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いじめっ子になり

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第四章

「それの何処が悪いんですか」
「いじめていた相手をいじめ返してもですか」
「何処が悪いんですか」
 母親まで言うのだった。
「一体」
「しかしその子達はいつも泣かされていて怪我までして」
 先生はその現実を話した。
「学校に行きたくないとか言っているんですよ」
「じゃあ来なかったらいいじゃないですか」
 千歌は口をへの字にさせて答えた。
「そうじゃないですか」
「そういう問題じゃないです、その子達がどうなってもいいんですか」
「いいです」
 何も感じない言葉だった、明らかに。
「そんなことは」
「あの、しかし」
「学校に来たらやり返しますよ」
 また祐作が言った。
「それだけですよ」
「何があっても?」
「はい、何があっても」
 祐作は全く動じていなかった、今自分がしていることは当然と思っている。それで先生にも言うのだった。
「そうしてやります」
「そうなんだね、君は」
「だから何が悪いんですか」
「僕は君がいじめられていることを知らなかった」
 先生は苦い顔で彼に言った。
「僕の不明だった、そして」
「そして?」
「君が最低の人間になっていて。最低のお母さんを持っていることも知らなかったよ」
「何で僕が最低なんですか?」
「私まで最低ってどういうことですか」
「確かに君は強くなったし体格もよくなったよ」
 先生は祐作を見て悲しい顔で述べた。
「しかし。心は全然強くなっていないよ」
「心が」
「先生の言っていることはわからないね」
 このことは確信出来ていた、最早。しかし言わずにはいられなかった。
「そうだね」
「だから何を仰ってるんですか?」
「君は本当の意味で強くない人だよ」 
 苦い顔で言うばかりだった。
「そして本当の意味で最低の人だよ」
「だからどうして僕が最低なんですか」
「もっとも何も知らなかった僕も同じだけれどね」 
 最後にこう言ってだった、先生は祐作の家を後にした。茶に手はつけなかった。
 そしてだ、次の日学校の校長室に行き校長先生に一部始終を話した。
「そうした事情ですか」
「そうか、何もか」
「わかっていないです」
 まさにというのだった。
「あの子もお母さんも」
「そうか、じゃあお父さんはいるな」
「何でも毎晩帰りが遅く。しかも」
「その人もか」
「あの子を応援しているらしいですから」
「どうしようもないか」
「このままではいじめられていた子達がです」
 今現在の被害者達がというのだ。
「もっと酷いことになります」
「その子達を守らないといけないな」
「そう思います、さもなければ」
「そうだな、ではな」
「はい、あの子をですね」
「何とかしよう」 
 校長先生も苦い顔になっていた、そしてその苦くなった顔でだ。
 処断を下した、祐作は特殊学校に編入させられた、その時彼も彼の両親も必死に騒いだが先生も校長先生も教育委員会もPTAもそれを聞かなかった。
 そしてだ、彼がいなくなった後で先生は残った今は被害者でありかつては加害者であった自分の生徒達に述べた。
「わかったね、これで」
「はい、人をいじめていいことはない」
「自分に返って来るんですね」
「それでいじめられるととても痛い」
「そして辛いものなんですね」
「学校に行きたくない、死にたくなる位に」
「そうだよ、僕も本当にもっと早く気付いていれば」
 先生もだ、悔やむことしきりだった。
「こんなことにならなかったよ」
「先生・・・・・・」
「もう僕も君達を見るし二度とこんなことは起こさせないよ」 
 先生は生徒達にも自分にも誓った。
「何があってもね」
「もう僕達も」
「いじめなんてしません」
「痛かったです」
「辛かったです」
「ですから」
「うん、何があってもね」
 それこそとだ、先生はまた言った。
「もう二度とこんなことはあってはならないよ」
 俯いて言うのだった、その後先生は祐作が特殊学校でもその空手で自分より弱い相手をいじめ常に問題を起こし遂には精神治療まで受けることになったことを聞いた、一度歪んだものは容易には戻らないことをだ。痛い気持ちと共に知ったのだった。


いじめっ子になり   完


                           2015・4・18 
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