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動物裁判

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1部分:第一章


第一章

                       動物裁判
 奇妙な裁判であった。
 しかしである。当人達は本気であった。
「さすればだ」
「はい」
「真でございます」
 謹厳な顔の裁判官に対してだ。検事と一人の男が答えていた。
「この者がです」
「私がです」
 二人はまた裁判官に話した。
「あそこにいる豚に襲われまして」
「この通りでございます」
 男はここで自分の顔を見せた。見ればそこにはだ。
 青い痣があった。かなり大きい。その痣を見せて裁判官に話すのだった。
「あの豚がです。前から来てです」
「それでその体当たりをまともに顔に受けまして」
 検事も話す。
「この通りなのです」
「幸い怪我はこれだけですが」
 男はさらに話す。
「しかしそれでもです」
「この者、非常に痛い思いをしました」
 検事がここでまた裁判官に話す。
「そういう次第です」
「わかった。それではだ」 
 裁判官は二人の話を聞いた。そのうえでだった。
 豚の方を見る。豚はただそこで自分の餌を食べているだけだ。裁判官達の視線にも周囲の見物人達の目もだ。全く気にしていない。
「被告の意見を聞こう」
「はい」
 ここで豚の傍に立っている弁護士が言ってきた。
「裁判官、まずはです」
「何だ」
「この者人の言葉を話せないようなので」
「うむ」
 当然と言えば当然のことだがそれでも真面目に受け取られた。
「それで私がです。この者の代理となって宜しいでしょうか」
「よい」
 裁判官はこう答えてそれをよいとした。
「それでは代理を許す」
「有り難うございます」
「それでだが」
 代理を許したうえでだ。裁判官はあらためて弁護士に問うた。
「その豚は無罪か」
「はい、無罪です」
 裁判官はこう返した。
「無罪であると主張します」
「その証拠はあるのか」
「はい、まずこの豚ですが」
 ここでその弁護をしている豚のことを話す。
「普段から主に虐待を受けていました」
「虐待とな」
「その証拠にです。御覧下さい」
 見るとであった。豚の背にだ。縦に刻まれた傷が幾つもあった。その傷は弁護士だけでなく裁判官も検事も見ていた。
「これは鞭による傷です」
「その通りだな」
 裁判官もはっきりとわかるものだった。
「確かにだ」
「被告は原告に普段から恒常的に虐待を受けていました」
 また話す弁護士だった。
「つまりはです」
「つまりは、か」
「はい。被告は原告に対して報復を行ったに過ぎません。これはあまりに過度であった場合認められるものであります」
 この国の法律に基づいての言葉であった。
「目には目を、歯には歯を、ですから」
「そうだよな」
「やられたらやり返せ」
「特に暴力が酷いとな」
「そうしないとな」
「ああ、決まりにあるぞ」
 話を聞く観客達も弁護士のその言葉に納得していく。
「じゃあここは」
「あの豚は無罪か?」
「そうだよな」
「そうなるよな」
「いや、それはどうでしょうか」
 しかしであった。検事がここで口を開いてきたのであった。
 
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