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夢のような物語に全俺が泣いた

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怪物祭の出来事と別れ

さて、あれから少しだけ歩き、「デートしようぜ、ベル君!」と聞こえてきた声を受け流しながら会場へと向かう。
しかし流石は祭り。人の賑わう大通が、いつも以上に賑わっていて進むことすら難しい。
やはり怪物祭と言うだけあり、そのモンスターを見に来る人が多くいるに違いない。

「モンスターが出たぞぉ!」

そう、こんな風に掛け声とかもあったりするんだろうな。

「逃げてぇ!」

すげえ気合い入ってるなぁ…こんな外にまで影響あるなんて。
ふと顔をあげればさっきまで大勢いた人は居なくなっており、代わりにと、デカイ虫?見たいなモンスターがいた。
と言うかカマキリとトンボとクワガタとハチを合わせたようなモンスターを、果たして虫と呼んでいいのかどうか…。

「…………あれ?」

皆は?みたいな感じで回りを見渡すが、やはり誰もいない。

「グジュルルル…」

虫?は口から黄土色の液体を垂れ流しながら俺の方へと近づいてくる。

「正直虫は嫌いなんだけどなぁ…」

そんなことを言いながら何時もの装備を瞬間装備。
腰から剣を取りだして構えた。

「取り合えず微塵切りな?文句は受け付けねぇぞ!」

「ギシャァァァァ!」

俺は気味の悪い雄叫びをあげる虫?に向かって飛び出した。

「ふっ!」

振り回す鎌を掻い潜り、すれ違い様に胴体を一閃。
何やら金属のような物を切り裂いた感覚がして振り替える。
そこには傷一つなく、そんなものか?とでも言うような虫がこちらを向いていた。

「おいおい…嘘だろ?」

「キュアァァァァア!!」

虫は再度叫びながら突進を始める。
建物に当たったと思えば飛び上がり、避けた俺を確実に追尾してくる。

「おわわわっ!?」

真っ直ぐ来る突進を紙一重で飛んで避ける。
突進が来ては避け、突進が来ては避け、この繰り返しを数分間行い、何とかして隙を見つけようとする。

速い!デカイ図体してるくせに何でこんなに速く動けんだよ!
つーかこいつ絶対下層のモンスターだろ!誰だ連れてきたのはっ!?

「っ!」

しかしながら単調に繰り返す突進攻撃にもある程度リズムがある。
そのリズムのインターバルが短すぎることが、攻めきれない事の要因となっていた。

「グジュル……」

突進するのを止めたのか、飛翔し始めた虫。
まるで俺を見下すかのように何もせず、馬鹿にするように∞の様に飛び交う。

……この野郎…。
そっちがその気なら俺にだって考えがあるんだぞこの野郎!

虫野郎が鎌をクロスさせて突進してくる。
俺は足に力を込めて全力で飛び上がる。その隙に俺は装備を変更する。
そして――

「ルゥアァァァァァァ!?」

虫野郎の背中で電気が発生し、羽が胴体とサヨナラする。

「紫電の味はどうだ虫野郎!」

そう言って俺は地面に降り立ち、全力で駆け出す。
奴の体はミスリルと言って良いほどに固い。
そんな固すぎる体に剣なんて振ってたら何本あっても足りないだろう…無限だけど。
兎に角それならば、と体内に直接響くダメージ…電撃をチョイスしたわけだ。
しかし、それだけではダメだと言うことくらい分かっている。
だからこそ足防具をペルシアブーツに変更し、エルヴィンマントを装着したのだ。
移動速度および回避性能向上の効果を持つこの装備で全力ダッシュして虫野郎から離れる。

『グルゥジャァァア!』

後ろの方から虫野郎の咆哮が轟く。
今の時点でかなり離れただろうが、地面を這うようにして追いかけてくる。
走りながら障害物となる建物を破壊してくる。これ、誰が直すんだろ…。
そんなことを考えながら詠唱を始める。

【天候満る処に我はあり】

先程の紫電でそれなりに聞いたんだから、魔法ならもっと行けるだろ。

【黄泉の門開くところに汝あり】

普段ダンジョンで使うことのできないこの魔法。
やろうと思えば使えるが、やったらやったで埋め立てられるのが目に見えているのだ。

【出でよ、神の雷】

さぁ、受けてみろよ虫野郎。
これがテイルズで秘奥技としても存在する上級魔法だ!

