真・恋姫無双〜中華に響く熱き歌
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第8話 魏武の大剣
「見事ね・・・」
そう呟く華琳様の言葉が聞こえた。
それを聞いた私は驚きを書くせなかった。
恐らく隣にいる秋蘭もそうだろう。
華琳様は、王となるのにふさわしいほどの政務や軍事の能力とその度量、覇気、そして美しい者と才有る者を愛し、自身も絶世の美少女と呼ぶに相応しい器量の持ち主でもある。
さらに華琳様はそれだけでなく、詩作にも優れた才能があり、数多くの詩を作っているため、詩人としても有名である。
そして、自分にも他人にも厳しい華琳様が人を褒めることなど、自分が認めるものにしかしない。
その華琳様が店の中から聞こえてくるこの歌を褒めている、そのため、私と秋蘭は驚いていた。
「この歌の詩は、詩的な表現など皆無に等しい、曲は今まで聴いたことが内容な曲調ね。だけど、この歌は、自分の思いを、心を、どんな風に思っているかをただまっすぐに伝えようとしている、自分の思い人に対して。そんな歌だからこそ美しく感じない詩だろうとここまで暖かい気持ちになれる、そんな歌ね・・・」
心の中で驚いているさ中に華琳様がこの歌について語る。
私には、詩や歌のことなど分からない。
私は華琳様の覇道のための武を極め、剣となる。
そのことは変わらない。
だが、そんな私でも分かることがある。
この歌はいい。
ただそうとしか言えないが、私でもそれは感じる。
だからだろうか、もっと、もっと聴いていたい。
もっと、もっと聴かせてくれ。
そんな思いが湧いてくる。
そう思っていると、
「ふふ、姉者もこの歌が気にいったようだな。」
隣にいる秋蘭がそう言ってきた。
「ああ、細かいことは私には分からん。だが、この歌がいい、というのは分かる。だから、もっと、もっとこの奏者の歌が聴きたい。」
そう秋蘭に告げる。
「そうか・・・実は私もそうなんだ、姉者。警邏の任のさ中ではあるが、こんな歌を聴いてしまっては、な。」
「そうね。だからといって警邏の任をさぼる訳にはいかないわね。
・・・なので、もう一曲聴いたら、行きましょう。」
そう華琳様が言う。
『は!』
華琳様に敬礼をしながら了解の声を出す。
だが、私は心のなかで興奮を抑えきれなかった。
また、また聴ける。
ただただそう思っていた。
そうしていると店の中の歌が終わり、声が聞こえてくる。
「へへっ!!皆ノリがいいじゃねえか!まだまだ行くぜ!
新曲、真っ赤な誓い!行くぜ、俺の歌を聴けー!!!」
そう言った後店の中から先ほどの曲よりも重く低く、響くような曲が聞こえてきた。
《oh〜・・・oh〜・・・dadada》
店の中から歌声が聴こえてくる。
私には詩や歌などよく分からない。
だが、これだけは言える。
この曲は、この歌は、この歌声は聴けば聴くほど体が、心が、魂が熱くなるのを感じる。
そして、この歌の中にあった、詩は激しく響いた。
華琳様の剣として、曹操軍が一の武将として、あらゆる思いを背負い生きている。
だから、どれほど強大な敵が立ちはだかろうと、限界を超えてでも、私は立ち向かう。
そして華琳様の覇道を切り開く剣となる。
その道を私は駆け続ける。
その私の信念を、この歌は歌っている、そう感じた。
だからだろうか、私の体は、心は、魂は熱く、真っ赤に燃えている。
「・・・途轍もないわね、この奏者。」
私が歌に夢中になっているときに華琳様ごそう呟く。
「この奏者の歌には難しい言葉なんて使われてない。故に、民衆にも親しみ安く、皆が聴いていく。さらに奏でる聴いたことも無いような曲、そして、心が熱く燃え上がる
ような歌声。それらの効果で、ここの者たちは皆生気に溢れた顔をしているわ。」
華琳様の言葉を聞き、辺りを見渡す。
見れば、私たちが来た頃よりも人が集まっている。1人1人の顔も見れば皆生き生きとしているように見える。
そして皆大いに盛り上がっており、まるで祭りのような雰囲気だ。
「この奏者は、歌だけで、この者たちの心を掴み、熱く燃え上がらせている。
歌で、こんなことができるなんて聞いたことが無いわ。
もし、もしこの奏者を我が配下に加えられたら、兵を集めるのが今よりもずっと集まるかもしれないわね。」
そう華琳様が言う。
「この奏者が居れば、我が覇道に一歩近づくかもしれない。
・・・欲しいわね。」
やはり、華琳様は、この奏者が欲しいようだ。
秋蘭と顔を合わせ、またのようだと苦笑し合った。
だが、私も内心それを喜んでいる。
この歌をまた聴ける。
その思いがただこの奏者を望んでいる。
「ふふ、春蘭も賛成のようね。」
内心で喜んでいると華琳様に笑顔でそう言われる。
「ええ、この歌をまた聴けるなら、また聴きたいです。」
私は正直に自分の気持ちを話す。
そう言うと華琳様は笑みを深め、
「どうやら、あなたもこの奏者に惚れ込んでしまったようね。」
「い、いえ、わ、私はただこの歌に惚れ込んだのであって、決してこの奏者に惚れたわけでは・・・」
私は慌てて訂正しようとしたが、
「ふふ、冗談よ、相変わらず可愛いわね、春蘭は。でも、そうなってもおかしくないわね。だってこの歌声を聴くに、この奏者がどれだけ歌が好きか、熱い思いがあるか伝わるもの。正直私もこの歌声を聴きたくて部下にしたいのよ。」
そう華琳様が言うのに驚く。
あの、華琳様がここまで認めるなんて、ただ驚いてしまった。
「でも今日のところは諦めましょ。まだ警邏の途中だし、あの奏者の歌はまだ続きそうだから。」
「だけど、諦めるつもりは無いわ。また機会があるでしょうから、その時に誘うわ。私は欲しいものは決して諦めない。だから、いつか私に仕えさせてみせるわ!」
華琳様がそう宣言する。
「というわけで、そろそろ警邏に戻るわよ、2人とも。」
『は!』
返事をしながら敬礼をし、警邏に戻る。
いつか、またその歌を聴けることを願いながら・・・
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