季節は少し流れ、寒い冬もようやく終わり。
士郎やリインフォースのデバイスも調整も終わり、四月一日からなのは、フェイト、はやて達と共に時空管理局の嘱託ではあるが局員としてスタートを切った。
希少技術管理部魔術技術課もギリギリまでバタバタではあったが無事にグレアムを長として正式に運用が開始された。
ちなみに士郎の魔導師ランクについては未だに技能試験が行われておらず、未修得のままとなっている。
その理由が技能試験の筆記試験である。
実は同じ理由ではやても未だに魔導師ランクを取得していない。
はやては闇の書事件で魔法を使いはしたが、魔導のことを知ることも無かったほぼ一般人であった。
士郎も本来魔術師であり、魔導も魔術に似たものとして使えてしまっており、基本的な知識が抜け落ちているのだ。
つまりは実技試験はどうとでもなるどころか優秀な部類のだが、根本的な基礎的な技術知識が不足していたり抜け落ちているのだ。
そのため筆記は勉強しながら局員として動き、四月の終わりぐらいに技能試験を受ける予定としている。
とはいえ、はやてはともかく士郎は魔導と魔術違いはあれど似ているところもありもとの知識があるためそんなには苦労していない。
士郎とは逆に、はやては復学に当たり学校の勉強もあるため、ダウン気味なのは仕方が無いことではある。
重ねて闇の書の呪いが消えて治癒したとはいえ、長い間使われなかった筋肉の影響もあり、リハビリもあるので学校への復学自体は行えたが始業式には間に合わなかった。
もっとも、当のはやて自身は学校にまた行けることに喜んでおり、始業式に間に合わなかったのはそこまで気にはしていないのだが。
そして、始業式が終わり穏やかな心地のいい空を眺めている吸血鬼らしからぬ士郎の傍に
「お待たせ、士郎」
「そんなに待ってないさ。
なのは達と合流しよう」
「うん」
職員室から出てきたフェイトが駆け寄る。
四月になりプレシアとフェイトも一緒に改めて暮らすということで無事に引っ越したのだが、当然住所が変われば学校に書類を提出することになる。
その関係で士郎とフェイトは職員室に来ていたのである。
さすがに同級生が一緒に住むということには担任も驚いていたが、一言
「半ば黙認しているけど、あんまり騒動ばかり起こさないようにね」
士郎自身にはどうしようもないことを注意するのであった。
当然のことだが、士郎とフェイトが一緒に住んでいることはバレると厄介事にしかならないため、なのは達以外には秘密にしている。
ともあれ、相変わらず小学生に、魔術師に、管理局にと慌しいことではあるが、穏やかな日々を迎えていた。
そして、士郎とフェイトはというと無事になのは達と合流し、のんびりと翠屋に向かっていた。
本日は始業式ということもあり、半日で学校も終わりなので、のんびりとお茶にしようというわけだ。
残念ながら、はやては病院の診察が午前中一杯掛かるということで、合流は出来ない。
そんな中、新たなクラスメイトのことや、明日のはやての転入のことなどを話しながら、翠屋に入る。
「ただいま」
「「「お邪魔します」」」
「お疲れ様です」
なのはとフェイト、アリサ、すずか、最後に士郎。
それぞれ、なのはは家族として、フェイト、アリサ、すずかは友達とお客さんとして、士郎はアルバイト先の同僚として、それぞれ挨拶をする。
それを
「お帰りなさい。皆もいらっしゃい。
シロ君はまだ少し早いから皆とゆっくりしていていいわよ」
奥から出てきてにこやかに出迎える桃子。
「わかりました」
そして、士郎も桃子には相変わらず頭が上がらないので、反論せず頷く。
それに満足そうに桃子は頷き、作業の一段落がした
「リインさん、皆を案内してあげて」
リインフォースを呼び、任せることにした。
「はい、それではお席にご案内致します」
そんな桃子の呼び声に答えたメイド服を纏ったリインフォースが一礼して、士郎達を席に案内する。
リインフォースに案内された士郎達は、そのまま注文を頼み、リインフォースを見送った。
「リインフォース、だいぶ慣れてきたね」
フェイトの言葉に士郎を初め、なのは達もそれに頷いた。
初めの頃は、緊張して肩にも力が入っていたのだが、今ではそのようなことも無く、自然体で接客が出来ている。
さて、今更ではあるがリインフォースがなぜ翠屋でメイドをしているかというと、リインフォースの主である士郎の関係である。
士郎は嘱託魔導師として管理局に所属はしているが、たった一人の魔術師で魔導師ランク未修得ということもあり、ほとんど現場に出ていないのである。
貴重な技術をあまり外に出し、万が一のことを避けたいという管理局の思惑もあるのではと士郎は考えている。
