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コントロールタワー

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第四章

「グラウンド全体、つまり試合が本当によく見えるから」
「だからか」
「それでか」
「うん、本当にね」
「こうしたことまで考えられて」
「俺達に指示も出せるんだな」
「何かね」
 また言うフランソワだった。
「動きがよく見えるよ、味方の動きも敵のそれもね」
「そうなんだ」
「それじゃあこのまま頼めるか?」
「俺達に指示出してくれるか?」
「情報収集とかも」
「やらせてもらうよ、いや本当にね」
 フランソワは感銘した様にこうも言った。
「キーパーをやるとよく見えるよ」
「ミッドフィルダーの時よりもか」
「そうなんだな」
「ずっとね、それも比較的落ち着いて見られるから」 
 常に走り回っているミッドフィルダーよりもというのだ。
「違うよ」
「そういうものなんだな」
「キーパーのポジションにいると」
 仲間達も彼のその話を聞いて頷く、そして。
 彼をキーパーにコンバートしたヴォワザンもだ、彼に言った。
「それだ」
「僕をキーパーにコンバートした理由は、ですか」
「御前の頭を買ったんだ」
「まさにですか」
「サッカー、いやどのスポーツもそうだが」
「頭がないと、ですか」
「勝てない」
 ヴォワザンははっきりと言い切った。
「作戦や戦術がないとな、それに情報収集もだ」
「そうしたことを求めて」
「御前は頭がいい」 
 ヴォワザンはフランソワ本人にはっきりと彼の頭のことを告げた。
「その頭脳を活かすにはな」
「キーパーが一番ですか」
「キーパーになってどうだ」
「はい、試合がよく見えます」
 フランソワはコーチにも答えた。
「ミッドフィルダーの時よりも」
「そうだな、そして考えられるな」
「はい」
「それでだ、御前をキーパーにしたんだ」
「成程」
「そういうことだ、これからも頼むぞ」
「わかりました」
 フランソワはヴォワザンの言葉に頷いた、そしてだった。
 自分からだ、こうも言ったのだった。
「また練習に入ります、けれど」
「けれど。どうした?」
「僕のディフェンスですが」
 キーパーの第一の仕事であるゴールを敵のシュートから守る、このことについて確かな声で言ったのだった。
「どうも高い場所からのシュートに弱いので」
「ヘディングやオーバーヘッドにか」
「そちらの練習を増やしていきたいです」
「自分のことも冷静に見ているな」
 ヴォワザンはフランソワのそのことに驚いて返した。
「それは凄いな」
「凄いですか」
「それを凄いと思わないことがだ」
 そのこと自体がというのだ。
「凄いんだ」
「そうですか」
「そうだ、そうした御前だからキーパーにしたんだな」
 自分自身がとだ、ヴォワザンは述べた。
「俺も、けれど俺が見た以上に」
「僕は、ですか」
「見事なキーパーだな、このままやっていけよ」
「わかりました」
 フランソワはヴォワザンに確かな顔で頷いた、そしてだった。
 彼はそれからもキーパーとして活躍してやがてワールドカップにもフランス代表として出場した。そしてその戦術指揮と相手はおろかグラウンド、審判まで調べた徹底した情報収集でフランスを優勝に導いた。そのことから史上最高のキーパーと、コントロールタワーとまで言われる様になった。


コントロールタワー   完


                            2015・5・20 
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