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信長のクリスマスプレゼント

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4部分:第四章


第四章

「二十反だ」
「二十反・・・・・・」
「それ程までに」
「そうだ。二十反だ」
 それだけ与えるというのである。それを聞いて村人達も家臣達も大いに驚く。しかし信長は雪の降る中でそのまま言葉を続けていくのだった。
「そのうちの半分を費用にしてだ」
「十反を」
「どうされよと」
「誰でもよい」
 今度はこう告げたのだった。
「その家の隣に小屋を作ってやれ」
「小屋をですか」
「それを」
「そうだ。作ってやるのだ」
 また言うのだった。
「そこにあの物乞いを置いてやるのだ」
「えっ、まさか」
「あの物乞いをですか」
「そうだ。置いてやれ」
 信長は言葉を続けていく。
「そこに住まわせてやるのだ」
「家をですか」
「そこにですか」
「そうだ。置いてやるのだ」
 彼は言うのであった。物乞いについて。
「そのうえで麦や米を少しでよいから分けてやってくれ」
「食べさせてやれというのですね」
「あの者を」
「そういうことだ。そうしてくれれば有り難い」
 信長は言っていく。彼等はさらに話していく。
「それがこの信長がそなた達に告げることである。よいな」
「は、はい」
「わかりました」
 村人達は信長の言葉に平伏せんばかりであった。その言葉を聞いていて家臣達も問うのであった。
「またこれは」
「どういった御配慮なのですか?」
「今日だからよ」
 信長はいぶかしむ家臣達に対して告げた。
「今日だからこうしたのだ」
「今日だからとは」
「一体」
「耶蘇教の話だ」
 またこのことを話に出すのだった。南蛮から渡来したその教えのことをである。
「あの教えの主、釈迦の様なものか」
「その者が一体」
「どうしたのでしょうか」
 林と柴田が彼にいぶかしみながら問うた。
「何処かで話を聞いたと覚えていますが」
「それは」
「その主が生まれた日だ」
 信長はその日なのだと彼等に話した。
「その日には誰かに対して贈りものをするらしい。それがこの日だというのだ」
「そうだったのですか」
「それが今日だったのですか」
「だからよ。これはわしからの贈りものよ」
 それだというのである。
「だからよ。それにじゃ」
「それに?」
「といいますと」
「祖先のことはもう許されるべきなのだ」
 その物乞いの先祖が常盤御前を殺した罪のことだ。それはもういいというのである。
「もうな」
「だからこそなのですね」
「それで」
「見よ」
 ここで空を見上げる信長だった。まだ雪が降っている。
「この雪をどう思うか」
「どう思うかといいますと」
「それは」
「奇麗であろう」
 こう言うのだった。
「白くのう。その雪を見てじゃ」
「はい、そうですね」
「まるで何かを祝う様に」
「許されたことの祝いじゃ」
 それだという信長だった。
「そんな昔のことなぞ消えてしまえばいいのだ。わしはそれも贈るぞ」
 雪が降り続けている。信長はその中で家臣達や村人達に囲まれている。信長はとかく酷な話が多いがこうした話も残っている。これを意外と言うべきかどうかは人それぞれであろう。しかし信長がこうした一面を持っていることは疑いようのないことだ。


信長のクリスマスプレゼント   完


               2009・10・28
 
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