そして少女は…
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前書き
作中の国は現代日本ではありません
新暦79年1月1日夜
バージニア国の王宮にて新年の祝賀会が行われ、国内の有力者たちが華を競いその勇を競っている。
その王宮の一角にある宴会場の一段上がったところにこの国の王とその娘が座っている。
マリア・Y・バージニアはこの国の王女の一人、現在の王ジョン・T・バージニアの第一子である。
いまだ特定の相手はおらず、その暇を持て余している。現在父ジョンとともに有力者たちの新年の挨拶を受けている。
普段は後宮の片隅で花を愛でるのみの物静かな女性だが、本日は壇上にて自らが花になる日である。
「新年おめでとうございます。これは一重に先王の武功のお蔭と存じます」
代わる代わるやってくる有力者たちは機械的にセリフを吐き一通りの儀礼を済ませるとそそくさと会場に戻り、そこかしこで会合を行っていた。それも王に見せつけるように密談を行っている。
「……マリア、私は王に見えるか?」
「父上、このような場でそのような発言はいけません。父上は王でなければいけないのですし、わたしに王位継承権がありません。少なくとも弟ヘンリーが元服するまでは王でいてください」
「そうですよ兄上」
ひょこっと壇上に現れた一人の男、勇者の子の一人にして元第二王子ジュード・T・ヨークが狐のような顔を持って出てきた。
「兄上の王権が確立していない王宮内で不用意な発言は慎んだほうが身のためですよ」
「ジュード叔父様、父上は立派な王です。如何に父上の弟であってもその言葉は不謹慎です。取り消してください」
「これは失礼しました。先ほどの言葉は取り消しましょう。しかし気を付けてくださいね。さて兄上、新年おめでとう…」
この叔父はいつも気味が悪い。父上が王になった時に臣籍降下を行いヨーク家を興し、いわゆる宰相の地位にある。現在ジョンを上回る権勢を持つ。
また極めて女癖が悪く臣籍降下する以前より王宮内の女官にちょっかいを出したりしいろいろと問題になっていた。しかも降下した今、与えられた領地で野花摘みに勤しんだりしているらしい。
この男は上記のとおり女癖が悪いもののその采配は悪くなく、王たるジョンより多くの仕事をこなし、その上で花を摘むという仕事の効率は見事なもので、ジョンを排して次期王に推す声も多い。
しかし表だってジョンを排する余裕はどの家にもないし、復興の真っ最中で実家の回復が何より優先され、ジョンもジュードも推さない勢力が圧倒的に多く、またかつて武勇を馳せた家も潰え軍事的に有力な家はもはや居なくなっていた。
それもこれも先王の勇者の行いの所為であると多くの者が唱える。
勇者が魔を排するために多くの家を利用し、無辜の民をも使い魔物を滅ぼしていった。その過程で多数の家が没落し離散し消滅し、無数の村が焦土となった。
勇者が王になってからもしばらくは魔物の脅威があったため王は兵を率いてそれを討伐して回った。それは自国のみならず隣国及びその隣国を超えて討って出た。
その為、復興計画も遅れに遅れ、会計は赤く染まり、戴冠後長らく黒くはならなかった。そして近年また赤が増えてきているがそれは復興と防衛兵力拡大が急務としているからだ。
しかしどういうわけか勇者批判は起きない。
一部の者は勇者によるジェノサイドだというが各国首脳部は致し方ない犠牲と考えるものが多い。
しかしジュードは父である先王の施策を快く思っていないし、成り行きで王になった兄が嫌いだ。そして正論しか口にしない姪も好きではない。いつかは自分が王となり善き国に再生させると心に誓っていた。
宴会場は権謀術数に溢れ様々な思惑が飛び交い潰える場所。
ジュードのシンパも今日は多く出席している。そのシンパにも思惑があるだろうし、ただただ勝ち馬に乗る者もいる。
ジュードもその辺は気にしていない。自分に逆らわなければ何もしない。する余裕もない。
いまはその時を待つ。
後書き
女性蔑視ではありませんがこの世界では家父長制が敷かれています
その為か女王が発生することもありません
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