あとは士郎自身の戦闘スタイルが弓による遠距離から剣による近距離とどのような場合でも対応できるタイプであり、チーム行動より遊撃や単独の行動が得意としていることも関係している。
そういったわけで士郎自身が管理局でする仕事自体がまだ限られているため、翠屋のアルバイト、月村家の執事は引き続き行っているのである。
もっとも、月村家の執事の仕事は表向きで本当の目的はアリサ、すずかの魔術指導である。
そして、士郎と基本共に行動するリインフォースも手空きになってしまうということで翠屋のメイドとして士郎と共にアルバイトを始めたというわけである。
もっとも、こういった諸事情から二人が出勤するのが不定期であり、銀髪メイド・執事姉弟がセットで目に出来るのはレアと別の意味で話題を呼んでいたりもするのだが、当の本人達は知る由も無い。
ともあれのんびりとお茶とお菓子を堪能している士郎達であったが
「そういえば、今年はまだ、お花見やってないわよね」
アリサのこの言葉でフェイトを除いた皆がそういえばという顔をする。
もともと春になる前に少し話があったのだが、週末などの雨が続いたり、予定があったりで流れていたのだ。
「お花見ってアレだよね。
桜を見ながら、皆でお弁当を食べる会」
フェイトの要約されすぎた言葉に皆が苦笑を浮かべるが、ミッド出身であるが故に仕方が無いといえば、仕方が無いのかもしれない。
あながち間違ってもいないわけなのだから
「じゃあ、今週の土曜日とか予定はどう?
場所はいつものところを私が抑えられるんだけど」
すずかの言葉に
「土曜日なら一日オッケー」
「同じく」
「なのはとフェイトと同じく」
「私は土日オッケー」
即座に予定を答える、なのは、フェイト、士郎、アリサ。
「それなら五人決定ね。
場所は余裕あるから、友達とかご家族とか各自でお誘い合わせの上でってことで」
すずかの言葉と同時になのはとフェイト、すずかは電話を、アリサはメールを始める。
士郎は飲み物のおかわりを聞きに来たリインフォースに花見のことを告げて、同じく電話をし始めた。
さてこの連絡網だが、ものすごい勢いで知り合い方面に拡散していき、三十名に届くのではないかという人数が集まることになった。
これだけの人数に、管理局の職員となると色々と手続きや機材、飲み物、食べ物の手配など面倒なのだが、そこは管理局側代表でエイミィが、地球側代表で美由希が引き受けてくれたのであった。
そして、迎えた土曜日
参加者達の願いが届いたのか空は晴天。
雨で花が散る事も無く、満開の桜の中でその日を迎え
「それではお集まりの皆さん、お待たせしました!
本日の幹事を勤めさせていただきます。
時空管理局執務官補佐、エイミィ・リミエッタと~」
「高町なのはの姉でエイミィの友人の一般人、高町美由希で~す」
それから今回の運営の責任者を買って出てくださいました」
「管理局メンバー御馴染み、リンディ・ハラオウン提督にご挨拶と乾杯の音頭をお願いしたいと思います!」
ノリノリのエイミィと美由希の司会の下、責任者のリンディがマイクを握り
「皆さん、こんにちは。
今日はきれいに晴れましたね。
こちらの世界の皆さん、特に関係者のご両親、ご兄弟の皆さん方は私達管理局や次元世界の存在や実情、説明を受けても未だに馴染みが薄いという方もいらっしゃるかもしれません。
こういった集まりを通して交流を深めるというのも貴重な機会かと思います。
と、まあ堅い話はお題目としておいといて、今日は花を愛で、食事を楽しんで、仲良くお話をして過ごしましょう!
それでは今日のよき日に、カンパ~イ!!」
「「「「「「「「「「カンパ~イ!!」」」」」」」」」」
音頭を合図にそれぞれが飲み物を掲げ、お花見が始まった。
それにしてもお花見としては参加者五十名近くとかなりの規模に、発案であるはずの、なのは達は正直目を丸くしていた。
対して士郎は昔、こうした大人数の花見の経験はある故に懐かしさを感じていた。
ともあれ、せっかくの大人数のお花見である。
いつもの面子で固まっていてももったいないので
「じゃあ、そろそろばらけるか。
あいさつ回りもあるしな」
「そうね。
その後、食べて皆で特等席に行こう」
士郎の言葉に頷き、アリサの特等席という言葉に、ここでのお花見が初めての士郎とフェイト、はやては首を傾げる。
「内緒の場所があるの」
「すごくきれいな場所」
なのはとすずかの言葉にこの場所の中でもいいスポットがあるのだと納得し、表向き一般人であるアリサとすずかは共に知り合いへの挨拶へ向かう。
士郎、なのは、フェイト、はやても管理局のそれぞれの知り合いがいるのでばらけて動き始めた。
こうして、にぎやかだが、穏やかなお花見は始まりを迎えた。