「インディグネイション!」

その日、一人の冒険者がその現場を遠くから見ていた。
一直線に走っていくモンスターの頭上に巨大な魔方陣が現れ、その中心を射抜くかの様に落雷した目映い雷。
モンスターを消し飛ばし、その範囲内にあった建物すらも瓦礫に変えてしまった。

その少年は、この惨劇の犯人であろう少年を見て、こう思った。

「…………人間?」








や、やり過ぎた…?
俺の目の前には巨大なクレーターが存在する。
更にはその周りにあったはずの建物を完璧に巻き込んでいる。

「これってやっぱり弁償…だよな?」

「普通に行けば…そうなりますね」

「ですよねー…て!ユウちゃん!?」

ビックリした。
いつのまにか俺のとなりにユウジさんの妹であるユウちゃんが立っていたのだ。

「ところでその服は?」

見ればアイドルを連想できる衣装を着込んでおり、心なしかユウちゃんの周りを緑色の粒子が飛んでいるように見える。

「私、先程まで歌っていたんですよ?ステージで」

ユウちゃんはスゥっと息を吸い込み――

「――――♪」

歌い出した。
その瞬間にぶゎっと舞い上がる緑色の粒子。
清んで、それでいて響き渡るような歌声に、俺は一瞬で虜になってしまった。
周りからはガラガラと音がして、見てみれば建物の瓦礫等が独りでに動き、集まり、あっという間に壊されて(壊して)しまう前の状態へと戻ってしまった。

「――♪…ふぅ」

ユウちゃんが歌い終わり、一息ついたところで歓声が上がった。

「ユウちゃーーーん!!」

「可愛いー!」

「サイコーーー!」

「ありがとうございます!」

ユウちゃんはいつの間にか集まっていた民衆に一例をしてお礼を述べた。

「すげぇ…まるでアイドルだ…」

「えへへ…ありがとうございます」

ユウちゃんは照れながらそう言った。

「それじゃあ私は戻りますね?
今日は大事な話がありますので、帰ったら談話室に来てください」

「あ、はい!」

ユウちゃんは俺の返事を聞くやいなや、転移して姿を消してしまった。

「…大事な話か………」

未だに覚めることをしない歓声をBGMに、俺は少しだけ考えを巡らせるのだった。







「俺達、暫く留守にするから」

そう言ったのは誰でもない、ユウジさんだった。

あれから直ぐにホームに帰ってきて談話室に直行。
そこには全員が集まっていて、俺を見るなり話に入った。

聞けばここに来たのは療養と修業を兼ねてとのことで、とある決戦のために明日出るらしい。

「えーっと…それって俺も付いていくってのは…」

「無理だな。確実に殺されるだろう。
蘇生は可能だが、付きっきりになれば戦況は面倒なことになりかねない」

「そうですか…」

何をする気なのかが気になる。
でも、付いていく事を拒否されれば目的を聞いたところで不安になるだけだ。

「分かりました。行ってらっしゃい」

「ん、まぁ全滅何てことは無いだろうし、各自全力で事に当たるさ」

「そうだね。僕らは今日まで頑張ってきたんだし、これで報われないなんて嘘だ」

何だろうか。
まるで戦地に赴くかのような顔つきだ。
ユウジさんは何時もと変わり無いけど、それ以外の人が皆真剣な顔になっている。

「ケイ。俺もユウジ達に付いていくことになっているからステイタスの更新は付き合えない。
その代わり、この娘が代役を勤める」

そう言ってゼウス様の前に押し出されたのは小さな女の子。

「篠崎サチコ…よろしく、お兄ちゃん」

「…………よ、よろしく」

あれ?この子ってもしかしなくても…

「コープスパーティ出身だね」

「やっぱりぃいいいい!?」

ヤバイよ不味いよお化けだよ!?

「慌てるな。サチコは受肉している。
能力はそのままだがな」

「そ、そうなの?」

「…うん」

も、もう何が何だか…。

「兎に角、俺達は明日発つ。
その後はお前さんに任せるが…精進しろよ?」

「っ…はい!」

その翌日、ユウジさん達はホームから姿を消した。
朝の賑やかな食卓も、その日は寂しく感じたのだった。 
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