| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遠ざかった春

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

4部分:第四章


第四章

 チェコスロバキアは民主化を果たした。その長い冬を終わらせてだ。
 そして二人はだ。笑顔でビールを飲んでいた。
 そのうえでだ。これまでのことを話すのだった。
「色々あったな」
「当局に見つかりそうになったしな」
「子供もできたしな」
「それもな」72
 こう話してだった。そうしてだ。
「やっとできたな」
「俺達の国がな」
「人間の顔をした社会主義か」
 かつてのプラハの春のスローガンだった。
「しかしな」
「ああ、今は民主化だな」
「それは変わったけれどな」
「それでもな」
 果たしたというのである。彼等はだ。
「やれたな」
「諦めなかったらな」
「できたな」
「本当にな」
「よし、わかった」
 それを話してだ。彼等はさらに話すのであった。
「お互いおっさんになったな」
「ははは、そうだな」
「皺もできたし」
「髪の毛も減った」
「太ったしな」
「お互いにな」
 若い時と比べてだ。そうなっていた。やはり歳だった。
 しかしだ。それでもだった。
「なあ」
「ああ」
 二人は笑顔で頷き合い。そしてであった。
「俺達はこれからな」
「この国の中で生きるか」
「折角やったんだ」
 ドボルスキーの言葉だ。
「だからこの国の中で楽しまないとな」
「そうだな。スロバキアはどうやら独立するっぽいがな」
「寂しいけれど仕方ないな」
「それはか」
「昔言ったよな。それは受け入れてな」
「そのうえでやってくか」
「何かを手に入れれば何かを失うものさ」
 ドボルスキーのここでの言葉はこうしたものだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