程強力、という設定……プレイヤーの脳波、感情をナーヴギアを通してユニークスキル神聖槍に送り、感情を増幅させて光の渦を黒くするみたいな面白いエフェクトを仕込んだらしいんだけど……」
そこまで言うとセイは黙ってしまった。
確かに内容は面白そうだが、それの何処が危険なんだ?
俺が疑問に思っているとセイは重々しく口を開いた。
「感情を出しすぎるとナーヴギアに凄く負担をかけてナーヴギアの電源が落ちる、もしくは故障……普通のVRMMOなら修理に出せばいいんだけど……この世界で電源が落ちたり、故障を起こせば強制ログアウト……そしてーーー」
「死に至る、か」
「うん……それにバグとして処理されていた槍だから何か他に異常が起きるかもしれない」
この世界でのログアウトは死を意味する。
本来ならエフェクトが色々ついて強力でゲームを楽しめる槍なのだが、
このデスゲームではこの槍が完全に諸刃の剣となっていた。
「でも何故かゲームマスターはこの槍を再び処理しようとはしなかったみたいらしいんだ」
「なんでだ……?」
「普通だったらそういうのってゲームマスターである茅場に不正ツールみたいな感じで通知が届く筈じゃないのか?」
「不正ツールとして処理したらプレイヤーも何かあるんじゃないのかな?」
「それはあるかもしれないわね……不正発覚ペナルティ……みたいにかな」
アスナそう言うとセイとユイの体が透明になりだした。
バグとしての処理が実行されだしたのだ。
恐らく数秒後にセイとユイはこの世界から消滅してしまうだろう。
「時間みたいだね」
「パパ、ママ、皆……今までありがとうございます……」
「「セイ!!」」
「ユイ!」
「ユイちゃん!!」
俺とユウキはセイを抱きしめた。
キリトとアスナはユイを抱きしめた。
セイの体はプログラムじゃなく、本当に人間の様に暖かかった。
自分の子供が消えるなんて絶対に許す事が出来なかった。
そうだ……
システムコンソール……!
こいつでログイン出来れば……!
「キリト、パソコン得意か!?」
「……システムコンソールか!」
俺とキリトはすぐにシステムコンソールを起動させ、セイとユイの消去を防ごうとした。
システムコンソールを起動させると多くのモニターとパラメータなどが出現した。
「クッソ! 全くわけわかんねぇ!」
「あったぞ……!セイとユイのデータ!」
「ユウヤ……?」
「キリト君……?」
心配そうにしているユウキやアスナとセイとユイの方を見た。
そして俺達はキメ顔でこう言った。
「「とーちゃん達に任せとけ!」」
その言葉を聞くとセイとユイは少し微笑んだ。
ーーーーありがとうーーーー
「セイ!」
「ユイちゃん!」
パリィィイイイイン……
セイとユイが一言言うと目の前から消滅してしまった。
ユウキとアスナが抱きしめていた子達は腕の中から消え、何度も結晶の破片を集めようと腕を動かすがセイとユイは戻ってこなかった。
「させるかよ!」
「これでどうだ!」
俺とキリトがOKと表示されたボタンを勢い良く指で押した。
すると閃光弾を浴びせられた様な眩しい光が一瞬だけ部屋全体を包んだ。
光が放たれると同時に突然俺とキリトの体が浮かんだ。
いや、吹き飛んだ。
「「!?」」
吹き飛ぶと同時に右手に小さな物が出現した気がした。
俺とキリトが部屋の入り口まで吹き飛ばされると勢いはそこで止まった。
「ユウヤ、大丈夫!?」
「キリト君……?」
俺とキリト体を起こしてユウキとアスナに右手をだした。
「「これは……?」」
俺の手のひらには碧色のクリスタルの様な物が、キリトの手のひらには緑色のクリスタルの様な物があった。
「セイとユイの……心だよ」
「間一髪でセイとユイのプログラムだけを切り離してオブジェクト化したんだ」
「俺達はずっと一緒にいる」
「話せなくてもな」
俺とキリトがそう言うとユウキとアスナが目に涙を浮かべながらそれぞれのクリスタルを手に取った。
クリスタルはとても眩しく光っていた。
無邪気にはしゃいでたあの子達の様に。
俺達はずっと一緒だ。
ーーーーー僕はずっと一緒にいるよ
後書き
「そのクリスタル……リズにネックレスにでも加工してもらおうぜ」
「うん……」
「今日のご飯は何だー?」
「そうだね……三人仲良く激辛フルコースにしよっか」
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