すれ違い
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7部分:第七章
第七章
だが今は彼等は集まっているだけだった。そして話をしているだけだった。それが終わってから暫く経って幸次郎は。意を決した顔で学校への通学路を進んでいた。
「浜崎君」
「どうした?」
「僕は決めた」
隣にいる達哉に対して言ったのだった。
「決めたぞ。遂にな」
「告白するのか?」
「いや」
この問いには首を横に振る。
「それはまだだ」
「まだか」
「それよりもだ」
告白を時期尚早としたうえでまた語る。
「僕は知りたいのだ」
「あの人のことか」
「そうだ。まずはそれだ」
こう言うのだった。
「まずはな。僕はあの人のことを何も知らない」
「名前さえもな」
「そう。名前さえも」
自分でもそれを認める。
「何も知らない。だから知りたいのだ」
「では後をつけるのか?」
「あまり正々堂々としていないが」
それでもなのだった。
「それでもな」
「そうか。それを確かめたいのか」
「見たところ暮らしはいいようだ」
それは見抜いているといった感じだった。
「あの服を見る限りな」
「ああ、それはな」
これは達哉もわかった。
「あの着物はどれも絹だ」
「うむ」
「しかもかなり質がいい」
言うまでもなく絹は高価なものである。
「そういうことを見てみるとな」
「どなたかの御令嬢か?」
幸次郎が思ったのはこれだった。
「まさか。だとすると」
「交際に隔てを感じるか?」
「それはない」
これははっきりと否定した。
「僕は恋愛に関しては白樺派だ」
「つまり身分に囚われないか」
「身分!?馬鹿馬鹿しい」
前を見据えてまた否定した。今度は身分を。
「そんなもの何になる」
「確かにな。身分はな」
「僕達は新しい時代に生きている」
この時代では、という意味の言葉だ。彼等にとって見れば今彼等が生きている今こそ最も新しく進歩的な時代だった。身分は過去の遺物であると否定していたのだ。
「何故身分になぞ囚われないといけないんだ」
「それでは」
「そうだ。相手が華族の御令嬢であっても」
毅然として言う。
「僕は行く。しかしだ」
「その前の前提だな」
「そういうことだ。色々と考えたが」
ここで首を少し捻る。
「探偵を雇うということもな」
「それは止めたか」
「やはり。ずるい」
だから止めたというのだ。
「どうもな」
達哉に対して首を捻りつつ述べた。
「どうせ調べるのなら自分でと思ってな」
「自分でやるということか」
「それがいいと思った」
首を元に戻していた。
「だからだ」
「汚れることは自分でか」
「駄目か?」
「いや」
友人の今の言葉に微笑みと共に首を横に振ってみせる達哉だった。
「いい心掛けだ。そうでないとな」
「そう言ってくれるか」
「何なら協力するのだが?」
「それはいい」
やはりそれは受けなかった。
「自分でやる。だから」
「ここで一旦お別れか」
「また学校で会おう」
一旦友と別れることにした幸次郎だった。
「少しな。調べてくる」
「いや、待て」
しかしここで達哉は幸次郎に言ってきた。
「確かに僕は協力はしない」
「それは何度も言うが」
「しかしだ」
この前置きからまた彼に声をかける。
「共にいてもいいか?今」
「共にか」
「そうだ。見てみたくなった」
口元を微かに綻ばせての言葉だった。
「君と共にな。いいか」
「何もしないぞ」
幸次郎は彼の言葉を聞いて目を向けて告げた。
「僕は君に対して」
「僕も君に対してそうする」
二人の言葉は完全に同じものになっていた。つまり相互不干渉ということだ。
「それでいいか?だから」
「共にいたいのか」
「見てみたい」
また言う達哉だった。
「君が向かうその姿をね」
「物好きな話だ」
「それは否定しないさ」
自分でそれを言ってみせた。
「それもな。否定しない」
「そうか。では勝手にすればいい」
「そうさせてもらう。ではな」
「うむ」
こうして達哉は幸次郎の後ろにつき彼をそこから見ることになった。しかし彼は何も言わない。物陰に隠れ彼女を待つ幸次郎の後ろに控えているだけだった。
やがて彼女が来た。今度は青い着物だった。やはり白い日笠をさしている。
「来たな」
「ああ」
幸次郎は後ろから来た達哉の言葉に対して頷いた。二人共小声である。
「遂にな」
「さて、どうする?」
今度は幸次郎に対して問うた。
「ここからが肝心だと思うが」
「わかっている」
前を見たまま彼の言葉に頷いた。
「それはな」
「ではどうするつもりだ?」
「行く」
丁度ここで彼女は二人の前を通り過ぎた。二人に気付いた様子は全くない。
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